愛の記念日

 プロジェクトDの初戦は圧勝に終わった。
「やっとか,待ちに待ったこの日が来たぜ」
 感無量である。
 啓介はバトル後の高揚感を全身で感じていた。
 それに今日は・・・拓海とむふふなのだ。
 口説いて口説いて口説きまくってやっとこさオ−ケ−をもらえたのである。
 バトルの前に前を膨らませて迫ってくる啓介に恐れをなしたのか拓海は約束してくれた。
 バトルが終わった後だったら・・・
 毎回すっぽんの様にへばりついて口説いていた啓介をあわれに思ったのかどうかは定かではないがやっと拓海がその気になってくれたのだ。
 啓介は興奮で前がはち切れそうだった。

 なんで啓介さんにオ−ケ−を出してしまったのか?
 男同士なんてハンデはものともせずに迫ってくる啓介さんにほだされてしまったとしか思えない。
 拓海は横で浮かれている馬鹿男を横目で見てふううっとため息をついた。
 見た目はすこぶるかっこいいのにやっていることは馬鹿丸出し,
自分なんかどこを気に入ったのか分からないが明けてもくれても好きだ愛していると口説いてくるこの男を可愛いと思ってしまったのかそもそも未知を踏み外したきっかけの様な気がする。
 でも嫌では無い。
 嫌なことは死んでも出来ない性格だから,ここで逃げ出さずにいるということは自分も啓介の事を憎からず思っているのだろう。
 やる前は恐くてがちがちになっているけれどやってしまえば大したことはない。
 こういう事は案ずるより産むがやすし。
 悩むのは拓海の性にあわなかった。
 さっさとけりをつけてしまいたい。
 やってしまえば自分のこのあいまいな気持ちにも啓介さんの気持ちにも一つの区切りが出来るだろうし。
 ホテルにむかうFDの中で拓海は大きくため息をついたのであった。



 啓介は待ち切れないとばかりに前橋につく前のそういうホテルに車を入れた。
「わりいな,こんなとこでさ」
 本当ならばいいホテルでちゃんと,と思うのだがいかんせん今のこの状態ではここが精一杯。
 そのかわり啓介は今の有り金全部はたいて一番いい部屋をとった。
 部屋に入るときょろきょろしているのは啓介で拓海はど−んとかまえている。
 慣れているのは啓介だろうに。
「なあ,拓海,風呂入ろうぜ,疲れただろ」
「・・・啓介さん,親父っぽい」
 でれ−んと鼻の下を伸ばしている啓介を一瞥して拓海はさっさと一人風呂に入りにいってしまった。

 

「ああ,すげえ楽しみだよ,ちくしょ−っ」
 神様ありがとう−っと啓介はお礼をいいながらベットの脇で準備をする。
 ティッシュは切れていないよな。
 コンド−ムも穴のあいている気配なし。
 よし,バックミュ−ジックもム−ド満点。
 そうこうしているうちに拓海が戻ってきて部屋の音楽を聞くとそれはもう嫌そうな顔をした。
 嫌そうな顔をすると拓海は美人度が増す。
 啓介はいますぐ飛びかかってしまいたいのを断腸の思いで耐えた。
 ここですぐに押し倒してはいかん,今日は思い出の夜にするのだ。
「拓海,腹へってるだろう,ル−ムサ−ビスでなにかとろうぜ」
 啓介がラブホテルのメニュ−を取り出した。
 こういうところのメニュ−なんてたかがしれている。 インスタントのピザややきそば・・そういうのがまずそうにデジカメでのっている。
「いいですよ,啓介さんがお腹へっているんだったら頼んでもいいですけど,休憩なんでしょう,時間ないしはやいとこすませちゃいましょう」
「はやいとこってなんだよ,それ,犬猫じゃないんだからさ」
「でも休憩って2時間なんでしょう」
 こういう拓海のつれないというか色気のないところはとても気に入っているのだが。
 たんたんとしている拓海に啓介は不安になる。
「なあ,拓海,拓海は俺の事が好きなんだよな」
 だから俺と寝てくれる気になったんだろう。
「・・・きっと好きです」
 一瞬の間が恐い。
「きっとってなんだよっそれっ」
「わかんないですよ,だからエッチすればわかるかなって思ったんです」
 あんまりな言葉,啓介は意気消沈してベットに沈みこんだ。
「そうだよな,なんかとんとん拍子に話すすんでさ,変だと思ったんだよな」
 あの拓海がそう簡単に許してくれる訳ないのだ。
「すいません,啓介さん」
 さすがにこれは悪いと思ったのだろう。
 しゅんっとして拓海がうなだれた。
「でも,俺啓介さんとこうなるの嫌じゃないし,嫌なことは俺絶対しない質だし」
 小さい声で拓海は言う。
 耳元が赤くて色っぽい。
 やっぱり拓海は可愛いお子様だ。
 いつも振り回されてこんちきしょうと思うけれど。
 それでもっと好きにさせられてしまう。
 啓介がふうっと大きくため息をついた。
「俺とエッチするのはいやじゃねえのかよ」
 少し声がすねてしまうのは許してもらいたい。
「いや・・・じゃないと思います」
「お前男同士のエッチを甘くみてんじゃねえぞ」
 自分のやったことがない啓介だがとりあえず脅しをかけておく。
「お前が受けだからな,俺が攻め,それは決まっていることだし俺はお前のしりに俺のなに突っ込んじまうんだぜ,それでも平気なのかよ」
 なんとなく啓介の中のいじめっ子の血が騒いでしまう
。「平気ですよ,きっと」
「好きかどうかわかんねえくせに」 
 なんか絡まれているなあと思っていた拓海であったがそっぽをむいてぽつんと言う啓介の態度にようやく気がついた。
 すねてる。
 そんな啓介がなんだかとても可愛らしく見えてしまう。 拓海に背中をむけてごろんとベットに転がってしまった啓介の側ににじりよった。
 そしてまだ風呂にも入っていない汗臭い項にそっと唇を寄せてみた。
「ねえ,やらないんですか?」
「うわああっ」
 啓介は耳たぶまで真赤にして跳ね起きた。
「てめえっそういうの反則だぜ」
 耳元でそんな色っぽい声だすんじゃねえ。
 腰に悪いじゃねえか。
 ついでに言えばホテルの安いバスロ−ブに包まっている拓海も色っぽすぎる。
「俺はお前が好きなんだよ,すげえ好きだしエッチしたいけどさ,自分の事好きかどうかよくわかんねえ奴のお初なんかとれねえよ」
 啓介は期待していたのだ。
 今まで一度も拓海から好きとか愛しているとかいう甘い言葉を囁かれた事はなかったけれども。
 今日こそはきっと。
 だって初めての夜だから。
「啓介さんって初恋いつですか?」
 唐突に拓海が聞いてきた。
「えっ確か幼稚園だぜ,俺はませてたからな」
 疑問に思いながらも啓介がしぶしぶ答えると拓海はふうっとため息をついた。
「啓介さんは幼稚園の時から修業をつんで恋愛の経験値が高いんですよ,
俺なんて父親と二人っきりだったせいか毎日が戦争でそういうこと気がつかないうちにこの年になっちゃって,
おまけに啓介さん男なんだし,もう少し待ってくれてもいいじゃないですか」
 つまり拓海はこう言っているのだ。
 自分の初恋は啓介らしいと。
「身体から入っちゃ駄目ですか?俺そうすればもっとはっきり分かると思ったんですけど」
 少し潤んだ瞳で拓海は啓介を下から見上げてくる。
 そんな目で見られて啓介に対抗できる訳が無い。
 惚れているんだ,馬鹿やろう。
 男心をもてあそびやがって。
 啓介はゆっくり拓海に覆い被さった。
「すげえ優しくする」
 それだけ言うのが精一杯。
 初心者のくせに拓海は余裕で笑ってくれた。
「お願いします」
 それからふと思いだしたように質問してきやがった。「なんで俺が受けなんですか?反対は?」
「駄目,却下,そんなの世間のニ−ズに反しているんだよ」 
 それでも痛いのは嫌だとかごねる拓海の唇に啓介はそっとキスをした。
 それから首筋に移り初めて自分の所有印を付けられて啓介はえらく感動したのであった。

 


 後日談,初めての拓海はやっぱり痛いといって啓介のことを下手くそと罵倒してくれた。
でもそういうところがとても可愛い拓海は俺の恋人に昇格したのであった。


  え−,へたれまくっていて,すいません
  普通の話をかいてみたかったんです