冬の訪れを感じさせる早朝の秋名峠
暁の光が山々を照らし出している
その神々しいまでの光を浴びながら一人の青年が立っていた
まるでギリシャ神話のアポロンのように堂々と,金色の髪が光を反射する
「そろそろだな」
時刻は5時,彼の目的の少年が配達を終えてここを通りかかる
今日こそは告白してやると啓介は心に決めていた
愛していると囁いて,一緒に走ろうと言うのだ
彼と一緒ならばどんなバトルでも勝てる
啓介がどんなに拓海の参加を心待ちにしているか知ってもらいたい
「早く来い,藤原拓海」
軽快なハチロクのエンジン音が聞こえてきた
前日にエンペラ−の須藤とバトルした彼はそのまま寝ないで配達をしていたらしく目がほんのりと赤く染まっていた
「聞いたぜ,いろは坂でエボ3とやったんだってな」
啓介の言葉に拓海は驚いた顔をする
「そんなこと,もう知っているんですか?」
「そういう話は伝わるのが早いのさ,もうすぐ冬がくる俺達の県外遠征が本格的に始動するのは路面凍結のシ−ズンが終わる来年の春からだ」
そこで一呼吸おいて啓介は思いを込めて拓海を見つめる「来るんだろ,俺達の新チ−ムに」
拓海が緊張するのが分かった
「兄貴のタイムリミットは後一年だからな,この一年間は全力を尽くして兄貴の夢のために走りたい,そしてお前のためにも」
拓海は啓介の言葉に感動している
告白するチャンスは今しかない
「兄貴の夢のためにだけじゃない,俺は拓海と二人,どこまでも走り続けていきたい」
「啓介さん」
「拓海,俺のパ−トナ−になってくれ,人生のパ−トナ−に,愛している」
決まったぜ,啓介は興奮で大きく鼻の穴を膨らました
拓海は突然のことに驚いたらしくしばらく黙って啓介の顔を見つめていたがおもむろに一言呟いた
「啓介さんってホモだったんですか?」
拓海の視線はとても冷たい
「ちっ違うっ俺はホモじゃねえ,拓海だからこそ性別なんて関係なく惚れたんだ」
「そうなんですか?」
全然信じていない拓海の視線が痛い
「俺は男なんて興味ねえ,俺は拓海専用のホモなんだよ」拓専を繰り返す啓介は哀れなくらい動揺していた
「でも俺,男抱く趣味ないんで」
拓海がまたも爆弾宣言
「てめええ−っどこをどうやったらそうなるんだ,こんなに可愛いくせに男抱くなんて発想間違っているんだ」
そんなに華奢なのに,ピンクの唇が愛らしくてお目目もぱっちりで男を誘うフェロモンびしびしなのに,どこをどうやったら啓介を抱くという発想が出るのか理解に苦しむ
「えっ違うんですか?」
「当たり前だろっ誰がどう見ても俺が攻めでお前が受けだろうが」
息をきらしながら拓海に詰め寄る啓介である
「ということは啓介さんは俺のオシリの穴が目当てなんですね」
「身も蓋もない言い方をするな−」
確かに狙っているけれど,拓海の超プリティな唇からそんな下品な言葉は聞きたくない
こうなったら実力行使しかない
啓介は拓海に詰め寄った
「拓海っ愛しているんだ,俺の気持ちを受け取ってくれ」多少卑怯ではあるが既成事実を作ってしまえばこっちのもの
幸い辺りには人は誰もいない,
暁の光がム−ド満点なのもなかなかよろしい
ここで強引になにしてしまえばもう拓海は俺のもの
「たくみ−っアイラブユ−ッ」
啓介は拓海の肩を掴んで抱きしめてキスをしようとした
「あいて−っいててて」
しかし啓介の動きは完全に拓海に読まれている
近づいてきた啓介の腕を拓海は捻り上げた
その華奢な体には似つかわしくない馬鹿力である
「そういうのは他の人にしてくれませんか,俺ホモるつもりないんで」
いつものように無表情で啓介の腕を捻る拓海
「いで−っ」
腕が脱臼するくらい痛い
(こいつっ素人じゃねえな,何かやってやがる)
啓介とて赤城でそれなりの場数は踏んでいる
けんかに負けたことがないのは啓介の自慢であった
自分に勝てるとしたら兄貴くらいだと思っていたのだが,この藤原拓海は何か武道を嗜んでいるらしく啓介は身動きが取れない
「うちの親父,道場やっているんっすよ,俺も一応師範代の腕前なんっず,だから力づくとかは無駄ですからね」拓海がそう言うと啓介を離した
よろよろと腕を抱えて啓介はうなる
「てめえ,その面で詐欺だぜ」
「みてくれに騙されたあんたが悪いんです」
拓海はそのままハチロクに乗って去ろうとした
いけないっここで拓海を帰しては,このままでは啓介は情けないホモ野郎で終わってしまう
「たくみぃぃぃ−っ」
啓介は力を振り絞って拓海に襲いかかった
(本人は抱きしめようとしている)
「愛しているんだ−っ俺に拓海の全てをくれ−っ」
火事場の馬鹿力といおうか,啓介の捨て身の攻撃に拓海は腕を取られる
そのまま強引に口づけられた
(拓海とのファ−ストキスッうううっ幸せだ)
柔らかくて弾力のある唇は啓介を虜にする
もっと深くっと舌を差し込んだ瞬間にみぞおちに強烈な拳が叩き込まれた
「げふっううう」
血を吐いてその場に倒れ込む啓介
拓海は啓介から距離をとるとかまえをとった
「本気で俺を怒らせましたね,素人相手に拳は使わないのが武道家の掟だけど,仕方ありません」
啓介は立ち上がった
みぞおちが焼けるように痛いがそんな事はかまっていられない
先程の拓海とのキッスが啓介に力を与えていた
「覚悟してください,啓介さん」
拓海の体から青白いオ−ラが立ち上る
先に動いたのは啓介であった
「拓海−っセカンドキッスだ−」
猪突猛進の啓介の攻撃を拓海はひらりとかわす
大きく跳躍して拓海ははばたいた
「秘技,秋名豆腐拳」
暁の逆光の中,拓海啓介に向かって舞い降りてくる
それはまるで天使のようで啓介は一瞬見ほれた
「秋名,白鳥の舞い」
あたたたたた−っ
啓介の腹に拓海の拳が決まる
白鳥のように大きく手をはばたかせて拓海の攻撃が決まった
「ひでぶっ」
悶絶して失神した啓介を拓海はため息をついて見下ろした
「この俺のオシリを狙うんだったら俺に勝ってからにしてください」
修業して出直してこいっとだけ言うと拓海は何事もなかったかのようにひょうひょうと峠を去るのであった
暁の光の中,啓介は全身に痛みを感じながら動くことが出来ない
だが心の中は燃えている
「今回は負けたが,次こそは,勝ってみせる,藤原豆腐拳,拓海のおしりは俺が貰う」
リベンジを誓う啓介
暁のバトルは始まったばかりだ
[暁の決闘 復讐編]
この群馬には知る人ぞ知る無敗の拳法がある
あらゆる武道家が恐れ,挑戦し,破れていった必殺拳法「藤原豆腐拳」
冗談みたいな名前だが室町時代から存在する魔拳であるその26代目が藤原文太
後継者は一人息子の拓海
家業の豆腐屋を営む傍らで文太は道場を開き,豆腐拳に磨きをかけていた
その文太ですら拓海の才能には目を見張る
拓海は武道の天才であった
藤原豆腐拳の技を全てマスタ−してしかも進化させている
今,群馬で拓海にかなう武道家はいないだろうと言われていた
あの出会いから一カ月が過ぎた
冬の暁の中,一人の男が拓海を待っている
柔道着の上からもわかる発達した筋肉
黄色い髪の毛が荒々しさを物語っている
鋭い目つき(つり目)から彼がただものではないことが分かる
「早く来い,藤原豆腐拳」
そう,その人物とはあの暁の中,拓海に惨敗をきした高橋啓介であった
啓介はあの後,一カ月姿を消した
赤城の山深くに身を隠しひたすら修業に励んでいたのだ山をかけ巡り,滝に打たれて啓介は己を鍛え直す
それも全ては拓海のため
「今度こそ負けないぜ,拓海のバ−ジンは俺が頂く」
嫌がる拓海を力で押さえつけて本当の男の味をおしえてやろう
興奮で胸の筋肉がぴくぴくしてしまう
その時,ハチロクのエンジン音が聞こえてきた
「また来たんですか,啓介さん」
こりない人ですね,と拓海はため息をついた
「リベンジしにきたぜ,俺は一カ月前の高橋啓介ではないからな,覚悟しろ」
そう言うと啓介はかまえをとった
ゴオオオ−ッ
啓介の躰から黄色いオ−ラがたちのぼる
(前よりも格段に強くなっている)
拓海は啓介の実力を計りながらじりじりと距離をとった
「いくぜっ拓海,そのバ−ジン貰った−」
啓介の攻撃から始まった
重厚な拳が拓海を襲う
紙一重でそれを避けながら拓海は驚きに目を見張った
(動きに鋭さが増している,それにスピ−ドが違う)
まさか一カ月でももまで修業してくるとは,おそるべし焦る拓海にじわじわと啓介がにじり寄った
「逃がさねえ,拓海」
目が充血して鼻息が荒い
(やばいっこのままでは)
接近戦になったら体格からも拓海が不利である
柔道着の下,啓介の股間が盛り上がっているのが拓海に戦慄を与えた
「ふふふっ勝負はこれからだぜ,秘技,赤城黄鶏拳」
啓介の覇気が秋名峠を揺るがした
暁の光の中,啓介が大きくはばたく
「負けるか,秋名,白鳥の舞い」
拓海も大きくはばたいた
バシッビシッビシ
拳の応酬が続く
(やばいな,これは)
秋名白鳥の舞いと赤城黄鶏拳は同格の拳だ
こうなると体力が優劣を決める
拓海は押されている自分を感じた
「拓海,優しくするからな,へへへ」
拳を避け切れなくて啓介の吐息を首筋に受けとめてしまう
拓海は覚悟を決めた
(仕方ねえ,あれやるか)
藤原豆腐拳の中でも必殺中の必殺技
まだ生きた人間相手に使ったことのない伝説の技
「覚悟しなさい,啓介さん」
ふおおおお−っ
拓海の躰からすさまじいいオ−ラがたちのぼった
「秋名,5連みぞおとし」
あたたたた−っ
啓介の鳩尾に拓海のかかと落としが搾烈する
右から攻撃を受けたと思ったら左から,繰り返される踵落としに啓介の肋骨がきしみをたてた
「あべしっ」
どさっ重い音をたてて啓介の巨体が崩れ落ちた
大きくため息をついて拓海は汗をぬぐう
「手強い相手だった,高橋啓介」
これほどのファイタ−に会ったのは初めてである
きっと県外には強いファイタ−が大勢いるのだろう
「だが俺は負けない,藤原豆腐拳は無敵だ」
拓海は拳を握り締めて暁に誓うとハチロクに乗って去っていった
残された啓介はといえば
「うううっ拓海のバ−ジン,しかし次こそは必ず奪ってみせる,それまでは誰にも負けるんじゃねえぞ」
躰中に痛みが走っている
心地よい痛みであった
全力を尽くして戦った爽快感が残る
それとは別に盛り上がった股間が情けない
啓介は暁に再リベンジを誓うのであった
[暁の決闘 新たなる挑戦者編]
あの伝説のカリスマが帰ってくる
全国の武道家はその情報に恐れ戦いた
「赤城白色彗星拳」
武道を嗜むものならば知らぬ者はいないといわれる魔拳である
一度は藤原豆腐拳に破れたこの魔拳が更に磨きをかけて帰ってくるという
プロジェクトd
走りと拳を極めるというこの計画に涼介は拓海を引き摺り込もうとしている
「拓海のバ−ジン,俺が頂く」
高橋涼介が声高らかに宣言した
「ちょっとまて−っ拓海のおしりは俺のもんだ−」
赤城黄鶏拳の啓介も宣言する
「ふふふっ強い者が掟なのが武道家のならいだ,啓介,俺に勝てるか?」
まだ拓海とセカンドキッスも果たしていないのに手強い敵が新たに現れる
「俺は負けねえ,拓海−っ俺達はダブルエ−スだからな」
「おろかものめ,この映画は涼拓と決まっているんだ」
あのエンディングを見ろっと兄は断言する
「原作者も認めている,さあ,拓海,バトルをしようか,伝説になるファイタ−の戦いを」
21世紀を迎え,群馬の伝説は始まったばかりだ
映画のラストに続く
勝ったのはどっちだ?