これは2年くらい前に出した本「バトルロワイヤル」暁の決闘の続きです。(て誰も知らないか,ごめん)

 


 群馬,否全国に嵐が訪れようとしていた。
 彼が動く。
 否,彼らが。
 人々はその噂に恐れ戦き,恐怖し,そして羨望と期待に震える。
 そう,とうとうあの眠れる獅子が動き出したのだ。
 いや,正確に言うと眠れる彗星が。
 高橋涼介23歳,乙女座
 彼は全国では知らぬものはいないと言われるカリスマ走り屋であった。
 その誰をも寄せつけないドラテクは孤高の走り屋にふさわしい。
 誰が呼んだか赤城の白い彗星の名を冠した彼は突然姿を消した。
 峠から,走り屋の世界から忽然といなくなったカリスマを人々は噂した。
 きっとどこかで修業をつんでいるのだろうと。
 そして彼は帰ってきた。
 消える前よりも更に強靱となり,白い彗星の名にふさわしく華麗に。
 恐るべき同士を引き連れて。
 彼はプロジェクトD,関東最強プロジェクトを発動させたのであった。

 

 走り屋と聞くと皆様は何を想像されるだろうか?
 暴走族?カミナリ族?
 峠でバトルをする熱い奴等?
 普通の人ならばそう思うだろう。
 一般の凡人ならばそう騙されるであろう。
 しかしそれは仮の姿である。
 実はここだけの話,走り屋とは精神と肉体を限界まで磨ぎ澄ませた超人の集まりなのである。
 バトルとは超人達の戦場。
 峠で選ばれし戦士達は死闘を繰り広げる。
 昨今ではK1や無差別格闘技などが流行っているがあれは世を騙すままごとでしかありえない。
 真の勇者は峠でバトルをする。
 人知れず峠で戦いを行なっているのだ。
 車という媒体を使って。
 ここで補足説明を入れておこう。
 何故彼等は走り屋の道を選んだのかである。
 それは遡ること40年前。
 高度成長期のその時代,人々にとって少林寺は憧れであった。
 ブル−スリ−全盛期である。
 娯楽の少なかったその時代,体一貫で悪人どもを薙ぎ倒す姿は人々を魅了した。
 しかし時代は移り行く。
 バブルの時代を迎え人々は裕福となり,体一貫の汗臭い美学よりも車の方に目を向けていった。
 俗に言う一所帯に一台,マイカ−時代の到来である。 人々を虜にするスカイラインやフェアレディZなどのスポ−ツカ−も続々登場して世界で活躍した。
 今まで高値の花だったスポ−ツカ−も庶民に手が届くようになると人々はこぞってその魅力に取り付かれていく。
 そうなると少林寺が廃れるのは当然。
 このままでは日本の大和魂が失われてしまう。
 そう危惧した時の群馬少林寺の達人達は考えた。
 どうすれば人々の心を少林寺に取り戻せるのか?
 やはり裸一貫がいけないのだろうか?
 そうして苦悩の果てに辿り着いたのが少林寺のイメ−ジチェンジ。
 人々にとって興味の対象であるドラテクと少林寺の融合である。
 こうして前代未聞の少林寺走り屋が登場した。
 修業で鍛えた反射神経をフルに使ってのドラテクはすさまじい。
 すぐさま群馬峠は小林走り屋の独壇場になった事は言うまでもない。
 という古い歴史が峠にはあるのだった。


 高橋涼介は少林寺拳法の達人であった。
 彼は少林寺48奥義の一つ,白色彗星拳の達人であり,赤城少林寺道場レッドサンズのリ−ダ−であった。
 その彼が関東の名だたる峠を制圧するために選んだのが弟であり稲妻黄鶏拳の使い手であり涼介の愛弟子,高橋啓介21歳。
 そして何故か巻き込まれたのが藤原拓海18歳,藤原豆腐拳の後継者である。
 この二人をダブルエ−スとし,選りすぐりのメンバ−を揃えてプロジェクトDは動き始めたのであった。


 ここは日光の山奥のとある峠。
 プロジェクトDの到来を待ち構える一団がいた。
「プロジェクトDか,ちょこざいな」
「返り討ちにしてくれる,少林寺」
 ふわっはっはっはっ
 と高笑いする一団は皆柔道着を着ている。
 そう皆様はもうお分かりだろう。
 藤堂塾,日光を拠点とし栃木を制しているこの軍団は柔道の猛者である。
 その卓抜した柔道の技を世間に広めるために走り屋として暗躍している謎の集団である。
 その昔,柔道一直線や姿三四郎で一世代を築いた柔道も今や下火,そこで柔道のむさくるしいイメ−ジを一新するために洗練されたスポ−ツカ−との融合を図った栃木柔道連盟である。
 栃木柔道連盟,又の名を藤堂塾
「しかし奴等も群馬少林寺の猛者,どのような卑怯な手段をもちいてくるやもしれん」
 藤堂柔道連盟会長はそう言うとにやりと後ろを振り返った。
「そこで助っ人を用意した,世界柔道大会3連覇を達成した男,館智幸だ」
「ひょ−っトモさんかっこいい−」
「しびれるっす,本当の男っす」
 館智幸はずずっと鼻を擦った。
「プロジェクトDなど俺の相手じゃあないな」
 ひょうひょうと言い切る館。
 しかしの出で立ちは言葉と裏腹にやる気満々である。 館はここ一番の時の決め服,お気に入りの柔道ス−ツ(全身ピチピチ)で勝負しようとしていた。
「この服にしたのは意味がある」
 今までの柔道のイメ−ジを一新するために洗練されたライダ−ス−ツをベ−スに館がデザインしたニュ−柔道ス−ツ。
(死亡遊戯のブル−スリ−ス−ツの様なものを想像してください)
 それは異様なまでに館に似合っていて峠では浮いていた。
 その時,麓から聞き慣れないエンジン音が聞こえた。

「来たぞっプロジェクトDだ」
 音と共に続々と見慣れぬ車が上ってくる。
 一際輝くオ−ラを放っているのが黄色いFDと白黒のパンダトレノ,そしてカロ−ラワゴン(涼介が乗っている)
「あいつら,ただものじゃあねえな」
 藤堂の言葉に館がうなずいた。
「相当の手だれと見ました,しかし所詮は少林寺,日本の心 柔道にはかないはしない」
 緊張が峠を吹き荒れた。

 

 

「今日は楽しませてもらうぜ」
 黄色いFのドアが開き全身からオ−ラを漂わせてヒルクライムエ−スの啓介が登場した。
「このバトルは伝説になるだろう」
 ワゴンから降り立った涼介が目線で合図を送る。
「今日,藤堂塾とバトルするのは彼だ」
 涼介ハチロクの方を向いて断言した。
「なっなんだとぉっハチロク?」
「藤堂塾をなめるんじゃねえ,10年前のボロハチロクで館智幸に勝てると思っているのかよ」
 馬鹿にされたといきりたつ藤堂塾の猛者。
 そんな中,館はじっとハチロクのドライバ−が降り立つのを激視していた。
 カシャリッ
 ハチロクの扉が開く。
 出てきた人間を見て藤堂塾の猛者はいきりたった。
「うわ−むっちゃ可愛い」
「すげ−激マブ」
「あの子がバトルするのかよ」
「無茶だっ無謀すぎる」
 藤原拓海18歳,少林寺も柔道も虜にしてしまう憎い奴の登場である。
 その時,館がつぶやいた。
「・・・可憐だ」
 なっなにぃっ
 俺の拓海に手を出すんじゃねえ
 そのつぶやきを聞きとがめた啓介が詰め寄ろうとするよりも早く館が動いた。
「バトルだっ藤原拓海のバ−ジンは俺がもらう」
 一瞬の出来事であった。
「ひいいいっ」
 拓海の悲鳴が峠に木精する。
 そりゃあそうだろう。
 突然怪しげなライダ−ス−ツもどきの男がピチピチの前をおったてて襲いかかってきたのだ。
 その一瞬の隙が拓海を窮地に陥れる。
 藤原豆腐拳必殺のみぞ落としをしかけるよりも早く柔道の基本,寝技に持ち込まれてしまった。
「一目ぼれなんだっ俺と付き合ってくれぇっ」
「ひいいっ変態−っ」
 館はピチピチライダ−ス−ツもどきの前をこれでもかというくらいにびんびんにさせて寝技を仕掛けてくる。
「腰を振るな−っ」
「はあはあっ初恋なんだ,俺の童貞をもらってくれ−」
 柔道の猛者はシャイな奴が多い。
 館も修業に明け暮れていたためまだチェリ−君であった。
 今まで柔道一直線で抑圧されていた性欲が爆発している。
 それもこれも拓海の可愛いパンダフェロモンのなせる技(いや,罪なのだが)
「俺の拓海にさわるな−」
 啓介が駆け寄ろうとしたが周囲の者にはがいじめにされる。
「もうバトルは始まっている,手を出すな」
「そうだ,バトルが始まれば一対一の死闘,例え仲間でも加勢をする事は禁じられている」
 涼介のその言葉に啓介は息を飲んだ。
 ごっくん。
 目の前では野獣のような館に押さえ込まれ頬を赤らめ目尻に涙を浮かべている愛しい拓海の姿が。
「たっ拓海っ」
 啓介はたまらず前を押さえた。
 涼介も前を押さえている。
 みんな前を押さえ前屈みでこの死闘の行く末を見つめた。
 ごっくん
 誰かが息を飲む音がする。
「こう,なんちゅうか」
「いいバトルですな」
「いやがるところがまたなんとも」
 館は怪しげな腰の動きで寝技を堪能している。
 そんな周囲の視線を感じ,拓海は悟った。
 誰も助けてくれない。
 自分を助けられるのは自分だけなのだ。
(仕方ない,あれだけはやりたくなかったけど)
 拓海は息を詰めて瞳を閉じた。
 これは藤原豆腐拳奥義の一つ。
 究極の技である。
 ただ,拓海はこれだけはやりたくなかった。
 やりかたは知っていたけれどもやった事は無い。
 だが今,ここでやらなければ地獄が待っている。
 館のナニはもう爆発寸前である。
 拓海は覚悟を決めると瞳をうるうるさせた。
「俺,初めてなんです,もっと優しくして」
 その瞬間,館は鼻血を吹いて(股間も噴射して)のけぞった。
「うおおおお−っ」
 次の瞬間,拓海の技が光る。
「秘技,藤原豆腐拳5連みぞ落とし」
 アタタタタッ
 拓海の手刀が館の腹に突き刺さる。
「うおおおおっ」
 どさっと倒れる館,哀れである。
 はあはあっと息を荒くしながら立ち上がる拓海に涼介がぽんっと肩を叩いた。
「よくやった,拓海,お前なら出来ると信じていた」
 藤原豆腐拳奥義中の奥義,お色気作戦は拓海にしか使いこなせない技である。
 涼介の言葉に拓海はにっこりと微笑むと足を振り上げた。
「前ふくらましながらかっこつけてるんじゃねえっ」
 キれた拓海は恐ろしい。
 一撃で白い彗星を下した藤原拓海に藤堂塾はおののいた。
「よかった,声かけなくて」
 啓介は股間を押さえながらちょっとほっとしている。
 そんな中,史弘がぼそぼそと呟いていたがそれは誰にも聞き遂げられる事は無かった。
「あの−,そろそろ車でバトルしませんか?」
 実は一番苦労しているのは広報部長の史弘である。

 続く