{ANIMAL LOVES}
啓介の一番古い記憶
それは拓海だ。
拓海の柔らかい匂いと暖かい手。
撫でられた記憶。
触られるのが恐くて一生懸命威嚇したけれどもそんな事全然通じなかった。
牙を立てているが実は怯えていたことなんかも全部拓海にはお見通しだった。
拓海は俺の何が気に入ったのか「決めた」と言ってくれたからその日から俺は拓海のものになった。
家に連れて帰られて暖かいミルクと暖かい寝床と優しいご主人様。
新しい生活は快適で最高で俺はすぐにその暮らしに順応した。
新しい家で俺は名前をもらった。
藤原啓介
かっこよくてドーベルマンにぴったりの名前だ。
「大体啓介は初めての時俺の手を思い切り噛み付いたんだよな」
その日、朝食の最中、拓海が思い出した様に言った。
食卓に並んでいるのは納豆おしんこ豆腐の味噌汁という由緒正しい日本の朝ごはんだ。
ちなみに啓介は由緒正しいドッグフード。
「まだガキだって言うのに男気のある犬だったなぁ、啓介は」
答えながらもぐとご飯をほおばっているのが拓海の父親の藤原文太だ。
「生まれたばっかでもドーベルマンだよ、痛かったなぁ、あれは」
拓海がちょっと睨む様にして言うから啓介は尻尾をうなだれた。
「でもそれが気に入って飼うことにしたんだろうが」
文太親父のナイスフォローかなんだかで拓海は苦笑しながら啓介の耳を撫でた。
「くううん」
啓介はそうされるのが大好きで大好きで尻尾をぶんぶんと振ってしまう。
そんな拓海と啓介を見て目を細めていた文太は立ち上がって準備を始めた。
朝の7時30分、
親父さんの出勤だ。
「もう時間なの?」
「ああ、昼の飛行機をとってあるからなぁ」
ゆっくりしていられなくて悪いなあ、そう言いながら文太は準備を進める。
「しょうがないよ、仕事だもん」
拓海少しすねて様子で啓介に抱きつきながら答えた。
藤原文太の仕事はラリー屋というやつだ。
世界中を飛び回っていて中々家にいることが出来ない。
藤原家は藤原文太と拓海と啓介の三人家族だ。
拓海のお母さんは拓海が小さい頃にいなくなってしま
ったし啓介は家族といっても犬だから実際は拓海の一人暮らし。
小さい子供が危ないという人もいるけれど、ボディガードは啓介が勤めてくれるし 拓海は家のことなら大抵なんでも出来る。
料理も洗濯も掃除も結構な腕前だ。
親父もそれだから拓海の一人と一匹暮らしを認めてくれているのかもしれない。
本当なら親父さんは拓海を連れていきたいのだろう。
でも子供の情操教育とやらのために拓海はこの日本の東京で現在高校生なるものをやっている。
「じゃあな、留守をよろしく」
啓介が物思いにふけっている間に文太親父さんは出かける準備を済ませたらしい。
「啓介、拓海を頼んだぞ」
親父さんは何時もそれを言う。
「バウバウッ」
啓介は元気よく答えると文太は細い目をますます細くして啓介の頭を撫でた。
パタン、
扉が閉められて俺は一人になる。
拓海は親父さんを送って空港までいったからしばらく帰ってこない。
「つまんないなぁ」
啓介はごろんっとベットに横になった。
もちろんそれは拓海のベットだ。
啓介専用のベットもあるけれどそっちは滅多に使われることは無い。
拓海は啓介に自分のベットで寝ろと怒る。
でも小さい頃から啓介は拓海のベットで一緒に寝ていたのだから今更だ。
くうんっと鼻を摺り寄せると拓海の優しくて甘酸っぱい匂いがして啓介の胸はどきどきした。
それを誤魔化すように悪態をつく。
「つまんないぜ」
ごろんごろんと寝転がりながら啓介は呟いた。
「最近拓海が冷たい」
前なら絶対空港へ俺を連れて行ってくれたはず。
なのに最近拓海はちっとも啓介と遊んでくれないのだ。
「確かに俺、ちょっとでかいけどさ」
啓介はドーベルマンである。
それも拓海よりも3つもお兄さんの21歳の成犬なのだから大きい。
大きくてとても迫力がある。
近所の人たちは啓介がとても躾の行き届いた立派な犬で突然暴れたり吼えたりしないことを知っている。
けれども空港とか公の場所に出かける時には注意しなければいけない。
啓介を見ただけで泣き出してしまう赤ん坊や怯える子供もいるのだから。
「拓海の事情もわかるけどさ」
啓介ほどの大型犬になると飼い主も大変だ。
それはわかる、
分かるけれどもそれとは別の次元で拓海がつれないような気がしてしまうのは気のせいだろうか?
「最近一緒に寝てくれないし」
中学を卒業した頃から拓海は一緒に寝てくれなくなった。
「寂しい、バウッ」
尻尾が項垂れてしまう。
それに気になることもある。
「拓海からいい匂いがするんだよな」
啓介はちょっと顔を赤くしてくんくんと毛布の匂いを嗅いだ。
「くううんっいい匂い」
最近の拓海の布団からウットリとしてしまう様な甘くていい匂いがすることがよくある。
その匂いを嗅ぐと啓介はなぜかとっても興奮してしまって大変なのだ。
「くんくん、拓海、大好き」
布団の中でごろごろしているところを拓海に見つかったら怒られるけれど、啓介はこっそりもぞもぞしながら大好きなご主人様に思いを馳せるのであった。
空港へ向かう車の中、
高速道路を制限遥かに越えたスピードで流しながらの親父の質問に拓海は眉をしかめた。
「なんで啓介連れてこなかったのかよ、可哀相に、すねていたぜ」
「だって啓介さんもてるんだもん」
ナビシートにもたれて拓海は即効で答える。
「まあ啓介も年頃だからな」
「啓介さんは昔からもてていたけどさ、最近すごいんだ、
もう散歩にいったらあちこちのメス犬がうるさくって」
空港なんかに連れて行ったら大変である。
空港中のメス犬が啓介にモーションをかける姿が目に浮かんで拓海はこめかみを押さえた。
顔をしかめる拓海に文太が笑った。
「そうだな、啓介にもそろそろ嫁さんが必要か」
「紹介してもらったほうがいいかな?トップブリーダーの涼介さんとかならきっと啓介さんにお似合いの可愛いお嫁さんを選んでくれるよね」
うーんと悩む拓海。
啓介さんのためには可愛いお嫁さんを選ぶべきなのだろうけれど、ちょっと複雑な気分である。
「お前とは兄弟みたいに育ってきたもんなぁ、啓介は」
文太がぽんぽんと拓海の頭を撫でた。
子供扱いをされて拓海はますます複雑な気分になってしまった。
顔が赤いのを誤魔化すために窓の外を眺める振りをしたりする。
(啓介さんとは兄弟みたいに育ってきたけどさ)
でもなんだか最近の啓介さんはとてもかっこいい。
(犬のくせにもてもてだし)
ちょっと悔しい、いや相当悔しいかも。
なによりも一番悔しいのはそんな啓介を見てかっこいいなぁと見惚れてしまう自分自身な訳で。
(犬のくせにかっこいいんだもん)
反則だよ、と思いながら拓海はぶーたれるのであった。
拓海は知らない話だが最近の啓介さんがかっこいいのは当然成犬になったからである。
前はやんちゃ盛りだった啓介さんもお年頃、
雄のフェロモンばしばし垂れ流しの啓介さんがもてないわけがない。
だがしかし啓介さんは飼い主一筋の忠実なわんこな訳で・・・
二人(一人と一匹の)青春はまだ始まったばかりである。
啓介さんと拓海の出会いはペットクリニックである。
それは啓介さん8歳、拓海5歳の春のこと
啓介さんはやんちゃだった。
多分そのペットクリニック始まって以来のやんちゃ坊主であった。
子供なのに高橋総合ペットクリニックの名医である高橋涼介をてこずらせるくらいのやんちゃぶりであった。
まだほわほわの毛だし犬歯も生え揃っていないというのに涼介さんにも懐かない。
それだけじゃなく恐れ多くも涼介さんの顔面にキックを入れるほども恐いものしらずだった。
(もちろんその後死ぬほどしばかれたのだが)
そんな啓介さんだから当然飼い主なんて見つかるわけもない
子供でも男前、当然のことながら血統書つきの由緒正しいドーベルマンなのに一向に引き取り手が現れない。
そんな頃であった。
高橋ペットクリニックの前に一台の古びたハチロクトレノが止まったのは。
「やっぱり猫が可愛いわよね、拓海も猫を飼いたいでしょう」
車から降りてきたのは母親と父親と可愛い子供。
この高橋クリニックではペットの紹介もやっていたのでわざわざやってきたのであった。
「まあ見て、このシャムネコ可愛いわ、こっちのペルシャもいいわよね」
お母さんははしゃぎながらクリニックの中を見て回る。
子供も手を引かれて一緒にペットを見て回った。
そして見つけた薫る。
一番奥の籠にいた子供のドーベルマンを。
小さくて、まだ満足に吼えることも出来ない子供のくせに啓介は拓海にバウバウと威嚇してきた。
「そいつは凶暴ですからね、手を出さないほうがいいですよ」
クリニックの助手の人がそう注意してくれる。
「きょうぼう?」
「噛み付いてくるからね」
助手の言葉に首をかしげながら拓海はじいっと子供のドーベルマンを観察した。
バウバウ唸っているドーベルマンの子供はちょっと恐いけれどとてもふわふわした毛並みで可愛い。
触ってみたいなぁ、
でも触ったら怒るかな。
拓海はどきどきしながら手を伸ばした。
バウッ
突然伸ばされた手に驚いた子犬は当然のことながら思い切りその手に噛み付いてきた。
母親は横で悲鳴を上げる。
その時、拓海が驚いて手を引いたりしたらますます犬歯は食い込んで大変な怪我になっただろうけれど賢い子供は噛まれていない手で子犬の頭を撫でてやった。
「恐くないよ」
噛まれたことはとても痛かったけれども子供は子供なりに知っていた。
突然頭をなでようとされたら誰でも驚くし噛み付いてくるだろうということを。
だから拓海は空いている手で子犬の頭をなでてやって恐くないよと何度も言った。
しばらくすると子犬も分かったのか噛み付くのを止めて拓海の傷をぺろぺろと舐めてくれた。
「お父さん、僕この子がいい」
その頃には拓海と啓介はすっかり仲良くなっていて周囲をあきれかえらせるほどであった。
傷の手当てをしてもらいながら拓海は啓介をペットにしたいと駄々をこねた。
「こいつはドーベルマンだぞ、今は小さくても拓海よりもずっと大きくなるんだ」
世話が大変だぞ。
と呆れ半分で言う父親にお願いして拓海は啓介の飼い主になった。
「男前ねえ、この子」
母親もその頃には啓介をすっかり気に入ってしまっていた。
ちょっとやんちゃだけれども可愛くて男前の子犬はその日のうちに藤原家に連れて行かれた。
「今日からこの子は拓海のお兄ちゃんね」
そう母親は言って笑った。
「お母さんの口癖だったんだよな」
拓海のお兄ちゃんだから啓介さんね。
犬にさん付けは変だろうと親父は首をひねったけれども母親は男前の子犬を啓介さんと呼んだ。
「だから俺もついさん付けなんだよ」
そのせいだろうか?
啓介はどうやら自分を犬だと思っていないらしい。
拓海のベットを占領するし態度もでかい。
本当に自分を拓海のお兄ちゃんだと思っている。
「困るんだよな」
今更啓介と呼び捨てにするのも変だし。
でも飼い主の威厳も欲しいし。
「しつけ方を間違えたよな」
そう文句を言いながらも拓海は空港で啓介へのお土産を買ってしまうのであった。
さて、ここで犬についての補足説明をしておこう。
犬、わんこ、ペットは人間の友達である。
人間の歴史と共に歩んできたパートナーでもある彼らは実は人間が考えているよりもとても賢い。
へたをすると人間よりも頭がいいかもしれない。
だがしかし賢いわんこは主従関係をちゃんと守る。
犬にとって飼い主は絶対の存在。
一番大切で大好きなご主人様なのだ。
科学の進歩で人間の寿命も犬猫ペットの寿命も伸びたから今ではペットの成長速度は人間と同じレベル
これによりペットは一時の友ではなく生涯のパートナーとして重要な地位を占めるようになった。
人権ならぬ犬権や猫権も認められている。
つまりは一昔前よりもちょっとばかしペットの地位は向上している訳である。
まあそんな世間の情勢などはさておいて、藤原家の啓介犬はちょっとばかり馬鹿犬であった。
今も拓海のベットで仰向けにぐうぐう眠っている。
「バウウウゥ、拓海ぃ」
当然啓介の見る夢は愛しいご主人様のこと。
「でへへ、大好き」
でれーんとよだれをたらしながらにやにや眠るドーベルマン、結構恐い。
でも啓介はいつもにやにや眠っているのではない。
いや、拓海のことを考えるとでれでれしてしまうのは何時ものことだけど最近ちょっとニュアンスが違うのだ。
拓海のベットで甘い匂いに包まれるとなんだかどきどきしてもやもやして興奮してしまう。
「くううぅん、きゅううん」
そんな時に見る夢は決まっている。
拓海の笑顔とか、なでなでしてくれることとか、後お風呂上りの姿とか可愛い寝顔とか。
この前こっそり見た拓海もよく夢に出てくる。
それは一週間前の夜。
その晩、啓介は拓海のベットから追い出されてすねていた。
部屋からも相当ぐれていた。
「ちくしょう、拓海の奴、ひでえや」
くうん、すねて尻尾を股に挟みながら不貞寝をしていた啓介であるが深夜、ある声に目が覚めた。
「あっはあぁん」
なにやら苦しそうな声が聞こえる。
「拓海、病気なのか?」
啓介はがばっと跳ね起きた。
人間よりも鋭い犬の聴覚が拓海の小さい声をひろう。
「あぁん、ん、はあぁ」
ばうばうっ拓海、どうしたんだ。
啓介は急いで拓海の部屋へとかけっていった。
最近拓海には秘密が出来た。
啓介さんには絶対内緒の秘密である。
今、目の前にあるのは親友いつきから貸してもらったエッチな本。
女の子のビキニがいっぱい載っているいつき秘蔵のお宝である。
いつきがこれを拓海に貸してくれたのは熱い男の友情だ。
たまたまクラスの男子の間でエッチな話になったとき、拓海がまだ自分でいたした事が無いという驚愕の事実が判明した。
「げえーマジかよ、拓海、お前そりゃあ異常だぜ」
「俺なんて毎日だぞ、毎日」
「お前のそれはやりすぎだって」
うひゃうひゃ笑いながらもみんな拓海を心配してくれる。
「でも、俺啓介さんと何時も一緒に寝ているからそんなこと出来ないよ」
そう言う拓海にみんなは反論した。
「啓介さんって犬だろ」
「高校生にもなってペットと寝てるってあんまり聞かないぜ」
「そ、そうなのかな?」
「そうだぜ、拓海、それにちゃんと自分でやっとかないと剥けないしいざっていうとき困るぞ」
「いっいざって?」
「いざっていったらいざだよ、大体あそこはなぁ、使い込んでおかないと成長しないんだぞ」
「そうなのか?」
拓海には初耳であった。
「そうそう、常日頃から自分で鍛えておかないと大人にはなれないんだからな」
いつきは胸を張って答えた。
そして一冊の本を取り出す。
「お子様なお前のためにとっておきの秘蔵本を貸してやろう」
「おおおー、すげえ」
「さすがいつきだぜ」
いつきが出してきたのはビキニグラビアの写真集、
しかしそれだけでも高校生には刺激が強いしろものだ。
「拓海、これを見て出して大人になるんだ」
がんばれよ、という激励と共に渡された一冊のお宝。
という訳で拓海は啓介を部屋から追い出したのであった。
拓海が苦しんでいる。
ばうばうっ
啓介は急いで拓海の部屋へと向かったが当然のことながら鍵がしまっている。
「あん、はあぁ、んっやあ」
拓海の声は小さくて、でもとっても苦しそうだ。
どうしよう。
啓介は急いで隣の部屋へ入り込んだ。
犬にしては器用なわんこの啓介は窓を開けてベランダから拓海の部屋を伺う。
「バッバウウウ 拓海」
カーテンの隙間からこっそり中を覗き込んで啓介はびっくりした。
「やっぱり拓海は具合が悪いんだ」
拓海はベットに寝ている、
顔も赤くて息苦しそうだ。
それに手を足の間でもぞもぞしている。
「あ、ん、やあぁ」
拓海、大丈夫か。
啓介はそう吼えようとしたけれどもなんだかもじもじしてしまって声が出せなかった。
(拓海、何しているんだろう?)
こう見えても啓介は箱入り犬
立派な体格とナニのくせに童貞のお子様なのだ。
散歩のときなどいっぱい近所のギャル犬にモーションをかけられたがご主人一筋の啓介は見向きもしなかったのでそういう色事を知らなかった。
(拓海、気持ちよさそう?)
啓介は吼えるのも忘れて目の前の拓海に夢中になってしまった。
(はっはうううっ拓海可愛い)
「やあぁん、気持ちいいよぉ」
ぷるぷる震えながら一人遊びしている拓海は壮絶色っぽい。
(た、拓海、こんな遊びをしていたのか)
なんだかよく分からないけど拓海はとっても気持ちよさそうに腰を振っている。
それを見ているとついつられて啓介も腰を振ってしまった。
「ばうっくううん」
がしがし腰を振りながらこっそり部屋を覗き込む啓介の姿は相当情けない。
まあそれはさておいて啓介に見られているとは知らない拓海は無事一人エッチを完遂し、啓介は啓介である一つの可能性を思いついてしまったのである。
「ばううっくううん」
駄犬啓介は夢の中でも腰を振っていた。
この前見たとっても可愛い拓海。
足の間の果実をいじりながら気持ちよさそうに鳴いている。
その姿があんまりにも可愛くて可愛くて、啓介は拓海のそれを舐めたくてはあはあ息を荒くした。
「きゅううん、くう」
それに拓海にも俺の脚の付け根を弄ってもらいたい。
拓海のと同じように大きく腫れてしまってとても痛い。
いやいやサイズは啓介のほうがビッグだが。
これを拓海の手で撫でてもらったら、
「はうううっ天国」
むにゃむにゃ、くううん
こうして啓介は惰眠を貪りながら密かに野望を育てるのであった。
その日、空港からの帰り道、拓海はトップブリーダーであり動物医学の権威である高橋涼介先生のところへと立ち寄った。
「最近啓介さんも年頃だし、そろそろ結婚を考えてもいいかなと思うんですが」
拓海の相談というのは啓介の縁談についてであった。
「そうか、啓介ももうそんなに成長したんだね」
啓介が生まれたときからの主治医である涼介は大きく頷いた。
「では近いうちに何軒か候補を探しておこう」
そう言いながら涼介はごそごそと机の中から一本のビデオを取り出した。
「お見合いの前に啓介には心の準備をさせておく必要があるからね、これは犬の性教育ビデオだよ」
「・・・そんなものもあるんですか?」
「啓介は藤原家に引き取られてから他の犬との接触の無い箱入り犬だからな、こんなこともあろうかと準備しておいたんだよ」
さすがトップブリーダー、万全の体制である。
「じゃあお借りします」
拓海は恐縮しながら恐る恐る犬用ビデオをかばんにしまったのであった。
家に帰ると啓介がベットで惰眠を貪っていた。
「啓介さんったら」
いつもはかっこいいドーベルマンなのにこうして寝ている姿は小さいときと同じ可愛いわんこだ。
「うーんむにゃむにゃ、拓海ぃ」
ばうばう、なにやら幸せな夢を見ているらしい。
拓海はそんな啓介の横で頬杖をつきながら小さくため息をついた。
「啓介さんが結婚しちゃったら俺、寂しいよ」
でもしょうがないよな。
啓介さんは犬で、俺は人間でずっと一緒にいられるわけじゃないんだもん。
拓海はくすんっと鼻をすすると夕飯の支度にとりかかった。
その晩、啓介は胸を高まらせていた。
ついでに股間も高まっていた。
びんびんである。
それを隠すため内股になるのだから相当に情けなかった。
まあそれはさておいて啓介は決めていた。
夢で見たあれ、あれを実現させるのだと
啓介もお年頃、21歳といえばもう発情期びんびんである。
知識は無くても本能が拓海を求めている。
「ばううううん、あおおおーん」
雄たけびを上げる啓介は野生に戻っていた。
ちょうど今、夕飯を食べ終えた拓海はベットでくつろいでいる。
今がチャンス、啓介は無邪気なふりをして擦り寄った。
「くうん、拓海ぃ」
「ん、どうしたの?啓介さん」
拓海はよしよしと頭を撫でてくれた。
はううう、幸せ。
尻尾をぶんぶん振りながら啓介は拓海にじゃれついた。
「ちょっちょっと啓介さんったら」
啓介は鼻面を拓海に押し付けてくる。
正確に言うと拓海の股間にである。
「やだ、啓介さん」
「くううん、きゅうん」
しかし啓介はじゃれているだけ。
(じゃれている振りをしている)
殴るわけにもいかなくて拓海は焦った。
「啓介さん、そこだめだって」
「きゅうん、はあはあ」
ぐりぐりと鼻先を押し付けられて拓海は焦った。
「あ、ん、やだっ」
困った。このままでは困ったことになってしまう。
拓海は急いで立ち上がった。
「啓介さんの馬鹿、俺、今日はもう寝ます」
「きゅううん、拓海ぃ」
怒ったそぶりで拓海は自分の部屋に入っていってしまった。
しかしこんなことであきらめる啓介ではない。
拓海が寝ている頃を見計らってこっそりと部屋に忍び込んだ。
「でへへ、拓海、可愛い」
拓海の寝つきはすこぶる良い。
布団に入って1分もしないうちに熟睡してしまう。
啓介はもぞもぞと布団にもぐりこんだ。
「きゅうん、いい匂い」
甘酸っぱくて胸がどきどきしてくる。
もちろん股間は大変なことになっている。
啓介は拓海の顔をこっそりと舐めた。
「う、ンンやだ、啓介さん」
口元をべろべろ舐めるのは啓介の癖だ。
拓海は寝ぼけながらそれを払おうとした。
「可愛い」
寝ぼけている姿もいいけれどもっといろいろな拓海が見たい。
拓海とは10年以上一緒にいるけれどまだまだ全部見ていない。
「拓海、大好き」
この前の色っぽい拓海を啓介は全然知らなかった。
見るまでそんな拓海がいるなんて知らなかった。
「拓海の全部知りたい」
ばううん、啓介は布団の中に潜り込んだ。
という動物ものラブコメを考えています、
途中でへたれてごめん、これは大阪の無料配布、
今度本でちゃんとやりたいなぁ、という訳で続きはまた次回に?