[藤原家の一族 跡継ぎ登場の巻]
昔々,といっても今から18年程前の話。
群馬片田舎の小さな豆腐店を営んでいる藤原文太25歳は大変狼狽していた。
藤原文太,その道では知られた男である。
どの道かというと不良道,この時代走り屋なんてやっている輩は皆さん不良であった。
文太はカリスマといわれた走り屋。
クレイジ−文太とまで言われ,やくざもちんぴらも避けて通る不良中の不良である。
そして仕事は豆腐作りだった。
その何事にも動じないクレイジ−文太が狼狽している。
「こりゃあ一体どういう事なんだ?」
頭をぽりぽりかきながら煙草をふかして考える。
しかしこうしていても状況は変わらない。
ここは豆腐屋の茶の間。
そして目の前には赤ん坊。
赤ん坊がすやすや眠っている。
「困ったもんだ」
ふうう,文太はため息をつくしかない。
「出来ちまったもんはしょうがねえなあ」
文太は潔い男であった。
話は十月十日ほど前に遡る。
忘年会の帰り,ちょっとお店の女の子といい雰囲気になった文太は若気のいたりで遊んでしまったのだ。
まあ一回限りだし文太はしょぼい豆腐屋だからそれをネタにたかってもしょうがないし,という事であれはいい思い出,で終るはずであったのだが?
十月十日後,女が突然やってきたのだ。
文太の子供だという赤ん坊を連れて。
「責任とってね」
女の言うことももっともだが自分の子供だという確証も無い。
そんな文太の目の前に出されたのが一通の書類。
何時の間に調べたのかこの赤ん坊が文太の子供だというしっかりとしたDNA鑑定結果
「・・・俺の子供か」
突然やってきた赤ん坊。
そんな急に父親の自覚なんて出来るわけもない。
文太は困り果ててしまった。
赤ん坊なんて見たことはあっても触ったことも育てたこともありゃしない。
大体作ったのも初めてなのだ。
「とりあえず,ミルクかな」
普通の牛乳でいいのかな。
いやいや,粉ミルクって奴なのか?
一応女は文太に子供を押しつけたがその時にマニュアルも置いていってくれた。
この子供の好きなミルクの銘柄。
おむつの種類
その他色々である。
「まあ,こうやってメモってくれたっちゅうことはあの女にも母親の情があったってことかねぇ」
女は金持ちの後妻になるそうでどうしても子供を連れていけないそうだ。
産むまでは自分ががんばったんだから後育てるのはあんたの役目よ,
そういう女だが子供を下ろさなかった辺り優しい奴だったのだろうと文太は思うことにした。
「ああいうアッケラカンとしたところが気に入っていたんだよな」
文太は別れた女の事を考えながらミルクを温めた。
「おら,飲むか?」
哺乳瓶に入れて差し出してあげると子供はむにゃむにゃと起き出した。
「むにゃ?」
きょろきょろと辺りを見渡した子供は文太を見つけるとにぱっと笑った。
「だあだあっ」
よだれでべたべたの手で文太のほっぺをぺたぺた叩く。 その姿はあどけなくて可愛くて。
やはり血が繋がっているからであろうか。
「けっこう可愛いな」
さて,こいつの名前なんだったかな。
ごそごそとマニュアルを読む。
「拓海か,おい拓海,ここで俺とくらすか?」
文太がそう言うと拓宇井は意味も分からないのににこっと笑って頷いた。
これが父と息子の出会いであった。
それから一週間後にはすっかり子煩悩になった文太の姿が商店街のあちこちで見られた。
そしてその後,クレイジ−文太は引退したのであった。
[藤原家の一族 拓海アイドルになるの巻]
「文太さんっすっかり変わっちまって」
「兄貴,昔のクレイジ−文太はどこいっちまったんですか?」
「俺達のヒ−ロ−が,ううぅ」
最近峠に来なくなった文太を心配して不良仲間がやってきた。
(あの裕一や鈴木もいる)
みんな文太を慕っていたチンピラばかり。
彼らは豆腐を作りながら子供をあやしている文太の姿に愕然とした。
「こんなふ抜けな姿,文太さんじゃないっ」
「栃木の藤堂や赤城のチ−ムが見たらなんと言うか」
文太ひきいる秋名チ−ムと日光や赤城のチ−ムはいつも戦闘状態なのだ。
「文太さん,目を覚ましてください」
「兄貴−っ」
うおおっとみんなは大声を出した。
「しずかにしねえかっ」
その大声にびしっと文太の叱責が飛ぶ。
「拓海が起きちまうじゃねえか」
よしよしと背中の拓海をあやしながら豆腐を作る姿はある意味男前。
「ぶんた−っ」
裕一達の情けない声に拓海が目を覚ました
「むにゃ?にゃにゃにゃっ」
家に見慣れない人がいる。
はてな?
拓海は子供特有の好奇心できょときょと裕一達を見渡した。
「にゃ?むにゃ」
だあだあと手をふる拓海。
さらさらの柔らかい茶色の髪。
まだ生えかけのふわふわである。
大きな大きな瞳。
可愛いかもしれない。
うるうるした瞳が問いかけている。
おっちゃん達誰?
「だあだあっ」
拓海はぺちぺちろ文太の頭を叩いた。
あのクレイジ−文太の頭をである。
「すっすげえ度胸だ,あの赤ん坊」
「ただもんじゃねえ,文太の頭を叩くとは」
文太はふいっと背中の拓海を下ろした。
「すまねえな,ちょっくらおむつを代えてくらあ」
拓海を抱えて奥にひっこむ文太。
あまりにも意外なものを見せられて固まってしまう文太の舎弟?(仲間)
でも,それはあまりにも違和感がなかった。
峠で走る文太もかっこいいけれど男一人で子供を育てている文太もかっこいい。
そして拓海はとても可愛い。
文太とは似ても似付かない大きな瞳。
「た,拓海ちゃん可愛いな」
「ああ,今度おもちゃもってきてあげないとな」
「もう,お菓子食べれるのかな?」
ぼ−っとしてしまうみんなの前に再度現れた拓海はおむつを代えてもらえて嬉しそうだ。
「おっちゃ?だあだあ」
可愛い,可愛すぎる。
小首をかしげて問いかける拓海。
こんな幼い子供を残して峠にいくなんて間違っている。「文太,すまねえ,俺達はおまえの苦労も知らずに」
「協力するぜ,文太,拓海は俺達みんなで育てよう」
うおおお−っ
こうして文太はすんなり引退して豆腐屋の親父に専念することとなった。
余談であるがもうこの頃には拓海は商店街のアイドル。近所のおばちゃんも姉ちゃんも老若男女が拓海にめろめろ状態。
文太の子育てはこうやってみんなの多大な協力でなんとかやっていくことが出来たのであった。
[藤原家の一族 幼稚園デビュ−の巻]
幼稚園入学, それは赤ん坊が子供になる第一歩
幼稚園とは子供が団体生活を過ごす最初のステ−ジ。 社会への第一歩。
拓海もどきどき幼稚園の門をくぐった。
もちろんお父さんの文太に手を引かれてである。
後ろには文太の仲間がカメラとビデオをかかえて付いてきていたのだが。
「こんにちわ−,みなさ−ん,今日から皆さんはひよこ幼稚園パンダ組のお友達ですよ−」
先生の言葉に生徒が頷いている。
そんな中でちょこんと椅子にすわっている拓海。
その可愛らしさは群を抜いている。
生徒の悪大将もやんちゃぼうずもおませな女の子も拓海を気にしてそわそわ
みんなどうやってアタックしようか狙っている。
幼稚園とは子供の最初のハッテン場なのだ。
ここで弱肉強食の意味を知る。
その時である。
拓海の横の男の子がアタックをしかけてきた。
「俺,いつき,おまえは?」
いつきは顔を真赤にしてもじもじしている。
「拓海」
「たくみかぁ,おまえかわいいな,おれのお嫁さんにしてやるよ」
「およめさん?」
きょとんとする拓海。
「一番仲良しってことだ」
いつきはここで大きな勘違いをしていた。
ああお約束。
いつきは拓海を女の子だと思っていたのだ。
「俺の家はサラリ−マンの家なんだ,なあ,拓海おおきくなったらうちに来いよ」
サラリ−マンのお嫁さんになって,
いつきは本気でお願いしてくる。
う−ん,
これには拓海が困ってしまった。
横の男の子は好きだけど,でもサラリ−マンのお嫁さんは困る。
だって拓海は豆腐店のあととりなんだもん。
(意味は幼稚園なのでわかっていない)
「駄目,だって俺豆腐屋になるんだもん,うちのおとうちゃんは豆腐屋なんだ」
だから俺も豆腐屋なの。
そう言い切る拓海。
がが−んっ
いつき初めての失恋。
大体初恋は実らないものである。
いつきは悔しくて悲しくて涙ちょちょきれた。
だからちょっと意地悪を言ってしまった。
「なんだよ−っ豆腐店なんてダッせ−の,おまえのとうちゃんださださだな」
その瞬間可愛い拓海ちゃんの形相が変わった。
「俺のとうちゃんださくないもんっ」
ばしいっ
見事なカウンタ−パンチッ
幼稚園とは思えない完璧な技である。
し−んっ
静まり返る園内。
「たっ拓海ちゃんっ暴力はいけないわよ」
うええええ−んっ
いつきは失恋のうえに初めての喧嘩で大泣き。
拓海にモ−ションをかけようとした生徒はあまりのショックに固まってしまった。
「かっ可愛い顔しているのに恐い」
あの子に逆らってはいけない。
拓海が幼稚園の番長になってしまったのはこれがきっかけであった。
拓海の雄姿を見た裕一達は小声でひそひそ
「すげえ,さすがクレイジ−文太の息子」
「血は争えないよな」
「先が楽しみだぜ」
そんな声を機器ながら,文太は生徒のお母さんやお父さんに囲まれた席の真中に座ったことを後悔しでいたたまれなかった。
「・・・育て方を間違えたかもしれん」
今から修正はきくのであろうか?
微妙なところである
[藤原家の一族 親友の絆の巻]
文太は最近ちょっと悩んでいた。
一人息子がやけに乱暴ものなのだ。
「育て方を間違えたのかもしれん」
いつも生傷が耐えない息子を見る度にこう思う。
「今日も勝ったんだな」
男親一人だからだろうか。
優しさを教えてあげなければいけないのだろうか?
文太は連絡帳を見てため息をついた。
連絡帳には日時と時間が記されている。
お父さんにご相談したいことがあります。
幼稚園の先生からのお知らせ。
きっと喧嘩についてなんか言われるのだろう。
頭の痛い文太であった
しぶしぶ幼稚園に行くと先生が困った顔をして文太を迎えてくれた。
「実はですね,お父さん,うちも拓海君には困っているんですよ」
「すいません,あいつ乱暴もので」
文太は深々と頭を下げると先生もはああっとため息をついた。
「でもお父さんも大変ですね,あれだけ可愛らしいお子さんを持たれると,うちの幼稚園でも大変なんですよ,拓海ちゃんの親友の座を争って喧嘩が耐えないんです」
「へ?」
「それを拓海ちゃんが止めようとするからもう大変,拓海ちゃんも生傷耐えないし申し訳ないと思っているんですよ」
どうやら先生の話では拓海は人気者らしい。
「拓海ちゃんはあたしと一番なかいいんだから−」
「なんだよ−っ拓海ちゃんは俺と遊ぶんだ−」
子供勝手な独占欲。
みんなが拓海と遊びたがって喧嘩になってしまうらしい。どうやら拓海のあの傷は喧嘩の仲裁の名誉の負傷らしい。
(さすが俺の子供だぜ)
にやにやしてしまう文太。
しかしこれは大問題だ。
「で,拓海君が一番仲のいい子を選んでくれれば話は納まると思うんです」
先生の話は以上だった。
お夕飯の時,文太は拓海に聞いてみた。
「拓海は誰か幼稚園に一番好きな奴はいないのか?」
「いない」
即答である,困った。文太は煙草を加えながら言った。
「まあでも親友ってのは必要だ,誰か親友を作ったほうがいいぞ」
息子はしばらく考えていった。
「いつきにする,俺,いつきと親友になる」
息子はどうやら一番最初に喧嘩をしたあの子が気に入ったらしい。
こうして拓海といつきの付き合いが始まった。
[藤原家の一族 高校生の巻]
武内いつき,18歳。
彼はいま悩んでいた。
幼稚園の時からの親友についてである。
ひよこ幼稚園でおとなりになった時からの腐れ縁。
あの時,いつきは拓海にマグナムパンチを頂戴して失恋を味わったのだ。
そしてそれから番長拓海には近づくまいと思ったのに,
何故か拓海はいつきを親友に選んでくれたのだ。
その時は感動した。
男同士だからやっぱり拳で分かりあうんだぜ。
だがその考えは甘かった。
どうやら拓海は選ぶのが面倒くさかったので一番印象の強いいつきを親友にしただけらしい。
まあそういう訳でいつきと拓海は腐れ縁
幼なじみの無二の親友とい間柄なのだが。
「あいつ,まさかファザコンなんじゃないのか?」
いつきの悩みとはそこ。
この昔から老若男女のアイドル拓海ちゃんはいくらモテモテでも他に見向きもしない。
ラブレタ−もらってもプロポ−ズされてもいつもお断りの言葉は同じ。
「俺,親父のご飯作らなきゃいけないから,付き合っている暇ないなんだ」
一体どこの世界に親父のご飯でお断りする奴がいっるのだろうか?
ここにいる。
昔からそうだった。
うちの親父は一番かっこいい。
うちの親父は一番優しい。
そんじょそこらの男じゃ太刀打ちできない。
拓海の基準は文太なのだ。
それも小さい子供の時にはそうかなと思っていたがさすがにもう高校生。
「いかん,このままでは拓海が道を外れてしまう」
それくらい拓海のファザコンは強烈なのだ。
小学校の時,親父が一緒にお風呂に入ってくれなくなったといって泣いていた。
中学の時,親父が一人部屋をもらってぐれていた。
そして高校生,もうそろそろお年頃である。
拓海は渋川高校のアイドル。
野球部のヒ−ロ−も生徒会長もみんな拓海にめろめろなのに拓海は文太一筋。
親父道まっしぐら。
「拓海ももうそろそろ恋人探せよ」
「親父よりかっこいい人か優しい子見つけたらね」
その基準は間違っているぞ,藤原拓海。
ここは親友として拓海を狭い世界から連れ出してやらねばいけない。
「拓海,免許とるぞ,とって峠にいって走り屋になるんだ」
走り屋になれば広い世界に羽ばたけるのか?
それはまあ置いておいていつきは宣言した。
拓海と二人で走り屋になってファザコンの道から救い出してやろうと。
大体最近の拓海は可愛くなりすぎていかん。
年頃というか色気が出てきたと言うか。
フェロモン爆発なのだ。
幼稚園の思い出がいつきの頭を走馬灯のようにかけめぐった。
拓海の親友の座を巡って争われた血みどろの戦い。
今度は恋人の座を争ってそれが勃発するのは火を見るよりも明らかだ。
そして,そしてだ。
もしもあの拓海がそのままファザコンだったら。
「親父,俺,俺は親父が好き」
なんて言い寄らたらあの親父も一線を超えてしまうかも知れない。
ああ,禁断の親子愛。
それを阻むためにもいつきは立ち上がった。
「免許をとる,そして俺と拓海は群馬最速のハチロクコンビといわれてみせる,くううう−」
立ち上がってうめいているいつきの横で拓海はのんびりと考えた。
そろそろ無免許もやばいから,
この機会に免許でもとっておくかな。
「免許とったら親父ほめてくれるかな?」
そう考える拓海は立派なファザコン,修正不可能であった。
[藤原家の一族 秋名のハチロクの巻]
拓海はふてくされていた。
免許をとって峠にいけば世界が広がるといつきに丸め込まれたけれど何もいいことがなかった。
まあガソリン満タンといういいことはあったが。
ただそれだけ。
峠なんていつも走っているし。
なつきと海にいったけれどもあまり面白くなかった。
「やっぱり親父と家にいるのが一番だな」
親父といるときが一番落ち着く。
家でのんびりしているのがいい。
「親父の側がいいな」
ここが拓海の居場所。
「ずっと一緒にいられたらいいな」
産まれた時から文太と二人。
「ずっと一緒だよね,親父」
デ−トしたけれど親父より可愛い子はいなかった。
(なつきかわいそう)
峠にいったけれど親父よりかっこいい人はいなかった。
(高橋兄弟アウト オブ眼中)
拓海は確信した。
「やっぱうちの親父が一番」
拓海はるんるんしながら親父の好物の肉じゃがを作る。
親父は何も言わないけれどいっつも全部食べてくれるのだ。
そういう優しい文太が好き。
いつきはなんか心配しているみたいだけど。
「俺ってファザコン?」
それをいつきに指摘されたときにはきょとんとしてしまった。
「でも,これって普通だよね」
子供が父親の事が好きなのは当たり前。
親父が一番,これが常識。
峠にいって世界を見てきたけれど拓海はそれで納得するのだ。
「やっぱり家が一番」
メ−テルリンクもいっていた。
青い鳥は家にいたのだって。
幸せは家庭にこそあるのだ。
「親父大好き」
ずっとずっと一緒にいようね。
これが拓海の幸せなのだ。
幸せを噛み締めながら拓海は肉じゃがを作るのであった。
[藤原家の一族 白い彗星登場の巻]
高橋涼介23歳
群馬大学医学部主席
眉目秀麗才色兼備
幼い頃から神童と呼ばれ,皆の羨望の眼差しを一身に集めてきた男。
それがこの俺高橋涼介。
涼介は今悩んでいた。
愛についてである。
涼介は産まれたときから女に不自由したことが無いというもてもて君である。
その涼介を悩ませる愛。
それはこの間,秋名の峠から始まった。
遠征先の秋名峠,そこには一人の少年が可憐に佇んでいた。
可憐だ。
少年はうるうると大きな瞳でぼ−っと遠くを見ていた。
まるで涼介に見つけてもらうのを待っているかのように,ふふふ。
なんとかこの美しい少年とお近づきになりたい。
お近づきになるだけでなくお付き合いをしたい。
涼介の祈りが天に通じたのか
なんと啓介のバトル相手がその美少年だったのだ。
これはやはり,拓海と涼介は運命の赤い糸で結ばれている。
涼介はいきりたった。
だがその後がまずい。
拓海はその後,帰ってしまったのだ。
理由は簡単。
勝利の報告を親父にしなくちゃいけないから。
それを聞いたときは家族思いなのだなと思ったのだが。
拓海を知っていくにつれてそれはもうそんなレベルでは無いことに感づいた。
というか気がつかされた。
ファザ−コンプレックス
まさか,この症例を間近で見るとは。
可哀想に,拓海。
きっと君は小さい頃御母堂を無くした悲しみから御父上の愛を求めてしまったんだね。
分かる,分かるよその気持ちは。
俺も愛を捜し求めていたのだから。
この完璧な頭脳と美貌ゆえに誰にも理解されず孤独だった高橋涼介23歳が拓海の寂しさごと受けとめてあげよう。広い愛情で。ふふふ。
涼介は未来のプランにうっとりとしながらプロジェクトD拓海捕獲計画をねりねりするのであった。
もちろんD計画だけで無く拓海ファザコン分析も怠らない高橋涼介。
彼の努力が報われる日が来るのか?
あやうし拓海ファザコン人生
藤原一家の将来はどうなるのか? 続く
[藤原家の一族 黄色い稲妻登場の巻]
高橋啓介21歳
大病院の次男坊という御気楽な立場を最大限利用して御気楽大学生を満喫している今時の若者。
だが,彼はその持前のキャラクタ−で誰からも愛されていた。
そう,たった一人を覗いては。
「愛されたい,拓海に」
御気楽な恋愛ばかりしてきたこの弟。
本気なんてこの高橋啓介には似合わないぜ。
なんて思っていたのにあの出会いが俺を本気にさせた。 秋名の峠で俺は天使に会ってしまった。
一目会ったその日から恋の花咲く事もある。
啓介は自分のバトル相手に一目惚れしてしまったのだ。
啓介はいつも直球勝負。
恋愛もバトルも真向からぶつかっていくのだ。
猪突猛進,お馬鹿とも言う。
さっそく秋名の峠に日参する啓介。
啓介は朝寝坊が好きだ。
朝低血圧な啓介だが愛のために早起きしているのだ。
夜型の人間を朝型に変えてしまうくらい愛というのはすばらしいのだ。
啓介は自分の愛の深さに感動した。
だがその愛は拓海には伝わらなかったらしい。
「なあ,拓海,モ−ニング奢ってやるからさ,朝飯いっしょに食べようぜ」
「コ−ヒ−飲むだけでもいいじゃん」
「ちょっとお話するだけでいいんだ−」
どんなに啓介が誘ってもいつもお断り。
朝が駄目なら昼,昼も駄目なら夜とどんなに誘っても「親父が待っているから」のお断り。
考えてもみてくれ。
18歳の少年が,もういい大人なのに親父が待っているからという理由で本当にお断りするのだろうか?
否,そんな18歳がいる訳がない。
あんなに可愛い拓海,まさかっまさかっひょっとして。
嫌な予感がした。
「親父って,親父って,本当に親父なのか−っ」
よく俗に言うパパというやつなのでは?
妄想走る啓介を止める奴はいない。
「俺が,俺が本当の愛ってもんを教えてやるぜ,ぐおおお−っ」
高橋啓介21歳は決意した。
親父パワ−なんかに負けるもんか。拓海の愛は俺のもんだ。啓介の若さパワ−は拓海の愛を勝ち取れるのか
それは誰にもわからない 続く
[藤原家の一族 一族の危機の巻]
ここは藤原豆腐店の御茶の間
そこは朝っぱらから異様な雰囲気に包まれていた。
「お父さん,拓海君を俺にください」
プロジェクトDの勧誘にやってきた高橋涼介。
もちろん薔薇の花束を抱えている。
「おやっさん,俺と拓海の交際を認めてくれ」
弟高橋啓介も当然お土産を(ナポナと日本酒)を抱えている。
親父も拓海もびっくりしてしまった。
「・・・拓海,友達は選べよ」
「うん,分かった」
親父の後ろで怯える拓海。
初々しくてとれも可愛い。
ぷるぷるぷるっ
親父はそんな拓海の頭をぽんぽんとしてくれた。
これをされるととても安心できて拓海はやっと落ち着いてきた。
それを見ていた兄弟は嫉妬の嵐に巻き込まれていた。
(うっうらやましい,俺も拓海の親父になりたい,だが親父になったら恋人になれない)
苦悩する二人。
「それで,お前はそのプロジェクトとやらに入るのか?」 親父は拓海に聞いてきた。
拓海はうにゃにゃっと悩む。
「確かにドラテクとかは勉強出来るとてもいいお話なんだけれど,う−ん」
拓海は悩んでいる。
「でも,プロジェクトって遠くに行くし.そうしたら親父の御夕飯とか用意出来ないし」
親父はふ−っとため息をついた。
「夕飯くらい自分で作らあ」
「でも,でも,親父は俺と一緒でないとちゃんと食べないし,飲んでばっかだし」
拓海はぷるぷる震えた。
「それに,洗濯とか掃除とかする時間なくなっちゃう」
「それぐらいなら俺がやってやらあ」
親父の言葉に拓海は首を振る。
「親父アイロンかけないし,掃除も丸く掃除機かけるだけじゃん,駄目だよ,やっぱり」
俺プロジェクト参加出来ない。
拓海の言葉に文太が異を唱えた。
「駄目だ,そんな理由ならお前はそのDとやらに参加した方がいい」
拓海の目が見開かれる。
文太も目を見開いたけれど細すぎてよく分からなかった。
「俺は一人でもやっていける,拓海は広い世界を見てくるんだ」
藤原豆腐店だけでなく広い世界を。
文太の言葉に拓海はくしゃっと顔をゆがませた。
「おっ親父はっ親父はっ俺なんてもう必要ないんだ−」
そう言って駆け出そうとする拓海の腕を文太がつかんで引き寄せた。
「馬鹿,そんな事いってねえだろ」
そっと拓海の涙を指先でぬぐってやりながら文太は拓海を抱きしめる。
「親父は俺の事邪魔になったんじゃないの?」
「お前は俺の大切な一人息子だよ」
「本当?親父俺の事好き?」
親父はぽふぽふと拓海の頭を叩いてだっこしてくれた。「親父,大好き」
「んっ」
目の前で繰り広げられる異様な光景。
兄弟は固まってしまって動けない。
正座でしびれて動けないという説もある。
「なっなあっ兄貴,ひょっとしてあの親子」
「言うな,啓介,言ったら言葉に言霊が入り込んで本当になってしまう」
動揺している兄弟。
そんな二人の前で拓海は親父の髭反り跡にちゅっとキスをした。
「ほら,親父また髭残ってる,後でちゃんと反り直してあげるね」
「んっ」
ちゅっちゅっとキスする拓海。
平然とそれを受けとめる文太。
「まさかっ兄貴っこれ禁断の・・・」
「言うな,啓介,言ったらいかん」
だらだらと冷や汗を流す兄弟。
そして目の前では限りなく怪しいスキンシップを繰り広げる親子。
果たしてこれからどうなるのか?
プロジェクトDの勧誘はどこへいってしまったのか? それは誰にも分からない。
とりあえず,藤原家は今日も幸せである。
ところでこのシリ−ズ
藤原家の一族とかいって文太と拓海の二人だけ。
とほほですが今回はこれでオシマイ。
「岸辺のアルバム」
「親父が好きだなあ」
プロジェクトDもない日曜日
久しぶりの休日
拓海はごろんとこたつに寝そべりながら居間から見える水場で働いている親父の後ろ姿を見ていた。
広い広い背中
ずっとあの背中を見て育ってきた。
「親父大好き」
これは拓海の昔からの口癖。
小さい頃からのコミニケ−ション。
その言葉が聞こえたわけでもないのだけれど,親父は仕事を終えて茶の間に上がってきた。
「なんだよ,いい若い者がごろごろしやがって」
呆れた顔をしながら親父はこたつに入り込んできた。 靴下を履いていても冷たさが分かる足先。
「つめた−いっ」
拓海は温まった自分の足をぴったりとくっつけた。
「暖かい?親父」
「んっ」
親父は新聞を読み始めた。
その顔を寝そべりながら拓海はしげしげと眺める。
かっこいいなあ,うちの親父。
一緒にプロジェクトDやっているあの人達すごくかっこいいけれど。
やっぱりうちの親父が一番かっこいい。
なんとなく照れてしまう拓海。
「なんだぁ?お前」
寝そべって赤くなっている拓海に文太は片頬を上げて笑った。
「う−んっ親父大好き」
拓海はのろのろ起き上がると大好きな文太の不精髭にちゅっとした。
煙草臭い親父とのキス。
世間から見て面妖でも藤原家ではこれが普通。
親子のコミニケ−ション,スキンシップなのだ。
[おまけ 藤原一族の日常」
「うん,やっぱ親父が一番」
拓海は親父にごろごろと懐きながら久しぶりの休日を満喫した。
この前,プロジェクトDのミ−ティングの後,高橋涼介にキスされたけれどこんなにドキドキしなかった。
その前ミ−ティングの前,高橋啓介にキスされたけどこんなにドキドキしなかった。
二人はとってももてもてでああいう遊びをするんだろうけれど。
「うちの親父には適わないよね」
兄弟はかっこよくてもまだまだ若造。
うちの親父の燻し銀みたいなかっこよさには適わない。
(それにうちの親父の方がキスも上手い)
それを言ったら兄弟は再起不能だろう。
「親父っちゅ−してっ」
そう言うと親父は呆れた顔をする。
「18になってもまだまだガキだなあ」
文句いいながらもちゅってキスしてくれる親父が大好き。
拓海はごろごろしながら日曜日を過ごすのであった。
その頃,兄弟は拓海との初キッスの余韻に幸せな休日を過ごしていたことは言うまでもない。