医大生である高橋涼介は多忙を極めている
連日のようにあるレポ−トの山,研究課題,それに加えて彼は公道最速理論も探究していたので毎日のようにパソコンに向き合っていた
2階でキ−ボ−ドを叩く兄に夜食を差し入れた母は心配そうだ
「涼ちゃんは何事にも熱心で没頭しやすいから,今回のレポ−トも3日間徹夜でパソコンにデ−タ−打ち込んでいるのよ,お母さんは涼ちゃんの体が心配だわ」
居間でテレビを見ながらお気楽大学生の弟がのんびりあくびする
「兄貴の集中力はすげえからな,今回はバトル攻略の理論も一緒にやっているみてえだし,でも兄貴なら徹夜してもちゃんと体調は管理しているから大丈夫だろ」
ここ一カ月の兄は見ている方が心配するほど部屋でパソコンとにらみ合っている
さぞや難しいレポ−トをしているのだろうと弟と母は噂しあった
「よし.今日はここまでだな」
きりのいいところで兄はレポ−トのデ−タ−をプリントアウトした
次のバトル最速理論ももう出来上がっている
ここまできて兄は疲労を感じた
肩凝りも酷いし眼性疲労も溜まってきている
しかし彼にはやらなければいけないことがあった
それのために急ピッチでル−チンを片づけたのだ
涼介は傍らの引き出しから一枚のCD−ROMをセットしてヘッドフォンを付けた
起動画面をクリックするとテ−マソングの「HARUNA STARS」が流れてきた
榛名ツインクルスタ−ズ
誰かが呼んでる,君の名前を
榛名ツインクルスタ−ズ
遙かな峠飛び越え待ち続けたと
心に届いたバトルが君を愛へと導いていく
忘れないで
5連ヘアピン
DONT STOP
愛を紡ぐダウンヒルだから−
すぐにクリックしてゲ−ムを始める事も可能だが涼介はこの歌を最後まで聞き遂げた
そしてほうっとため息を付く
なんて感動的な歌なのだろうか
生まれて23年の中で最高の名曲である
こんなすばらしい歌がCD化されていないのが不思議でならない
たっぷりと余韻に浸ってからもう一度画面を初めに戻して最初から聞き直す
そう,賢明な読者の皆様はもうお分かりだろう
涼介はゲ−ムにはまりまくっていた
「榛名ツインクルスタ−ズ」
このゲ−ムソフトは涼介の親友である史拡が置いていったものだ
「峠のバトルシュミレ−ションゲ−ムだから」
という史拡の言葉に魅かれてちょっと除いてみたCD−ROM,これが涼介の運命を変えた
峠の走り屋をモチ−フにはしているが早い話しこれがそっち専門だったのだ
そっちとはすなわちHゲ−と呼ばれるものだ
走り屋の主人公が愛を求めて峠をさすらう
何故か走り屋ギャルは可愛いギャルばかり
様々な個性的キャラが登場するがなんといっても一番は藤沢拓海ちゃんである
頑固でいじっぱりだが素直で可愛い
ミニスカ−トで5連ヘアピンを攻めてくる姿はもう絶品としかいいようがない
興味本位でゲ−ムを始めた涼介だが2次元の拓海を一目みた瞬間に恋に落ちてしまったのだ
笑いたければ笑うがいい
例え架空の世界だとしても涼介にとっては最初で最後の恋愛なのだ
どんな女とつきあってもここまで胸が高鳴る事は無かった
2次元でデフォルメされた拓海の姿に心は踊る
涼介は震える手で前回セ−ブしたデ−タ−をロ−ドする涼介はすでにこのゲ−ムのセ−ブデ−タ−そのものをダウンロ−ドできるサイトをネットで見つけていた
つまりダウンロ−ドしたデ−タ−を入力するだけで最終目的のHまでいけるというものだ
しかしそれではゲ−ムする意味がないし涼介のポリシ−に反する
あくまで涼介は拓海と恋愛したいのだ
いきなりHでは強姦と変わりない
そこで地道に睡眠時間を削ってこうしてゲ−ムを続けているのだ
「おっは−,涼介君,今日も元気?」
峠で走り屋が朝からいるわけないのだがこれはゲ−ムの世界だからそこらへんの矛盾は無視する
声をかけてきたのはイツキと呼ばれるキュ−ピ−マヨネ−ズのトレ−ドマ−クみたいな女の子
全然涼介の好みでは無いのだが邪険に扱うわけにはいかない
何故ならこのイツキはお助けキャラなのだ
マヨネ−ズのトレ−ドマ−クみたいなこの少女は実は拓海との恋の掛け橋をしてくれるキュ−ピット役
「今日はどことのバトルなの?ねえねえ,くうう」
理解できないリアクションをとるイツキ
「今日は榛名を攻めて攻めて攻め巻くるんだ」
涼介が返答を返す
その時向こうから拓海ちゃん登場
ミニスカ−トにパンダ鞄を抱えている
静止画面をクリックすると拓海が動き出した
「おはようございます,涼介さん」
はにかみながら拓海が涼介に微笑みかける
あまりの可愛らしさに涼介は邪魔な会話のウインドウを消して拓海の姿を堪能した
しばらくしてゲ−ムを再開すると3つの選択肢が画面に登場する
1 拓海をデ−トに誘う
2 拓海とバトルする
3 週末にバトルの約束をして薔薇の花束を送る
この場合正解は3である
涼介はネットでこのゲ−ムの攻略法のペ−ジをもう見つけていた
そのマニュアルに従ってゲ−ムを進める
拓海は恥じらいながら花束を受け取ってくれた
その後,何故かいつきとカラオケにいき拓海の情報を集める
もちろん涼介のおごりで歌を歌いまくるイツキ
だが大切な情報も残してくれた
拓海は大豆屋の一人娘であるとか色々と
ここまで来て猛烈な疲労を感じた
やはりイツキとのカラオケがいけなかったらしい
眼の焦点が合わない
時刻を見ると深夜の4時
ゲ−ムに熱中しすぎて3時間も過ごしてしまった
名残惜しいが今日のゲ−ムはここまでにして仮眠を取ることとする
最後にもう一度テ−マソングを聞いて画面を落とす
頭の中に鳴り響くこの名曲
榛名ツインクルスタ−ズ
涼介はもうこのゲ−ムに50時間もかけていた
高橋クリニックの跡継ぎである優秀な頭脳ならばこんなゲ−ムは10時間でクリアできるのだがあえてそれをしないのは普通の恋愛を楽しみたかったからだ
後10時間もやれば拓海とホテルにいける
涼介の体内は幸せが満ちていた
このゲ−ムには50時間注ぎ込んでいる
それだけの価値はあったと確信できる
蒲団に潜り込んで涼介は眼を閉じた
そしてふと思い出す
「そういえば啓介が言っていたな,今度のバトルは秋名だと,俺もいってみるか」
涼介はすでに気がついていた
この2次元のゲ−ム榛名のモデルが秋名であることに
拓海はいなくとも秋名を見ておけば今後の展開に役立つかもしれない
兄は秋名に思いをはせながら眠りに付いた
「拓海ちゃん,お休み」
ここは秋名の峠,スピ−ドスタ−ズ
新しいタイヤを手に入れてほくほくの池谷である
「やっぱあのゲ−ムあたったよな,そのおかげで臨時ボ−ナスも出て最高,こうやって新しいタイヤも入れられるしなあ」
「うんうん,俺はナビ買ったんだぜ」
横では健二もほくほくだ
この二人,ガソリンスタンドでバイトしているが本職はソフト開発会社のプログラマ−である
ソフト開発といえば聞こえがいいがはっきりいって三流のHゲ−ム専門
大抵が学園ものか会社のサクセスHスト−リ−だが冗談半分で提案した走り屋バトルHゲ−ムが採用されて当たってしまったのだ
洒落のつもりだったので登場人物は全て知り合いからパクった
主人公の藤原拓海は藤沢拓海
武内いつきは竹田いつき
浩一郎は浩子で健二は健子
本気で洒落のつもりだったので性格もイメ−ジイラストも全て実在の人物を参考にした
というよりくりそつ
このリアルさがブ−ムのきっかけかどうか分からないがとにかく一攫千金で池谷と健二は俄成金なのだ
「今週末のバトルもこのタイヤで頂きだぜ,見てろよ赤城レッドサンズ」
いきりたつ池谷
「でもよ−っ相手はあの高橋兄弟だろ,タイヤ変えたくらいで勝てるかな?」
「勝つっ勝たねばならん,そのためにこうして毎晩走り込みをしているんだ」
鼻息の荒い池谷
しかし不幸なことに池谷は事故って鞭打ちになってし まったのだ
代わりにバトルするのは豆腐屋の一人息子
運命のバトルが切っておとされる
拓海が目的地に向かって車を走らせている時,兄は秋名でうっとりしていた
「なんて素敵な峠なんだ,さすが拓海のホ−ムコ−スだけのことはある ああ,ここで俺も拓海と愛を語りたい」まさか本物との出会いがあるとは夢にも思わない涼介である
時刻は9時55分
もうすぐ拓海争奪バトルが始まる
終わり