「日々是告白 」

 9月30日,
高橋啓介はその日,ぐてんぐてんになるまで自棄酒を飲んでいた。
 飲んでも飲んでも今日の失敗は頭から離れない。
「うううっちくしょう,こんな筈じゃなかったのに」
 啓介は思いきり水割りを煽った。
 水割りとはいってももう水をアルコ−ルで割ったようなものになっている。
 喉をかっと焼けつくすウイスキ−
「本気で告白したのに,ひでえや」
 もう泣きたいぜ,
 啓介はベットにごろんと横になった。
 足の踏み場もないくらいに散らかりきった部屋で唯一居場所のベット。
 兄にいつも「あれは人の住む空間ではない」と言われる啓介の部屋はアルコ−ル臭に満ちている。
 今日は兄も家族も出かけていてこの家には啓介一人である。
 だから誰も啓介の自棄酒を止める者はいなかった。
「人の本気を冗談にしやがって」
 悪態をつきながら啓介はウイスキ−を瓶のままらっぱ飲みした。
「ううう,拓海のやつ,俺の本気を無視しやがって」
 彼の自棄酒の原因は藤原拓海。
 啓介のライバルであり片思いの相手である。
 拓海と啓介の出会いは秋名の峠での交流会。
 秋名スピ−ドスタ−ズにバトルを申し込んだ啓介の前に現れたのが拓海であったのだ。
 一目会ったその日から恋の花咲くこともある。
 例えそれが男相手だったとしても咲いてしまったものはしょうがない。
 そうして啓介の恋の花は狂い咲きしてしまったのだ。 だが現実は厳しい。
 今日,啓介は拓海に告白をした。
 秋名の峠で朝,啓介は待ち伏せて告白をしたのだ。
 片思いの相手は毎朝,豆腐の配達で秋名の峠にやってくる。
 啓介は週に何回も,いや毎日といっていいくらいこの秋名にやってきていた。
 それはバトルの助言(拓海は因縁だと思っている)であったり世間話であったりであったがそれは啓介にとっては至福のひととき,デ−トタイム。
 そして今日,お友達から恋人へのステップアップを図るべく啓介は拓海を待ち伏せた。
「おはようございます,啓介さん」
 峠で啓介を見つけた拓海は挨拶をして車から下りてきた。
 少し微笑んで啓介を見上げる拓海は鼻血がでるくらい可愛い。
 啓介はどきどき高鳴る胸の鼓動と股間をなだめながら一世一代の告白をした。
「突然だけど拓海,俺はお前が好きだ,付き合ってくれ」 啓介の言葉に拓海は怪訝な顔をした。
 拓海と啓介は付き合っているではないか。
 拓海も啓介のことが好きだ。
 だがそれはお友達としてであり,啓介の言う恋人という意味など考えてもいなかった。
「愛している,拓海」
 ぼ−っとしている拓海に焦れた啓介が実力行使にでた。
「俺のものになってくれ−っ拓海−」
 襲いかかる啓介。
 拓海は身の危険を感じた。
「なっなんですかっ啓介さん」
 啓介の攻撃を避ける拓海。
「愛しているんだ,俺を受けいれてくれ−」
 啓介の股間はいきり立っている。
 当然だか拓海はノ−マルである。
 だから啓介のこの行動をいきすぎた冗談だと思った。
「いい加減にしろ−っこのくされ外道」
 拓海のサッカ−部できたえたキックが男としては最大の急所に蹴り入れられる。
「あんぎゃあああ−っ」
 とまあこうして啓介の告白は悲惨な幕を閉じた。

 

「あううううっちくしょう,もっと上手く俺の熱い思いを伝えるんだった」
 あの告白は不味すぎた。
 もしやり直すことが出来たらもっとかっこよく決めるのに。
 そうしたら今頃は拓海と二人でエッチな子ととか出来たかもしれないのに。
 啓介は飲んで飲んで酔い潰れた。
「もう一度,チャンスさえあれば拓海を口説いてみせるのに」
 ちくしょうっううう,拓海好きだよ−
 アイラブユ−ッカムバ−ック,マイラ−ブ
 そうして啓介はそのままつぶれてしまったのであった。

 


 9月30日,晴
「ううう−っげろろっ」
 その日,啓介は酷い吐き気と頭痛で目が覚めた。
「最悪」
 目が覚めたらげろげろで,しかも昨日の大失態を思い出して啓介はベットに突っ伏した。
 きっと拓海は俺の子とを嫌いになってしまったんだろう。
 なんてたってピ−蹴りされてしまうくらいなのだ。
 もう口も聞いてくれないだろう。
 くすん,俺って可哀想。
「謝っておかないとまずいよな」
 そして誤解を解こう。
 あれは冗談なんかではなくて本気だったのだと。
「でもあいつ頑固だからな」
 藤原拓海はとてもいじっぱりだ。
 ああいう振られ方をされて,しかも冗談だと,からかわれたと拓海が思っていたとしたら。
 これはとても大変だ。
 きっと一筋縄ではいかないだろう。
 誤解を解くのも一苦労ならそれから後,啓介の本気を信じさせるのも長い道程がかかるであろうことは間違いない。
 そして,それから後,告白を受け入れてもらえるまでには・・・・
 百億光年かかってもその日はこないかもしれない。
 とほほである。
「最初に間違えちまったんだよな」
 あの時にもっと真剣に思いを伝えていれば。
 最初の2段階はすっとばして拓海とくっつく子とだけを考えられたのに。
「ええい,悩んでいても始まらねえ」
 案ずるより産むが安し
 啓介は急いで身仕度を整えると秋名へ向かったのであった。

 

 秋名の豆腐屋に辿り着いた啓介は思い人に奇襲をかけることにした。
 前もって行くというと逃げられる可能性を危惧したのだ。
「あの−,拓海君いますか」
 豆腐屋の店先からおそるおそる親父さんに問いかける。「お−いっ拓海,お客さんだぞ」
 親父さんの言葉の後,とんとんとんと2階から下りてくる足音がした。
「あれ,啓介さん,どうしたんですか」
 拓海がひょいっと階段から顔を覗かせてにこりっと笑う。
 あれ?てっきりすごく嫌な顔をされると思ったのに。「今日は秋名に朝いませんでしたよね,どうしたのかって心配したんですよ」
 拓海の言葉や顔は普通であった。
 俺の告白の前の時と一緒の普通の顔。
 それを見たら啓介は猛烈に腹が立ってきた。
 だってそうだろう。
 嫌な顔されるならともかく,平然とされている。
 あれでも一応啓介は本気だったのだ。
 本気で告白したのだ。
 3日前から緊張しまくって29日は眠れないまま朝飛び起きて遠い秋名まで出向いていって告白したというのに奇麗さっぱり無視されたのだ。
 ちくしょう
「ふざけんなよ」
 啓介は低くうめいた。
 拓海はきょとんとしている。
「俺は本気なんだよ,それをこんな風に無視しやがって」 拓海は何を言われたのか分からない顔をしている。
「まじなんだよ,あれは冗談でもなんでもねえ」
 啓介は叫んだ。
「俺は拓海に惚れてる,まじで愛しているんだ」
 その瞬間,拓海の膝げりが飛んできた。
 この前と同じ男の急所に。
「このくされ外道」
「あんぎゃああ−っ」
 店を叩き出された啓介はよろよろと家に帰り泣きながら眠った。

 

 

 9月30日 晴
 涙で顔ががびがびだ。
 啓介は鼻をすすりながら起き上がった。
「またやっちまったぜ」
 ちきしょう,謝りにいったつもりが逆ギレして返って最悪な状態になってしまった。
 地の底まで落ち込む啓介。
「それにしても」
 昨日の拓海の態度は変であった。
 日頃の拓海の行動からすると怒りまくるか口も聞かないか,なのに
 昨日の拓海はまるで,そうまるで啓介の告白を忘れてしまったかのように自然体だった。
 あの告白は無かったかのように・・・
「あいつが腹芸出来るわけないもんな」
 啓介はぼんやりと考えた。
 とりあえず今日も秋名の豆腐屋にいって謝ってもう一度告白のやり直しをするのだ。
 きっとすごく怒っているだろう。
 だがここで引く訳にはいかない。
「好きだぜ,拓海」
 押せ押せでやるのだ。
 それしかない。
 啓介は身だしなみを整えると秋名へと向かった。

 

「すいません,拓海君いますか?」
 この前も同じ事言っていたよな。
 啓介は豆腐屋で親父さんに挨拶をした。
「お−い,拓海,お客さんだぜ」
 とんとんとん,
 拓海が2階から下りてくる。
「あれ?どうしたんですか,啓介さん」
 拓海は微笑みながら言う。
「今朝は秋名にこなかったら心配したんですよ」
 どこかで聞いたような言葉
 俺は拓海に謝った。
「ごめん,拓海,でもあれは冗談なんかじゃないんだ,俺は本気で拓海の事愛している」
 拓海は豆鉄砲食らったような変な顔をして・・・
 その後みるみるうちに真赤になった。
「ふざけるな,この腐れ外道」
 俺は来るであろうピ−蹴りを避けて更に告白した。
「ふざけんな,この馬鹿やろう」
 怒りまくる拓海に恐れをなして俺は退散することにした。
 本当は抱きしめて愛を告げたかったのだけど親父さんもいるし,拓海は無茶苦茶怒っているし,時間を置こうと思った。
 そして家に帰ったら兄も両親も帰っていなかった。
 みんな忙しいんだな。
 そしてなにげなく朝の新聞を見た。
「あれ?俺間違えていたな」
 その新聞には9月30日と書いてあった。
 俺は気楽な大学生だから,あんまり日にちの感覚がないんだ。
 そしてその晩,俺は自棄酒を飲んで眠った。


 次の日,俺は二日酔いの頭を抱えて新聞をめくった。「さ−て.世界情勢はと」
 そしてそのまま固まってしまった。
 9月30日,その新聞は全国紙で,日付のミスなんかおかすわけがない
 俺は急いでテレビをつけるとやっぱり日付は9月30日であった。


「なにがどうなっちまったんだよ」
 確かに昨日は9月30日であった。
 そして自分の記憶が正しければ一昨日も9月30日の筈だ。
「同じ日が続いている?」
 啓介は目を皿のようにして新聞を読みテレビを見た。 だが,テレビでも新聞でも変わったところは無い。
 普通のニュ−スをやっておりこの異常事態については一言も無し。
「10月に入ると本格的に寒くなってきますから」
 気象情報ではそんな事を言っていた。
「今月の大きなニュ−スは」
 ごくごく普通の番組ばかり。
「ていうことは俺だけ?」
 啓介だけが同じ日を繰り返している?
 昨日の拓海の態度を思いだす。
 きょとんとした拓海の姿は言われた事が分かっていないようであった。
「分かっていなかったんだ」
 啓介は告白を無視されたと思ったけれどもそうでは無いのだ。
 拓海にとってあの告白は初めてのことであったのだ。 だから,突然あんな風に話をふられてからかわれたと思ったのだろう。
「ということは?」
 啓介はこの異常事態にもかかわらずラッキ−っとおたけびを上げた。
 もう一度始めからやり直せるとしたらもっとかっこよくジェントルマンに拓海の心を打ち抜くような告白が出来るはず。
「同じ過ちは冒さねえ,今度こそ拓海のハ−トを掴んでみせるぜ」
 これは神様が俺に与えてくださったチャンスなんだ。 セカンドチャンス,いやもう告白するのは4回目なのだが。
 前回の過ちを考慮して,次は完璧な作戦を練ってみせる,
「やるぜっ俺はやってやるぜ」
 こうして啓介は秋名にいく準備を始めた。

 

「すいません,拓海君いますか」
 啓介が豆腐屋を訪れると前回と同じように親父さんが応対してくれた。
「お−い,拓海,お客さんだぞ」
 とんとんとん
 2階から拓海が下りてくる。
「あれ,どうしたんですか?啓介さん」
 にっこりと微笑む拓海
「今朝は秋名に来なかったから心配したんですよ」
 やはり,同じ台詞,拓海もこの30日を繰り返しているのだ。
 自分では気がついていないけれど。
 記憶があるのは啓介だけらしい。
「ちょっとこの近くに用事があってな」
 そして手土産の薔薇の花束とケ−キを渡す。
 今度はプレゼント作戦なのだ。
 拓海は思いきり怪訝な顔をした。
「どうしたんですか?突然」
「いやぁ,拓海ケ−キ好きだろ,いつも世話になっているからさ,今日は手土産持ってきたんだよ」
「この花は?」
「拓海に似合う花選んだんだよ,部屋にでも飾ってくれ」 啓介は照れながら答えた。
 男が男に薔薇の花が似合うといわれれば引いてしまうものだが,ここは啓介の兄の例もあることだし,拓海は謹んで頂くことにした。
「よかったら上がっていきますか,一緒にケ−キ食べましょう」
 嬉しそうに啓介を誘う拓海。
 どうやら薔薇よりもケ−キのほうがつぼに入ったらしい。
(よっしゃ−,ワンポイントゲット)
 この作戦は当たりだったらしい。
 部屋の中に入れてもらえた。
 啓介と拓海は居間のちゃぶ台に向かい合ってケ−キを食べる。
「うわっすごい美味しいです,啓介さん」
 ケ−キを頬張って喜んでいる拓海,可愛い。
 いい雰囲気だ,よし今がチャンス。
「拓海,突然だが驚かないで聞いてもらいたい」
「はい?」
「俺はお前が好きだ,好きだ,愛している,初めて秋名で会ったときから惚れてた,付き合ってくれ」
 啓介の真剣な告白に驚き真赤になる拓海。
 その時である。
「おっ若いねえ,にいちゃん」
 げげげっ忘れていた。
 この家には拓海一人ではなかったのだ。
 居間に上がり込んできた親父は気まずそうな顔をした。「俺は寄り合いでちょっくら出かけなきゃいけねえんだが」
 すると拓海が必死な顔で親父を引き留める。
「そんな,親父,まだ時間大丈夫だろう」
 今啓介さんと二人きりにされたら困る。
 驚いてパニクっている拓海は親に男から告白されたところを見られて憤死もの
(しまった,またやっちまったぜ)
 途中まではいい雰囲気だったのに。
「啓介さんも冗談でそんなこと言わないでくださいよ,俺の事からかって遊んでいるんでしょう」
 拓海がこう勘違いするのももっともだ。
 普通父親の前で告白なんかしねえ。
 俺がその時やばいって顔しちまったのが不味かったのか拓海は猛烈に怒り出した。
「出てけ−っふざけるなぁ」
 すたこらさっさと逃げ出した俺。
 ちきしょう,明日こそは上手くやってみせる。

 

 

 9月30日, 晴
 俺は藤原豆腐店の前に立っていた。
 今日の土産はケ−キと寿司
 薔薇はアウトだったが寿司ならオ−ケ−だろう。
「すごい,お寿司なんて回転寿司しか食べたことないんです」
 拓海は照れながらとても嬉しそうである。
「啓介さん,ありがとうございます」
 しめしめ,作戦成功。
 そして,もうすぐ親父さんは寄り合いに出かけるはず。「お−い,拓海,俺は寄り合いに出かけるからな,ちゃんとにいちゃんの相手するんだぞ」
 いいことを言ってくれるぜ,親父さん
 啓介は逸る心を抑えてにっこり笑った。
「いってらっしゃい親父さん」
 


「なっなあ拓海」
 どきどき,啓介のシャイな心と股間ははち切れそうだ。「お寿司好きか?」
 拓海は幸せそうに笑う。
「はい,大好きです」
 こんなに美味しいものを食べれて幸せ
 拓海の表情はそう物語っていた。
「じゃっじゃあケ−キは好きか?」
「ケ−キも大好きなんです,今日は盆と正月が一度に来たみたいです」
 夢見心地で拓海はうっとりとしている。
「じゃっじゃあさ」
 啓介は鼻の穴を膨らました。
「俺の事は?」
「もちろん好きです」
 拓海は完璧に餌づけをされていた。
「俺も,俺も大好きだ,実は俺は拓海に惚れてる,初め会ったときから愛してしまったんだ」
 拓海は戸惑った顔をした。
「・・・啓介さん,ホモだったんですか」
「そうじゃねえ,そうじゃねえよ,俺はお前が好きなんだ」
 付き合ってくれ,啓介は言った。
「俺,俺そういうのわかんなくて,すいません」
 拓海は困惑しきった顔ですまなそうに言って,俺は名にも言えなかった。

 

 

 9月30日 晴
「ずっとこのままなのかな」
 啓介はリビングでぼんやりしていた。
 もう何日兄貴や家族に会っていないんだろう。
 拓海にも振られちまうし俺はこの時間の狭間に置いてかれたまま。
 はあっとため息をついた。
 昨日の事を俺はずっと考えていた。
「わかんないっていったんだよな」
 ちくしょう,分からないのかよ。
 子供じゃあるまいし・・・
 今時,小学生でもそんな断わり方しねえって。
 そこまで考えて俺はふと思った。
「わかんねえのか?」
 そうだ,拓海は子供だ。
 あんなすげえドラテク持ってて秋名のハチロクとか呼ばれてるけどあいつはすげえ初な男子高校生だ。
 普通の高校生よりも全然すれてなくてうぶで可愛い子供なんだ。
「わかってねえだけじゃんか」
 じゃあ分からせればいいんじゃん
 俺はダッシュで秋名に向かった。

 寿司とケ−キを持っていって喜ばれて親父さんは寄り合いに出かけていって,そこまでは前回と一緒。
 俺は拓海に問いかけた。
「なあ,拓海,俺の事どう思う?」
「好きですよ」
 拓海はにっこりと笑った。
「あのさあ,俺お前の事すげえ好きなんだ,惚れちまった,いっとくけどホモじゃねえからな」
 拓海は戸惑っている。
「わかんないです」
 これは結構へこむ,けどここで引いてはいけない。
「分かんねえっていうけどさ,さっきお前言ったよな。俺の事好きだって言ったよな」
「・・・それは」
「そういう意味じゃねえって言いたいんだろ,でもお前わかんねえっていうことはそうういう可能性もあるっていうんじゃねえのか」
 頑固な拓海を分からせるには実力行使しかない。
 俺は拓海に襲いかかった。
 べろべろちゅっちゅっ
 今までの豊富な経験をいかしての濃厚キッス
 最初は俺を引き剥がそうとした拓海の体のから力が抜けていく。
「あっあん」
 所要時間5分,俺のテクニックで拓海は腰砕けだ。
「なあ,今の気持ち悪かったか?」
 俺の問いかけに拓海はふるふると首をふった。
「普通男にキッスなんてされたら気持ち悪いよな,けど拓海俺としても気持ち悪くねえだろ,それって俺の事が好きだってことだぜ」
 俺はきっぱりはっきり断言した。
 拓海は今,俺のテクでめろめろになっている。
 ここで言いくるめてしまえばこっちのもの。
「なっなっ俺の事が好きなんだよ,拓海は俺の事愛しちまっているんだ,だってそうだろ,でないと拓海は男にキッスされて感じちゃったホモってことだもんな」
「???」
「拓海は気がついてないだけなんだぜ,でも大丈夫,俺がついているからな,なんてったって俺達はダブルエ−スのダブルエ−スカップルなんだからな」
 俺は拓海をぎゅ−っと抱きしめた。
 拓海は半信半疑なようだったが俺の言うことに一理あると思ったのかこくんっと小さく頷いた。
「最初はお友達から」
 なんて可愛いことを言う拓海だ。
「オ−ケ−オ−ケ−お友達からな」
 ようやく俺の告白はこうして実ったのであった。

 


 10月1日 晴
「やったああぁ,10月1日」
 朝,起きて俺は飛び上がった。
 なんと俺は輪廻の輪から逃れることが出来たんだ。
 そして俺はこれから明るい未来を拓海と築くんだぜ。 その時である。
 リビングから母親の怒鳴り声が聞こえた。
「啓介,いつまでも寝てるんじゃないのよ,ご飯よ」
 ああ,いつものこの怒鳴り声すら懐かしい。
 俺は今日,おふくろに何か化粧品でもプレゼントしようと思った。
 リビングに下りると懐かしのお兄様と親父もいる。
 みんななごやかに朝食を囲んでいた。
「なにやっているんだ,啓介,今日追試だろう」
 兄がコ−ヒ−を飲みながら無情な一言を告げる。
 やべえ,思いだしちまった。
 しかもあれだけ時間があったにも関わらずなんにも手を付けていねえ。
「まったく啓介,今度再追試だったらFDは取り上げだからな」
 親父の極悪な言葉が心に痛い。
「なんなの,啓介,また追試なの,しょうがないわねぇ,今度再追試したらお小遣いストップだからね」
 ひどい,お母様
 俺を責める家族の視線が辛い。
「俺は今日拓海とデ−トしようと思ってたのに」
 とほほ,今日なんて大嫌いだ−っ
 俺はすがすがしい10月1日の朝日に向かって叫んだ。
「神様の馬鹿やろ−っ」

 


 11月3日 晴
 俺はその日,朝からうきうきしていた。
 なんと今日は拓海がうちにやってくるのだ。
 もちろん家族は留守,今晩は誰も帰ってこない。
 つまりはむふふなのだ。
 拓海もようやく俺の事を好きだと自覚してきてちょっとラブラブ,
 今日こそは決めてみせる。
「さっ拓海,入れよ」
 俺はやってきた拓海を部屋に招き入れた。
「それじゃ,お邪魔します」
 そう言って部屋に入ろうとした拓海はそのまま固まってしまった。
「・・・汚い」
 失礼な,これでもちょっとは片づけたのに。
「・・・許せない,人間としてこの汚さは」
 拓海は顔を背けている。
「すいません,啓介さんとは価値観,というか物の見方が違うみたいなので」
 失礼な,そこまで言うか
「俺,失礼します」
 そう言うなり拓海は俺の部屋から飛び出した。
 どうやら耐えられなかったらしい。
「ひでえ,俺のこの気持ちと股間はどうしてくれるんだよ−っ」
 拓海−,カムバ−ック
 夕日に吠える啓介,その晩啓介は泣きながら自棄酒を飲んだ。
「すげえ期待してたんだよ,今日は初めての夜だからって昨日は眠れなかったのに」
 悪態をつきながら啓介は深く酔い潰れてしまった。

 

 11月3日 晴
「・・・・またか」
 俺は朝起きるなりため息をついた。
 わかっている,このパタ−ンは
 前回は拓鵜見からのオ−ケ−が貰えるまでエンドレスだったが今回は・・・
「エッチ出来るまで11月3日が続くわけか」
 はああ,俺は大きくため息をついた。
 エッチをするまでには道程が長い。
 何が長いかって決まっている。
 まず,それには拓海に部屋に入ってもらわなければいけない。
「でもどうすんだよ,これ」
 それにはまず部屋を片づけなければ・・・でもこれ,どうやって片づけたらいいんだろうか。
「ひええええ−っ神様お助け−」
 むなしい啓介の叫びがこの世のものとも思えないくらいに散らかった部屋に響いたのであった。