プロジェクトDに藤原拓海が勧誘されたのは彼が18歳の冬のことであった
一年を限定とした走り屋のチ−ム
高橋涼介の公道最速理論を追求するために選ばれた最高のスタッフ
拓海はそのダブルエ−スの一人に選ばれたのだ
ものすごいチャンスである
拓海はこのチ−ムに参加することで前とは比較にならないぐらいに速くなるだろう
本当に自分で勤まるのか
拓海の中にそういう不安がなかった訳ではない
しばらく悩みに悩んで
そして雪解けが始まる頃にようやくオ−ケ−の返事を出したのであった
しかしもう一つの答えは出なかった
拓海はプロジェクトDに勧誘された時,涼介と啓介に付き合ってほしいと言われた
男同士なのに彼らは堂々と拓海に告白をする
正直言ってパニックになってしまった
拓海はそういう目で二人を見たことがなかったから
そういう目で見られていることに気がついていなかったから・・・
そんな無知で無垢な拓海に対し,涼介と啓介は言ったのだ
これから一年間,プロジェクトDで一緒に行動する
それでお互いの人柄なども分かるだろう
拓海が選ぶのはそれからでいい
そう言って微笑む涼介と啓介のの顔は自信に溢れていた
つまりこの二人は拓海に執行猶予を与えてくれたのだ。
拓海が自覚するまでの間は手を出さない
その期限はプロジェクトDの一年間
拓海はその間に兄弟のことを知っていけばいい
そして一年の内に涼介か啓介,どちらかを選んでもらいたいという事だ
両方を選ばないでもいいのか?と言ったら涼介にそんな甲斐性無しではないといって笑われた
啓介さんもにやにや笑っていた
この一年が楽しみだといいながらまるでいたずらっこみたいに
こうして俺はプロジェクトDに参加しながら男選びもするはめになってしまったのだった
俺も男なのに,なんでこんな目にあうのだろうか
高橋兄弟と言えば有名な走り屋だ
それこそ掃いて捨てるほど女が群がってくるのをよく見かける
拓海が聞いた噂では兄弟は女遊びも激しいらしい
なのになぜ何を血迷ったのか男の,しかも男子高校生に走ってしまったのだろうか
拓海にはわからない
一年が執行猶予
このプロジェクトDで何もかもが決まる
涼介の夢
啓介の未来
拓海の才能
そして三人の関係
兄弟はどう思っているのだろうか
拓海は考える
まるでこれはゲ−ムのようだと
一年間だけの大人の遊び
それくらいに現実感がない
涼介は拓海に金を払わせなかったから,それも非現実感に拍車をかけているのかもしれない
拓海は狐にでも騙されているような奇妙な気分だった
プロジェクトDミ−ティング初日
初めて上がった高橋家のリビングで拓海は硬直してしまった
拓海が来るまで談笑していたメンバ−が一斉に注目してきたのだから
理由は簡単
拓海はあのカリスマを破った秋名のハチロクであり,啓介のライバル(勝手に啓介が思っているだけ?)でもあり,
そしてなによりこのプロジェクトへの参加を最後まで渋って涼介をやきもきさせたつわものだからだ。
それに可憐で果敢なげな走り屋少年は今,関東走り屋の隠れアイドルなのだ
プロジェクトDのメンバ−は皆,密かに拓海ファンだったのだ
憧れの拓海ちゃんとこれから一年間,びっちりみっちりいっしょなのだ
メンバ−に力が入るのも無理はない
それゆえに今の拓海は見世物のパンダ
居心地悪そうにしている拓海の前に涼介がすっと立ち上がった
「プロジェクトDへようこそ,歓迎するよ」
すかさず啓介が拓海に声をかける
「ここ座れよ,藤原」
拓海は言われたまま素直に涼介と啓介の間にちょこんと座る拓海
ごくっ誰かが唾を飲む音が響く
確かに藤原拓海はつわものだ
あの高橋兄弟の間で平然と座っている
し−んっと沈黙が落ちた
これから先の拓海の指定席が決まった瞬間である
ミ−ティングの初回は主に人物の紹介
ハチロクとFDの性能についての説明や次回の峠の打ち合わせなどで終わった
兄弟は始終,拓海に親切に説明してくれた
家に帰った拓海はほうっとため息をつくとベットにころがりこんだ
肩を捻るとパキパキと音がする
「やっぱ緊張したな」
拓海は自分を緊張させた二人について考えてしまう
二人に告白されて相当戸惑っていた拓海だが,ミ−ティングの最中二人は変な態度をとったりしなかった
ごく普通に,他のメンバ−と同じように接してくれる
「節度と常識を持った人なのだ」
拓海は好感を持った
あまり走り屋に対して良い印象のない(というか非常識な印象が強い)拓海にとって高橋兄弟のこの態度は安心させられた
これから先の事に不安があったのだがそれも涼介のチ−ムオ−ナ−としての大人な態度や啓介がライバルとして対等に扱ってくれるところなどを見ると薄れていく。
「案ずるより産むが易しってこの事だよな」
緊張のあまり昨晩眠れなかった拓海はそのまま幸せな眠りに落ちていった
自室のパソコンに向かい合いながらも涼介は今後のシュミレ−ションを練っていた
「最初の遠征先は,そうだなセブンスタ−リ−フか」
あそこの峠ならば遠いから泊まり掛けになってしまうだろう
「泊まりか,ふふふ」
情緒溢れる旅館にするかム−ドあるホテルにするか。
今涼介を悩ませているのはそこである
「浴衣もいいがホテルのラウンジも捨て難い」
カクテルを飲んで頬を染める拓海と浴衣を乱れさせる拓海,究極の選択だ
「俺には出来ない,選ぶことなどと」
しかし選ばなければいけない
「ふうっ少し休むか」
根を詰めすぎて思考が空回りしているようだ
涼介はパソコン画面から視線をそらすと机の上の写真を手にとった
「今日のミ−ティングも可愛かったな,拓海」
拓海の隠し取り写真を手にうっとりとする涼介
そして横の壁に張ってあるポスタ−に向かって語りかけた
「プロジェクトDに参加してくれて嬉しいよ,俺の拓海」
それは峠の出店で買った隠し取りポスタ−であった
「まだ恋を知らない無垢で純情な拓海,俺が恋を教えてあげるよ,プロジェクトDで」
涼介は手元に置いてあるアルバムを開いてコレクションに語りかける
「この一年間が勝負か,しかし俺は手に入れる」
何故ならチ−ムオ−ナ−は無敵だからだ
啓介や他のメンバ−よりもずっと有利な立場にいる
手元のリモコンを操作すると峠で録音したハチロクのエンジン音が響わたった
いつも勉強や仕事で忙しい涼介の憩いの一時である
足の踏み場もないくらいの拓海グッズに囲まれて啓介はうっとりとしていた
「今まではこんなにせもんで我慢していたけれどこれからは違う,なんてったってモノホンだからな」
想像するだけでつううっと鼻血が垂れてしまう
ついでに股間も膨らんでいく
「はあっはあっ我慢できねえ」
啓介は何度見たかわからない隠し取りビデオを再生した。それはケンタに車に取り付けて撮影したあれである
「これ見ると興奮するよな,はあはあ」
ハチロクを運転する拓海の可憐な姿が目に浮かぶ
なまじ夜で画像が悪いだけに想像力を駆り立てられる
もう啓介はこのビデオでないとイけない身体になってしまった
「なんたってダブルエ−スだもんな,うひひ,俺がたっぷり走り屋の世界を教えてやるぜ」
ついでに愛の世界も教えてやろう
「拓海,俺といっしょに世界を目指そうぜ」
愛と官能の世界を
勝負はこの一年間
しかし啓介は最初の時点で大きくリ−ドしている
「ダブルエ−スは無敵だ,兄貴には負けないぜ」
啓介の高笑いが自室に響いた
愛と情熱のプロジェクトDの
行方はいかに?
次回に続きません,ごめん