ここは有る一部の走り屋に有名な秋名峠
そこに現れたのは傍若無人なならず者
栃木の有名走り屋チ−ム エンペラ−である
にやにやと笑う二人組は秋名のとある高校生二人に声をかけてきた
「悪いけどちょっと道を訪ねたいんだ,俺達ここへ来るの初めてなもんで」
因縁をふっかけられると思ってびびっていたいつきはほっとして道を説明する。
彼等の乗っている車にいつきは見覚えがあった
「あの.ひょっとして昨日妙義を走っていた人じゃないですか?ランエボで」
長髪でごつい清二は誉められるのが大好き,注目されるのも大好きな結構単純な奴だ
やっぱ俺って目立つじゃん,峠の王者ランエボだもんな
「そうだけど,なんだ,あの雨の中のギャラリ−の一人かあ,見てたのね」
いつきがびびりながらも確信にせまった
「ということはまさかひょっとして秋名にきた目的は秋名のハチロクに挑戦するためじゃあ」
清二は呆気に取られてしまう
「俺達が?まさか,冗談は顔だけにしておいてくれよ,レビンの少年」
ぽんぽんっと肩を叩きながらいつきを馬鹿にした調子で清二は断言した
「挑戦はねえだろ,もしあのハチロクに会ったら一言説教してやりてえけどな,
もっといい車に乗り換えろってさ,確かにいい腕を持っているのはわかったよ,
昨日後ろから見ていたからな,今のままじゃ宝の持ち腐れだぜ,この時代にFRなんか乗ってても先がないぜ
バトルするにしてもタ−ボマシンじゃなきゃ相手にしねえぜ,だってそうだろ,
ハチロクに勝っても嬉しくねえだろ,それどころか仲間に笑われて恥かくぜ,
ハチロクなんかとやったのか,お前って」
そこまで言い切るとにやっと笑って決め台詞
「ハチロクなんかに乗っている奴はアウト オブ眼中
頼まれたってバトルなんかしねえよ」
その時レビンの少年のお友達が缶コ−ヒ−をかかえて帰ってきた
少年は清二の断言を聞いてくすりっと笑う
「何が可笑しい?」
目敏くその苦笑を見つけた京一が少年に問いかけた
「いえ,別に」
「今笑っただろう,何に対してだ」
エンペラ−の皆様は自信を過剰な程お持ちの方々なのでこういうことには敏感に反応する
切りつけるような京一の視線(一重だから余計に迫力)に少年は小さな声で答えた
「唯,その車じゃ走りにくいだろうな,って思っただけです」
「走りにくいだとお,てめえ俺のランエボに向かってなんていうこと言うんだ」
清二が顔を真っ赤にしてがなりたてる
少年は困ったように言った
「だってバランス悪そうだし,水バシャバシャこぼれそうだし,その車じゃ秋名のル−ルには通用しませんよ」
拓海の言葉にいつきも勢いを得てはしゃぎまくる
「そうだよ,こう見えてもこいつは秋名のハチロクなんだからな,
秋名の峠の無敵ダウンヒルキラ−なんだぜ,FCにもFDにもR32にも勝っちまうんだ」
京一が驚愕に目を見開いた
「まさか,お前が高橋涼介をやぶったハチロクのドライバ−なのか?」
まだ初々しさを残した可憐な少年が白い彗星の無敗記録を止めたというのか
信じられない
少年は照れくさそうに微笑んだ
「あれは,その,運が良かっただけで,俺,涼介さんより速いだなんてうぬぼれてませんから」
メラメラメラメラ
京一に猛烈な闘争心が沸いてきた
「予定変更だ,清二,まずこの秋名でハチロクとバトルするぞ」
京一の言葉に清二がごくっと生唾を飲み込んだ
(京一が本気になった,こりゃあすげえバトルが見られるぜ)
峠に緊張感が走る
「え−,すいませんけど,俺もう秋名ではバトルしないって決めたんです」
可愛い顔でごめんなさいを言う拓海
シ−ン
峠に天使が走った
「なぜだ,俺達の挑戦に逃げるというのか」
「はい,だって俺のはバトルする理由がありませんから」
アッケラカンと言い切る拓海
「てめえ,ふざけやがって」
清二が拓海に掴みかかろうとするのを京一は押さえるのが大変だった
「秋名ではバトルしないと言ったな,では赤城ではどうだ,
あそこならギャラリ−も多いしなんといってもレッドサンズのホ−ムグラウンドだからいい宣伝になる」
京一の言葉に拓海は困った顔をした
「俺,やっぱ目立つの嫌いだし」
そう言って断ろうとした拓海の言葉をいつきが遮った
「なあ,拓海,いいじゃん,バトルしてやれば,俺も赤城に行きたいし」
「え−っめんどくさいよ,それに誰が赤城までのガソリン代持つんだよ」
「でもよっこの人達も言っていたけれど赤城はギャラリ−が多いんだぜ,藤原豆腐店の宣伝をする絶好の機会じゃんか」
ひそひそと声を潜めて密談する二人
「何を話している?挑戦を受けるのか受けないのか,受けるなら俺達はどんな条件でも飲むつもりだ,
そちらのル−ルに乗っ取ってバトルしてやる」
この京一の言葉が拓海を決心させたのであった
「俺,バトルを受けます」
赤城の峠に戦慄が走った
今,群馬を荒らしまくっているエンペラ−がとうとう赤城に乗り込んできたのだ
レッドサンズチ−ムリ−ダ−の高橋涼介に向かって京一は宣言した
「今日はレッドサンズとやるために来たのではない,
パフォ−マンスだ,お前の連勝記録を止めたという例のハチロクとこの赤城でバトルさせてもらう」
どよどよっ
周囲に驚きの輪が広がる
「秋名のハチロクが?赤城にくるのか」
「こんなの初めてじゃないか,秋名のハチロクが遠征なんて聞いたことねえぜ」
「あのドリフトが赤城で通用するのか?」
そんな周囲の反応を確認しながら京一は言葉を続ける
「異論は無いな,涼介,ここは公道だ,誰がバトルしてもそれは個人の自由だろう」
じっと目をつぶって聞いていた涼介はふっと苦笑をもらした
「秋無のハチロクが了承したならこちらは何も言うことが無い,こちらはギャラリ−に徹するから思う存分バトルしてくれ」
呆気ない程簡単に涼介はオ−ケ−するとすぐに指令を出して走り込みをしているメンバ−を撤収させる
もちろん秋無のハチロクのバトルを邪魔させないためだ
「兄貴,どういう事だ,拓海は俺達がいっくら誘っても赤城には見学にすら来てくれなかったのに」
弟が憮然と質問してきた
「いつもはガソリン代をしぶって来てくれない拓海がわざわざバトルする気になるとは,余程美味しい条件を京一は出したのだろう」
ガソリン代など兄弟に頼めばハイオク満タンにしてくれるのに謙虚な拓海はいつもそれを悪いからと言って断ってしまうのだ
一度は拓海を赤城に招待したいと野望を抱いていた兄弟にしてみればこのバトル,願ったり叶ったりである
「だけどランエボだろ,今度ばかりは拓海にも不利なんじゃねえか」
弟の心配そうな顔
周囲のメンバ−も不安に顔を曇らせている
レッドサンズのメンバ−も含めて群馬の走り屋は拓海に夢中なのだ,
アイドル拓海がエンンペラ−なんていう栃木の走り屋にやられるのは耐え難い屈辱である
そんな周囲の動揺に涼介はにやりと笑った
「まあ見ているんだ,答えは拓海が証明してくれる」
一台の車が峠を上っていく
あまりにも有名すぎるパンダトレノ
しかしどういう事かいつもの運転の冴えが見られない
80キロ以上だして華麗にドリフトを決めているがのろいのだ
走り慣れていない,初めての赤城峠だからか?
やはりハチロクでヒルクライムは無謀なのか?
ギャラリ−は不安に包まれながらハチロクを見守った
「はあ,やっと到着」
パタンッと扉を開けて拓海が車から下りてきた
ナビシ−トにいたいつきもきょろきょろと辺りを見渡しながら飛び降りた
「ここが有名な赤城の峠かあ,感激,くうう」
そんな二人に兄弟が近づいてくる
「拓海,待っていたよ,ようこそ赤城の峠へ」
「ウエルカム拓海−っちきしょ−っ俺達がいっくら誘っても来なかったくせにどういう心境の変化だよ」
熱烈歓迎,回りではレッドサンウのメンバ−が拍手で出迎えてくれる
拓海は照れて恥ずかしそうにしながらにっこりと微笑んだ
「こんばんわ 高橋涼介さんと啓介さんとレッドサンズの皆さん.今日はお豆腐に宣伝に来ました」
「藤原豆腐店の?それは楽しみだ」
涼介は目を細めて愛しそうに拓海を見つめる
「んじゃあ拓海,今日は豆腐もってきてんのか?俺藤原豆腐店のきぬごしの大ファンなんだよな」
わくわくと胸踊らせる啓介
レッドサンズのメンバ−も興味深々だ,
噂のハチロク豆腐はそれはそれは絶品だと名高い
夕方には売り切れてしまうので手に入らない幻の一品なのだ
そのなごやかなム−ドを打ち壊すかのように清二が間に割り込んできた
「てめえ,何が豆腐の宣伝だ,ふざけやがって,今日は俺達とバトルするために来たんだろうが」
「はい,よろしくお願いします」
拓海はいそいそとボンネットを開けた
「げええ−っなんだ,これは」
「しんじらんねえ,これ積んで峠を上ってきたのかよ」
「しかもドリフトしてたぜ」
ギャラリ−,レッドサンズのメンバ−が驚くのも無理は無い。
ボンネットの中には発砲スチロ−ルに満タンの絹ごし豆腐がぎっしりと詰まっていたのである
しかも豆腐の形と鮮度を守るために水が張られている
総重量でいえば100キロ近くあるのではないか
「これを積んであのスピ−ドでヒルクライムしてきたのか」
「おそるべし秋名のハチロク,初めての峠だというのに豆腐の角一つ崩れていない」
改めて拓海のドラテクに感嘆のため息を漏らすギャラリ−であった
京一もその豆腐を見て,どれほどにハチロクが手強い相手かわかったようである
「清二,今日は俺が走る,秋名のハチロクを仕留めるのは俺だ,シュミレ−ション3でいく」
エンペラ−の間に緊張が走った
時代遅れのハチロク相手に3でいくとは,それほどまでに手強い相手なのだ
緊張に顔を強ばらせる清二の前で拓海は荷物を下ろし始めた
「それじゃあうちのル−ルを説明しますね」
「あ,ああ」
秋名のハチロクのル−ルでやると言ったのは京一達の方である,今更逃げられない
「このお豆腐を崩さないように,水を零さないように麓まで運んだ方の勝ちです」
「なな,なんじゃそりゃあ」
ああ,秋名名物お豆腐バトル
「拓海,俺は先に麓にいって湯豆腐の準備しているから」
いつきがようようとコンロ片手に準備しにいった
そうなのだ,拓海は赤城の峠のギャラリ−の皆さんに藤原豆腐店の豆腐の美味しさを知っていただくためにわざわざ遠征してきたのだ
「他の豆腐チェ−ン店はホ−ムペ−ジとかで派手に通販しているんだけど
,うちパソコンないから地道に足で営業するしかないんです」
はにかんだ笑顔で豆腐の宣伝をする拓海
「バトルで運んだ豆腐は麓で湯豆腐にしますので,一杯250円,葱とショウガ付です,食べてね」
「うおおお−っ拓海ちゃんの湯豆腐−っおれ十杯でも食べれるぜ,俺だって,持ち帰りもオ−ケ−かな?」
色めき立つギャラリ−,
「さすが藤原豆腐店,湯豆腐一杯で250円とは,それを高いと思わせないところが拓海のおそろしいところだ」
兄の言葉に弟は真剣な顔をして頷いた
早く麓で列に並ばないと食べ損ねる可能性がある
「いくぞっ啓介」
「おうっ兄貴,ネギとショウガは渡さねえ」
赤城にロ−タリ−サウンドが鳴り響く
呆然とするのはエンペラ−
この群馬走り屋ののりについていけない栃木者である
「・・・おい,ちょっと聞きたいんだが」
京一がおそるおそる質問した
「もしバトルで豆腐を壊したときには?」
にっこりと天使の微笑みで拓海が答える
「もちろん弁償して頂きます,豆腐を湯豆腐にした時の代金とここまで運んだハチロクのガソリン代,
でもエンペラ−の皆さんは大丈夫ですよね,ハチロクなんてアウト オブ眼中なんですから」
にっこりと天使の微笑みで悪魔のような計算をする拓海にエンペラ−は敵に回してはいけない相手を敵にしてしまった事を悟った
「さあ,バトル始めましょうか,早くしないと豆腐腐っちゃいますよ」
周囲の同情の視線が京一とランエボに集まる
血の気のひく京一,ランエボのボンネットが豆腐まみれになることを想像すると涙がでてくる
「カウント始めるぞ− 10,9,8,」
地獄への秒読みがスタ−トされた
京一がコ−ナ−をいくつクリアできたかは想像にお任せする
ああ,よくわからん,ごめん