[桃色熊猫]

 古来中国より伝わる伝説の珍獣といえば角を持つ麒麟や夢を食べる貘が有名であろう
しかし,あまりメジャ−ではないが珍獣中の珍獣,中国4000年の伝統を誇る幻の珍獣がこの群馬に生息していた
 これはそんな珍獣の愛と青春の物語である


 藤原拓海18歳
日常は豆腐屋の一人息子であり名もない一高校生である彼だが実はその身体に大きな秘密を抱えていた
 朝,配達に出ようとした拓海少年に父親である文太が声をかける
「拓海,また尻尾が出ているぞ」
はっとしておしりを隠す拓海
「寝惚けてるからって尻尾だすんじゃねえぞ」
ほいっと紙コップの水を渡しながら父親の厳しい注意が飛んだ
「朝だからって油断するんじゃねえ.いつどこで見られて見世物小屋に売られるかわかったもんじゃねえからな」
「にゃああ−っ見世物小屋はいや」
その恐ろしい小屋を想像するだけで尻尾がぷるぷるしてしまう拓海
「普通にしてりゃわかりゃしねえよ,ほら,行ってこい」 自分で脅しておきながら文太は拓海を配達へと送り出した
 さて,拓海少年の秘密とは何か
懸命な読者の皆様はもうお気づきであろう


 藤原拓海はハ−フなのだ
日本人と桃色熊猫の
桃色熊猫,聞き慣れない名前だが本場中国では有名な珍獣の一種である
中国が誇る珍獣中の珍獣,桃色の肌をもつ熊猫は霊験あらたかな獣でありその昔は仙人のペットであったという伝説も残っている
 今から18年前の出来事であった,  文太が中国親善大使として福健省に出向いた時に一匹の美しいパンダと出会って恋に落ちたのである   
拓海はそんな二人の愛の結晶である
桃色熊猫を母にもつ拓海は美しいピンクの肌と亜麻色の髪を持つ獣人,獣と人間のハ−フ
 これが拓海の秘密であった


「誰にも言えない,こんな事は」
ハチロクを運転して豆腐を配達しながら悲嘆にくれるのは拓海の日課である
「なんで俺はこんな運命に生まれついてしまったんだろうか」
苦悩しながらも見事な荷重移動で峠を攻めていく
「こんな身体じゃ彼女の一人も出来ないよ,俺ももう高校生なんだから彼女の一人くらいいたっていいのに」
だけれども拓海は桃色熊猫ハ−フなので恋人を作る訳にはいかなかった
 日常生活には支障がない
だが拓海には彼女を作れない理由があった

 気が抜けると尻尾が出てしまうのだ
更に興奮すると耳も出てしまう
もっと興奮したらきっと大変な事になってしまうだろう
 いつもは変身して誤魔化している拓海でもエッチになったらきっと興奮して熊猫になってしまうのは間違いないそうしたらきっと見世物小屋コ−ス決定で・・・
ここが悩める青少年なのだ
彼女は欲しい
だが正体がばれては困る
「にゃああん,困ったなぁ」 


 しかし拓海にはそれ以外にももう一つ悩みがあった
ひょんなところから知り合った男二人が拓海のことをハンタ−のように追ってきているのだ
出会いは秋名峠,先輩に誘われて峠にやってきた拓海の前に現れたのが高橋兄弟だったのだ
 何故か高橋兄弟はその日から拓海の周辺に出没するようになった
「わからない,あの兄弟の考えていることが」
突然バトルを仕掛けてきたり峠で待ち伏せされたり
その度に拓海はびっくりして興奮してしまうのだ
「まさかあれは密猟者?」
優しい顔をしているがひょっとしたら拓海をサ−カスに売り飛ばそうとしているのではないだろうか
いつも何か食べものをくれるのはひょっとして餌づけをされている?
それを考えると夜も眠れない拓海なのである
 高橋兄弟が拓海にまとわりつく本当の目的とは何か

「えへへ,今日も時間通りだぜ」
弟の声が興奮して弾んでいる
「ああ,あの官能的なエンジン音は藤原拓海に間違いない」
 兄もうっすらと頬を染めながら手元にある真紅の薔薇の花束を握り締めた
弟も手元の黄色い薔薇の花束を握り締める
「ふふふ,早くこい,秋名のハチロク」
兄弟は怪しい笑いを浮かべながら拓海を待っている
そう,これが兄弟の日課なのだ
辛い早起きもなんのその
愛しい拓海のためならば,そして兄弟はお互いを出し抜くためにこうして競うようにして秋名峠に日参しているのである
自然とプレゼント攻撃も激しくなる
「昨日の拓海は可愛かったな,驚いて尻尾まるだしだったぜ」
弟のプレゼントしたスイカに感動した拓海は尻尾を逆立てて喜んでいた
それを思い出すだけで幸せになれる啓介
「やはり拓海には桃がよく似合う,その水蜜桃のごとき肌を早く味わってみたい」
兄はぶつぶついいながらも満足そうだ
昨日,涼介から送られた山梨産の水蜜桃に興奮した拓海は耳を逆立てていた
そんな初々しい拓海の姿は兄弟の保護欲をそそる
「早く来い,桃色熊猫」
そして自分の胸に飛び込んでおいで
そうお互いに思いながら兄と弟は火花を散らす
「こいつにだけは負けられない」
こんな純情一途な兄弟の思いがパンダに届くのはいつのことであろうか

次回に続く
といいながら桃ちゃんシリ−ズ
延々と続いています  ごめん