涼介はマンションの入り口で動悸を押さえた
中からは肉じゃがのいい香りが漂っている
そしてそれを作って涼介の帰りを待っているのは愛しい恋人藤原拓海
実は,今日いつもより涼介は興奮している
それはビックイベントが待っているから
涼介は高鳴る鼓動を静めつつドアを開けた
「ただいま,拓海,今帰ったよ」
「お帰りなさい,涼介さん,ご飯にしますか?それともお風呂が先?」
恋人は夕飯を作るのに忙しそうだがにこっと輝くばかりの微笑みを涼介に向けてくれた
あまりの眩しさに涼介は鼻血を噴き出しそうになる
どんなに実験が忙しかったとしても拓海の笑顔ひとつで疲れが取れる
どんなに疲れはてていたとしても拓海について妄想するだけで新しい力が溢れ,肉体が活性化されるのだ
だが,今回,涼介の妄想は空振りに終わっていた
「何故なんだ,拓海」
いつになく拓海をとがめる涼介
その真剣な表情に拓海はおびえた
「何故,俺が選んだものを身に付けてくれない?」
涼介の断罪の言葉が拓海の胸に突き刺さるが
「でもっあれは恥ずかしくて」
「拓海に似合うと思って選んだんだよ」
「でもっレ−スとフリルはちょっと・・・」
「可愛いじゃないか,拓海はどんな服でも着こなせるんだから自信を持って」
「いやっでもっ色もピンクだし」
「拓海のイメ−ジの色なんだよ,それに拓海は6月生まれだろう,今週のラッキ−カラ−はピンクなんだからね」口先から生まれた涼介に拓海が太刀打ちできる訳がない「それじゃあちょっとだけ」
恥ずかしそうに拓海はエプロンを取りにクロ−ゼットへと向かった
涼介との同棲を決めたあの夜
強引に拓海を抱こうとした涼介は獣のように拓海の衣服を引き裂いた
「服なんかいくらでも買ってやるよ」
確かに涼介はそう言った
そこから拓海の苦悩が始まった
確かに涼介はその約束を守ってくれた
有言実行は涼介のモット−である
「でも,涼介さんってファンシ−なんだよな」
涼介の選ぶものはどれもこれも可愛らしくて19歳の男である自分には似合わない気がする
だが涼介は手放しでいつも似合うといって写真までとってくれるのだ
「優しい人だから」
お世辞でそう言ってくれるのだろう
始めての同棲生活で緊張している拓海の気持ちを和らげようとしてくれる涼介の気遣いが嬉しい
「でも,これはちょっと」
さすがにフリルひらひらのピンクエプロンは恥ずかしい「拓海,まだかい」
涼介のうきうきした声が聞こえてくる
せっかく涼介が選んでくれたのだし,笑われても涼介さんしかいないんだからいいやっと拓海は思い切ってエプロンに袖を通した
「これでいいですか?」
拓海はおそるおそる涼介を覗き見る
涼介はじっと拓海を見たまま動かない
あああっ恥ずかしいかも
やっぱりちんどんやなんだ
かああっと真赤になって恥ずかしがる拓海
笑ってもいいから
何か言ってもらいたい
その時,涼介は口を開いた
「どうして洋服を着ているんだ?」
「は?」
ふううっと涼介はため息をついた
「そうか,拓海はお子様だからまだこのエプロンの正式な着方を知らなかったんだね,教えてやろうか,このエプロンの着方を」
ひええええ−っマンションに拓海の悲鳴が木霊した
新婚に裸エプロンは必需品である