[お友達さんいらっしゃい]

 親友の藤原拓海と高橋涼介が同棲を始めたときいてさっそく武内いつきは遊びにいくことにした
といってもさすがに涼介のいるときにいくのは気が引けるっというか恐いので拓海だけの昼間を狙う
「いいよな−っ拓海の奴,専業主婦かよ」
三食昼寝付き
しかも旦那様は男前の金持ち
旦那様っというところはひっかかるにしても羨ましいいつき君である
「俺も早く恋人が欲しいよ−っくううっ」
いつきは叫びながら拓海の好物の温泉まんじゅうをみやげに新婚家庭へと向かったのであった


ピンポ−ンピンポ−ンピンポ−ン
 けたたましいチャイムの音に拓海はよろよろと立ち上がった
昨日,あれだけ可愛がられてしまった拓海の身体はよろよろのふらふら
「新聞の勧誘だったら殺すっ」
ぶっそうな事を考えながらドアを開くとそこにはなつかしい親友が立っていた
「ようっ拓海,遊びにきてやったぜ」
親友はきょろきょろと中を伺った
「あのっ高橋涼介さんは?」
「今,大学いってる」
「そうか−っそれじゃあお邪魔しま−す」
親友らしい親しさでいつきはどかどかと上がり込んだ


 飲物を用意してくれている拓海をながめながらいつきは温泉まんじゅうを取り出した
「あっこれ土産な,ところで拓海,今まで寝てたのかよ,いいなあ,専業主婦って」
お気楽ないつきには−っと脱力する拓海
「そんないいもんじゃないよ」
あぶなっかしい足取りで拓海はいつきにでがらしの番茶を差し出した
ずずずっと二人はすする
いいなあ,親友って気取りがなくて
のんびりほわわんな午後のひととき
テレビはみのもんたの思いっきり生電話
人生相談の内容はもちろん夫の浮気と暴力
「拓海んとこはこんなんはないんだろ,だって高橋涼介って優しそうだもんな」
「・・・」
無言の拓海
確かに涼介の浮気なんて絶対に無いだろう
だがっあれは一種の暴力なのではないだろうか
もう堪忍して−っと身悶える拓海を焦らして鳴かせてあえがせての蹂躙の数々
はああっと大きくため息をつく拓海である
 いつきはそんな親友をぼんやりと見ていたがその時に気がついてしまった
拓海の白い真珠のような素肌にキスマ−ク
襟元には3つ
シャツの隙間から見える鎖骨にも2つ
お茶をすする手の裾から見える二の腕にもちらほらと見える
(どっひゃ−っすげえ)
新婚さんの激しさを垣間見てしまったいつきである
そうやって意識してみると拓海は心なしかやつれて色っぽい
なんか子供のころから知っている拓海なのにどきどきしてしまう
 いつきは動機を押さえようと視線を反らせた
そこには
(ひええええ−っ新婚さんだ−っ)
おそろいのマグカップ,これは分かる
おそろいのスリッパ,これも分かる
この家の物は全て2組,当然だ 新婚なんだから
だが,どうしてあれは2つないんだろう
窓の外には洗濯物が干してある
そこにあるはシルクのパジャマ
だがそれは一着だけ
上と下が別々に干されている
(ひょっとして上が拓海で下が高橋涼介で)
ああ,新婚さんのお約束
一つのパジャマをラブラブ半分こ
だあああっといつきの眼に涙が溢れた
小さい頃からの拓海との思い出が走馬灯のように蘇る
「拓海,大人になっちゃったんだな」
何故か肩を叩かれてよしよしっと頷かれて拓海はきょとんっと困ってしまった
「いいんだ,俺は全部分かっているんだ,くうう−っ
心ゆくまで新婚をエンジョイしてくれ」
邪魔はしないさっあばよっ
 訳のわからない事を言うといつきはすたこらと帰っていった


「あいつ,何しに来たんだろ?」
 よくわからん,と拓海は思いながら新聞のちらし広告に眼を走らせる
「よしっ今日の夕飯は涼介さんの大好きな姜焼き」
 これでご機嫌をとって今日こそお願いを聞いてもらうのだ
今晩は勘弁してって