「スターリングラード」
これは映画、スターリングラードのパロディです
何故か拓海は豆腐屋の息子なのにロシア人なんです、
そして高橋涼介という名前でありながらSSの将校もいる、
昔コピーで出したネタ、、、つっこまないでください、
やっている本人が一番恥ずかしいナチスものです、ごめん、でも楽しいかも
1942年から43年にかけてのスタ−リングラ−ドにおける攻防は第二次世界大戦の決定的瞬間であり,その後の20世紀の政治地図を左右する出来事であった
1941年6月22日
ヒットラ−は独ソ不可侵条約を一方的に破棄し,ソ連進行作戦「バルバロッサ」を発動,
全盛力の約9割に及ぶ170個師団の精鋭部隊を投入,
総勢450万の大軍がバルト海沖から黒海に至る2000キロの戦線を一気に攻めこんだ
戦いは2カ月で片づくとヒットラ−はたかをくくっていたがソ連はあまりにも広すぎた,
舗装道路の整備が遅れているロシアの大地の前では最新鋭の機械化部隊は逆に,自らの枷になる
1942年8月
膠着状態の戦局を打開するためにドイツは大規模な侵攻作戦を開始,
スタ−リングラ−ドを新たな戦略目標に定めた,
スタ−リングラ−ドを手中に納めれば南ロシアに至るボルガ沖の航路を遮断し,コ−カサスの油田地帯に分け入る北の拠点にできるとヒトラ−は自信を持っていた,
オランダを28日,フランスを38日で降伏させ,まさに破竹の勢いのドイツ軍は驚くほどの輸送力と戦術で6000キロを走破し,
ボルガ河流域の大工業都市,スタ−リングラ−ドに到着した
スタ−リンの名前を冠した都市を陥落させることはヒトラ−に絶大な宣伝効果をもたらすと思われたのだ
藤原拓海がソ連邦秋名方面86部隊に配属されたのは1942年の8月,戦局が激しさを増そうかという緊張状態のさなかであった
藤原拓海は軍事訓練も受けたことのない青年である
ついこの間までは少年だったといっても違和感のない幼い顔だち,18歳になったばかりの拓海はこの死地へと追いやられたのだ
祖国を守るため,となんの武器も持たされずに最新鋭のドイツ軍と闘わさせられる
理不尽な現実,
死んでいく同僚
侵される大地
自分の無力さになげいている暇は無かった
敵は目の前にいる
このスタ−リングラ−ドの土地に
拓海は嫌でも戦争に慣れていく自分を感じた
1942年8月12日
「あぶないっ」
拓海の背後で小さな悲鳴があがった
しかし拓海はその声に動じることなく着実に目の前の敵を仕留めていく
それは神業といわれる域に達した射撃であった
遠く100メ−トル先のドイツ兵三人を一撃必中で殺していく
「・・・すげえ」
スタ−リングラ−ド育ちの少年が感嘆の息を飲んだ
これが武内いつきとの出会いである
市内戦が激しい攻防を繰り広げる中,政治班と呼ばれる部隊が兵の志気を高めるために暗躍していた
池谷浩一郎と健二もその中の一員である
彼らの主な活動はチラシや会報を作り,愛国心を高めること
そんな政治班の手足ともなってくれるのが民間の協力であった
武内いつき,このスタ−リングラ−ド生まれの青年は足に重度の障害を持っていたために徴兵から免れたが,民間人として協力している
荒廃したスタ−リングラ−ドでいつきが反ドイツのポスタ−を張っている最中に事件が起こった
近くにドイツ兵がいるかどうかの確認をいつきは怠っていたのだ
気がついたときには敵は100メ−トル近くまで接近していた
物陰で敵におびえるいつき,
まだドイツ兵は気がついていないが彼らはこちらへ向かってくる
足に障害を持っているいつきは逃げることが出来ない
(もう駄目だ,)
ガタガタと震えながらいつきは身を縮こまらせた
「民間の方ですか?」
突然背後から話しかけられていつきが跳ね上がる
ばっと後ろを振り替えると自分とそう大差ない年齢の少年が立っている
しかし民間のいつきとの決定的な差,それはその少年がライフルを片手に持っていることであった
いつきの顔が悔しげに歪む
自分と同じ年の少年はこうして立派に銃をもって戦っている,
いつきだって足さえなければ戦えるのに
嫉妬からつい少年に対するあたりが強くなる
「なっなんだよっお前」
ぼ−っと立っているように見えるその少年をいつきが物陰に引き摺り込んだ
「そこにドイツ兵がいるんだよ,見つかっちまうだろうが,くううう」
いつきの言葉に少年が反応する
「どこ?」
「ほらっあそこだよっ」
いつきが指さす方向には三人のドイツ兵が談笑している姿があった
笑いながらこちらへ近づいてくる
少年はすっと慣れた動作でライフルを構えた
ギョッとしたいつきの横で少年は動かない
銃を構えたまま発射しないのだ
ドイツ兵は段々近づいてくる
(何やってんだよっこいつっぶるってんのかよ)
緊張のあまりいつきが失神しそうになった時,空に号音が響いた
ドイツ軍の戦車部隊が空砲を鳴らしている
味方に時刻を知らせるためにドイツ軍は12時と5時に空砲を鳴らす習慣をもっているのだ
ドオオ−ンッ
その音と同時に一人のドイツ兵が倒れる
こめかみに一撃の銃弾を受けて
それに横のドイツ兵は気がつかなかった
空砲に気を取られて
そして気がつくよりも先に彼も銃弾を受ける
残りの一人も同じであった
いつきはがくがくと震えながら少年を激視していた
「・・・すげえ」
このぼ−っとした少年は顔色一つ変えずにドイツ兵を三人殺したのだ
しかも相手に気づかせることなく
天才であった
この少年はスナイパ−として天性の才能を持っている
「じゃあ,俺はあっちに用事あるから」
ひょうひょうとした態度で部隊に戻ろうとする少年をいつきは引き留めた
「待てよっ俺は武内いつき,政治班の手伝いをしているんだ,こう見えてもれっきとした政治班の一員なんだぜ,なあ,お礼するぜ,先輩にあってくれよ」
少年はちょっと困った顔をした
面倒なことに巻き込まれたくない
だがいつきのその足を見ると,いつきを先輩のところまで送っていくことにしたらしい
「なあっお前なんて名前だよっ」
いつきはきらきらと目を輝かせながら少年に問いかける少年は苦笑しながら答えた
「俺,藤原拓海」
政治班のチ−ムに戻ったいつきは池谷と健二に拓海を紹介した
「こいつすげえんですよっ200メ−トルは離れていたすげえ巨体のドイツ兵をあっという間に打ち殺しちまったんだ,くううう」
本当は100メ−トルだし巨体のドイツ兵ではないのだが興奮してしゃべりまくるいつきの姿が可愛くてつい拓海は苦笑してしまう
「それが本当だったら,すげえな」
池谷と健二が目を見合わせる
この時,すでに池谷の頭の中には拓海をプロパガントに使う作戦があったのだろう
拓海というスナイパ−をロシア軍の宣伝に使う,それはこの戦局を思わぬ方向に導くこととなる
藤原拓海,どこにでもいる平凡な少年
秋名の豆腐屋で生まれたこの少年は気がついたとき,ロシア軍のアイドルになっていた
池谷引き入る政治班は毎日報道する
[今日,藤原拓海は6人のドイツ兵を射撃した] そしてその後にこう続けるのだ
[明日はきっと7人を射撃するだろう,皆,彼に続け]ロシア軍は疲れきっていた
彼らには希望が必要であった
英雄の存在が
藤原拓海は英雄としての素質を十分に備えていたのだ
その精確無比な射撃
普段の穏やかな表情の下で何人の男を殺してきたのだろうか
そしてこれから何人殺すのであろうか
1942年9月
フリ−ドリヒ・バウルス上級大将率いるドイツ第六軍26万の兵はスタ−リングラ−ド市街の大半を占拠,
しかしソビエト国民は激しい抵抗を示し,戦局は泥沼化することとなった
1942年9月22日
スタ−リンはいかなる代償を払ってもスタ−リングラ−ドを陥落させてはいけないとの指令を下し,後に中央委員会第一書記,そして首相ともなるニキ−タ・フルシチョフを派遣,ろくに訓練もされず,時には武器ももたない兵隊が部隊に投入され,その後ろに逃亡や退却を謀った者は殺せと命じられたロシア治安部隊が続いた
更に当局は数千の民間人に市街に留まるように無理強いをしたがそれは破壊された建築物や道路以外にも守るべきものをソ連軍に提供するためであった
藤原拓海は父親である文太に射撃を教わった
普通の凡庸な少年はそのスナイパ−としての才能をプロパガンタに利用される
ラジオや新聞を通じて国中に報道されて英雄にしたてられていく
ソビエト軍の志気を高めるために
その報道はドイツ軍にまで報告されていた
第三帝国はこの事態重く見てある男を派遣する
ナチス最大のスナイパ−を
ロマネコンティの年代物を口にして,涼介は満足げに頷いた
「これも我が帝国がフランスを占領したからこそ味わえるワインだな」
「しかしソ−プ・フラウ・ミルヒも捨て難い」
司令官の言葉に涼介も同意する
「そう,どんなワインであったとしても我が国家が育成したものは他国に勝っている」
しばらくワインを堪能した後に話は本題へと入った
「あなたほどの方がこの一線に,スタ−リングラ−ドに来られるとは驚きであります」
「それだけ閣下はこの事態を重く見ていられる」
言外にこの戦線が長引いたことを咎められたようで司令官は無骨な顔を赤くさせた
「それで,そのスナイパ−とは?」
司令官が資料を用意した
「藤原拓海か,まだ18歳の少年ではないか」
涼介の指摘通りである
今スタ−リングラ−ドにいるドイツ軍はこのスナイパ−に翻弄されているのだ
彼は狙った獲物は逃さない
上級将校を狙う作戦はナチスを震え上がらせた
しどろもどろの言い訳をする司令官に向かって涼介は言い放つ
「だからこそこの高橋涼介がここへ来たのだ」
天才スナイパ−と名高い白い彗星がスタ−リングラ−ドまで来たのはたった一人の獲物を仕留めるため
極上のワインよりも涼介を酔わせてくれるであろう獲物の事を考えて涼介は口元に微笑を浮かべた
高橋涼介はSSの中でも際立った存在である
完璧なゲルマン民族,文句のつけようもない家系図、頭脳,知性,美貌,神々に愛されるにふさわしい存在
ベルリンが涼介を送り込んでくる意味を考えるだけで恐ろしい
今の拓海は狼に狙われた小羊同然なのだ
どれ程拓海の射撃がすばらしかろうとも涼介の敵ではない
経験値が違いすぎる
そして技術も
高橋涼介の射撃は選び抜かれたエリ−トの技
その華麗なテクニックは芸術と称された
対して藤原拓海の射撃は実地が中心のものである
父親に仕込まれたそれは無駄な動きを一切省いた武道のごとき美しさがあった
見られている
ここ数日,拓海はひどくその気配を感じていた
耳の後ろがちりちりする
誰かが拓海を監察しているのだ
スナイパ−にとって後ろを取られるということは死を意味する
拓海が焦るのも無理からぬことである
存在を感じる
しかし相手は姿を見せない
どこか拓海には分からない場所からじっくりと拓海の様子を伺っているのだ
狙撃手は戦場の悪魔とも言える
肉眼で視認できない遥か彼方,600とか800メ−トル先から音もなく一発で決着をつけてぢまうため高級将校や指揮官にとって大きな脅威であった
このくらい離れると狙われているのが判然としないし,銃声もわずかで多くの場合は聞き取れない
彼らの武器 狙撃銃は遠距離を射撃することから弾丸も通常のものとは違い火薬量を増やした強装弾を使用し,薬室部分も頑丈に出来ている
だから銃口初速(マズルヴエロシティ)は実に秒速800メ−トルもあり,後半に減速しても700メ−トル先までおよそ一秒で到着した
音速は常温で一秒間340メ−トルのため,音が届いた時には全てが終わっているのだ
狙撃手は自分の存在が気づかれるまでに仕事をやりおえる必要がある
勝負は一発だけだと考えてよい
二発目か,それ以後を発射すると逆に自分を発見されてしまう確率が飛躍的に増大していくためであった
特定の目標
高級将校や指揮官を狙う場合には,あたかも獲物を狙う蜘蛛のごとくひたすら網をはって待ち続ける
呼吸を殺して,何時間もじっと潜んでたった一瞬の射撃の機会を捕えるのである
ドイツのトイフェルが勝つか
ソ連のチャルトフスキ−が勝つか
それはまだ分からない
拓海は物陰に潜んで,息を殺してながら獲物を待つ
そんな拓海を見つめる視線
全身に絡みつくような息遣いを感じる
「誰だ?いったい何者が」
疑惑が焦りを生む
視線を感じ始めてから3日後,
池谷からある事実を伝えられた
ナチスきってのスナイパ−が拓海を仕留めるためにベルリンからこのスタ−リングラ−ドに送り込まれたと
ここが戦場と思えないほど清潔で静かな一室,涼介は特別待遇として個室を与えられている
シュッシュッと靴を磨く音が響く
「それで,最近,君の友達の様子はどうだね」
涼介の問いかけに靴磨きの少年は嬉しそうに親友の自慢をした
「あいつは天才なんだよ,俺の親友だけあってすごいんだ,その,昨日もすごかったし」
さすがにナチスの前で親友の自慢はまずいと思って少年が口をつぐむと涼介は先を促した
「聞かせてくれるかな,秋名のハチロク部隊きってのスナイパ−の話を,俺はファンなんだよ,藤原拓海の」
涼介がにこやかに微笑みながら秘密を打ち明けるように少年に話しかけた
そのフレンドリ−な態度にいつきは騙される
もちろん目の前につまれた缶詰めや肉,そしてチョコレ−トといった大切な食料も十分に魅力的だが
「昨日は12人やったって,拓海は目がいいんだ,すごく早く銃を撃てるし精確に狙った奴は外さない,でもいつもはぼ−っとしているんだ,それがひとたび銃を握ると別人みたいになっちまう,すごい集中力なんだ,明日もきっと13人はいくんじゃないかな」
「明日はどこらへんに現れるかな,秋名の美しいスナイパ−は」
「拓海に危険なことはありませんよね」
念をおすいつきに涼介は笑って答えた
「言っただろう,俺は藤原拓海のファンなんだよ,今までだってひどいことはしなかっただろう」
いつきは情報を涼介に横流ししていた
その見返りに不足している物資を調達してもらっているいつきにしたらナチスでありながら拓海のファンだといっている涼介に拓海の事を自慢して,その見返りをもらっているだけだという軽い気持ちであっただろう
その情報がどれほど重要かいつきは気がついていない
いつきの与える情報は涼介の中に蓄積されていく
一度も会ったことがないというのに誰よりも涼介は拓海の事を知っていた
一つ一つの動作,いつきの証言,揃えられた資料を涼介は分析していく
拓海の全てを知るために
涼介の分析に狂いはない
まるで恋をしていく過程のようだ
相手を知り,良いところと欠点を見つけて,すべてをあばいていく
くせも,好みも,何が苦手で,何が大切なのかも
そのデ−タ−が勝算の鍵となる
「藤原拓海か,たくみ」
そっと声に出して呼んでみる
どんな極上の赤ワインよりも甘く涼介を酔わせてくれる獲物
「どんな風に仕留めてあげようか」
そのことを考えるだけで陶酔感に討ち震える
まるで切ない片思いのようだ
相手は涼介のことを知らない
拓海が涼介のことを知るのは死ぬ直前だけなのだ
ぞくぞくする
最高のゲ−ム
涼介はうっとりと目を閉じた
モスクワ本部から拓海を護衛するために一人の男がやってきた
黄金の髪を刈り上げた吊り目の美男子
高橋啓介,彼はモスクワきってのボディガ−ドのプロフェッショナルである
だが,彼がこの任務に選ばれたのは別の理由もあった
高橋啓介の異母兄弟,実の兄はナチスのSS,高橋涼介であったのだ
ロシア人の母親との間に生まれたのが啓介
ゲルマンの母親との間に生まれたのが涼介である
啓介はドイツ人の父親に幼少育てられたのでドイツの情勢に詳しく,またドイツ語も堪能であった
もちろん護衛の腕はモスクワ三本指に入る
啓介はスタ−リングラ−ド行きの夜行列車の中で護衛の相手の写真を見つめた
「藤原拓海,秋名のハチロクか」
写真には可憐な少年が写っている
啓介はスタ−リングラ−ドで何かが起きるような予感を感じた,