何時の時代かは定かでは無い
人々の間で妖精や魔物という存在が信じられており,その存在が身近な世界
専制君主制の国家,封建社会,そして魔法を使う術師が占いによって政治に深く入り込んでいる
この世界に必要なものは力,権力,そして魔術
神秘的な事柄を人々は信じ,そして恐れていた時代の物語である

 今,この世界はいくつかの勢力に分かれている
まず,一番強大な帝国は赤城にあるレッドサンズ
真紅の太陽という名を冠したその帝国は恐るべきスピ−ドでこの10年,その勢力を拡大していた
 それに対抗するのが秋名のスピ−ドスタ−ズである。
俊敏な星々の意味をもつこの国は古くから栄え文化の中心として君臨していた
だがそれも10年前までの事
赤城の猛攻が始まったことにより徐々に文化は衰退してきている
 原因は赤城による流通や通行の妨害
他の弱小国家が赤城に併合されていくので他国との国交も跡絶えていく
近隣諸国の憧れ,華の都と呼ばれた秋名もこの10年の間に随分と様変わりしてしまった
今の秋名と国交を深めようという国は無い
 碓氷のインパクトブル−,妙義のナイトキッズなどは赤城と同盟を結んだ
それが例え同盟とは名ばかりの併合であったとしても碓氷や妙義は名が残るだけましであろう
 もっと弱小の国家は問答無用で赤城に吸収されていったのだから
 残るは秋名のみ,もし秋名が併合されたとしたらこの世界で初めての巨大な文化圏が出来上がることになる
赤城という独裁政権による統一された帝国
 今,この世界の行方は秋名の存亡にかかっていた

 色とりどりの華が咲き乱れていた
新緑も眩しい7の月は秋名宮殿の庭園が一番美しい季節である
そんな中,軽やかな足取りで少年は庭を横切ろうとしていた
華を踏み潰さないように注意しながら,だが人に見つからないようにこっそりと急いで少年は裏門へと向かう
 小さな木戸の裏門は使用人専用のものだ
少年はこっそりとその戸を開けた
そして目の前の壁にぶつかりそうになる
「拓海様,どこへいかれるんですか?」
頭から降ってくるその声に少年はこのがっくりと肩を落とした
壁のように門の外で少年を待ち構えていたのは秋名一番の剣闘士,小柏カイであった
小柏カイは王族直属の近衛兵の隊長でもある
この宮殿の周囲を警備するのは当然のことであった
だがカイはこの場所に少年が現れると見越して警備をしていたらしい
 少年は愛らしい頬を膨らまして抗議の声を上げた
「カイちゃん,ずるいよ,待ち伏せなんて」
「拓海様がいけないんですよ,大人しくしていないから」
育ち盛りの少年に宮殿の中でじっとしていろという
カイのその態度が少年には気に入らない
「でも,街の情勢を知っておくべきだと思うし,俺一人なら身軽だから」
少年の言い訳にカイは苦笑した
「拓海様は王族としての意識が足りない,だから俺はこうやって門の外で見張りをしなければいけない」
そう言ってカイは少年を抱きかかえた
「ちょっとカイちゃんっ強引だよ,やだ」
「軽いですね,拓海様はもっと食事をとって体力をつけないと抱き心地が悪くてしょうがありませんよ」
愛しげに少年を抱きしめてカイは言う
「それに赤城との決戦も近い,拓海様には体力をつけていただかないと」
いつまでも自分が守れるとは限らないから,カイは心の中で呟いた


 赤城との決戦は近い
多分これが最後の戦いとなるだろう
昨日,国境兵から連絡が入ったのだ
赤城から大軍が,この秋名に向けて進行していると
今の秋名にそれを跳ねつけるだけの力があるのだろうが勝算は無いに等しかった
だが秋名は戦わなければいけない
負けると分かっている戦いでも負けると決まった訳ではないのだから


「カイちゃん」
抱きしめる手に力が籠もりすぎたのか,腕の中で少年が身じろぎをした
不安そうな顔をしてカイを見つめてくる少年が愛しくて堪らない
「大丈夫です,カイが守りますから,拓海様の事は必ず」
カイは決意新たに少年にむかって微笑んだ 
「カイちゃん,無理しないで」
少年の気遣いがカイに闘志を沸き立たせる
「負けませんよ,秋名は,それに俺も,今負けたら拓海様と結婚出来なくなってしまう」
カイの言葉に少年は真赤になって俯いてしまった


 秋名国の第一王位継承者である藤原拓海と王族直属の近衛隊長である小柏カイは産まれた時からの幼なじみであり将来を誓いあった関係でもある
 今から17年前,拓海がその生を受けた時に術者が選んだのが小柏カイ
 星回りが良いからという理由で伴侶の約束を交わした二人であったが政略であるにも関わらず仲睦まじい恋人同士となった
 18歳,来年の春に拓海はカイと結ばれる予定だ
カイとしてはそれまでにこの戦の行く末を見定めたかった
幼い婚約者には何の苦労もさせたくない
何の不安も無く自分のところに嫁いできてもらいたい
 赤城との決戦によるプレッシャ−で押しつぶされそうなカイにとって拓海を守ることだけが心の支えであった


「おまじないをしてくださいますか」
カイはそっと婚約者の耳朶に口付けながら囁いた
「カイちゃんっ好きだよ」
婚約者はこれ以上ないくらいに頬を染めてこっそりとカイの唇にキスをしてくれる
触れるだけの子供染みたままごとだがカイにとっては最高のまじないだ
幼い恋人はこれだけで恥ずかしがるからまだ二人は清い関係である
それも18歳の春まで
結婚したら拓海の全てがカイの物となる
「拓海様,俺も大好きです」
カイは恋人を抱きしめて囁いた
 恋人は本当に幼くて,まだ恋愛と友情との境がわかっていない
カイのことを好きだと言ってくれるがそれは親愛の情からなのだということに賢い近衛隊長は気がついていた
だがカイは焦らない
焦る必要はないのだ
拓海と自分は神が定めた正当なる伴侶なのだから
誰もカイから拓海を奪うことは出来ない
 例えそれが神であったとしても
神とも歌われる赤城レッドサンズの帝王であろうともカイから拓海を取り上げることは出来ない
だからカイは恋人を見守りながらいつか成長して自分を愛してくれる日が来るのを心待ちにするのであった

 カイに送られて部屋へと戻った拓海は湯編みを済ませるとシャスタのためにベットへと横になった
 穏やかな午後である
赤城との決戦が近いとは思えないぐらいに平和な昼下がりであった
拓海はうとうととまどろみながら昨日会った旅人のことを思い出していた
「今日も待っていてくれるのかな」
 昨日会った場所でもう一度会おうといってくれた旅の商人,もし待っていてくれたとしたら待ちぼうけをくらわせてしまって申し訳ないと拓海は思う
 カイに見つかりさえしなければ今日も商人と会って近隣の事を教えてもらえたのに
 商人はとても色々な事を知っていた


碓氷がどうなったのか,妙義がどうなったのか
そして赤城レッドサンズの事


 王宮の中にいる拓海には分からない事を教えてくれる。
拓海は自分の身分をばらすわけにはいかなかったので商人には王宮で働く下働きなのだと偽った
そんな拓海に商人はとても親切だった
親切に近隣諸国の情勢を教えてくれる
それは今の秋名に一番必要なものだ
だから拓海は商人にあいたかった
会って話を聞く必要があると思ったのだ
「カイちゃんの馬鹿」
なのに大好きな恋人はそんな拓海の気持ちを分かってくれない
「そうだ,いつきに頼んでみよう」
親友のいつきに頼んであの人に伝言してもらおう
約束の時間を変更してもらうように
それはとても妙案のように拓海には思えた
 心配事を解決すると安心したのか拓海は眠りの淵へと落ちていった

 商人の一行は秋名の繁華街に陣取り商いをしていた
貿易が廃れかけている今の秋名にキャラバンが来ることは珍しい
商人が売る異国の商品は飛ぶように売れていた

 市場から少し離れたところで商人のうちの一人がじっと佇んでいた
この暑い季節だというのに白いマントを頭から被った男はこの商人の一行の主である
 男は約束の時間になっても現れない少年の事を思っていた
「遅いな,今日は」
男の眉間に皺がよる


 少年はひょっとしたら何か用事でも言いつけられて働かせられているのかもしれない
彼は王宮で働いているといっていたから
何か雑用があってここに来れないに違いない


 男はそう推測した
だがこの場から立ち去る気にもなれなかった
商人の話に目を輝かせながら聞き入っていた少年
その理知的な瞳の輝きに商人は胸をときめかせた
下働きだと言っていたが隠しようもない気品が滲み出ている
きっと秋名の貴族の一人なのだろう


亜麻色の髪は上質のビロウドのようだ
抜けるように白い肌は真珠のごとく輝いている
そしてオパ−ルのような瞳
紅をひいたかのように赤い唇
本当に上質な存在を男は初めて知った気がした


 だからなのだ
この時代,一番大切な情報を少年に教えて好奇心を満足させてやったのは
そうすれば少年はまた,この市場にやってくる
商人の話を聞くために
 男は待ち続けた

「くうう−っやっぱ市場はいいよなあ」
るんるんっと市場を散策しながらいつきは目的の人物を探していた
目的の人物とは親友の拓海に頼まれた商人である

 異国の人でいつも白いマントを被っているらしい, 
右目に酷い火傷があるからといって顔を半分隠しているそうだ
 なんとなく恐そうだな,といつきが言うと拓海は笑ってでも優しい人だよっと答えた
親友がそう言うのなら悪い人物ではないのだろう
「拓海はそういう勘が鋭いからな」
いつきはうんうんっと頷いた
 親友の拓海は昔から妙に勘の鋭いところがあった
災難を事前に予言したり,悪意を感じ取ったりする能力がある
「俺よりも魔法使いにむいているよな,くうう−っ俺のライバルかよ−」
魔法使いの弟子として修業を積んでいるいつきはまだまだ弟子としても半人前のひよっこだ
いつも王宮で魔術の勉強にしごかれているいつきは久しぶりに街に出れて嬉しくて仕方がなかった
「やっぱ息抜きは必要だよな,息抜きって楽しいよな−」
久しぶりの街はやはり活気があって赤城との決戦が近いということを忘れさせてくれる
 いつきはうかれすぎたために忘れてはいけないことを忘れてしまったのだ
 赤城との決戦は近い
どこに相手のスパイが潜んでいるか分からないということを
 いつきが見つけた商人は拓海が言う通りにとても好感の持てる人物であった
「そうですか,拓海君は来れないのか,残念だなあ」
明日にはこのキャラバンは別の国に旅だってしまう,
だから拓海君にお別れを言いたかったのだけれど,といって商人は項垂れた
その姿が寂しそうでいつきは持前のサ−ビス精神を出す
「なら俺が拓海にナシつけましょうか,今晩,王宮の左門の端で待っていて貰えますか」
いつきの言葉に男が顔を上げる
「左門の端?」
「ええ,そこに小さな木戸があるんですよ,使用人専用なんですけどね,警備も手薄だし,そこなら拓海も抜け出してこれると思うから」
いつきが胸を張って答える
その姿に商人は笑いながら礼を言った
「ありがとう,いつき君,必ず今晩王宮へいくと拓海君に伝えてくれるね,いつき君にもお礼はするから」
「いいっすよ,お礼なんて,俺と拓海は親友なんすから
」いつきはにこにこと笑いながら用件を済ませると市場を後にした

 

 

「涼介,啓介から情報が入ったぞ」
いつきを見送った商人に仲間から声がかかる
「今,国境を抜けたそうだ,今晩に秋名の中心に入れるだろう」
仲間の史弘からの言葉に商人はうっそうとした笑いを浮かべる
それは先程いつきに向けていた飾りの笑いではなく見たものを震撼させるような冷たい笑みであった
「今晩,秋名の王宮を攻める,俺が中に入って王宮の門を開けよう」
秋名の王宮は守りが固い
籠城になったらことだと思案していた涼介であったが問題は解決した
堅固な門は中から開ければいいのだ
中に忍び込む手段は先程あのいつきとかいう少年が教えてくれた
 商人の姿を借りた赤城の先発部隊
その中に涼介が入っていたのは単なる彼の気紛れ  
赤城の白い彗星,レッドサンズの帝王である涼介は時々こうやって他国を回って情報を集めている
そして今回,涼介は秋名で類希なる宝珠を見つけだしたのだ
くっくっくっと忍び笑いをする涼介は残酷な支配者の輝きに満ちていた
「今晩迎えにいくよ,拓海」
その囁きは未来を予言しているかのようである

 

 


 夜の戸張がふける頃,秋名の王宮では緊急の会議が催されていた
「こちらの守りは5000,それに対して赤城は3万の兵を投入してくることは間違いない」
兵からの報告では少なくとも3万の赤城軍がすでに国境を渡ったらしい
「秋名の城は要塞の造りになっている,例え兵力に差があったとしてもそう簡単に落ちはしない」
「三カ月分の食料は貯えてある,籠城して消耗戦に持ち込もう」
「すでに城下の町民には避難するように指令が出してあるからな」
人々の意見は籠城の方向へと向かっていた
籠城して,注意をこちらに向けて他の兵が赤城からの補給を断つ
赤城と秋名を結ぶのは一本の峠道のみだ
そこで残った兵がゲリラ戦法で赤城の補給路を遮断すれば万が一にでも勝てるかも知れない
 勝てなくとも負けはしない
深夜まで行なわれた会議でこの作戦が決定された


 秋名の作戦は有効な手段であった
しかしそれはあくまでこちらが先手に出ればの話である。赤城の戦略スピ−ドは秋名を上回っていた
誰も考えはしなかった
まさか赤城がその日のうちに攻め込んでこようとは
峠を超えたら一度,陣地をとって相手の出方を見るのがその頃の常識であった
峠ごえをしたその足で敵陣に攻め込むなどと正気の沙汰ではないと誰もが思っていた
 赤城レッドサンズが幾多の国を攻め落とした勝因,それはその戦略と時世を読むことのできる情報量,そして戦術の速さであった
 どんなに優位な作戦であったとしても勝利の鍵を握るのは即断力と行動力である

 拓海は塔の最上階にある自室でぼんやりと城下を眺めていた
城下には灯火が消えている
夕刻に出された箝口令のためである
城下の民は争うようにして田舎へと疎開していった
華の都と呼ばれた秋名はその面影もなくしんっと静まり返っている
 拓海の心に深い悲しみが沸いてくる
生まれた時から文化の中心であり歌と踊りに包まれていた秋名
深夜,いや明け方まで城下の人々の笑い声がこの塔まで聞こえていたものだ
それが赤城レッドサンズにより跡絶えていく
「どんな民なのだろうか?赤城レッドサンズとは」
 拓海は不思議でならない
この美しい秋名を土足で踏みにじる野蛮人
教養もない未開の文化
赤城について教えられたのはその程度である
 拓海には理解出来なかった
素晴らしい文化を持ち,高い水準を誇る秋名と和平を結ぼうとはせずに侵略してくる赤城レッドサンズの真意が分からない
 本当に秋名を手に入れたいと思うのであれば赤城レッドサンズはまず,その文化を盗むべきである
秋名の国は他国と比べて土地が肥えている訳でも領土が広いわけでもない
秋名の武器はその知識なのだ
「それすらも分からない野蛮人なのか」
拓海はほうっとため息をついた
その野蛮なレッドサンズにもうすぐ秋名は踏みにじられようとしている
拓海に出来ることといったら王族らしく最後まで誇りを捨てないことであった

 

 

 トントンッ
扉を叩く小さな物音がする
こんな夜に訪問者?
拓海が不審に思いながら扉を開くとそこには幼なじみのいつきが立っていた
「いつき?どうしたの,こんな夜遅くに」
怪訝な顔をする拓海にいつきが胸を張って答えた
「実はさ,拓海が会いたい人が中庭で待っているんだぜ」「誰?」
「あの商人のにいちゃんだよ,夕方に市場にいったらにいちゃんがすごく残念がっていてさ,なんでも明日には秋名から旅だっちゃうからもう会えないらしいぜ.
んで最後に拓海にお別れをいいたいっていうから来てもらったんだ」
いつきは自慢げに話をしている
拓海は何か嫌な予感を感じた
「来てもらった?」
「そう,今中庭で待っててもらっているよ,あの裏木戸の前さ,すぐに拓海を連れてくるからってにいちゃんに言っちゃったからさ,早く用意しろよ」
拓海も会いたかっただろ,と言いながらいつきは拓海を急き立てた
 嫌な予感が迫り上がってくる
「あの商人は中庭で待っているの?」
一人で?秋名に縁も所縁もない商人がこの王宮の中に入り込んでいる?
「そうだって言っただろ,ほら,あんまり待たせたら悪いぜ,早く早く」
いつきが拓海にガウンを着せようとしたその時,外から悲鳴が上がった
 二人は慌てて窓の外に近づく
「まさかっ城門が開いている?」
信じられない事であった
決して外からは開かない城門が開き,王宮へ赤城軍が進入しようとしている
「そんなっそんな馬鹿なっどうしてだよっ」
いつきは真っ青な顔になっておろおろと泣き出した
 城内から門を開けた者がいる
でなければ城門が開くわけがない
今宵,場内に入った侵入者
いつきと拓海はその男を知っていた
 商人のふりをして城下に忍び込んだ赤城の間者
男はまんまと城内に入り込んだ
間者にしてみれば拓海といつきを騙すなど造作もないことであっただろう
「そんな,知らなかったんだよ,なんでだよっどうしようっ拓海,俺大変なことをしちゃったよ」
いつきは泣き叫びながら部屋を飛び出した
「いつきっどこにいくんだ?」
「俺っ確かめてくる,本当にあの商人のにいちゃんがスパイだったのか」
「危ないっ危険だよっいつき」
いつきの後を追おうとした拓海のいつきは制止する
「拓海はここにいるんだ,俺が確かめてくるから,拓海はここから動いちゃいけない」
「でもっ俺も戦う」
いつきは拓海を無理矢理部屋へと押し込んだ
「拓海は王族なんだぞっ自覚しろよ,俺がちゃんと確かめてくるから,下がどうなってくるか見てくるから拓海はそこにいるんだ」
そして外からガシャリっと鍵をかけられた
「いつきっここ開けてよっいつきっ」
平気だから,確認したらすぐ戻ってくるといっていつきは拓海を閉じ込めた
「いつきっいつき−っ誰かっここを開けて」
何度呼んでも返事が帰ってこない
拓海はあきらめると窓にすがるようにして外を伺った
 美しい秋名の城下に灯火が見える
否,あれは灯火では無い
赤城の軍が城下に火を付けて回っているのだ
開かれた城門から続々と赤城兵が押し寄せてくる
「親父っ父さん」
必死で守り,城門から先に赤城兵を入れさせまいと踏ん張っている騎馬隊の中央に王である父親の姿を見つけて拓海は思わず叫んだ
「危ないっ親父っ後ろがっ」
 勇猛果敢で知られた父親,剣術の世界で秋名王の名を知らぬものはいないと言われている
一対一でなら父は絶対負けない
十対一でも当然勝つだろう
だが百対一では?
味方は次々と敵の刃に倒れていく
 拓海は窓から離れるとドアに体当たりした
自分も早くここから出て戦わなければいけない
父の横で赤城軍に一矢むくわなければ
王である父の盾とならなければいけない
なのにどんなに身体をぶつけても頑丈なドアはびくともしなかった
 オオオオオォ−ッ
外から彷徨のような歓声が沸き起こる
 嫌な予感がした
見てはいけない
だがふらふらと拓海は窓へと近づいていった


闇まで真赤に染め上げる炎
秋名の王宮が焼かれていく
逃げ惑う人々を惨殺していく赤城の兵
そしてその中心には首があった
槍に首を突き刺して赤城の騎馬兵が叫んでいる
「秋名の王を討ち取ったぞ」
ワアアアッ周囲で歓声が上がる
味方はそれを見て力を落とし,次々と敵にやられていく 王の首を見せつけるかのように騎馬の兵は槍を高く翳した


「嘘だっこれは夢だ」
拓海はよろけてベットに倒れ込んだ
「こんなに早く秋名が落ちるわけない」
何かの間違いだ
美しい秋名が赤城なんかに負けるわけがない
父が赤城の野蛮人に屈するわけがないのだ
拓海は父よりも強い人間を知らなかった
父は知識も剣術も兼ね備えた文武両道の素晴らしい賢王なのだ
その父が負けるわけない
「夢だ,夢にきまっている」
このまま泣き崩れて寝てしまえばこの悪夢から覚められるだろうか
 だが拓海はこの悪夢が真実なのだということを理解していた
父によってどんな時でも状況判断を誤らないようにと厳しく仕付けられたのだ
「・・・親父っ」
とにかくここを,この部屋を出なければ話にならない
拓海はなんとか脱出の方法を考え出そうとした

 


 その時である

 キイィッ

 嫌な音を立てて扉が開いた
あれ程拓海が体当たりしても開かなかったドアが開いている
誰かが鍵を開けてくれたのだ
誰が?
「いつき?」
涙に濡れた頬を拭いながら拓海は寝台から下りようとして凍りついた
そこに立っていたのは親友ではなかったからだ
 白いマントが血にに汚れた商人
秋名を陥れた男が扉の前に立っていた
男は拓海を安心させるかのように優しく微笑んで近づいてくる
「迎えに来たよ,拓海」
白いマントから差し出された男の手は血でどす黒く汚れていた


 白いリネンの上で少年は組み敷かれていた
その上に血で汚れた男が覆い被さっている


「あっいやぁああ−」
必死に首を振って逃れようとする拓海の顎が砕けるほどに押さえつけて涼介は無理矢理その唇を開かせた
「大人しく俺のものになるのだ」
嫌がる間もなく拓海の口内に涼介の舌が侵入してきた
「あっふうぅ」
舌が口内を蹂躙してくる
歯を.舌を,喉の奥まで全て涼介に舐めほぐされた
 触れるだけの口付しか知らなかった拓海にとってこの口付は野蛮すぎる
舌が痺れるほどに吸い取られ,大量の唾液を飲まされる。
「やあぁっあっ」
どんどんっと背中を叩くが涼介にとっては抵抗にすらならない
 口付を深く交わしながら涼介は拓海の素肌に手を這わした
秋名特有の薄い華奢な肌触りの布地の下に指を伸ばしてくる
拓海はそう言う意味で他人に触れられた事がない
婚約者のカイですら唇を触れあわせる程度の接触しかなかった
そんな初な拓海にとって涼介の行為は蛮行にしか感じられない
「助けてっカイッカイィ」
いつも自分を守ってくれた幼なじみ
拓海は必死で声を張り上げた
「カイっ助けてっカイッ」
頑なに涼介を拒む拓海
そんな拓海に涼介は冷たい微笑みを投げかけた
「カイって誰?拓海の恋人?」
涼介の問いかけに拓海は涙で頬を濡らしながらも気丈に頷いた
自分には婚約者がいるのだ,だから変な真似はしないでもらいたい
そんな拓海の気持ちを涼介は鼻で笑った
「そんな男の事はすぐに忘れさせてあげるよ」
言いながら拓海の太股を撫で上げる
「忘れて俺だけの事を思うようになる,そういう風に仕付けてあげよう」
涼介の指が淫猥な動きをしながら拓海の果実に絡みついてきた
「拓海の身体はまだ男を知らないだろう,そんな名ばかりの恋人の事はすぐに忘れられるよ」
指は果実の形を確かめるように先端から蜜袋まで何度も撫で上げる
「あっふぅっくっ」
拓海の唇から吐息が漏れる
「拓海を抱く男は俺だけでいい」
涼介はそう言い切ると唇を肌に這わした
ぬめったおぞましい感触がまるでなめくじのように肌を這いずり回っていく
「やあぁ−っひぃいっ」
拓海は恐慌をきたし逃げようと抗ったがその抵抗は涼介を煽り立てる結果にしかならなかった
「あうっふぅっああっああぁ」
唇が果実の蜜を舐めまわし,吸い上げる
「いやあっあうっ」
初めての口淫
涼介の舌技に蕩かされる
「あっやあぁっあん」
拓海の腰がくゆり始めた
「いい子だ,もっと淫らに感じてご覧」
涼介の舌が蕾まで伸びてくる
その処女地に躊躇うことなく,涼介は舌を差し入れた
「ひいいぃっああぁ」
誰にも触れさせたことのない部分を舌で舐めほぐされていく
涼介はためらいもなく指で慣らしてきた
ぐちゅぐちゅっと淫猥な音が響く
「淫乱な身体だ,俺の妻に相応しい」
涼介しか知らない淫らな身体
涼介によって開かされる処女地
「いい子だ,俺のものだ」
涼介は思いもかけず手に入った珠玉に胸が高鳴っていた


 拓海は恍惚の表情で腰を揺らしている
「カイちゃんっああっあん」
あまりの刺激に意識がついていかないのだろう
朦朧としながら恋人の名を呼ぶ拓海に涼介は残酷な微笑みを浮かべた
 もう十分慣らした蕾を雄の訪れを待ちわびているかのように蜜で滴っている
 涼介は血に汚れたマントの下から猛っている雄を取り出した
「今,拓海を抱いているのはその役立たずの恋人では無い,この高橋涼介だ」
 涼介はそう言い放つと強引に蕾を開かせ,雄を突きいれた
「ひいいっああっひっ」
闇を切り裂く悲鳴が部屋中に轟いた
涼介の巨根で引き裂かれた蕾からはどくどくと血が流れている
その滑りを借りて,涼介は腰を動かした
「ああぁっひっいたぃ」
泣きじゃくる拓海を抱きしめながら涼介は奥を雄で蹂躙し,侵略する
「力を抜いて,俺を感じて,拓海」
涼介はまるで睦言のように甘く囁く
抱きしめるその手は侵略者とは思えない程優しい
中に埋め込まれている雄も拓海の快楽を引き出そうとしている
「あっあんっああぁ」
拓海の声に艶が交じり始めた
初めての行為なのにもう快楽を得ているのか
頬がうっすらと染まり息が熱く誘っている
 その媚態に涼介は目を見張った
「いい子だ,俺を感じて」
涼介は抽送を激しく開始した
ぐちゅっぐちゅ
内蔵をえぐるような激しい動き
出し入れされる雄は拓海の血で汚れている
部屋はむせ返るような血の匂いで溢れかえっていた
 それが拓海の正気を失わせる
「あっいいっなにこれぇ」
腰を擦りつけながら拓海は甘く啼いた

 涼介はずっと探し続けていた宝玉を手に入れた幸運を噛み締めていた
 この秋名国に侵入した時に情報を収集するために近づいた少年
たまたま声をかえた少年は王宮で働いていて,少年の親友は涼介の役に立ってくれた
利用するために近づいただけだというのに捕われてしまったのは涼介の方
 人目見た時から確信した
拓海は涼介のために作られたものだということを
この戦が終わったら赤城に連れて帰り大切にする予定である
涼介はもう拓海を逃すつもりはなかった


 拓海は涼介の戦利品なのだ
涼介には拓海を自由にする権利がある


 この幸運,涼介は信じてもいない神に感謝した


 国王崩御


 絶望的なこの知らせに秋名の兵士は総崩れとなった
次々と倒れていく味方の兵士を乗り越えてカイは恋人のいる塔へと急ぐ
 カイの目前には地獄絵があった
あれほどまでに華麗で豪奢だった秋名の王宮が炎に包まれていく
目の前にあるのは味方の死骸
男も女も,老人や子供であったとしても赤城の兵は容赦しなかった
赤城の王宮で生きとし生けるもの全てを根絶やしにしようとしているのだ
「拓海様っご無事で」
 国王が亡くなった今,秋名の王位継承者は拓海ただ一人となる
カイにとって愛しい恋人
命よりも大切な存在
だがそれ以上に重要な立場に立たされている
秋名再建のためには拓海の存在が不可欠だ
「この命に変えても守ってみせる」
カイは迫り来る赤城兵を鬼神のごとく切り散らして塔の頂上へと向かった


 まだ赤城の兵はここまで来ていないらしい
カイの足音と息遣いだけが狭くて暗い石造りの階段に響いている
頂上にある拓海の部屋まできてカイはほっと暗渠の息をついた
 扉の隙間から漏れる灯
人の気配がする
小さなあえぎ声が聞こえてきた
「拓海様?」
 初め,カイは拓海がこの悲劇に泣き伏しているのかと思った
 キイッ
小さく音を立てて扉を開ける
部屋を照らしているのは数本の蝋燭のみ
塔の頂上らしく天井の高い造りの部屋,中央には天蓋付のベット
 その上で睦みあう人影
白いマントを羽織った男がかの恋人を陵辱している姿がカイの瞳に映った
男の雄が拓海を汚していることは遠目からでも分かる
激しく動かされる身体が拓海の処女を奪ったことを物語っていた
 拓海はのけぞってその暴行に耐えている
瞳はうつろで,唇は密かに開き,頬を薔薇色に染めて屈辱に打ち震えていた
 カイが今まで見た中で一番美しい拓海の姿がそこにはある
息を飲むのも忘れてカイは拓海に見入ったその時,拓海の瞳がカイを捕えた
今までうつろだった瞳が悲痛な色を浮かび上がらせる 「・・・カイちゃん」
助けて,と声にならない声で拓海は呟いた
「拓海様から離れろぉっ」
うおおおっと彷徨を上げてカイは涼介に切りかかった。それを間一髪のところで涼介が避ける
ずるりっと拓海の蕾から蜜を滴らせて涼介の雄が抜け出した
「許さないっ殺してやる」
カイは間伐入れずに涼介に刃を向けた
続く攻撃も避けられてしまう
涼介が拓海から離れたところを狙ってカイは攻撃を繰り返したは
秋名一と呼ばれるその腕前は見事な剣技を見せつける
そうしながらカイは拓海を背後にかばった
「拓海様を汚した罪,その命で償ってもらおう」
カイが剣を構え直すと涼介がゆるりっと立ち上がった
「お前がカイか?」
ぞっとするようなその口調
聞いただけで呪いをかけられそうな力を感じる
 冷や汗が額を伝い,剣先が震えた
これほどに邪悪な存在にカイはまだ会いまみえたことがなかった
「何者だ?お前は」
カイの質問に涼介はうっすらと笑う
見たものの心臓を凍えさせるその微笑み
「お前がそれを知る必要は無い」
何故ならお前は今夜,ここで死ぬのだから
涼介はそう言って笑った
ゆっくりと涼介がカイに近づいてくる
「拓海を渡せ,それはお前ごときが触れていいものではない」
圧倒的な存在感を放ちながら涼介が一歩ずつ歩いてくる「拓海様は物ではない」
カイはおびえる心を叱咤して再び涼介に剣先を向けた
「負け犬の遠吠えだな,秋名は赤城に落ちた,秋名の全ては俺の物だ」
その台詞にカイは両眼を大きく開いた
「まさかっお前は?」
カイの怯えを見透かしたように涼介は見下した視線を向けた
「お前が知る必要は無い」
涼介はそう言うと白いマントの中から剣を取り出した
輝きを放つその剛剣は名匠の手によるものだと人目で分かる
「命乞いをしてみるか?」
涼介が更に近づいてきた
「拓海をこちらへ渡し,命乞いをしてみろ」
もちろん涼介は命乞いをされたとしてもカイを生かしておくつもりはなかった
 拓海の恋人であったという事実だけでカイの死は確定している
「拓海様,逃げてください」
涼介の刃が襲ってくる瞬間,カイは拓海を扉の外へ突き飛ばした
そのまま扉を閉めてドアの前に立ち塞がる
「そこをどけ」
低く唸るようにして涼介はカイに命令した
「拓海様,お逃げください」
「カイちゃんっいやっ開けてっカイ」
拓海が扉を激しく叩いているのを背中に感じながらカイは剣を構え直した
「ここは通さない」
涼介は興味深そうにカイを見つめた
この男はこんなにおびえているというのにまだ戦う意志を持っている
 拓海を逃がすために盾になろうというのか
「ならば死ね」
涼介はそう言うとカイの身体にその剛剣を突き刺した

 激しく剣を交わす音と肉の切り裂かれる音
カイの呻きが扉ごしに伝わってくる
拓海は手から血が出るのも構わずに扉を叩いた
「カイっいやぁ,カイッ」
泣き叫ぶ拓海の耳に扉の向こうから弱々しいカイの言葉が聞こえてくる
「拓海様,どうか,秋名再建のためです,お逃げください」
「やだっカイちゃんをおいていけない」
拓海の言葉をカイは叱咤する
「俺を無駄死させるつもりですかっ俺のために,どうか逃げてっ」
そこまででカイの言葉は途切れ,ぐふっと血を吐く音が聞こえた
 今の拓海に判断の余地はなかった


 しぶとい男だった
何度も剣を突き刺しても決してドアから離れようとしなかった
だが死んでしまえばただの肉の塊でしかない
躯となった男を涼介は足でドアの前からどかす
キイッと音をたてて扉を開けた
「・・・逃げたか」
涼介は呟いて眉間に皺を寄せる
「まあいい,逃げられるものではない」
あの身体はすでに俺のものにした
もう逃げられない
逃げて帰る国もなくなっている
 涼介は塔を下りると配下に命令を下した


 拓海を探し出して自分の目の前に連れてこいとして

 しかし,涼介と赤城レッドサンズの懸命な捜索にも関わらず拓海の行方はようとして知れなかった

 

 

赤城の手によって秋名が滅ぼされてから三カ月が過ぎようとしていた
秋名の陥落により赤城の敵となる国はなくなった
レッドサンズ帝国の誕生に赤城国は沸き上がり連日のごとく祭りが催されている


 宮殿の中で華麗な宴が繰り広げられていた
多くの祝い客
お互いの戦功を誉めたたえあう武人
それに取り入ろうとする商人や貴族
 今回の戦の最大の功労者である高橋啓介は気怠げに玉座に寝そべりながら宴を眺めていた
「もう飽きちまったぜ」
宴もたまにはいいがこう毎晩となると面白味にかける
横で仕える美女達と戯れるのにも飽き飽きした
どんなに贅をこらした祝宴であったとしても今の啓介にとっては退屈の一言につきる
 彼は根っからの軍人であった
馬を駆り,敵とまみえる時にこそ生の喜びを実感するタイプである
そして戦いの後,その火照りきった身体を宴や女体で沈めるのも躊躇わない快楽主義者である
だがそれはあくまでも戦の後の話
連日連夜の宴は彼にとって退屈でしかありえない
しかしだからといって宴の主役が席を外すわけにもいかなかった
高橋啓介は今回の戦で敵の王の首を上げた功労者なのだ
。兄の涼介の七光ではなく自分の力で掴み取ったこの地位に啓介は満足していた
 彼の兄,高橋涼介はこの巨大な帝国を統治する王
その英知は想像を超えており弟の啓介ですら時々恐ろしくなるくらいだ
兄のことを思いだし,啓介は眉を曇らせた
「そういや兄貴,最近おかしいよな」
秋名での決戦の後から兄の様子が変なのだ
 あの何事にも動じない兄が何かを執拗に探しているらしい
連日の宴に兄がほとんど出席しないのもその何かの追求の指揮をとっているからだ
啓介は武人だからその事に関与していなかったが少し興味を引かれる
 兄がそこまで執着するものが何なのか?
「まあ,余計な事には関り合いになるなってな」
興味はあるが下手に首をつっこんで兄に睨まれるのもごめんだ,と啓介は部外者を決め込んでいた
「それにしても毎回毎回よく飽きねえで同じ出しものをやっているよな,なんかもっと気のきいたのはねえのかよ」
啓介の不機嫌そうな声に周囲が縮こまる
「では,異国からの芸人を呼んではどうだ?」
 今,赤城には祝いのために多くの異国人が出入りしている
そんな流しの一座を呼んではどうかと兄の側近の史弘が提案してきた
「いいねえ,面白そうだ」
啓介が面白そうに瞳を輝かした
「面白かったらよし,もし面白くなかったらライオンの餌にしちまおう」
そういって残酷な功労者はけらけらと笑った

 異国の芸人は目新しいものもあれば芸になっていないものある
啓介は気に入らなかった芸人をライオンの餌にしたり首を跳ねたりするゲ−ムで退屈を紛らわせていた
 そんな啓介が視線が一人の踊り子の前で止まる
まだ少年らしい瑞々しい身体
だがどこか雄をそそる
顔は隠しているがにじみ出てくる気品は隠しようもない「ほお,これは美しい」
「まるで蝶のごとき可憐な舞いですわ」
周囲からも簡単の声が聞こえた

「おいっそこの」
興味を引かれた啓介は踊り子を近くに呼び寄せた
畏まって平伏している踊り子にぞんざいな声をかける
「表を上げて顔を見せろ,見慣れない舞いだな,どこの国のものだ?」
啓介の言葉に踊り子は顔を上げる
麟とした気品
滑らかな首筋
ベ−ルごしに濡れた瞳と長いまつげが震えているのが分かる
 啓介は一瞬,胸を掴まれたような感覚を覚えた
踊り子は固い口調で涼介の問いかけに答える
「あの舞いは秋名のものにございます」
しんっと場内が静まり返った
次の啓介の行動に注目が集まる
啓介は目を見開き,そしてすぐに面白いものを品定めするように踊り子をじろじろと眺めた
「気に入った,今晩は奥に入れ」
そう命令すると自分の側に来るようにと命令する
玉座に進み出た踊り子の腰を掴んで引き寄せると啓介はその耳元に囁いた
「恐れを知らぬ面白い奴だ,名はなんという?」
啓介の言葉に目を伏せながら踊り子は小さな声で拓海という名だと答えた

 

 

 宴が終わるとすぐに啓介は拓海を連れて奥に入った
そして湯編みもさせずにその身体を押し開く
「閣下,あぁっ」
ベットに縫いつけられるかのように押し倒されて拓海が濡れた声を出した
「閣下じゃねえ,啓介と呼べ」
拓海は命令に素直に従う
「啓介さん」
甘い声を出して拓海は啓介の雄に口付けた
舌で先端を舐めながら蜜袋を手で揉みしだいていく
「上手だな,拓海」
すぐに啓介の雄は隆々と立ち上がった
「啓介さんの,すごい」
拓海は美味しそうにそれにしゃぶりつく
「おいっ拓海,腰こっちに向けろよ,しゃぶってやるからさ」
わざと卑猥な言葉で命令する啓介に拓海は大人しく従って啓介の顔をまたいだ
「あっああぁっいいっ啓介さんっいいよぉ」
蕾を舌と指でいじられて拓海は気持ち良さそうに腰をゆする
その間にも啓介に奉仕することは忘れない
「すげえ淫乱,こりゃ極上の拾い物だな」
いつもより早くに限界を感じた啓介は拓海を裏返しにすると思い切り腰を突き立てた
「あああっいいっ啓介さんのきもちいいよお」
もっと入れてと娼婦でも口に出さないような陰語を叫びながら拓海は啓介を締め付ける
「お前最高じゃん,なあ俺の専属になれよっ拓海」
腰を激しく動かしながら啓介は拓海に命令する
「やべえよっお前の中って最高,すげえ気持ち良いぜ」まるで獣のように唸りながら啓介は拓海の中に精液をまき散らした

 

 

 どろのように眠り続ける啓介の傍らで拓海はじっと息を殺してうずくまっていた
高橋啓介に愛された部分が甘い悲鳴を上げていて眠れないのだ
だがそれよりも心が悲鳴を上げていた
心の悲鳴はあの晩から消えることはない
「許さない,絶対に」

 

 

秋名を滅ぼした赤城の軍人
それを祝う国民
恋人を殺した帝王
そして父を殺し,今自分の横で眠っている男

「全て滅ぼしてやる,赤城の子々孫々に至るまで全て滅ぼしてやるから」
それのためならば身体を弄ばれることなどなんでもない。呪文のように拓海は赤城への呪いの言葉を繰り返す
「殺してやる,全て」
まるで睦言のようにそれだけを繰り返していた

 赤城への復讐,それだけのために拓海は生きている
この思いがなければとうに自害していただろう

 TO BE CONTINUED