[FISHER KING]


 夜半を過ぎた頃ノックする音が響いた
部屋にいた男は待ち兼ねたように扉へと向かう
男の苛立ちを表わしているかのように灰皿には大量の吸殻が山をなしていた
乱暴な仕種でドアを開ける
そしてその勢いのまま男は恋人を抱きしめた

「遅いじゃねえか,拓海」

 本当はもっと優しい言葉をかけてやりたいのだが思いが溢れ出て声にならない
そのまま男は強引に恋人に口付けた


 男の名は高橋啓介,今では知らぬ者はいないというストリ−トレ−サ−,
走り屋である
金髪で目の釣り上がった見た目は切れ味のよいナイフを連想させる
触ったら火傷しそうで魅せられる
女は啓介に夢中になった
男もその走りに魅せられる
兄の高橋涼介のカリスマ性に消されることのない絶対的な存在感が彼にはある
 そんな高橋啓介が本気になったのは以外にも藤原拓海という少年であった

「やめろよっ啓介さんっ」
喘ぎながら拓海は抵抗をしめす
 全身で啓介を誘っているくせに言葉だけは抵抗を繰り返す
「お前が悪いんだろ,俺を待たせたりするから」
本当はもっと早く来れた筈なのにきっと拓海はどこかで時間を潰してきたのだろう
 啓介をじらすために
分かっていながらその手管に翻弄される
「やあっやめろって」
こりっと胸の果実を口に含むと拓海から甘い声が零れ落ちた
「いい声,もっと聞かせろよ」
シャツを捲り上げて啓介は胸の突起をむさぼっていく
右は舌で,左は指先で拓海の快感を煽った
「ひっやめろっあう」
玄関で靴も脱いでいないのに二人はこの行為に夢中になっている
ドアに押し当てられた躰がずるずると滑り落ちる
それを啓介は自分の躰を使って押し止めた
密着した全身から性欲を感じる
お互いの雄の高ぶりを感じあった
「ひっあうっあっ」
躰を少しずらすだけで密着したそれが擦れあい強烈な快感を伝えてくる
「いいんだろ,我慢すんなよ」
小刻みに腰を揺らして服の上から拓海を煽る
敏感な胸を愛撫しながら啓介は腰を更に押しつけた
啓介の高ぶりきったそれが拓海を弄っている
「あうっあっあんたって最低」
涙交じりにきっと睨み付ける拓海
その愛らしい仕種に啓介は見ほれた
「いいじゃん,久しぶりなんだしさ」
啓介の言葉に拓海は羞恥のあまり真っ赤になった

 高橋啓介が初めて拓海と会ったのは秋名の峠である
自分の走りに絶対の自信を持っていた啓介は10年前のぼろハチロクに破れる
屈辱はそのまま執着心に変わった
 あれが欲しい
 俺が見つけた
 あれは俺のものだ
寝むれぬ夜を何度も繰り返し,啓介は決意する
 手に入れてみせる
 どんな手段を使っても
啓介は思いを抱えて悩むような優柔不断ではなかった
即断即決,隙を見て拓海を自分のものにする
 男に押し倒されるとは夢にも思わなかったであろう拓海を縛り上げ,強引に自分の雄で貫いた
泣き叫ぶ拓海に欲情する自分を末期だと啓介は自嘲するが止めるつもりもなかった
 一度の関係で終わらすつもりもない
プロジェクトでダブルエ−スになったのをいいことに啓介は関係を強いてきた
拓海はそんな啓介を憎悪の視線で見つめ,そして折れたのだ
 なぜ?拓海がこの関係を容認してくれたのかは分からない
 唯,こうして週末に拓海は啓介のマンションに訪れる


「いい加減にしろよっあんたしつこい」
喘ぎながら拓海が悪態をつく
拓海は決して行為の最中に啓介の名を呼ばなかった
 あんた,もしくはお前
それが柄にもなく啓介を切なくさせた
「いいじゃん,拓海だって感じているんだろう,ほら」
ジ−ンズの上からぎゅっと握り締められて拓海が小さい悲鳴を上げた
涙で視線が揺らぐ
拓海は快感に身を任せながら男に罵声を浴びせた
「本当に自分勝手だよな,俺の都合なんて聞きもしない」
「都合?なんだよそれ,ここに来たのはお前の意志じゃねえのか?」
チチッと金属音と共にファスナ−が下ろされた
直に啓介の手が入り込んでくる
「勝手だよっあんたはっやあぁ」
拓海が非難の声を上げるのを無視して啓介は執拗に愛撫を繰り返した
「ベットいこうぜ,俺はこのままでもいいけどな」
啓介は誘う
選ぶのは拓海だ
しばらく拓海は黙って俯いていたがきっと啓介を睨み付けると靴を脱いで寝室へと向かった
啓介は苦笑しながらその後を追う
 甘い夜は始まったばかりだ

 躰を繋げて初めて気がつく思いがある
拓海が啓介に魅かれている自分に気がついた時にはもうすでに啓介は拓海を手に入れていた
強引な行為であったことは確かだが,拓海は何故かその行為を許してしまった
 魅かれているから
 何をされてもいい
そう思う気持ちと裏腹に素直になれない
男が男に抱かれる抵抗がある
なによりも啓介の気持ちが読めなかった
あれほどの男が何故?答えを貰っていない
遊びなのか?本気なのか分からない
だから拓海も自分のカ−ドを隠している
切り札は真実の気持ち
拓海も隠しているが啓介とて見せていない
お互いにお互いの本気を探りあいながらゲ−ムを進める
 躰だけがこのゲ−ムになれていく

「あっふうっあんたってしつこいよ」
拓海が全身を羞恥に染めながら抗議の声を上げた
全裸になった二人はお互いを高めあっている
啓介はその経験の豊富さを見せつけるかのように拓海の果実をいたぶっていた
 いいところで反らされる
 もう少しなのに,触ってくれない
蜜を指ですくうと啓介は後ろの蕾へと這わせた
「あうっやめろっ変態」
そういいながらも拓海は感じているらしい
ぴくぴくと幼い果実が震え上がった
「なあ,いいだろ,ここ,拓海はいっつもここがお気に入りだからな」
すでに啓介は拓海の感じる部分を網羅していた
「ここのとこさ,気持ち良いんだろ,拓海こそ変態じゃんか,男にここいじられて気持ちよがってるんだから」
本当はもっと優しい言葉をかけたいのに
 愛していると囁いて抱きしめて
なのに思いとは裏腹な言葉しか出すことが出来ない
本気だから,愛しているといって拒絶されるのが恐い
遊びの恋ばかりしてきたから,本気の相手にどう接したらいいのか分からない
 無器用な恋だ
 愛しているから臆病になる
思いを込めて啓介は拓海を貫いた
「やあぁっひっあっうぅ」
苦悶の表情を作る拓海が愛しくて堪らない
背後から覆い被さるようにして啓介は腰を進めた
「やめろっあっいたいっ」
強引なのは承知している
だが今は欲望を押さえられない
拓海が欲しい,欲しい,欲しい
 啓介は一匹の獣になる
激しく腰を動かすと拓海の声に甘い吐息が交じってきた
「なあ,感じているんだろ,素直になれよ」
荒々しい息をつきながら啓介は拓海を煽る
それでしか確認できない
愛しあっていることを体を繋ぐことでしか確かめあえないのだ
「うっすげえいい」
啓介の脳髄に強烈な刺激が走る
拓海の中はいつも啓介を虜にする
こんな気持ち良いのは他に知らない
雄の先端からどろどろと絞り尽くされて溶けていくような感覚
触れあった肌から融合していくような快感
「いいよ,拓海,気持ち良いぜ」
拓海の内壁が蠢いて啓介を誘う
奥まで突き入れて,軽く引いてもっと奥まで捻り込む
「ひっひいぃ」
我慢できないというかのように拓海の足がつっぱった
「まだだ,もっと感じろっいいだろ,お前も」
ぐりぐりと奥まで征服する
もうこれ以上は突き入れられないくらいぴったりと密着したまま左右に動かしてみた
「やあぁっ啓介ぇ,あっあぁ」
拓海の腰が大きく跳ねた
「ほらっすげえお前の中俺の精液欲しがってるぜ」
きついくらいの締め付けが啓介を天国へと誘う
「欲しいって言ってみろよ,奥にぶちまけてくださいってお願いしてみるんだ」
「馬鹿やろっそんなこと言えっかよ」
この後におよんでまだ強がりを言う拓海が可愛くて仕方がない
やはり拓海はこうでなければいけない
男に組み伏されて屈辱に震える拓海に猛烈な征服欲が沸いてくる
 このまま犯し殺してやりたい
強烈な欲望は愛しさの裏返し
「動けよっうごけったらっああぁ」
じれた腰が啓介を追い立てた
「一緒にいこうぜ,天国へ」
激しく啓介の雄が拓海の理性を食い殺していく

 二匹の獣が荒い吐息の中混じり合う

「今日は一段としつこかったな,えろ親父」
文句をいいながら拓海は帰る支度をしている
啓介はベットで煙草をふかしながらそんな拓海を見つめていた
「なあ,もうちょっとゆっくりしてけよ」
啓介の言葉を拓海は鼻先で笑い飛ばす
「冗談,やることやったんだからもういいだろ」
可愛くない恋人
唯一素直なのはベットの中だけ
でもそこがいいのだから仕方ない
「来週来るんだろ」
啓介の問いに拓海はそっぽを向いて答える
「気が向いたら」
 それだけ言うと来たときと同じように呆気なく帰っていった

 残された啓介はごろっと横になるとぼんやり煙草をふかす
「あいつ,また遅れてくるんだろうな」
啓介が欲しくて仕方ないくせにぎりぎりまで来ないで啓介をじらすのだ
来週も啓介はこの部屋でじりじりと焼けるような思いで拓海を待ちこがれるだろう
「・・・いじっぱりが」
自分のことは棚に上げて啓介が呟いた

「また来週まで禁欲生活かよ」   
啓介は自嘲の笑みを浮かべるとシャワ−をあびるためバスル−ムへと向かうのであった

 古い,まだ啓拓全然慣れてなかった ころの話です,甘いなぁ
 この後,エデンの東とNOIZE
 を書くのですが・・/とほほ
 啓拓難しいなぁ