[love song]

 恋という感情はどこから来るのだろうか
突然,胸の中に溢れてくる熱い思い
これが情熱というものなのだろうか
誰よりも愛しくて,独占したい存在
苦くて苦しくて,どこか甘い感情
これが恋というものなのだろうか?


 気がつくと高橋涼介の視線は少年を追っていた 
始めは羨望
その才能に対する賞賛
次第にその視線は熱を帯びてくる
拓海の一挙一動を逃さぬように,視線だけで思いを伝えてくる
誰にも気がつかれないように,そっと視線だけで愛を伝える涼介
見ているだけで幸せだった
その視野に入らなくともいい
俺の事など見てくれるような小さな器ではないのだから涼介は少年に天性の才能を感じた
昔,傾国と言われた女人はこのような姿をしていたのだろうか
魅入られ虜となりぼろぼろになっていく気がする
それすらも甘美な毒となって涼介の体内に蓄積されていくのだ
今の涼介にとっての生き甲斐はミ−ティングの時に拓海の姿を見ることだけであった
拓海が目の前で生き生きと輝いている
それを見ることだけが涼介の生き甲斐
がんじがらめの自分とは違い,自由に呼吸をしている拓海を見ていると気持ちが楽になる
独り善がりの思いかも知れない
だが,生まれてこの方,何も望んだことのない,
望む前に全てを与えられていた涼介は.こういう時にどうしたらいいのか分からない
拓海に告白する?
冗談ではない
男が男に思いを寄せるなどと,もし自分がされたら気持ち悪いだろう
拓海の反応は火を見るよりも明らかであった
拓海にさげずんだ瞳で見られるくらいならば,このまま,でいい
涼介の視線の中の拓海は,その時だけは涼介の物なのだから




 熱い,からめとるような視線の意味に拓海はずいぶんと前から気がついていた 
その視線の発信原を辿って,拓海は困惑した
発信者はあの高橋涼介だったからだ
眉目秀麗,頭脳明晰,しかも大金持ち,男が夢みる男の見本のような存在だ
だが視線は確かに涼介から発せられている
視線の意味を拓海は知っていた
愛を語ってくるその視線にぞくっと背筋が寒くなる
涼介は決して拓海の顔を見ない
踝の辺りに視線を向けている
確か足は一番人間が視線に気がつきにくい部分だと本で読んだことがある
探偵や警察の尾行も足を追うのだそうだ 
拓海が気がつかないのを確認すると次第に視線は上がってくる
太股を伝って腰から鎖骨にかけて,念入りに見られていく
恥ずかしい,と拓海は何故か感じた
正直言ってセクシァルな視線にさらされることには慣れている
女と見間違えんばかりのその容姿は母親ゆずりで一目を魅いた
男なのにいいよってくる輩も大勢いる
見られることには慣れているのに,何故か涼介の視線にだけはいたたまれない気持ちになった
涼介は決して他人に気がつかれるようなミスは犯さない拓海も人にこんな事は言えない
 これは二人だけの秘密
 視線で駆け引きを繰り返す

 


 「正常と狂気の境目はあるのか?」

 高橋涼介は自分の異常さをよく認識していた
同姓の,しかも年端も行かぬ高校生によからぬ想像を働いている
毎晩,夢の中で拓海は従順に涼介を喜ばせた
性欲が強い方では無いと思う
どちらかといえば淡泊な方だ
だが拓海を前にしては押さえがきかない
自然,視線が項や腰など,セックスを感じさせる所に集中する
夢の余韻を感じるためと,もう一つ,拓海の体に不埒なまねをしたものがいないか,服の上から視線だけでも確認しようとするだ
告白などできない
嫌われたくない
しかし,拓海の体に触れ,その心を奪う者は許せない
涼介にとって拓海は聖域なのだ
聖域は汚されてはいけない
例えそれが涼介自身の手によってだとしても


 段々と熱を帯びてくる視線
それは涼介の胸の内を吐露しているに他ならない
あれほどの人が何故?
涼介に見られた所が熱い
拓海はそっと項に手を寄せた
まるで熱い焼きごてを押しつけられたかのように熱を持っている
どうしてしまったのだろうか
涼介に見られているのが気持ち良い
あの熱い情熱に絡め取られて蕩けてしまいそうだ
そっと自身に触れると熱く脈打っているのを感じた
ここにも今日,たっぷり涼介さんは視線を向けていた
「あっんん」
 自室のベットに横たわってそっと涼介の視線を指でたぐる
気持ち良かった
あれほどの男が自分を見ている
そう思うだけで下肢が熱くなってくる
「はあぁ やぁ,りょうっあん」
声が漏れるのを噛み締めながらしっとりと指を濡らす
こんな姿を涼介が見たら,どう思うだろうか
 その状況を考えるだけで拓海の肢体は熱くなるのであった




 「自意識の不安と狂気」

 拓海が涼介の視線に気がついていることに涼介もまた気がついていた
時々瞳がすれ違う
恥ずかしそうに目を伏せている
そんな拓海に欲望を駆り立てられた
夢の中の拓海,何も知らない体に男の味を覚え込ませる嫌がりながらも腰をふって涼介をくわえ込む
想像するだけで酩酊するような快感が襲ってくる
「恥ずかしいことが好きなんだろう」
涼介の言葉にいやいやと首をふっているが本当の事を涼介は知っている
拓海とてこの快楽をしれば進んで足を開くようになるはずだ
 今はまだ,知らないだけ
涼介は拓海に告白する気もなかったが拓海を逃す気もさらさらなかった


 涼介の視線を感じる度に体中に甘いしびれが襲ってくる
昨日,していたいけない事を見破られているかのような羞恥心が体を熱くさせる
いつの頃からだろうか
拓海は涼介の視線を誘うような仕種をとるようになった向かい合わせの席でのミ−ティングで少し足を開いてみせる
項に視線がいったら上向きに顎を傾けるなどと些細な事だが
そうするともっと涼介さんが見てくれるから
腰の付け根に涼介さんの視線を感じる
それだけで奥を弄られているような微妙な快感が沸いて起こるのを止められない
「もっとぉ,涼介さん」
夜の自慰は涼介の視線を思い出さないとイけないくらいに拓海は涼介の虜となっていた

 

 

 「狂気という前提があればあらゆる精神の有りようは  容認できるのでは?」


 視線の快楽に慣れると更に深い悦楽を求めてしまう

もっと見てほしい
俺の全部を暴き出して
涼介さん

「拓海 明日遊びにいこうぜ」,
啓介が拓海にしなだれかかってくる
肩に手を回して,腰に腕を回して首筋に唇を寄せて,忍び笑いをする二人
「駄目だよ,俺配達あるもん」
「いいじゃねえか,一日くらい」
「やだよ,啓介さんエッチな事するでしょ」
くすくすと顔を近づけて笑いあう拓海と弟

涼介の視線を感じる
いつもよりも熱い,視線
嫉妬というスパイスのきいた視線は心地よい
まるで涼介さんに抱かれているような気持ちになる


 拓海は男を誘う
男は拓海の手練手管に夢中になっている
誘っているが決して気を許さない
その気にさせておいて心は渡さない
拓海にはそういう姿がよく似合っている

 涼介を誘うように啓介とじゃれあっている
無邪気に残酷なことをする拓海
ぞくぞくする
涼介はこのゲ−ムに手応えを感じていた
拓海は涼介が思いも寄らない手を考えてくる
啓介を使って涼介に嫉妬を起こさせた
こんなに夢中になるのは初めてだ

 どうして涼介さんは触れてくれないのだろうか
触れないで視線で語り合うのがこのゲ−ムのル−ル
涼介の熱い高なりを感じたい
体中で涼介を抱きしめたい
拓海はずっと待っているのに
じっと息を殺して,仕種で涼介を誘い込む
早く,早くっと焦る心を殺して

 拓海はますます奇麗になった
自室で涼介はデ−タ−を打ち込みながら思案する
拓海は更にその美しさに磨きがかかるだろう
 人の視線によって成長して,それが更に人を魅了していく
この結果に涼介は満足していた
拓海は涼介の物ではない
涼介の物になどなってはいけない
あれは涼介の籠の中で大人しくしている小鳥ではないのだから
きっと他の人間には分からないだろう
恋というものに形はないのだ
千人いれば千通りの恋の方法がある
涼介は拓海に対してこういう方法でしか愛を伝えられないのだろう
 デ−タ−を打ち込む音が辺りに響く
 涼介は静かに笑みを零した 


 

ウーン、このころからうちの涼介は変態さんになっていったんですよね、
確か去年の1月にかいたやつ、