「男の純情,彗星編」
「突然で驚くかも知れない,だが聞いてくれ」
ここは群馬の温泉街
拓海はバイトの最中にやってきた高橋涼介23歳に拉致されるようにFCに連れ込まれ,
秋名までドライブさせられて,湖のほとりで衝撃の告白を受けたのだった。
「俺は拓海が好きだ,愛している」
こんな俺を嫌わないでくれ。
涼介は真剣な眼差しで拓海を見つめた。
「えっ涼介さんが俺を?」
「ああ,拓海に初めて会った時から一目惚れしてしまったんだ」
拓海は頬を真赤に染めた。
「でも,涼介さんには俺なんか似合いません,もっと涼介さんにはお似合いの美少年が・・・」
そこまで言った拓海は涼介に抱きしめられた。
「俺は男が好きなんじゃない,拓海だから好きになったんだ」
「涼介さんっ」
「拓海っ」
こうして二人は目出度く付き合う事となったのであった。
高橋涼介23歳,乙女座
群馬大学医学部主席,天童と誉高きこの男は顔も金も身体もパ−フェクトであった。
こんな彼だが,今重大な悩みを抱えていた。
もちろん愛についてである。
実はここだけの話,
涼介は経験が無かった。
ぶっちゃけていえば男の子との経験である。
女相手ならば13歳の筆下ろしから百戦錬磨のつわものなのだが
いかんせん相手は自分と同じ性別を持っている藤原拓海18歳。
知識はある。
伊達に医学部を通っていない。
直腸検査だって目をつぶってもやれるし前立腺のありかだって分かっている。
(とりあえず患者で位置を確認しておいた)
様はオシリの穴にインソ−トして挿送するだけなのだが,しかし失敗したら目も当てられない
拓海は涼介の運命の相手なのだ。
万全に万全を期さなければいけない。
「やはり,これは人に聞いておいた方がいいな」
経験者に心構えと準備を聞いておいたほうがいいだろう,と涼介は思った。
だが身近にホモはいなかった。
当たり前だ
世の中そうホモは転がっていない。
(拓海専門ホモになりかけの弟はいたが)
困った涼介はビデオ屋にいったがどうも抽象的な内容のものか情緒の無い直接的なものの二種類しかなく,
心構えを教えてくれる初心者レベルのものは存在しなかった。
「仕方ないな」
涼介はサングラスを片手に立ち上がった。
愛車の白いFCに乗り込むとロ−タリ−を鳴り響かせる。
向かうは前橋駅前の本屋であった。
涼介は本屋に入るとゲイの本を探した。
さすがに地元では恥ずかしいのでサングラスで顔を隠し,ディップでオ−ルバックにして変装なんかもしてみたりした。
だが目当ての本は見つからない。
やけに濃いものがあるだけである。
これは困った。
涼介は車を飛ばして何件かの本屋を渡り歩いたが見つからない。
そうやって探しているうちに何時の間にか渋川近くの国道ぞいの本屋に来てしまった。
「ここにも無い」
その本屋でも目当ての本は見つからず,がっくりとうなだれる涼介。
そんな時であった。
レジ横の雑誌コ−ナ−にいた女の子達がきゃあきゃあ騒いでいる声が聞こえてきたのは。
「やっだぁ,美代ったらボ−イズラブ好きなの?」
「千恵だって好きでしょ,ホモ小説」
女の子達はにこにこしながらなにか雑誌を買っていった。
涼介の目が女性向けの雑誌コ−ナ−に釘付けになる。 その姿を見つけた店員が近寄ってきた。
「お客様,何かお探しですか?」
涼介はあわててサングラスをかけ直す
「ああ,実は資料を探していてね,最近女性に人気のゲイ雑誌があると聞いたのだが」
「ああ,BO−BOYですね,小説とマガジンとありますがどちらをお捜しですか」
「両方お願いするよ」
店員は女性雑誌コ−ナ−から二冊の雑誌を持ってきた。
「こっこれは?」
涼介の目が大きく見開かれた。
そこには栗色の髪で異様に目が大きい美少年と黒髪でかっこいい知的なお兄様のやけにデフォルメされたイラストが表紙を飾っていたのだ。
まるで自分達のようだ。
涼介は少し感動した。
随分苦労したがやっと目当ての本に巡り会えたのだ。 さっそく購入しなければ。
そして,家で熟読しなければいけない。
涼介はいそいそとレジへ向かった。
「あれ?涼介さん,どうしたんですか?」
涼介はレジで声をかけられて固まってしまった。
なんという運命の悪夢
お約束とも言う
その本屋さんのレジにいたのは涼介の愛しい恋人藤原拓海だったのだ。
「拓海こそっどうしたんだ?こんなところで」
「バイトですけど」
もっともな返事だった。
動揺を隠し切れない涼介
それにしてもこんな完璧な変装をどうして拓海は見破ったのであろうか
「えっだって白いFC目立ちますもん」
しまった,FCに乗ってきたのが間違いであった。
苦悩する涼介の後ろにはレジ待ちの列が出来始めている。
拓海は涼介が持ってきた本の会計をしようとした。
「・・・」
沈黙が恐い
しかし拓海は動じなかった。
例えアルバイトでも客商売
どこの誰がどんな変態な本を持ってきても動じずに応対するのが本屋の基本なのだ。
「啓介に頼まれてね」
涼介は内心焦りながら弟に濡れ衣を着せようとした。
「カバ−かけますか?」
拓海は涼介と目をあわせようとしない
涼介は必死の思いでこれだけは言った。
「領収書,きってくれるかな,上様で」
こうして涼介は目当てのものを購入すると,前橋の自宅に戻りBO−BOYを抱きしめながらこっそりと泣いたのであった。
一週間後
プロジェクトDのミ−ティングの後,涼介は拓海に呼び止められた。
「あの,これ,よかったら涼介さんに」
頬を染めながら恥ずかしそうに拓海は紙袋を差し出した。
「なんだろう,拓海からのプレゼントだなんて嬉しいな」 この前の事がしこりとなっているかと案じていたが拓海はごく普通の態度だった。
ほっと胸をなで下ろしながら涼介は紙袋をがさがさやって・・・凍りついた。
「今日,BO−BOYの増刊でBO−BOY GOLDが発売されたから涼介さんにって思って」
「拓海,誤解しないでくれ,俺はホモじゃないんだ,拓海だから男でも好きになってしまったんだ」
BO−BOY GOLDを握り締めながら力説する涼介。
「分かってます,分かってますから涼介さん」
拓海は何故か涼介から視線を反らしてそれだけ言うとぺこっとおじぎをして帰っていった。
家に帰った涼介はBO−BOY GOLDを抱きしめながら涙したのであった。
「男の純情 弟編」
啓介の部屋は汚い
どこに何があるのか本人でも分からないくらいに汚い。
生まれつき掃除する機能をどこかに置き忘れてきてしまった啓介は何時の間にか部屋の片隅に置かれている雑誌の数々に気が付かなかった。
そしてそれが着実に増えていることにも気が付かなかった。
「今日は拓海が来るんだぜ,はあはあ」
その日,啓介の愛しい思い人の藤原拓海が高橋家を訪れた。
邪魔な兄貴は大学でいない。
二人で峠のビデオを見る予定であった。
「お邪魔します,啓介さん」
可憐で可愛い拓海がやってきて啓介は興奮で鼻血を出しそうだった。
「おう,よく来たな,ちょっと待ってろ,今ビデオとってくるから」
拓海をリビングで待たして啓介は自分の部屋にビデオを取りに行った。
「あれ,あれっ確かここに置いたんだけどな」
確かベットサイドに用意しておいたビデオが見つからない。
焦る啓介は必死になって部屋をひっくりかえした。
ガタンバタンッゴソゴソ
すごい音が気になって拓海は啓介の部屋をひょいっと覗いた。
「どうしたんですか?啓介さんっうわっ汚い」
啓介の部屋を見るなり絶句する拓海
情けないところを見られてとほほの啓介である。
「啓介さん,これほこりで死んじゃいますよ,ビデオは後にしてまず片づけましょう」
そう言うなり拓海はせっせと散らばっている衣服を片づけ始めた。
「えええっ悪いよ,そりゃあ」
焦る啓介。
「気にしないでください,俺片づけ得意なんです」
にっこりと微笑まれて啓介の鼻がでれれんとやに下がる。
「いいな,こういうのって,新婚さんみたいだぜ」
二人で一緒にお片づけ
それも悪くないな
何時も掃除なんて大嫌いだった啓介であったが拓海との共同作業ならば大歓迎
啓介もいそいそと片づけ始めた。
一時間程たったであろうか。
やっと人間の住む場所になってきた部屋。
その片隅に積み上げられている雑誌に拓海が気が付いたのは当然であった。
「・・・」
数十冊はあるその雑誌
最近流行りのあれである。
よく見るとバックナンバ−は古本屋で購入したらしく名札にマンタラケと印刷されている。
ジョネ,ビアス,鼻音,そしてBO−BOY
「うわっなんだこりゃあっ」
固まっている拓海の様子に気が付いた啓介はその手に持っている本を見て驚いた。
記憶にないものばかりだったからだ。
拓海はちょっとひきつった顔でにっこり笑うと一言
「兄弟で愛読者だったんですね,車だけじゃなくて読書も同じ趣味だなんて,本当に仲がいいんですね,涼介さんと啓介さん」
拓海はそれだけ言うと帰り支度を始めた。
「たっ拓海?」
「俺,用事思い出したんで,失礼します」
分かっています、分かっていますから
つぶやきながら拓海は啓介と目を合わせずに逃げるようにして渋川に帰っていったのであった。
「一体なんなんだよっ」
去りぎわの拓海の態度がひっかかりながら啓介はその雑誌の山から一冊とり,ぺらぺらと捲った。
「なんじゃこりゃあ」
驚くのも無理は無い。
そこにはデフォルメされたスネ毛も生えていない男達が組んずほぐれずいやらしい事をしていたのである。
「うおおおおっ」
啓介は股間を押さえた。
たまたま啓介が捲ったペ−ジ
そこには亜麻色の髪をした拓海似の美少年が不良で金髪のヤンキ−にエッチな事をされている漫画だったのだ。
高校の不良先輩に無理矢理エッチされて開発されてしまう美少年の話,お約束である
「はうっうおおおっおおっおうっ」
啓介はトイレに駆け込んだ
その晩,啓介は夜更けまで慣れない読書に時間を費やすのであった。
拓海の誤解が解ける日は来るのか?
それより先にボ−イズラブ愛読者になってしまいそうな高橋兄弟。
こんな奴等のプロジェクトDはまだ始まったばかりだ。