カリスマタカハシサンその一


 高橋涼介23歳,乙女座
 眉目秀麗才色兼備,誰もが憧れるカリスマ様
 彼は今,藤原拓海の情報を集め,分析することに命をかけていた。
 涼介の分析力はすばらしい。
 彼の分析は百発百中外れ無し。
 涼介はこの世で何よりも情報を愛していたし情報も涼介を愛してくれた。
 今,彼を虜にするのは藤原拓海の情報のみ。
 拓海のデ−タ−を分析すると心が踊る。
 デ−タ−が揃っていくと拓海との距離が縮まるようで涼介は嬉しかった。
 今日も涼介が分析していると無粋な弟が転がるようにして部屋に乱入してくる。
「兄貴,大変だ,秋名のハチロクがガムテ−プデスマッチを受けたぞ」
「なに?」
「何考えているんだ,ガムテ−プデスマッチはFR殺しの罠だぜ」
 啓介はいきり立っている。
 涼介も胸がときめいた。
 もちろん涼介は拓海が負けるだなんて思ってもいない。 だが,このバトルは見に行く価値があるだろう。
 拓海の情報収集は涼介のライフワ−クなのだ。
 涼介はデジカメとビデオを握り締める。
「いくぞ,啓介,ギャラリ−に」
「おうっ兄貴,そうこなくっちゃ」
 高橋兄弟出陣である。

 秋名の峠は人でごったがえしている。
 みんなハチロクが目当てなのだ。
 涼介と啓介は絶好のポジションでじっと待った。
 ふふんふんふんっ
 周囲には気がつかれていないが涼介は鼻歌を歌っている。
 これは涼介がご機嫌な時のくせなのだ。
「兄貴は本気でこのバトルを分析するつもりなんだな」 横の弟は兄貴の鼻歌を聞いてびびってしまう。
 そんな時,激しいスキ−ル音が聞こえてきた。
「来たぞ,シビックとハチロクだ」
 麓からも一台一般車が上ってくる。
 やばいっすれちがうっ
 そう思ったときハチロクが半分車線だけの見事な4輪ドリフトを決めた。
 おおお−っ
 沸き上がるギャラリ−
 啓介も興奮している。
「すげえ,半分の車線だけのはみださない4輪ドリフト,ガムテ−プ外れているんじゃねえのか」
「それは違うな」
 涼介は即座に言い返した。
「多分,拓海はこのバトルが始まって早い時期にガムテ−プデスマッチのこつを覚えたんだろう」
 奴は進化している。
 涼介の分析に啓介は旋律を覚えた。
 兄はこの結果に上機嫌らしい。
 鼻歌を激しく歌っている。
「燃え上がれ−,燃え上がれ−,燃え上がれ−,ハチロク−,」
 足でリズムを取りながら鼻歌を歌うのは涼介がとってもご機嫌な時だけだ。
「まだ怒りに−,燃える−闘志があるなら−,巨大な敵を−,うてようてようてよ−っふんふん」
 そこまで歌って涼介はちょっと考えた。
「巨大な敵か,ふふふ」
 やはりここで巨大な敵といえば涼介,赤城の白い彗星のことだろう。
 敵同士が恋に落ちるのはよくある話だ。
 憎しみが愛の変わるのもお約束。
「素敵だ,拓海」
 そういいながら遠くを見つめ鼻歌を歌う涼介。
 その横で弟は悲しそうにつぶやいた。
「・・・兄貴,その歌は止めてくれ」


カリスマタカハシさんその2

 ついに,涼介は愛する拓海のデ−タ−を全て揃えバトルを申し込むことにした。
 この赤城の白い彗星と秋名のハチロクとのバトル
 伝説となることは間違いない。
 そして,このバトルで二人は敵同士というハンデを乗り越えて愛を確かめ会うのだ。
 涼介はご機嫌だった。
 ふんふふんふんっ
 鼻歌を歌いながらバトル申込状を用意する。
 もちろんこれだけではインパクトが弱い。
 なにか,伝説に残るような申し込みをしなければ。
 拓海のすばらしさを称えるようなものを一緒に送ろう。 涼介は思案した。
 拓海のすばらしさを称えるものといえばやはり花であろう。
 その果敢なげな風情,
 亜麻色の髪
 揺れる瞳
 全てが野に咲く一輪の花
 いや,拓海は普通の花では無い。
 草むらに名も知れず咲いている花ならば。
 ただ風を受けながらそよいでいればいいけれど。
 だが拓海は秋名のハチロク
「拓海は薔薇のさだめに生まれた,華やかに激しく生きろと言われた」
 誰に?もちろん涼介に言われるのだ。
「ふふふ,素敵だ」
 そして涼介はフラワ−ショップで真紅の薔薇の花束を購入するのであった。
「薔薇は薔薇は,気高く咲いて−,薔薇は薔薇は,気高く散る−」
 やはりここは散らすのは涼介の役目であろう。
 フラワ−ショップで激しく鼻歌を歌う兄。
 そんな兄を弟は店の前の電信柱からそっと見守っていた。
「・・・兄貴,その歌だけは止めてくれ」


カリスマタカハシさんその3

 群馬走り屋界に激震が走った。
 周囲の予想を裏切りなんとハチロクが勝利を納めたのだ。
 あの白い彗星が負けた?
 天才の名を欲しいままにした高橋涼介の敗北。
 藤原拓海という天才の誕生の瞬間である。
 皆が何もいうことは出来ない。
 そう,世代交代は必ずある。
 昔から繰り返されてきたことなのだ。
 サリエリがモ−ツアルトの才能にひれふしたように。 今藤原拓海という天才の前に凡人はひれふすのだ。
「だがそれすらも愛しい,俺のアマデウス」   負けたというのに涼介はうっとりしながらぶつぶつと独言を言っている。
 横で啓介は力なく呟いた。
「兄貴,その独言だけは止めてくれ」

 

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