高橋涼介

 初めて会ったときから魅かれて捕われて何故こんなに眼が離せないのか分からず,彼のことばかり考えてしまうのが不思議で,
そうしてやっと気がついた 

 自分は彼が好きなのだ
藤原拓海というまだ18歳の少年のことが

 彼をみた瞬間から頭の中で思い描いていたプロジェクトDが動き出した
一年を期限としたチ−ム
ダブルエ−スに弟の啓介と拓海
最高のメンバ−,最高の逸材,すべて揃えてみせる
自分の最後のゲ−ムとなるだろうプロジェクトDのためなら骨身を惜しまない
それにはまず,藤原拓海の了解を得ることが大切であった
 プライベ−トにはほとんど会ったことがない
というよりも拓海とはあのバトルでしか話をしたことがないのだ
それもほんの挨拶程度
それに気がついて涼介は憮然としてしまう
涼介は毎回拓海のバトルを見に行って情報を手に入れて,とても身近に感じていたけれども拓海にとっての自分は違うのだろう
 一回バトルした程度ではあの中里や庄司,へたをするとケンタと同じレベルでしか認識されていないかもしれない
 早く拓海を手に入れなければ
焦る気持ちはある


「秋名のハチロク,この前女とキスしてたぜ,車の中で」メンバ−が噂をするのを聞いたことがある
あれは夏の終わりだっただろうか
拓海がなつきとデ−トして,帰りに車の中でキスしているのを見たメンバ−が騒いでいた

 胸が苦しくなる思い
拓海には彼女がいるらしい
その頃もう涼介は拓海への恋愛感情を意識していたから噂はとても辛かった
 好きだけれども伝えられない
男同士だから,こんな感情を受入れてもらえるわけがないだろう
もし自分が男から告白されたとしたら,相手を避けるのは当たり前だ
拓海も同じ行動を取るだろう
きっと・・・
だがプロジェクトは別だ
車を通しての繋がりならば受入れて貰えるかも知れない拓海の成長を手助けする,
それならば側にいられる
一年の期限ならば,受入れてくれるかもしれない
拓海と一緒の時間を共有できる
それは涼介を有頂天にさせた


   藤原拓海

 あの人がバイト先のガソリンスタンドに来たときには胸が潰れるかと思った
一度だけバトルしたことのある人は話があるといった
心臓が止まりそうだ
顔が赤くなるのを押さえられない
その事をいつきや池谷先輩に言われて恥ずかしさにますます赤くなる

 好きって気持ちはどこからくるのだろうか

気がついたら好きになっていた
初めて,あの秋名であの人のことを見た時から,
俺が対戦することになっていた弟さんの後ろでひっそりと存在感を放っていたあの人
その姿が忘れられない,
 それから後,何度か他の人とバトルをして,そのたびにギャラリ−にきているあの人と弟さんの姿を見つけたあの人が見ている
そう思うと幸せな気持ちになれる
 あの人は単にバトルのギャラリ−を見学しに来ているだけなのに
話したこともない人なのに
 所詮高値の華なのだ
そっと陰から見ているしか出来ない
だってそうだろう
あの人が好きだからって告白なんて出来るわけない
男から好きだなんて言われたら鳥肌ものだってことくらい分かっている
ましてや相手はあの高橋涼介
 眉目秀麗,才色兼備
いいよる女は数知れず
男の俺なんかおよびではないのだ


 バイト先のガソリンスタンドに高橋涼介は現れた
拓海に話があるという
どんな話なのかと疑問が沸き上がるよりも先に喜びを感じた
高橋涼介さんと話が出来るなんて夢みたいだ
でもバイトが残っていて,本当に申し訳ないと思いながら待っていてもらった
急いでバイトを終わらせて近くの公園に走る
そこで涼介さんは待っていてくれた
夜目にも目立つ白いFC
その横にはもっと目立つ涼介さんがいた

 話の内容は新しいチ−ムの事
「お前のテクニックが欲しい」

 涼介さんが穏やかな声でプロジェクトに誘ってくる
うっとりとその声に聞きほれてしまって内容は半分も頭に入らなかった
 涼介さんが俺を必要としてくれている
こんなぼけな俺でも役にたてるのだろうか
望まれている
幸福が拓海を押し包んだ
幸せで幸せで,涙が出てきそう
黙ってしまった俺を涼介さんがいぶかしげに見ている
「あの,俺よく分からないから」
返事を待ってください,とだけ言うと拓海は軽く会釈をして走りだした
これ以上涼介さんの側にいると嬉しくて泣いてしまいそうだ
 ずっと報われない恋だと思っていたから,
どんな形でも必要とされていると知って感情がセ−ブできなくなる公園を突っ切って拓海は家に帰ろうとした

 途中から黙ってしまった拓海の態度を涼介は懸念するやはり早すぎたのだろうか
拓海はまだ走り屋として自覚したばかりなのだ
突然こんな申し出をされても迷惑だろう
だが,だからといってうかうかしていられない
拓海は今,群馬でもっとも有名な走り屋なのだ
皆が拓海を自分のチ−ムに入れようと策を練っている
なんとしても手に入れなければ
よく分からないから返事を待ってほしいとだけ言うと拓海は逃げるようにして涼介の前から去ろうとした
「拓海,待ってくれ」
つい,下の名前で呼んでしまう涼介を振り切るようにして拓海は公園の奥へと走っていく
追いかけなければ,いつもの涼介らしからぬ事だが,全速力で拓海の後を追った
 公園の噴水のところで涼介は拓海に追いつく
「拓海,まだ話は終わっていない」
腕をとって強引に振り向かせるとその瞳が濡れていることに驚いて涼介は言葉を詰まらせる
「離してください」
小さな声で拓海は涼介から逃れようとした
その態度がどんなに男を煽るのか分かっていない
理性のブレ−キが働く暇もなかった
「拓海」
涼介は逃げようとする拓海を押さえつけて強引に唇を重ねる
大きく拓海の瞳が見開かれて,涙が零れ落ちた
その仕種があまりにも初々しくて可愛らしくて涼介は自分を止められない
わずかに開いた唇から舌を割り込ませる
口内で逃げようとする拓海の舌を追いかけて捕らえて絡ませる
くちゅくちゅという唾液の音が誰もいない公園に響いた
「あっあふっやっいや」
あまりにも激しい口付けに翻弄されて拓海の体から力が抜ける
涼介は長い時間をかけて拓海の唇を堪能した
 やっと開放された時には拓海は足腰がたたずにへたりこんでしまう
 涼介は無言で拓海の腕をとると近くの草むらに押し倒した
「なに?やっそんなとこ触っちゃいやです」
理性のきれた涼介に拓海の言葉は届かない
服の上から体中をなで回されて拓海がのけ反った
芝生がちくちくして痛い
それよりも涼介さんが恐い
恐いけれど嬉しくて,触ってくる指先に感じてしまう
「りょうっ涼介さん」
戸惑いながら問いかけると無言で涼介は拓海のシャツの下に手を入れてきた
冷たい涼介の手が胸元の飾りへとのびる
「拓海,拓海」
せわしなく名前を呼びながら涼介は口付けを繰り返した拓海の果実にも手が伸ばされる
ジ−ンズの上からもそれが反応していることがはっきりと分かった
拓海が感じている,それは涼介に確かな手応えを確信させた
拓海はあまりの急展開についていけず涼介に抱きついた涼介は拓海のジ−ンズのファスナ−を下ろして下着の間からそれを握り締める
「やっやあぁ,涼介さん」
それはすでに先走りの蜜で濡れていた
 拓海が俺の指で,と考えるだけで涼介は達してしまいそうだ
カシャッと音をたてて涼介は自分の前をくつろげた

 ワンワンッ
突然近くで犬の泣き声が聞こえた
それで二人は我に帰る
「あっ俺・・・」
我に帰った拓海が急いで服を整えると涼介を残して走り出す
 残された涼介はといえば
「・・・失敗した」
あまりにも可愛い拓海につい欲情してしまって押し倒してしまった
どうやら拓海相手にいつでも自分はけだものになれるらしい
しかしこれはまずい
こんな事の後では拓海がプロジェクトを引き受けてくれる可能性は0%だろう
頭を抱えてうなる涼介
どうしてあんな真似をしてしまったのか自分で自分が信じられない
拓海のフェロモンが涼介の雄を刺激するのだ
やってしまったことは仕方ない,これからどうやって拓海を説得したらいいのか,
涼介はこの難しい局面にうなり声を上げた

 家に帰ると即効ベットに潜り込んで拓海は今あった出来事を思い出した
涼介さんがキスをしてくれた
涼介さんが触ってくれた
すごく嬉しい
 男同士で変だと思うけれども,それよりも涼介の態度が嬉しい
「涼介さん,好き」
涼介に触られた場所が熱を持って疼いている
「プロジェクト,俺なんかでいいのかな」
その時,もう拓海は引き受けるつもりでいた
涼介さんと一緒にいられる
その幸せに酔っていた拓海はある言葉を思い出した
聞いた時にはぼ−っとしていて聞き逃してしまったのだが確か涼介さんはこのプロジェクトは一年の期限付きだと言っていた
「一年,しかいられない」
一年たったら涼介は医者としての道を進んで車のことなど思い出にしてしまうのだろうか
 そして自分の事も
「どうしよう」
拓海の決意が揺らぐ
一年たって,プロジェクトが終わる頃に自分は涼介さんを思い出に出来るだろうか
「そんなの無理だ,だってこんなに好きなのに」
プロジェクトが終わる頃には自分は涼介が全てになっていてぼろぼろになってしまう
今ならば傷は浅い
好きだけれども,胸が張り裂けそうに好きだけれども憧れとしておける
プロジェクトに参加したらそうはいかない
涼介に引き摺られて致命傷をおってしまう
 拓海は涼介への返事にどうかえしていいのか分からなくなってしまった

 拓海からの連絡を待つこと3日
涼介の機嫌は悪くなること一方だ
あまりの恐ろしさに啓介ですら声をかけられない
その夜も涼介はレポ−トを仕上げながら拓海の事を考えていた
しっとりと吸いつくような肌,濡れた唇,震えていたまつげまで全て覚えている
先程からレポ−トは一行も進んでいない
 ツルルルルッ
携帯がなった
宛て名を見ると藤原拓海からである
断わりの電話ではないか,と一瞬とるのを戸惑ったが涼介は携帯をとった
「涼介さん,俺,藤原です」
「ああ,連絡を待っていた」
声は震えていないだろうか,涼介は緊張した
「あの,俺,教えてほしいことがあるんです」
拓海からの電話は思いもかけないものだった
須藤の連絡先を教えてほしいという
一瞬涼介の胸に芽生えたもの,それは嫉妬という名の醜い感情
 それでも冷静に受け答えると須藤のホ−ムコ−スを教えた
電話は用件だけを言うと切れる
プロジェクトへの答えは貰えなかった
嬉しいのか残念なのかよく分からない感情が涼介を支配する
執行猶予が伸ばされた罪人の気分だ

 声が聞きたくて,拓海は我慢できずに涼介の携帯の番号を押してしまった
渡されたメモは繰り返し見ていたからもうナンバ−は覚えている
声は震えていないだろうか,ちゃんと涼介さんと会話できているだろうか
焦りのあまりぶっきらぼうになってしまう
用件だけ聞くと即効で切ってしまった
 胸がどきどきする
「涼介さんが好きだ」
声を聞くだけで幸せになれる
本当は須藤さんのホ−ムコ−スの事とかは池谷先輩から聞いて知っていた
でも涼介さんと話がしたくて,声を聞きたくて,それだけのために電話してしまったのだ
「会いたい」
 プロジェクトに参加すれば一緒にいられる
一年間だけだけども
決心はついていた
一年でも一緒にいたい
少しでも涼介の事が知りたい
でもそれをどうやって涼介に告げたらいいのか,拓海には分からない

 日光でもバトルには涼介もかけつけた
拓海の走りを見て驚嘆する
ますます早くなった
コ−ナ−の攻め方に鋭さが増している
 欲しい
その思いが涼介を苦しめる
焦ってはいけない,
この前のように欲望にかられておびえさせてはいけない
拓海は,あれを無かったことにしてくれているのかその件については触れてこない
ということはまだ希望はあるのか?
返事が欲しかった
だが返事が恐くもあった

 拓海の返事を待つこと一カ月以上過ぎた
涼介にとっては拷問のような日々
拓海に会いたい,
会って抱きしめて好きだと告白しよう
プロジェクトに参加してくれなくてもいい
自分の気持ちを受入れてもらえなくても,それは仕方の無いことだ
だがこの気持ちだけは伝えたい
涼介は決意を固めて拓海の返事を待った

 涼介にプロジェクトの誘いを受けてから拓海の周囲では色々な事があった
もっぱら茂木なつきの事が中心である
茂木は健気なまでに拓海を慕ってくれた
「好きだから」
泣きながら拓海に告白してくるなつきが可愛いと思う
勇気を出してクリスマスの日に押しかけてきたり,ハチロクのマスコットを作ってくれたり
 もし拓海の心に涼介がいなかったら好きになっていたかもしれない
でも,駄目だ,
もう捕われてしまった
優しくて秀才でかっこよくて,無器用なあの人に拓海は心を奪われてしまった
 一年の期限でもいいと思えるほどに
拓海は涼介の携帯を鳴らす
返事をするから,というと涼介の沈黙が伝わった
秋名の峠で待ち合わせる
拓海は決意を固めていた
 涼介さんに好きだと言おう
気持ち悪がられても,それは仕方ない
でも,この気持ちが本当だと伝えて,それでもいいと言ってくれたら参加させてもらおう
受入れてもらえなくても,この気持ちを伝えられるだけで十分なのだから
勇気は茂木なつきがくれた
人を愛する一途さを茂木は体を張って教えてくれた
その思いに答えることは出来なかったけれども拓海の中でなつきは重要な位置をしめている
 きっと茂木とは一生友達になれる
告白して振られても,涼介さんとそういう関係になれるかも知れない
拓海は掌にぎゅっとハチロクのマスコットを握り締める
「茂木,俺にも勇気を分けてくれ」
マスコットは拓海にがんばれと言っている気がした


 秋名の峠で久しぶりに会う涼介さんはどこかやつれたみたいだ
「返事,遅くなってすいません」
恐縮する拓海に涼介は微笑みかけた
「いいんだ,そんな事よりも返事をもらう前に拓海に告白したいことがある」
真剣な涼介の顔に拓海が緊張した
「俺は,拓海を愛している,この前公園でしたことは本気だ,俺は拓海を欲しいと思っているんだ,ドラテクなどはプロジェクトで必要だと思っているが,俺個人として拓海を欲しい」
無器用な告白,でも思いが伝わってくる
「一年の期限付きプロジェクトだが,その後も,いや一生,俺に付き合ってくれないか,幸せにしてみせるから」唐突に拓海の瞳から涙が溢れ出した
やはり受入れて貰えないのか,と涼介が深くため息を漏らしたとき,拓海が返事をする
「俺,プロジェクト受けます」
そして,少し俯いて言葉を続けた
「本当のことを言います」
俯いた視線をまっすぐに涼介へと向ける
そして言いたくて言えなかった言葉を口にした

「俺も,涼介さんの事が好きです」


 春になったら色々な峠を走りにいこう
二人でいればどこまでも走っていけるから

end


普通の話を書こうとして
見事こけました
去年の春,映画の後に
書いたお話