「忍夜恋曲者」



伊香保という土地は歴史有る温泉街。
 昔,徳富盧花を初めとする文化人に愛されてきた風土は今も人々に癒しを与えてくれる。
 現世から離れたゆうるりと流れる時間が好まれるのであろうか。
 政治家や著名な人物がひいきにするのはこの群馬の片田舎の温泉街であった。

 

 

「高橋様,お待ち申しておりました,大旦那様も若旦那様もようこそおいでくださりました」
 番頭が手揉みしながら出迎える。
 還暦をとうに過ぎているであろう老人とその孫であろう青年は伊香保でも有数の老舗旅館の暖簾を潜った。
 政界を裏で操っていると噂される老人は矍鑠とした足取りである。
 その背後にひっそりと付き添う青年は漆黒の濡れた様な髪を持つ美丈夫。
 総身から穏やかな気配が漂っている。
「さ,奥の間を御用意致しております」
 老人と青年は慣れた様子で廊下を渡っていく。
 ここを贔にしているのであろう。
 老舗旅館の利点は客の扱いが丁重な事である。
 それはどの客にでも同じ対応をするという事であり,高名な人物であろうとも特別扱いはしないという意味でもあった。
 老人と青年はこの旅館のそういう気構えを快く思っていた。
 伊香保という土地のこの様な気風を愛してさえいる。
 老人は気紛れにこの温泉街に保養で訪れた。
 その時にいつもお供に連れてくるのがこの青年である。
 一流旅館の番頭や女中は噂話をしないものだが誰もが心の中で思っていた。
 老人の跡継ぎなのだろうと。
 いずれ日本の中枢を担うのはこの若者なのかと思うと接待するにも気を使うものだ。
 だがそんな事には気をかける風でもなく老人と青年は気紛れに老舗旅館に訪れた。

 

 

 老人が訪れると必ず旅館から置屋に連絡が入る。
 老舗旅館ともなれば置屋と持ちつ持たれつ,一流の芸妓を集めている老舗の置屋に手配をした。
 老人がお気に入りなのは藤屋の秋名。
 初めて秋名が座敷に上がった十三歳の時から老人は必ず秋名を指名する。
 それだけではない。
 他の客が秋名に不埒な真似をしないように裏で手を回している。
 老いらくの恋とはよく言ったものだ。
 老人が秋名に執着している事はこの温泉街での秘め事。
 注進する様な野暮な真似はしない。
 それがこの伊香保の流儀。
 そしてこれがこの温泉街の人気の秘訣でもある
「秋名,会いたかったぞ」
 夜の遊びは粋なものだ。
 金にあかせて若い女を呼び寄せる。
「おお,今日も可愛いのお」
 老人は一風呂浴びて生き返った後,芸者を呼び寄せて宴会を始めた。
 老人のお気に入りは藤屋の秋名
 まだ18歳の美少女である。

 

 

 秋名は清楚でありながら華やかな印象の美少女。
 あどけない表情で男を惑わせる存在。
 奇麗な着物を纏って秋名が座敷に到着すると老人は喜んで招き入れた。
「秋名はもう大人になったんじゃな」
 老人は皺の寄った指先で秋名の艶やかな手を撫でてくる。
 それは色を感じさせる物ではなくどちらかといえば老人が孫に接するような態度であった。
「お久しぶりです,旦那様」
 そう言った後秋名は付き添いの青年に視線を向けると頬を染める。
 秀麗な青年も目礼した。
 それは見るものにしか分からない程度であるが。
 彼の目には愛しい物に対する情愛が溢れていた。
 老人もそれに目を細める。
「若い者は若い者同士,秋名は涼介の相手をしておやり」 青年は秋名を連れて別室へと向かった。

「会いたかった,拓海」
「涼介さん」
 部屋に入ると同時に涼介は拓海を抱きしめた。
 着物が皺になると言って身を捩る拓海を逃さずに華奢な総身を包み込む。
「会いたくて会いたくて気が狂いそうだったよ」
 首筋に顔を埋めながら涼介は囁いた。
「俺も,会いたかったです」
 拓海も頬を染めながら小さく愛を呟いた。
「あっ涼介さんっ」
 性急に涼介の指先が着物の裾を割って入り込んできた。
「可愛いよ,拓海」
 恥ずかしさに身を捩る拓海。
「久しぶりに味あわせてくれるね,拓海を」
 指先は着物の下から拓海を撫で上げてくる。
「あっんっんっあちらの座敷には隠居様もいらっしゃるのに」
 襖で仕切られているが声が聞こえてしまう。
「大丈夫だよ,承知の上だ」
 老人は二人の関係に気がついている。
 というよりは若い二人の味方をしてくれているようだ。 13歳の時,秋名が初めて座敷に上がった時,涼介は秋名を見初めた。
 そして秋名も涼介に魅かれた。
 二人はその時からの関係である。
「あっ,ああ,いい」
 拓海は絶え切れずに喘ぎを漏らした。
 涼介の指が拓海の付け根に辿り着き蠢き出す。
「して,もっと」
 拓海が小声で涼介を誘った。
 その幼い媚態に涼介は笑みを浮かべた。
 涼介の指は更に大胆に動き回り拓海を悦ばせる。
「あっんっはあぁ」
 襟を押さえて快楽に耐えている拓海の手を払い涼介は強引に胸元を開いた。
「駄目,涼介さん」
「大丈夫だよ,後で着付けてあげるから」
 襦袢から拓海の甘く官能的な香りが立ち上る。
 涼介は拓海の胸に唇を寄せた。
 ちうっと吸い付くと拓海の肢体はびくびくと震えて桃色に染まる。
 涼介は耐え切れず胸の実にむしゃぶりついた。
「ああんっいやぁっりょうっ」
 声が隣に届くのを恐れて小声で喘ぐ拓海が愛しい。
 すでに太股の間はぐっしょりと蜜で溢れかえり涼介の指を濡らしていた。
 柔らかな恥毛から幼い肉芽が覗いている。
 涼介はそれを指の腹で弄ぶ。
「ふうっあっあんっ」
 涼介によって開花された幼い体。
 涼介以外の男を知らない淫らな体。
 涼介の内を愛しさが込み上げてくる。
「りょうすけさん」
 恥辱に震えながらも期待を隠せない表情が涼介の雄をそそる。
 涼介の屹立は熱く猛っていた。
 拓海の裾を割って大きく足を抱え込む。
「涼介さん」
 睫を濡らしながら拓海は涼介を見つめる。
「愛しているよ,拓海」
 拓海の嬌声を唇で塞ぎ一気にいちもつを蕾に突き入れて揺さぶる。
「あっあっふうっはあぁ」
 快感と羞恥の狭間で拓海は乱れ狂う。
 拓海の蕾はとろとろと蕩けるようでありながらもきつく涼介を締め付ける。
 極上の味であった。
 この体を知ってしまってはもう他では満足することは出来ない。
「いいよ,拓海」
 内壁が別の生き物のように涼介の雄に絡みつき蜜を奥に注いで欲しがっている。
「気持ち良い?拓海」
 腰を揺らして焦らしてやると拓海の奥はざわめき涼介を吸い上げるような仕種を見せる。
 小さくこくこくと頷きながら拓海はきゅうっと涼介にしがみついた。
「ああぁっりょうすけぇ」
 淫らな体。
 幼いながらも男を誘う術を知っている。
「あんっあぁっいいっ気持ち良いのぉ」
 着物の裾はすっかり広がり拓海の細い体を隠してくれない。
「愛しているよ,俺の拓海」
 抽送の度に拓海の体が薄紅色に染まる。
 まるで涼介の精液という栄養分を取り込んで咲く艶やかな華のようだ。
「好きっ好きっ涼介さん」
 快楽に翻弄され意識を飛ばしながらも拓海は健気に愛を囁いた。
 それに涼介は満足するとようやく拓海の求める物を降り注いだ。

 

 

 


「拓海君,今日お祭りに行かない?」
 放課後,帰宅しようとした拓海に同級生から声がかかる。
「今日,赤城神社の秋祭りでしょう,よかったら行こうよ,二人で」
 茶色い髪を指で弄りながらピンクのグロスを煌めかせて同級生の美少女は拓海を誘ってきた。
「ごめん,家の手伝いがあるから」
 拓海はしかし丁重に断わりを入れる。
 この少女,茂木なつきはこうやってよく拓海の事を誘ってくれるがそれに答えることは出来ない。
 何故なら本当に家の手伝いが忙しいのだ。
「拓海君の家って豆腐屋だったっけ」
 茂木なつきはつまらなそうに頬を膨らます。
「うん,配達とかあって」
 拓海がそどろもどろに言い訳していると親友のいつきが声をかけてきた。
「こいついっつもそう,昔から祭りには行けないんだよなあ」
 いつきの助け船に拓海はほっとした顔をする。
「え−っそれじゃあ家のお手伝いが終わった後は?ちょっと会えるだけでもいいんだけどな」
「・・・ごめん」
 なつきはしばらくの間ごねていたが拓海が折れる事が無いのが分かると去っていった。
 拓海はきょとんとしている。
 茂木なつきが何故自分を誘うのかいまいち分かっていないのだ。
 いつきはふうっと大きくため息をついた。
 こういう浮き世離れしたところが拓海の良いところではあるが。
 この地味で目立たないぽわんとした印象の少年は非常に人付き合いが悪い。
 いつも家の手伝いに借り出されていて夏の祭りも秋の祭りも遊びにいけないのだ。
「大変だよな,豆腐屋って」
 いつきが同情の視線を投げかけると拓海はのほほんっと笑った。

 親友のいつきにも喋ってしない拓海のトップシ−クレット,それは家の手伝いにある。
 拓海の家は3代続いた豆腐屋。
 それは本当の事なのだが拓海の手伝いはもっぱら母親の実家の方である。
 今は亡き母親の実家は古くから続く由緒正しい置屋であった。
 母を1歳の時に病気で失った拓海は祖母の営むこの置屋で育てられたような物だ。
 母親は傾城とまで言われた伊香保一の芸者であった。
 男の子は父親よりも母親に似るという。
 拓海は母親に瓜二つであった。
 余りの可愛らしさに誰もが女の子だと疑いもしない。
 拓海は置屋の客にも女衆にも愛されて育ったのであった。
 祖母は厳しい女性であるが拓海を娘の形見として大切にしてくれた。
 優しかったが厳しい祖母
 人間として必要な愛情や気配りを教えられる。
 置屋という特殊な環境であったからか。
 今時の若者のようながさつさは拓海には無い。
 控え目で人を思いやれる慎ましい性格に育った。
 男の子なのだからもう少し覇気が欲しいものだと祖母はよくこぼすけれども拓海の穏やかな気質は誰にでも愛された。
 確かに拓海は女子の様に可愛らしかったが。
 いや,そんじょそこいらの女など裸足で逃げ出すほどの美貌であったがそれでも拓海は男の子であった。
 そんな拓海が座敷に出たのは13歳の時。
 本来ならば起こるはずの無いアクシデントであった。

 それは5年前の夏祭り
 伊香保の神様を祭る神社で行なわれる祭りには多くの客が訪れていた。
 旅館は満客で賑わっている。
 当然接待する芸妓もてんてこまいであった。
 藤屋も猫の手も借りたい位の忙しさである。
 そんな時に一番の売れっ子である華奴が倒れたのである。
 猛暑のための熱中症であり休養すれば直るものであったが時期が悪すぎた。
 その夜,大切な乗客である高橋の御大の座敷が控えていたのである。
 そこいらの芸者では納得すまい。
 2番目を出せば藤屋の信用が落ちる。
 それは藤屋を贔にしてくれている旅館にも泥を塗ることになってしまう。
 華奴はこの温泉街でも一番人気。
 他の置屋から人気の芸者を借りてくることも出来ない。
 深刻な状態であった。
 昔でいえば華奴は花魁
 それに見合う同格の,否それ以上でなければ周囲は納得すまい。
「うちにまだ上げていない半玉でもいればねえ」
 祖父母は進退極まって10も老けこんだかのようだ。
 舞妓の初めての座敷などというおめでたい事でもあればこの失態は逃れられるであろうが生憎と藤屋には半玉がいなかった。
 今時の時世,芸者になりたがる子も高校までは進学するのだ。
 だから半玉のお披露目などここ数年は見られなかった。
「仕方ないわ,菅田屋さんに誤りにいってくるよ」
 祖父母が出かけようとしたその時,拓海が震えながら提案をしてきた。
「おばあさま,俺が座敷に出ます」
 その案に祖父母は仰天する。
「何を言っているんだい,拓海は男の子じゃないか」
「でも,俺まだ声変わりもしていないし背も低いから騙せると思うんです」
「ばれたらどうするんだい,この置屋が潰れるだけじゃないんだよ,あんたも晒しものになってしまう」
 しかし回りの姐さん達は拓海の提案に賛成してきた。「お母さん,やってみましょうよ,拓海ちゃんなら大丈夫ですって」
「私達の座敷を見て要領は心得ているでしょうし,拓海ちゃんなら失敗しませんよ」
「駄目で元々なんですから,それに拓海ちゃんならば立派にこなしますよ」
「拓海ちゃんの半玉,可愛いでしょうね」
「それこそこの祭りの目玉になりますよ」
 祖父母は最後まで反対したが結局拓海の熱意に折れた。
 拓海はなんとしてもこの祖父母の,良くしてくれた置屋のみんなの役に立ちたかったのだ。
 それから後,目の回るくらいの忙しさであった。
 急ぎ父親の文太に了承を取る。
 断固反対するかと思った父親は意外な事に面白がった。
「芸者なんて若いうちしかやれねえんだ,せいぜい客を騙してこい」
 そう言って応援までされてしまう。
 祖父母は急ぎ組合会に行き拓海の初座敷の事を伝えた。
 その報告に町内は盛り上がる。
 何年かぶりの初芸妓。
 この祭りの目玉となることは間違い無い。
 拓海は姐さんによって感嘆な作法を教えられ豪奢な振袖を着付けられる。
「いい,拓海ちゃん,今日は拓海ちゃんの初座敷なんだからね,お客様は偉い方だけれども今日の主役は拓海ちゃんなの,拓海ちゃんは最客なのよ」
 意味が分からない拓海に姐さん達が諭す。
「お客様はね,拓海ちゃんの芸妓入りをお祝いしてくださるのよ」
 御祝議もすごいでしょうね,といって姐さん達ははしゃいだ。
 もう馴染みの旅館や仲間の置屋,町内の様々な店から祝いの品が届き始めている。
「拓海ちゃんの座敷はね,高橋様のお座敷,いいわあ,この伊香保一のお座敷なのよ」
 著名な人物の集まるこの伊香保でも高橋様のお座敷は別格なのだと姐さん達は噂する。
 拓海は秋名と名付けられ座敷に上がることとなった。

 

 


 高橋の老人はこの伊香保の湯を事の他気に入っている。
 いつも休養を取るときには自慢の孫を連れてこの温泉街に足を運んだ。
 お付の者も連れず孫に運転をさせて温泉に向かう。
  経済界の大物である高橋老人はこの祭りを楽しみにしている。
「弟はどうした?」
 祖父の言葉に孫は苦笑した。
 まだ遊び盛りの子供である弟は退屈な温泉保養地を嫌がって遊びに行ってしまったのだ。
 まさか逃げましたとも言うわけにはいかない。
「全く啓介はじいちゃん孝行をしようとはせん,けしからん」
 ぶつぶつ文句を言う祖父であるが弟の事をとても可愛がっているのを兄は知っていた。
 もちろん弟も祖父に懐いている。
 ただ,やはり遊びたい年頃なので友達と祭りにいきたいのだろう。
 兄とて遊びたい年頃ではあるが分別は弁えていた。
 自分の立場を自覚している。
 祖父もそんな孫に満足していた。
 彼は高橋の名を継ぐのだ。
 子供らしい遊びをさせてやれない事は不憫に思うが甘えは許されない。
 こうやって保養地に来ていたとしても。
 老人は伊香保で馴染みの政治家や経済界の重鎮に孫を面通しさせるのだ。
「先程旅館から連絡が入りましたけれど」
 今宵の座敷に半玉が上がるらしいと祖父に伝えると老人は楽しそうにからからと笑った。
「こりゃあいい,その半玉の相手は涼介,お前に任せるぞ」
 じじいに付き合ってばかりいないで女遊びをしろと言って老人は目を細めた。

 

 

 拓海は町内のこれからお世話になる店に挨拶でまわった。
 呉服屋であったり酒屋であったり様々な店を回る。
 いい旦那様を見つけて着物を買ってもらうとなればこれからの御贔さんになる訳である。
 一見関係無い店に見えても全て温泉街はどこかで繋がっている共同生命体なのだ。
「ほんに奇麗な舞妓じゃ」
「お人形さんみたい」
 こうして町内を引き回されお披露目を済ませると石段を登り神社で伊香保の神様に座敷に上がるお許しを頂くのだ。
 着慣れない着物に重い鬘で街中を引き回され,神社で神主に祝される頃には拓海はふらふらになっていた。
 だがこれからが本番である。
 伊香保でも一を誇る菅田屋に向かう。
「大丈夫よ,拓海ちゃん,私達がフォロ−するからね」
「唯微笑んでいればいいのよ」
 姐さんの芸者に付き添われ拓海は座敷へと上がった。

 

 


「まるで京人形のようじゃな」
 緊張で身を固くしている拓海を見て老人は気に入ったらしい。
「最近の若いのは行儀がなっとらんが,この子はええのぉ清楚で品がある」
 拓海を事の他お気に召した様子。
「まだ旦那もおらんのじゃろう,初座敷のよしみじゃ,わしが引き受けよう」
 高橋の御大の後見を得れば恐いもの無しである。
 だが拓海は唯恐ろしくて姐さんの裾をきゅっと掴んでしまう。
「名はなんと言う?」
 優しく質問されてようやく拓海は老人の方へ顔を上げた。
 芸者遊びをする旦那様というにはひょうひょうとしていて好好爺の老人に拓海は少し安心したのか震えながらも気丈に答えた。
「秋名と申します」
 そしてついっと瞳を涼介へと向けた。
 その美丈夫ぶりに自然と頬が赤らんでしまう。
「なんとおぼこい事じゃ,可愛いのお」
 そんな拓海の初な仕種も老人は気に入ったらしい。
「いい男じゃろう,これはわしの孫で涼介というんじゃ」
 拓海はぺこりと頭を下げてよろしくお願いしますと小さく挨拶をした。
 これが涼介と拓海の初めての出会いであった。

 

 

「まるでお人形のように可愛らしくてびっくりしたんだよ」
 涼介はその時の事をこう言う。
「あまりにも愛らしくて長いこと手が出せなかった」
 幼すぎて汚すことが出来なかったと言う。
 実際に出会ってから真の意味で結ばれたのは3回目の夏祭りの事であった。
 体の繋がりを恐れる拓海。
 それは幼いからゆえだけではない。
 どれほど偽ったとしても性を変えることは出来ない。
 男であるにも関わらず芸者として騙している罪悪感から拓海は涼介に別れを告げようとしたのだ。
「そんな事は些細な事だよ」
 知っていたと涼介は言った。
 初めて会った時から気がついていたと。
「多分祖父も感付いていらっしゃる」
 あの聡い老人が気がつかない訳がない。
 それでも拓海の主人になると申し出たのはあまりにも拓海が愛すべき存在であったから。
 これは自分が加護して育ててやる華だと決めたのだろう。
 孫が一目でこの半玉に心を奪われた事も当然お見通しである。
「拓海が男であろうと女であろうと愛している事には変わりない」
 涼介はそう言い切って拓海を抱いた。

 

 

 お互いの鼓動を感じながら隠れるようにして入った所はいつもの菅田屋では無いこぢんまりとした旅館であった。
 部屋に入ると同時に涼介は拓海と唇を合わせた。
 淡い色のふっくらとした唇。
 ずっと夢に見ていた味だ。
 口を合わせるのも初めてなのか拓海は上手く息継ぎが出来ずに喘いでいる。
 涼介は舌でノックするかのように優しく突いて拓海に口を開けさせた。
 入り込んでくる舌に拓海は怯える。
 そんな拓海の幼さが愛しくて涼介は拓海の口腔を丁寧に舐め回した。
 そして奇麗に着付けられている着物の裾を捲りきっちりと揃えられている脚の間に己の膝を割り込ませた。
 淡い藤色の襦袢が翻る。
「俺を受け入れておくれ,拓海」
 白磁のごときなめらかな股に手を這わし涼介は拓海を愛撫する。
 男だと分かっていても性を感じさせない拓海の肢体に目が眩みそうだ。
 涼介は拓海の肩に顔を埋め舐めては吸い付いた。
 項に淡い跡を付けていくと征服欲が満たされる。
「ああ,いい匂いだ」
 透けるように白い肌に執拗なくらいに跡を残しながら涼介の指先が淫靡に蠢いた。
「あっそこは駄目っああぁ」
 淡い果実に涼介の指が伸びた時,初めて拓海が抵抗を示した。
 しかしそれは涼介をいっそう煽り奮い立たせる事にしかならない。
 ついっと爪の先で涼介は果実をなぞる。
「駄目ですっそこだけはっああぁ」
 想像していたのよりもずっと幼い果実であった
「いやっそこだけは」
 秘密の花園に入り込んでくる涼介に困惑する幼い拓海。
「拓海の全てを見せて貰うよ」
 熱い吐息を吹きかけながら涼介は拓海の足を大きく割り開かせた。
「見ないで,いやぁ」
 拒絶の言葉が涼介を煽り立てる。
 襟元を思いきり広げて涼介は拓海の乳首に吸い付いてきた。
「ああぁっんっ,んん」
 拓海は必死になって涼介の頭を押し返そうとする。
 食べてしまいたいくらいに愛らしい突起を舌で弄びながら涼介は下の果実の先端をまさぐった。
 まだ生え揃っていない恥毛をしとどに濡らして尖ってしこりのある拓海の果実は蜜を滴らせている。
「濡れているね」
 涼介は指を拓海の目の前でひらひらと飾した。
「甘い匂いがするよ」
 くんっと鼻に近づけて香りを楽しんでいる涼介の態度は拓海の羞恥を倍増させる。
 まるで牡丹のように赤く染まった拓海の頬に涼介は口付を繰り返しながら指を拓海の双丘の間で息づいている秘蕾へと近づけた。
「なっなにっあっ」
 自分でも触れたことのない場所への突然の愛撫,
 拓海は知らずに抵抗するそぶりをする。
「男の子はね,ここで愛されるのだよ」
 拓海の愛液で濡れた指が秘蕾に潜り込み肉襞を蹂躙していく。
「やめて,お願い」
 あまりの羞恥に拓海の瞳から涙が零れる。
「拓海,目を開けて,こちらを見るんだ」
 優しいいつも通りの涼介の声
 拓海はおずおずと目蓋を開けた。
「俺を見ていれば恐いことなんて何もないよ,今から拓海と俺は一つになるんだから」
「ひとつに?」
「ああ,拓海はここで俺を受け入れる」
 言葉と共に涼介の熱く猛った屹立が蕾を突いてきた。
「あっああぁっひいっ」
 恋こがれていた男の肉棒がずくずくと入り込んでくる。
 強引な挿入に激痛が走るがその痛みさえも快楽になっていく。
「いけないっああっこんなこと」
 拓海は迫り上がってくる快感に体を強ばらせる。
「食べてしまいたい」
 涼介が荒い息の下喘ぐように囁く。
 この幼い体の蜜をしってしまったらもう抱くだけでは足りない。
 拓海の全てを食らいつくして自分の物にしてしまいたいという凶暴な思いが涼介を浸食する。
「ああぁっあんっひっひい」
 初めての拓海相手になんと酷い抱き方をしているのだろうか。
 自覚はあるが涼介は激情のままに腰を動かした。
 突き入れ,抜いては奥まで捻り込む。
 赤く充血した乳首に吸い付き,甘噛みしながら涼介は溺れていく自分を自覚した。
 拓海の内壁は極上の蜜壺である。
 どんな女も真似出来ないような淫猥な動きで雄から精液を絞り取る。
 初めてだというのに拓海は秘蕾で快感を追っていた。
 ひくひくと収縮を繰り返しながら疼いている秘蕾。
 涼介の肉棒で満たされるために存在しているような錯覚すら覚える。
 今までの禁欲的なプラトニックな思いに加えて肉欲が涼介を支配する。
「涼介さんっああぁっあんっあ」
 鼓動を高鳴らせながら拓海は蜜をほとぼらせる。
 放出の瞬間に秘蕾がきゅうっと締まり涼介も耐え切れず拓海の奥に何度も射精をした。

 初めての夜は二人の隠れた思いを表わすかのように激しかった。
 この時からずっと二人は大人の関係を続けている。
 そして体を重ねれば重ねるだけ愛しさは募っていった。