「WILD AT HEART」

「なんなんだ−っこれは一体?」
啓介は絶叫を上げて海老ぞりしていた。
一体全体自分に何が起こったのか分からない。
分からないというより分かりたくないといった方がこの場合は正しい。
場所はとあるホテル。
こういうシチュエ−ションによく使われる,
まあはっきり言ってみればラブホテルである。
啓介とてお子様ではないのだからこの状況はちゃんと分かっているのだが。
問題は相手であった。
背中を向けて寝ている相手はどう見ても男にしか見えないのだ。
「やべえ,俺やっちまったのか」
少年の背中や項には赤いキスマ−クが多数ついている。
もちろんつけたのは啓介に間違いない。
どうやら啓介は酔った勢いでこの少年とベットインしてしまったらしいのだ。
どどどどどっと冷や汗が噴き出してくる。
男として21年,
それなりに女と寝てきた啓介であるが男相手にこういう事は初めてである
すっきりと体に残る爽快感がしっかりやってしまったことを物語っていて・・・
「うおおおお−っ俺はホモになっちまったのか−」
啓介は情けなくもベットに突っ伏した。
この場合の救いはやられたではなくやってしまったという事なのだろうがどっちにしても最悪の状況だ。
「ううんっ」
横にいた少年が身じろぎした。
ざざざざざっ
啓介は思わずベットから転がり落ちてしまう。
どたっ
その音に少年は覚醒したらしくゆっくりと啓介の方に顔を向けた。
「藤原−っ?」
驚くべきことにこちらへ顔を向けた少年は啓介の永遠のライバルである藤原拓海であった。
まさかそんな馬鹿な・・・
啓介は口を開けっぱなしで驚きほうけている。
そんな啓介を見ると拓海がはんなりと笑った。
「あ,おはようございます」
「おっおっおはようじゃなくて−っなんだよっこれ」
動揺しまくる啓介に拓海は眉を潜める。
「まさかとは思うがもしかして俺達・・・やっちまったのかよ」
単刀直入なその質問に拓海は真っ赤になって俯いた。
どっどっどっどっ
血液がものすごい勢いで頭に上ってくる。
その頭の中にはホモの一文字
さぶのにいちゃんがくんずほぐれず,すね毛を絡ませて呻いているシ−ンやふんどし一丁で兄貴っなんていう一般的なホモのイメ−ジが沸いてくる。
薔薇の花に囲まれた嘆美な美少年がレ−スに囲まれて先輩っとか,啓介の貧困なイメ−ジ思いつく限りのホモが頭の中を駆け巡る。
「げえええ−っ」
昨日のビ−ル,チュ−ハイ,ブランデ−,日本酒が一気に上がってきた。
口元を押さえてトイレに駆け込む啓介。
「うええええ−っげろげろ」
思いっきりえづく啓介を呆然と見つめる拓海
「げええっ俺ホモになっちまったのかよ,きもちわりい−っげろげろ」
便器につっぷす啓介に拓海は冷たい視線を投げかけた。「・・・悪かったな,男で」
地をはう拓海の言葉に啓介が真っ青な顔で振り向いた。そこには啓介よりも血の気のない表情で拓海が睨み付けている。
「責任とれなんて言わないから安心しろよ,じゃあな」動くのも辛そうなのに拓海は素早く洋服を着るとトイレにいる啓介を残したまま部屋を出ていった。
呆然とそれを見やる啓介。
「やべえ,俺藤原に何しちまったんだ?」
啓介は死ぬほど昨日の事を後悔した。

 プロジェクトの打ち上げ。
圧倒的な勝利を納めたこの遠征で皆は喜びに祝杯を重ねる。
誰もが盛大に酔っ払っていた。
啓介も過去にないくらい酔っ払って近くにいたダブルエ−スの片割れにからんでいたのは覚えている。
なんの話からだったか女についてになり,拓海の彼女の話題へと移った。
駄目になったという拓海の酷く悲しげな態度に啓介はなんといったか。
「よ−しっこういう時は遊ぶに限るぜ,大人の遊びを教えてやるからな,藤原っ俺のFDで出かけるぜ」
飲酒運転などと固いことを言ってはいけない。
酔った勢いから啓介は拓海を引き摺るようにして自分の愛車に乗せると発展場へと繰り出したのであった。
この場合の不幸は誰もが酔っていたために啓介を止めなかった事である。
皆が啓介の悪い冗談だと思っていたのだ。
もちろん啓介自身もまだ童貞であろう拓海にソ−プの楽しさを教えてやるくらいの気持ちであったのだが。
「それがどうしてこうなるんだ−っ」
断言して啓介はホモではない。
生まれてこのかた男にいいよられはしてもその気になったことなど一度もないのだ。
後輩などからお兄様と呼ばれても鳥肌しかたたなかった啓介である。
もう一つの不幸は止めるべき涼介がこのところ大学が忙しく宴会に欠席であったことであろう。
「まじかよ,」
啓介は深くため息をつくと起き抜けの一服で気分を落ち着かせる。
何故相手があの藤原なのか。
秋名のダウンヒルで抜かされていらいずっとライバルだと心に決めてきた相手である。
18歳の若葉とは思えないダウンヒルキラ−
啓介ですら舌をまくあのドラテク
プロジェクトのエ−スの座を巡ってのライバル
なのに俺はあいつとやっちまったのかよ
信じられない。
確かに藤原はかわいい。
男にしてはやけに整った顔で同姓にも変な人気がある。だけどあいつは男なのだ。
俺とおなじものをもっている男なのに啓介はどうやら拓海をやってしまったらしいのだ。
このすっきり感からして一回ではない。
少なくとも三回・・・
「っ,最低だ」
ホモになってしまったという驚愕と相手が藤原拓海だという困惑で啓介はぐるぐるしていた。


「信じらんない,あの男」
傷む体で無理してやっとの思いで帰ってきた自宅で拓海は怒りに身を震わしていた。
無理矢理連れ込まれたホテル。
啓介は拓海を押し倒すと甘く囁いてきた。
「愛している,ずっと好きだったんだぜ」
そんなことを面と向かっていわれるのは初めてでびっくりする拓海を抱きしめて啓介は何度も何度も告白する。「好きだ,お前が好きなんだ,俺の物になってくれよ,なあ拓海」
愛していると何度も囁かれて驚いている間に何時の間にか啓介の手は拓海をまさぐってくる。
「ちょっと啓介さん,駄目だったら」
「なんでだよ,いいじゃんか,俺は拓海の事が大好きなんだから,いいだろ」
あんまりにも真剣に言われて拓海の心がほぐれる。
愛しているというアルコ−ル臭い吐息が何故かせつなくて,気がつくと拓海も啓介の背中に手を回していた。
「なのに,あんまりだよ」
完全な酔っ払いだったのだ
目が覚めて正気に戻った啓介の態度は最悪
ホモだ−っとわめいたあげくにげろしやがった。
信じらんない
愛していると囁いたその唇で気持ち悪いと言ってのける傲岸不遜な高橋啓介,
「大嫌いだ,啓介さんなんて」
枕に突っ伏す拓海の瞳から涙が溢れ落ちる。
もう二度と信じてやらない
愛していると言われてどんなに嬉しかったか。
なのに啓介のこの仕打ちはあんまりだ。
遊ばれたんだ,からかわれた
拓海は啓介なんて嫌いだとつぶやきながら泣き寝入ったのであった。


 プロジェクトDのミ−ティング
啓介は大変気まずい思いを味わっていた。
藤原拓海とどう接したらいいのか分からないのだ。
ここで一発笑って冗談で済ませようとは思うのだが当の藤原が啓介に近寄らない。
普段通りの態度でいる拓海ではあるが絶対啓介と二人きりになろうとしないのだ。
「なんなんだよ,あいつは」
煙草をひっきりなしに吸いながら啓介はぼやいていた。
なんとか誤ろうと思うのに相手は完全に啓介を無視している。
無視というのとはちょっと違うのかもしれない。
啓介が話しかければちゃんと答えるし普段の仏頂面であるが視線も合わせてくれる。
でもそれだけ。
声をかけようとすると絶妙のタイミングで逃げられる。
「おいっ藤原,ちょっと話が」
と啓介の一言に
「あっ,すいません,今松本さんに呼ばれているんで」
といってするりと啓介から離れていく。
どうせ松本との話なんて大した事ねえんだろっ
と言うにはあまりにも自分のやったことがなさけなさすぎて拓海を逃がしてしまう。
こういう状態は啓介は好きではない。
はっきり言って苦手である。
黒は黒,白は白とはっきりさせないと気がすまない性分なのだ。
「ええいっもう知らねえ,どうぜあいつだって遊びだったんだしな」
男相手に言い訳もなにもないだろう。
遊びのマスタ−ベ−ションの延長みたいなもんなんだからな。
啓介はそう無理矢理納得づけたのであった。

 最悪の精神状態にありながら啓介はヒルクライム,拓海はダウンヒルで今日のバトルも勝利を納める。
勝ったとあれば当然のお約束で宴会が待っていた。
「啓介さ−んっすごかったですね,今日も圧勝じゃないですか,さすが−」
目をきらきらさせながらケンタが酌をしてくる。
「おう,あたりめえよ,俺はDのエ−スだからな」
意気揚々と祝杯を上げる啓介はすっかり先程の悩みを忘れていた。
ちらりと見ると拓海は相変わらずの無表情でもくもくと酒を飲んでいる。
ちっ面白くねえ奴
「本当に啓介さんってかっこいいですよね,俺ほれなおしちゃいました」
横でケンタがしきりに啓介を誉めたたえている。
それを聞き流しながらも啓介の思考は拓海に向かっていくのを止められない。
もう少し楽しそうに酒飲めよな。
なんだよ,そんな顔してて酒まずくなるだろうが
これならケンタの方がよっぱど可愛げがあるぜ
横のケンタは確かに顔も可愛いし性格も素直だ。
だが今の啓介が気になるのは藤原拓海である
その時松本に何か話しかけられて拓海が密かに笑った。控え目な微笑に啓介の視線が釘付けになる
なんだよっあいつ俺にはあんな顔して笑ったことなんか一度もないくせに
また苛々もやもやした気分が胸を押し上げてくる。
手近にあったコップをぐいっと開けるとケンタがすかさず注いできた。
「啓介さ−ん今晩はとことん飲みましょうよ,俺が介抱してあげますからね」
ハ−トマ−クを飛ばしてしなだれかかるケンタを横に啓介はものすごい勢いでグラスを開けていった。

 さっきから気になって仕方なくてちらりっと横目で伺えば啓介はケンタと楽しそうにいちゃついていた。
信じらんないあの神経
俺と寝ちゃったのかつい先週の事なのにすっかり奇麗に忘れてくれて楽しそうにケンタとじゃれている。
やっぱり誰でもよかったんだ。
そういうエッチな気分になったときにたまたま隣に拓海がいたからお遊びで手を出してきたに違いない。
それで拓海がどんなに悩んだかなんて分かろうともしない啓介が憎たらしい。
拓海にとって啓介は嫌な奴だった。
最初にバトルしたのも啓介ならばライバルになってしまったのも啓介。
いつもなんかわからないインネンをふっかけられてこっちが戸惑っているうちに勝手に怒ってどなっていく。
いやな奴,でも気になる。
拓海が絶対持ちえないパッションを啓介はぶつけてきた。どうしてこんなに熱くなれるんだろう。
疑問と羨望が入り混じる。
拓海には啓介のその情熱が羨ましかった。
走り屋ということにプライドを持ち走ることに全てを傾けている啓介がまぶしい。
ライバルと言われて少しだけ,本当に少しだけだが嬉しかったのも事実だ。
だからあの晩,拓海は啓介が自分の体に触れるのを許したのだ。
愛しているといわれて心が震えた。
あの情熱がまっすぐ自分に向かっていると思うと誇らしくすら思えた。
初めての体は悲鳴をあげたがそんな事は気にならないくらい啓介は夢中で拓海を求めてくる。
それが嬉しい。
啓介の熱を受け入れると拓海の内からも熱い思いが溢れ出した。
男同士なのに,何故かとても幸せだったあの夜。
その後が最悪。
「ホモで悪かったな」
俺をホモにしたのは啓介さんなのに,ぼやく拓海の独り言に酔った松本が顔を向けた。
「なんだ?藤原−?なんか言ったか」
「いいえ,なんにも」
にっこりと笑うと拓海は視界の隅でこっちを睨んでいる啓介をきっぱり無視することにした。

 ホテルでは皆一人部屋を与えられている。
拓海は寝ようと枕元のライトを小さくした時に壮大なノックの音が鳴り響いた。
ドンドンッガンナンッ
こんな夜中に何事だ?火事か?
拓海が慌てて扉を開けるとそこには完璧に酔っ払った啓介が立っていた。
「なんですかっこんな夜中に,近所迷惑ですよ」
「・・・部屋に入れろよ」
啓介はすっかり酒につぶされているらしく目が座っている。
本当はこんな状態の啓介を部屋にいれたくなかったが入り口で騒がれても困るので啓介を招き入れる。
「それで,なんですか,話なら早くしてくださいよ」
拓海の怒りにも気がつかず,啓介はぼりぼりと頭をかいた。
「この前のこと誤ろうと思ってよ.悪かったな」
「いいですよ,そんな事,誤ってもらうことでないですから」
「でもよ−っやっぱ寝覚め悪いし」
「いいですって言ってるでしょ,しつこいなあ」
邪険な言い方にむっとする啓介。
せっかくこっちが殊勝にも誤ろうとしているのになんなんだよ,この態度は
やっぱ藤原は可愛くねえ。
「でもよ,お前も悪いんだぜ,」
「・・・何が?」
「お前ってなんかそそるんだよな.こう色っぽいというかなんちゅうか,むらむらするんだよ,うん むらむらするぜ」
酔っ払いに何を言っても無駄というが今の啓介は自分が何を言っているのか理解していないに違いない。
「なんだよっそれって俺が誘ったって事かよ」
「当たり前だろ,この高橋啓介がそうでもなきゃあ男相手にする訳ねえじゃん,やっぱお前が色っぽいからいけないんだ」
啓介は訳のわからない理屈でふんふん頷いている。
「啓介さん超酔っ払っているよ,もう部屋帰って休みなよ」
拓海は脱力すると啓介を部屋に帰そうとした。
そんな拓海を啓介は力任せにぎゅ−っと抱きしめる。
「ちょっと啓介さんっ痛いって」
「やっぱ藤原が悪い,だって俺今もお前のフェロモンにビンビンになっちまった」
ぎゅうっと抱きしめる啓介の股間が大きく膨らんでいる
。「やめろって酔っ払いが」
もがく拓海を逃すまいと力を強めて啓介は囁いた。
「やらせて,拓海」
拓海の体から力が抜け落ちる。
何故だか分からないが啓介にこう耳元で囁かれると拓海もエッチモ−ドに入ってしまうのだ。
「なあ,お願い,一回だけ」
愛しているよ,と啓介の唇が形作る。
それが拓海には切なくて切なくて
「いいけど・・・一つ条件がある」
「なになに?やらしてくれんの?,どんな条件でも聞いちゃうぜ」
うきうきする啓介に拓海はため息と共に答えた。
「俺とエッチするのはいいけど絶対好きとか愛しているとか言うなよ,そういうのは一番大切な人のためにとっておかなきゃ駄目なんだから
こんな男同士の遊びで言われたらしらけるだけだろ」
つまりリップサ−ビスはいらないと言うことだ。
「うん分かった,だからなあ拓海,ベットいこうぜ」
酔った勢いであまり深く考えもせず啓介は了解すると拓海をベットに連れ込んだ。
拓海は一瞬切なげな表情を見せたが啓介に誘われるまま体を開いたのであった。



 ミ−ティングが終わった後,二人は待ち合わせてファッションホテルへと向かうのが定番となりつつあった。
「あっんっはあっ」
拓海が濡れた吐息を漏らして啓介にしがみついてくる。そんな初々しい仕種が可愛くて啓介は思いっきり腰を突き入れた。
「ひっそんなっあっ」
性急に腰をグラインドさせると拓海が首をふって乱れていく。
「すげえいいっ最高」
啓介が夢中になるのも無理はない。
拓海と啓介の体の相性は抜群だった。
最初の夜から感じてしまった拓海は啓介によってどんどん開拓されていく。
「たく,男のくせに色っぽい体しやがって,ちくしょう,もうもたねえ」
何故か拓海とすると啓介はいつもより堪えしょうがないようだ。
がつがつと子供じみたセックスの仕方しか出来ない。
本当ならもっと余裕をもってと思うのだがいざ拓海とホテルに入ると即エッチモ−ドに突入してしまうのだ。
きゅうっと拓海の蕾が啓介を締めつけてきた。
「うっそんなにしたら出ちまう,おいっ拓海,緩めろって,食い千切る気かよ」
啓介の言葉が聞こえないのか拓海はますます蕾を締めつけると密かに腰まで振り始めた。
やばいっこのままでは情けない事に
急いで拓海の果実に手を伸ばすとしごいて追い上げる。
「ああっああんっけいすけぇ」
甘い悲鳴を上げて拓海が達すると同時に啓介も奥に思いきり発射した。


「ふう,あ−疲れた」
セックスの後の一服は上手い。
ベットで煙草をふかしながら啓介は満足していた。
 藤原拓海とひょんな事から寝てしまってパニックを起こしたが考えてみると藤原は最高のセックスの相手であった。
体の相性は抜群
女にはない極上の締まり
色白で肌理の細かい拓海の肌は男とは思えない。
女だったら惚れてたなっと啓介はぼんやり考える
男同士だから感じる処は分かっているしなんといってもセックスの後のあの女との面倒くさいやりとりがなくていい。
ちょっとエッチなスポ−ツでもしているくらいの軽い気持ちで啓介は思っていた。
男だから後腐れなくていいしそれにあれ,生で中だしできるのが最高
ホモだなんだと騒いだわりにはまってしまった啓介であった。
「それじゃ,俺帰るから」
シャワ−を浴びて拓海が帰り支度をしている。
「おう,また次のミ−ティングでな」
拓海はそっけなく用意を済ませると部屋を後にした。
「なんかあいつっていっつも不愛想なのな」
一人残された啓介は何故か置いていかれたような寂しさを感じる。
エッチの最中は最高にいやらしくて泣いて啓介を欲しがるくせに終わるとさっさと帰っていく。
「もう少し余韻を楽しんでもいいじゃねえか」
なんとなくそれに不満を感じて啓介は新たな煙草に火を付けた。

 蕾の奥に啓介の余韻を感じながら拓海はハチロクを運転していた。
会うごとに啓介の新しい魅力を発見してどきどきしてしまう。
やんちゃでガキなだけだと思っていたら以外と大人の男で優しいところもある。
ぎゅうっと抱きしめてくれるその温もりが拓海を安心させてくれた。
どんどん啓介に魅かれていく。
そして同時に冷たい男だとも感じた。
遊びだといって男を抱ける奴なのだ。
遊びなれているとは思っていたが快楽に正直で拓海の体を我武者羅に求めてくる。
夢中で拓海を貪った後に遊びなのだとしれっとして言うことの出来る冷たい奴。
なのに拓海は啓介を突き放す事が出来ない。
もう何故なのかは分かっていた。
「好きなんだ,俺,啓介さんの事が」
拓海自身でも気がつかなかった淡い思いに強引に気づかせたのは啓介である。
「でも啓介さんは俺の事を好きじゃない」
心の伴わないセックスは最中は気持ち良くても後にはむなしさが残る。
だから拓海は極力啓介を見ないようにして逃げるように部屋を去るのであった。
それでも次に誘われたらきっと自分はオ−ケ−してしまうのだろうな,
と自嘲の笑みを残しながら拓海はハチロクを運転していた。

 次のミ−ティングが待ち遠しい。
啓介はうきうきしながら今晩の情事に頭を巡らせていた。
2週間前に会ったきりだから溜まっている事このうえない。
「あ−っ早く藤原とエッチしたいぜ」
あの体を思う存分あえがせられると思うだけで海面体が充血してくる。
鼻血まで出てきそうだ。
(あっいやっけいすけぇっはやく)
今晩はじらせまくって泣かせてやろう。
啓介を欲しがって腰を振る拓海は壮絶に男をそそってくる。
にやにやしている啓介にクラスメイトが声をかけてきた。
「啓介,久しぶりね,最近ごぶさたじゃない」
顔をあげるとそこには美香が立っていた。
それで啓介はやっとここが大学の教室なのだと思い出した。
「よう,美香じゃんか」
美香というのは大学の同期のけっこういけている女友達である。
ここだけの話何回かベットインまでいった仲であった。
セックスした後のさばさばした美香の態度が気に入って時々お世話になっている相手である。
「このところ遊んでいないんじゃない,みんな言っているわよ,啓介がまじめになったって」
「馬鹿言え,なんかようかよ,美香」
「そうそう,今日合コンがあるの,メンバ−足りなくて,啓介が出てくれると助かるんだけどな」
「合コン?あ−っ駄目だ,予定埋まってるわ」
美香がふっと笑った。
「なんか最近変な噂あるのよね,啓介が最近遊ばないのって本命が出来たからじゃないかって」
どきっ
何故か心臓が高鳴ってしまう啓介
「なっなにいってんだよ,俺は走り屋の方が忙しいんだからな」
「そうなの?噂じゃ啓介と一緒に走っている男の子,すごい可愛いんですってね」
意味深な美香の態度にむっとする啓介である
なんでこいつ拓海が可愛いって事知っているんだ?
「啓介が遊ばないのってその子が原因じゃないかって噂流れているわよ」
「・・・なんだよそれ」
「だって,峠にギャラリ−にいった子からの情報だと啓介とその子すごく仲いいんでしょ,女の子達みんな喜んでいるわよ」
何時の間にそんな噂が流れていたのか?
俄然と啓介の中に反抗心が芽生えてくる。
「んな訳ねえだろ,藤原は男だあぜ,しょうがねえから今日のコンパいってやるよ」
「ラッキ−,啓介がいくと女の子喜ぶわよ,それじゃあ8時に待ち合わせね」
店の場所を教えると美香は嬉々として啓介の元から去っていった。
なんかはめられたような気がしないでもないが,最近拓海にかかりっきりで遊んでいなかった事を思い出す。
「あんま藤原ばっかにかまっているとホモになっちまうもんな,まあいいか」
ここは一発可愛い女の子と遊んでホモの汚名を晴らすのだ。
そう決意する啓介だが何故か足取りは重かった。


「啓介さん,今日は欠席なんですか?」
ミ−ティングの席,あの派手な黄色い頭が見当たらなくて拓海が尋ねると広報部長の史浩がため息をつきながら教えてくれた。
「啓介の奴,今日は合コンだから駄目だってよ,あいつはダブルエ−スとしての自覚に足りないな」
確かにこのミ−ティングは軽い打ち合わせで欠席しても支障のでるものではないが。
「・・・そうですか」
答える拓海の声はとても寂しそうだった。

 立たない。
あまりの情けなさに啓介は悔し涙まで出てきてしまう。女は怒って帰ってしまった。
「あたしなんかじゃ立ちもしないっていうのね,馬鹿にして」
いや,そういう訳ではないんだが,
と弁解しようとする啓介であるが肝心の息子がいっこうにうんともすんとも言ってくれない。
はああ,高橋啓介人生最大の危機。
 合コンはさすが美香が主催するだけあって相当レベルが高い。
女は一流企業のオ−エルや女子大生のお嬢様
野郎も一流大学の三高のおぼっちゃまぞろい
中でも啓介は女達の注目の的である
そりゃあそうだ.
一応これでも一流大学,顔はいいしちょっとワイルドで遊びなれていそうなところが女の征服欲を誘う。
極めつけは某大病院の次男
次男ってところがみそである
こんなお特な物件いまどきそうそう転がっているものでは無い。
水面下の攻防の末,啓介をゲットしたのは大学生モデルをやっている恵子ちゃんであった。
啓介と意気投合してそのままホテルに直行
(ちょっと俺のタイプとは違うけど胸でかいし,いいよな食っちまっても)
これでホモの汚名返上だ,といきりたったのだが。
何故かムラムラこないのだ。
刺激的な紫レ−スの下着で恵子がしなだれかかってきても,
キスを激しく繰り返してもいっこうにやらしい気分になってくれない。
このままじゃいかん,がんばれ自分
といくら叱咤激励してもぴくりとも動かないいちもつがでれ−んと垂れ下がって情けないことこの上ない
これじゃあ女が怒り狂うのも当たり前
大学では明日からホモではなく啓介インポ説が飛び交うことであろう
とほほっ
うううっ一人残された啓介は目尻に浮かぶ涙を拭った。
こんなことならミ−ティングに出ればよかった。
さぼったからばちが当たったのかもしんねえ
ミ−ティングいっとけば拓海にも会えたのに
啓介の脳裏に拓海の仏頂面が浮かんできた。
ピクッピクピク
あっ今なんか息子が反応したような
拓海の艶やかな肢体を思い出してみた。
ビクッグ−ン
一気に天を指す現金な啓介のいちもつ
「やったっ俺インポじゃなかったんだ」
良かった,啓介人生の危機脱出
そうと分かると今度は拓海に会いたくて溜まらなくなってしまう。
二週間も会っていなかったのだ。
一刻も早く拓海を抱きしめたい
抱きしめてキスしてレロレロしてやるんだ。
考えただけで啓介のいちもつは爆発寸前
「うおおお−っこうしちゃいられないぜ,拓海−っ待ってろよ−っ今いくからな」
急いで服を着込むと(ジ−ンズがひっかかって時間を取られてしまったが)秋名に向かってロ−タリ−サウンドを鳴り響かせた

 ブオンブオンッ
けたたましい音が秋名銀座に轟き渡る
「なんだこんな時間に,近所迷惑な」
この音には聞き覚えがある
人の迷惑も考えないこの遠慮のないロ−タリ−サウンドはまさか
外に顔を出して拓海はがっくり脱力した
「・・・高橋啓介」
やっぱりこの人だったんだ
「お−い.拓海,出てこいよ,話があるんだ」
妙に鼻の穴を膨らまして目がらんらんと輝いている
そう,この瞳は獲物を狙う野性の目
啓介の話とはエッチのお誘いであることは一目瞭然であった。
「あんたって本当に人の迷惑考えないよな」
大きくため息をつくと拓海はFDに乗り込んだ。
啓介はご機嫌でるんるん運転をしている。
久しぶりの拓海との逢瀬
一分でも早く抱きしめたい
「このあたりのホテルってしってっか?」
単刀直入な啓介の言葉
「あのな−,俺高校生だって知ってる?」
ホテルなんか知っているわけないだろうが。
「あ−っそっか,国道の方いきゃあ見つかるよな,よし,ちょっととばすぞ」
こんな町中で飛ばしてどうする?
という拓海の疑問に耳をかさず啓介は超特急でホテルへと向かったのであった。

 さすがに地元のホテルってのは気恥ずかしくて頬をうっすら染める拓海に啓介はノックアウト状態
部屋に入ると同時に背後からぎゅうっと抱きしめた。
「ちょっちょっと啓介さん,そんないきなり,まだシャワ−も浴びていないのに」
「いいじゃん,あっそうだ,今日は一緒に風呂入ろうぜ,拓海の体中奇麗に洗ってやるからさ」
そのままお姫様だっこで強引に風呂場へ連れていかれた。
「やああっ啓介さんっ痛い」
体中キスしながら啓介は奪うようにして拓海の服を剥ぎ取っていく。
「うう,やっぱ拓海が一番可愛いぜ,最高」
拓海の匂いを嗅ぐようにくんくんと鼻を鳴らしながら啓介が嬉しそうに胸の果実を嘗め上げた。
(やっぱ馬鹿,啓介さんって)
拓海はこっそりため息をついた。
啓介が拓海の匂いによっているとき当然ながら拓海も啓介の香りに気がついていた。
甘ったるくて自己主張の激しい香水が鼻につく。
(女抱いてきた後でなんで俺の処に来るんだよ)
香りぐらい落としてくるのがマナ−ではないのか
そんな事を気にするような間柄ではないのか?
遊びだから些細な事は気にならないとでも思っているのだろうか。
悲しくて切なくて,それでも啓介が来てくれたことが嬉しくて拓海はは自分が情けなくなってくる。
「拓海−っこういう時は考え事するなよ,マナ−違反だぜ」
どっちが違反なんだかっと文句を言おうとしたが啓介の唇がどんどん下りてきて
拓海の敏感な部分を責めてきたので苦情は言葉に出来なかった。
「あああっんっいやっそこは」
舌が性急に蕾を嘗めてくる。
ぐりぐりと奥まで舌でこじ開けられて内壁に滑った感触が当たった。
「ふうんっあっいやぁ」
啓介の両手は袋を揉みしだき竿の付け根をしごいている。
いやだっと泣いている割に拓海の指先は啓介の頭をそこに押し当てていた。
「すげえエッチ,そんじょそこらの女なんか目じゃねえよな」
どこの女と比べてやがる?っ拓海はぐ−で殴ってやろうと思ったがそれよりも早く啓介が奥の一点を指で突いてきた。
「ひいっいいっああん」
とろりっと先走りの蜜が溢れ出す。
「ここ弄ると拓海は我慢できねえんだよな」
わかっているならやるな−っ涙交じりに拓海は啓介を睨み付ける事しか出来ない。
「そんな色っぽい目して見るなよ,今入れてやるからさ」
こんの勘違い男−っ啓介は拓海の足を抱え上げると一気に奥まで入ってきた。
「ああっそこいやぁ」
先程指でさんざん弄られた部分を太い竿でこすられる。
「ううっすげえ締めつけ,まじイっちまいそう」
荒い呼吸を吐きながら啓介が先端でそこをぐりぐりと攻めてきた。
「あっふうっもうっいやぁっイッちゃうよおぉ」
「いいぜ,何回でもイかせてやる」
白濁した蜜が溢れ出すと同時に奥の感じるスポットに熱いほとばしりを感じて拓海は意識を飛ばした。

 のぼせてしまった拓海をベットに連れ込んでもうワンラウンド
絶好調の啓介である。
「二週間もお預けくらったんだぜ,なあ拓海,もう一回いいだろ」
しつこい啓介の愛撫に拓海はぐたぐただ。
(嘘つき,お預けとかいって今日も女抱いてきたくせに,なんでこの人こんなに絶倫なんだ?)
 拓海の蕾は啓介の精液でぐちゃぐちゃに濡れそぼっている。
そこに指を入れられてくちゅくちゅされると拓海は抵抗出来なくなってしまう。
「あっはあっもう限界」
「後一回だけだからさ,お願い」
そういいながらぐぐっと堅さをもった啓介の雄が入り込んできた。
感じすぎて辛い,拓海は逃げようと体をずらすがそんな事を許す啓介ではない。
押さえつけて一息に奥まで貫いた。
「あああ−っひいっけいっ痛い」
「痛くねえだろ,こういうのは気持ちいいっていうんだ」
三回目なので達しようとしない啓介が憎らしい。
「うっいててっ拓海っ締めるなって」
知らないうちに力を入れていたらしい。
どくんっと奥で啓介が発射するのを感じた。
あまりにも疲れきっていて二人はそのままベットに倒れ込んだのであった。

 傍らですやすやと寝息を立てる拓海が愛しくて堪らない。
なんでこいつ男のくせにこんなに可愛いんだろう。
啓介の頭では分析できない謎である
いつもの仏頂面ですら可愛くてしょうがない。
怒った顔もいいが啓介の腕の中で快楽にあえぐ拓海はもう絶品
しらずに鼻の下が伸びてにやにやしてしまう啓介である「なに人の顔みてにやけてんだよ,馬鹿」
何時の間に起きたのか拓海がもぞもぞと活動を始めた。動くのも辛そうなのにバスル−ムに向かおうとする。
「なんだよ,今日は泊まってけよ,延長してやっからさ」そんな事をしれっという啓介に冷たい視線を投げつけると拓海はバスル−ムに入っていった。
「照れちゃって,可愛いの」
今の啓介にはどんな拓海も可愛く見えてしまう。
あばたもえくぼとはよく言ったものだ。
拓海がシャワ−を浴びているらしく水音が聞こえてきた。「うひょ−っいろっぺえじゃん」
拓海は気がつかなかったが部屋の電気を消していてバスル−ムの電気がついていると中の様子は丸見えなのだ。
さすがラブホテル,啓介はこのホテルを選んだことを神様に感謝した。
しなやかな拓海の肢体が浮かび上がって見える。
どこか幻想的なその姿に啓介は煙草の灰が落ちるのも気がつかないくらいに見入っていた。
曇りガラスごしなのでしっかりはっきり見えない処もまたそそるのなんのって
体を洗っていた拓海だがちょっと戸惑ったように片足を浴槽にかけた。
「おっおおおお−っ」
ブラボ−ワンダホ−トレビア−ン
啓介の声にならない絶叫がホテルに響渡る
拓海は足を密かに広げると後ろに指を這わして啓介の中出しした精液を掻き出している。
感じるのか俯いて震えながら蕾を広げている。
ぼとっぼとぼとぼとっ
鼻血大放出で目は血走る啓介
先程あれほど出しまくったというのにもう息子はびんびんの臨戦体制だ
「あんっああっ啓介さぁん」
拓海のあえぎ声の幻聴まで聞こえてくるようだ
自然と両手が息子をしごいてしまう困った啓介君
感極まったかのように拓海の首筋がのけ反った。
どぴゅっ
それを見て啓介もイってしまう始末
今晩四発目,けっこうすごい記録だ
はあはあ,俺どうしちまったんだ
どんなAV見てもこんなに興奮したことねえぞ
枕元のティッシュで後始末しているところへ拓海が服を着込んで帰ってきた。
「それじゃ,俺いきますから」
相変わらずのそっけない態度で拓海が出ていこうとする帰したくない
急激に猛烈に啓介の胸に沸き上がってくる思い
「まだいいじゃねえかよ,なあ,もう少し一緒にいようぜ」
「なんだよ,やることやったんだからもういいだろ,離せよ」
拓海の腕を掴んでいる啓介の手を振り払う。
「いいじゃんか,少しくらい,どうぜ暇なんだろ」
つれない拓海の口調に啓介もむっとして言葉がきつくなるのを止められない。
いつもと違う啓介に態度に拓海はいぶかしげな顔をした「なんで俺なんかと一緒にいたがるんだよ,もうセックスしたからいいじゃねえか」
「そんなはっきり言うなよ,俺はお前の事けっこう気に入っているし好きだからさ,もうちょっと一緒にいたいんだよ」
啓介が何気なく言ったその一言が拓海の逆鱗に振れる。どかっばきっ
思いきり拳を頬に入れられて啓介がベットまで吹っ飛んだ。
(いて−っこいつも男だってこと忘れてたぜ)
顎ががたがた,啓介とて喧嘩なれしているのにここまで強烈なパンチをいれられたのは初めてだ。
何故殴られたのか分からない。
「好きとかそういう事言うなって言っただろ,もう啓介さんとはしねえ,そんな事もわからねえような馬鹿とやってられっかよ」
拓海は叫ぶと部屋を飛び出していった。
それを呆然と見送る啓介。
「いてて,なんだよ,あいつは」
歯ががくがくいっている。
傷む顎を押さえながら啓介は座り込んだまま立ち上がれなかった。
部屋を飛び出す拓海の目尻に光っていたものは?
「マジいてえ,ちくしょう」
顎よりも心が痛いかも
煙草が口の中に染みるのもかまわず啓介は拓海の涙に気を捕われていた。

 拓海は泣いていた。
啓介の前では意地で泣き出さなかったがいつも心が悲鳴を上げていた。
精一杯の虚勢が啓介の一言によって崩される。
「なんであの人ってああなんだろう」
人の気持ちもしらないで自分勝手な男
それが高橋啓介という男の魅力なのである。
こんなに振り回されているというのにますます魅かれていくのを止められない。
「あんな奴に引っかかった俺が馬鹿なんだ」
こんなに辛いのも切ないのも涙が止まらないのも全部全部啓介が悪い
もっと優しい人を愛すれば良かった。
拓海の事を大切にして一番に考えてくれる奴にすればこんなに悩まなかった。
でも好きになったのは高橋啓介
意地悪でワイルドで子供で大人で人を平気で振り回す傲岸不遜なあの男
好きになった方が負けなのは恋愛のル−ルだ
拓海がどんなに泣こうがわめこうがそんなことは啓介にとって知ったことではないだろう。
「あんな奴,捨てられる前に捨ててやる」
捨てるもなにもそれ以前の関係なのだが
もう一切啓介とは関り合いにならないっと拓海は心に決めていた。


 


 まいった,今度こそ本当にまいった。
大学の近くの喫茶店で啓介は苛々と煙草をふかしている。最悪だ
高橋啓介はどん底状態であった。
あれからずっと拓海には完全に無視されている。
携帯は繋がらない
いくら留守電をいれても応答なし
家まで行っても会ってくれない
「やべえ,あいつマジでキれていやんの」
このままでは本当に拓海と切れてしまう。
それだけは絶対に嫌だった。
何故か拓海とこのまま無かったことにしてしまうのだけは許せない。
自分の気持ちがわからなくてもやもやした気分がずっと続いている。
唯,頭の中では拓海のことばかり考えていて。
笑った顔も怒った顔も全てが愛しくてたまらない。
「俺,どうしちまったんだよ」
机につっぷしている啓介に美香が声をかけてきた
「啓介,噂は聞いたわよ」
にこにこっとチャシャ猫のような笑みを浮かべて美香は啓介の前の席に座った。
今,啓介が一番会いたくない相手かもしれない
「どうせろくでもない噂だろ」
憮然とする啓介に美香は笑い声をあげる。
「ああ,あれね,恵子怒っていたわよ」
暗にインポの事を指摘される。
ちくしょ−っ人の落ち込みに拍車をかけやがって。
「良かったじゃない,本命が出来たんでしょ,もう遊びでは寝ないってことじゃない」
意外な事を言われて啓介は鳩が豆鉄砲くらったような顔をした。
「なに?大事な人が出来たから他の女じゃ駄目なんでしょう,女の子達悔しがっていたわよ」
「どこをどうしたらそういう噂になるんだよ」
「そりゃあ最近の啓介見ていたらわかるわよ,啓介幸せそうだもの,
誰かに夢中になっているのなんて一目瞭然なのよ,特に啓介を好きだった女の子にはね」
美香は断言する。
啓介に好きな相手が出来たのだと。
そうか,そうだったのか
思考が一気にクリアになる。
今までのもやもや苛々していた原因がやっと分かった。何故今まで気がつかなかったのか?
啓介は拓海が好きだったのだ。
それを自覚すると同時に今までの自分の鬼畜な態度が思い起こされる。
「俺って馬鹿」
再び机に沈没する啓介
「何言っているのよ,啓介がお馬鹿なのは元からじゃないの.いまさら悩んでどうするの」
ころころと笑う美香が憎いかも
「俺ってば本命の相手を大切にしてなかったんだ,相手も遊びだっていってたし,最悪だ」
こんな弱気の啓介は初めてで美香はなんだか啓介が可愛くなってしまった。
「大丈夫よ,啓介に惚れられて本気にならない子なんていないわよ」
「でも,あいつ遊びだっていったんだぜ」
「そんなの嘘に決まっているじゃない,馬鹿ねえ,
女っていうのは商売でも無い限り好きな男以外とエッチしないわよ」
「・・・そうか」
疑わしげな啓介の視線に美香が苦笑する。
「啓介だって好きな相手以外役にたたないんでしょ。
そういう事よ」
馬鹿な恋愛ばかりしてきたからこんな大切な事も分からないのよっといって美香は微笑んだ。
そうか,そうだよな,好きでなきゃ男相手にエッチなんかしないよな,
藤原も口ではああ言っていても俺の事が好きなんだ
一気に啓介の自信が回復する。
そうなったらこんな処で油を売っている場合ではない
早く拓海の所にいかなければ
行って抱きしめて愛していると囁こう
それで万事オ−ケ−な筈だ。
なんたって俺達はダブルエ−スなんだからな
「サンキュッ美香,俺ちょっと用事思い出したぜ」
慌ただしく出ていく啓介に美香が笑って手をふった。
「やっぱ最低,伝票忘れていったわ」
あたしにおごらせる気?
さんざん惚気を聞かされて慰めてやってあたしって馬鹿「あたしだって啓介の事,本気だったのよ」
鈍感なお馬鹿さん
それが啓介の魅力なんだけどね
美香は苦笑いして席をたった。

 後先考えず秋名に向かって啓介は気がついた。
完全に拓海に避けらている事を
今までコンタクト取れなかった物を急に愛に目覚めたからといって捕まる程現実は甘くない。
神様の意地悪
となげいても始まらない。
まあ世の中上手くできたもので今日はDのミ−ティングである
今晩こそは拓海も逃げられない
「今度こそリベンジかましてやるぜ」
逃しはしない
抱きしめて愛していると思いっきりいってやる
泣いて嫌がっても離さない
だって啓介は拓海を愛している事にやっと気がついたばかりなのだ
恋愛の楽しさはこれからなのだ
果たして啓介は拓海をゲットできるのか
今晩決戦の火蓋が落とされる


 うげえええ−っ無茶苦茶可愛い
何故今までこの魅力に正気でいられたのか
久しぶりに見る拓海は壮絶可愛かった。
どこかやつれていてそれがまたそそってくる。
恋に目覚めた啓介にとっては麻薬である。
視線をまともに向ける事すら出来ない
可愛すぎて正視できないのだ
百戦錬磨の高橋啓介ともあろうものが拓海を見るだけで童貞君のように股間を膨らましてしまう。
そうなると拓海を狙う回りの視線にも敏感になる。
「相変わらず可愛いよな,秋名のハチロク」
「最近特に色っぽくなったよな,一回でいいからお願いしたいぜ,ぐふふ」
まさあプロジェクトのメンバ−がこんな会話をしていたとは思いも寄らなかった啓介である。
ちくしょ−っ拓海は俺のだ,見るんじゃねえ
プロジェクトの男にガンをつけまくる啓介は恐いのなんのって
「啓介さん恐いな,今日は殺気だっているぜ」
「触らぬ神になんとやらだぜ,こわばらこわばら」
周囲は啓介を遠巻きに怯えている。
拓海もそんな啓介に内心戸惑っていた。
何故そんなに俺を睨んでいるんだろう?
電話を無視したから?
もう関係はやめると言ったから?
やっぱ殴ったからだろうな
啓介の熱い思いを込めた視線は完璧に誤解されていた。自業自得だが


 

2年前のオンリ−で発行したwild at heart
   続きますのでよろしくなりん