[WILD AT HEART2]

 

「拓海,話があるんだ」
やけに真剣な啓介がミ−ティングの終わりに声をかける
「俺,史浩さんに呼ばれてて」
「史浩なんてどうでもいい,こいよ」
断る拓海の腕を強引に掴むと啓介は自分のFDに連れ込んだ。
周囲が呆気にとられた視線を送るのも構わずに。
「あいつらって仲よかったっけ?」
「さあ,でも今日の啓介さんの様子だとなんか喧嘩っぽかったぜ」
「藤原,なんか啓介さんを怒らすような事をしたのかな」ヒソヒソと噂しあうメンバ−
またやっかい事が増えたと史浩は胃を傷めるのであった。




 強引に連れていかれた先はくだんのラブホテル
「俺もうあんたと寝ないって言わなかったっけ」
拓海は完全にぶっちぎれていた。
こんな男なんて大嫌いだ。
「離せっ離せよっ俺は帰るんだから」
「どこに帰ろうっていうんだよ,ここからじゃ車でないと帰れないぜ」
「いい,ヒッチハイクしてでも帰る」
拓海の本気に啓介は慌ててしまう。
「おいっよせってば,そんな意地張るなよ,なあちゃんと話しようぜ」
啓介が真摯な瞳で拓海を射すくめる。
「話なんて無い」
「ちっ本当に可愛くねえなあ,お前俺の事が好きなんだろ,もっと素直になれよ」
ああ,男って奴はプライドばっかり高くってどうしようもない
「この腐れ外道」
拓海の魂身の回し蹴りが奇麗に啓介の股間に決まった。
「ぐふっううう,お前,それは・・・反則」
悶絶する啓介に冷たい視線を浴びせると中指を立てて拓海は部屋から出ていった。
この時もし啓介が好きだっと告白してから拓海の気持ちも確認していればこういう結果にならなかったのに
完全に拓海を怒らせてしまったことだけは確かだった


「どういう事だよ,あいつは俺の事好きなんじゃねえのかよ?」
好きな相手に普通玉蹴りなんかするか?
使い物にならなくなったらどうすんだよ
「拓海,俺の事好きだよな」
自分に言い聞かせる啓介の声はこの男にしてはやけに弱々しい。
啓介は拓海が好きだ,これは本当
拓海も体を許してくれているのだから啓介の事を憎くは思っていない筈
でも今までに自分の仕打ちを考えてみると好かれている自信が持てない
「とにかく,拓海は照れているだけなんだ,もっとちゃんと話しなきゃいかん」
啓介は自分を奮い立たせると一路秋名銀座へ乗り込んだ




ウオウオンッブオオオオ−
けたたましい近所迷惑なロ−タリ−サウンドに拓海は完璧キれていた
どうしてこの男はこんなに非常識なんだ?
「おいっ拓海,出てこいよ,話しようぜ」
外からがんがん怒鳴られる
「話なんて無い」
二階の窓から啓介に怒鳴り帰す
「お前俺の事好きだろ,そうだよな」
だ−か−ら−その非常識なのやめろって
「俺はあんたなんか大嫌いだ」
拓海はそう言い放つとぴしゃりっと窓を閉めた
心神喪失でその場に立ちすくむ高橋啓介21歳
嫌い嫌い嫌い
拓海の可愛らしい声が頭の中でリフレインする
じわっと涙まで出てきてしまう。
「ひでえ,そんな事普通言うかよ」
それでも啓介は拓海が好きなのだ
嫌いだなんて言われて引き下がる事など出来はしない
愛しているんだから
ここで負けては男がすたる。
もうとっくにすたっていることに気がつかない啓介はがんがんっと扉を叩いた。
「拓海,それが捨て台詞かよっおいっ顔出せっ火つけるぞっこの」
完全にスト−カ−な啓介,
これでは警察を呼ばれても仕方ないかも

「うるせえなあ,おい,拓海,お前ちょっといって話してやれや」
見兼ねて文太が拓海に命令する。
「いやだっ絶対嫌」
ぷんっとそっぽを向く息子に親の暖かい一言
「近所迷惑だ,あいつと話しておとなしくさせなかったら今月の小遣いやらねえぞ」
「げっ親父,汚い」
「ほらっわかったら言ってこい,それでとことん話してきな,明日の配達は変わってやるからよ」
文太に背を押されてしぶしぶ拓海は啓介のFDに乗り込んだ
軽快な音をたてて発進するFDを見送りながら文太はちょっと寂しく思うのであった。
「若いっていいねえ」

 

 

 ここは秋名のラブホテル
拓海は啓介に冷たい言葉を投げつける。
「それで話って何ですか,聞くだけなら聞いてあげますよ,さっさとしてください」
どきどきどきっ
間近で睨む拓海の色っぽいことといったら
睨まれているのにうっとりしてしまう啓介である
どぽどぽぽっ
「うわっ啓介さん鼻血っ」
ああ,情けない,あまりにも興奮しすぎたためか鼻血が出てしまった啓介21歳レッドサンズナンバ−2
「うう,俺ってかっこわりい」
「何今更言っているんですか,ほらテッシュ,ぼ−っとしてないでそれつめて横になって」
鼻血のおかげか拓海の態度が少し軟化する。
ちょうどお誂え向きにあった(当然だが)ベットに横になって鼻血を押さえる啓介
「なあ,拓海,お前俺の事好きだよな」
弱々しい声で見上げる啓介はなんか捨てられた犬みたいで可愛いかもしれない
「嫌いです」
きっぱりはっきり言い捨てる拓海
ぼぼぼぼぼっ鼻血だけでなく涙腺も弱くなったのか
「うわっ啓介さんっどうしたんですか」
いきなり男泣きする啓介にびっくりたまげる拓海
「俺は,俺は拓海が好きだ,愛しているんだ」
泣き落としのつもりか,そんな一言にだまされないぞと拓海は身構える
「そういう事は一番大切な人にしか言っちゃあ駄目だって言いませんでしたか」
けんを含んだ拓海の口調が啓介の胸に突き刺さった。
「俺は拓海が一番大切なんだよ,仕方ねえだろ,愛しているんだからよ,いいぜ,笑えよ,ホモだって」
ぐすぐすといじける啓介になんか拓海は笑ってしまう。それにホモというなら拓海だって同罪だ。
こんなに啓介が大好きなのだから
「なあ,拓海,俺の事嫌いじゃねえだろ,そうだよな,なあ,うんと言ってくれよ」
仕方ないなあ,こんな情けない男に惚れた自分が馬鹿なんだから
レッドサンズでブイブイ言わせている啓介もかっこいいけれど
鼻血出して情けない顔をして拓海のご機嫌を伺っている啓介の方が何倍も好きになってしまう拓海。
こくりっと小さく頷いてやると啓介ががばっと跳ね起きた。
「本当かっ本当に俺の事嫌いじゃないんだよな」
「・・・嫌いだったら寝たりしないよ」
小さな小さな拓海の声を啓介は聞き漏らさなかった。
「やったぜっ神様ありがとう,なあ拓海,ちゅ−していい?」
現金な物で啓介はすっかり自信回復している。
「それは駄目」
「なんでだよ,俺達愛しあっているんだからちゅ−くらいいいじゃんか」
「誰と誰が愛しあっているんですか?」
「もちろん俺と拓海」
「俺,啓介さんの事嫌いじゃないけど好きだなんて一言も言っていませんよ」
ががが−んっ
啓介再び撃沈
「そっそんなぁっ俺達愛しあっているんだよ,そうだ,
拓海はまだお子様だから自分の気持ちに気がついていないだけなんだ」
「そうですか?」
「そうに決まっている,俺が真実の愛の深さを教えてやるぜ,拓海は俺が好きなんだ,俺達はラブラブなんだ」
必死で拓海を口説き落とそうとする啓介には仏頂面をするが拓海は内心幸せで一杯だった。
自分が啓介を好きだなんて教えられなくても分かっている。
それほど自分は馬鹿ではないのだ
でも悔しいから答えてなんかやらない
あれだけ人を振り回したのだ
今度はこっちがリベンジさせてもらおう。
心で決意を固めると拓海は啓介に向かって極上の微笑みを投げかけた。
 このダブルエ−ス,主導権を握るのはどちらなのかはまた先のお話しである


 WILD WILD WESTに続く