擬態1
生物が進化により姿形、色、行動を周囲の物(環境や他の生き物)と見分けがつかないように似せる事 カモフラージュとも呼ぶ。
敵から身を守るため外見を変化させる。昆虫の保護色やカメレオンなどが有名である
「あれが1年戦争の英雄?」
「あの有名なアムロレイ?」
「本当にニュータイプのアムロレイなのか?」
1年戦争から7年後、長い幽閉を終えてアウドムラと合流したアムロを待ち受けていたのは人々の視線であった。
アムロレイ。その名を知らぬものは宇宙には存在しない。
彼の名声はあまりにも大きく知れ渡っていた。
アムロ自身は連邦に幽閉されていたためメディアに出ることは無く、それゆえアムロレイと言う虚名だけが一人歩きして半ば伝説と化していたいたのである。
アウドムラのクルーは皆アムロレイ、伝説のファーストニュータイプの来訪を心待ちにしていた。
見たことは無くとも1年戦争でのアムロの活躍を聞けば、誰もが期待する。
白い悪魔
白い流星
そしてMSの守護神
アムロレイは誰から見ても一目でわかるカリスマ性を備えた人物なのだと疑いもしなかった。
だから・・・
目の前にいる男に皆正直落胆を抑えられなかった。
「本当にアムロレイなのか?あれが」
「普通だな・・・思ったより」
「ニュータイプっていっても平凡なんだ」
アウドムラに合流したアムロレイは見た目も中身も平凡な男だった。
どこにでもいるようなさえない人間
クワトロバジーナのようなカリスマ性を持っているわけでもない。
カミーユビダンのように才能を感じるわけでもない。
アムロレイは目立たない、地味な、才気の欠片も見出せないような男だった。
確かにMSの知識は持っている。
だがそれは古い7年前の使い古された知識だ。
幽閉生活の長かったアムロレイは最新の設備を何も理解していなかった。
それにMSに乗らない。
乗りたがらない。
乗るのを拒否しているのは、もうニュータイプとしての能力が消えているからだ。
そう周り は判断せざる終えない。
あまりにも巨大な名声であったがゆえに、本人とのギャップは大きく皆落胆を隠せなかった。
今、アウドムラにいるアムロレイはその伝説と顔を知っていても、すれ違ったとき見過ごしてしまうような、人ごみに簡単に埋没してしまうようなちっぽけな人間だったからだ。
「残念だな、俺結構あこがれていたのに」
「所詮はうわさだけが空回りしていたんだろう、カリスマなんてこんなもんだよ」
「ニュータイプっていってもてはやされても20歳すぎればただの人?俺たちと変わらないよな」
人々はそう評価するしかなかった。
あまりにも落胆が強すぎて、そうでも言わないとやっていられなかった。
アムロレイさえ合流すれば勝機は訪れる
そう短絡的に思い込んでいたつけを払うかのごとく、彼らは口さがないうわさを立てるしかなかった。
ああ、シャアもカミーユもベルも出てきていない、2では出したい!!
擬態2
「アムロさん、どこにいるんだろう」
カミーユはデッキを早足で急ぎながら一人つぶやいた。
ドッグにもメインデッキにもいなかった。
部屋はもちろん最初に行ったがアムロレイの姿は見あたらない。
「アムロさんに聞きたいことがあるのに」
MSの設計や操作方法、他にも聞きたいことは山ほどある。
早くアムロを見つけ出したい。
そして話をしたい。
カミーユはアウドムラの中を探し回った。
どうしてこんなに会いたいのだろう。
どうしてこんなに気になるのだろう。
あの日。アムロレイを合流してからカミーユの心はアムロにとらわれた。
一目見た瞬間から彼の事しか考えられなくなった。
何故?ファーストニュータイプだから?
会うまで、カミーユは彼に対して反感を持っていた。
何故なら、カミーユはZガンダムに乗ってからというものずっとアムロレイと比較されていたからだ。
伝説とも言えるアムロレイの再来と呼ばれ続け、自分はカミーユビダンだ、誰かの再来でも何でもないとふてくされ続けていた日々、
だが彼に会った瞬間、世界が変わった。
あんなに綺麗な人間見たことが無い、
アムロレイは今まで見たどんな人間よりもカミーユの心を捕らえた。
寄せては返す波のように、海のように、宇宙のように、すべてを包み込む存在。
囚われるのに時間は必要としなかった。
そばにいたい、ずっと一緒にいたい、自分を見て欲しい。
アムロレイの再来とか呼ばれている自分じゃなくてカミーユビダンとしての自分を。
急ぎ足でアムロを探しながらカミーユはため息をついた。
クルー達の視線を感じる、
アウドムラ中を駆けりながらアムロを探しているカミーユを不思議がっているのだ。
「何故今一番ニュータイプとして才覚をしめしているカミーユが落ちぶれたファーストニュータイプを気にしているのか?」
その空気を感じてカミーユは密かに苦笑した。
何故みんなわからないのだろう。
あんなに美しい存在を?
「みんながわからないのはオールドタイプだからだ」
アムロレイの綺麗さを、その能力をわからないのは進化していないオールドタイプだからだ。
「僕にはわかる」
カミーユには感じる。理解できる。
「それは僕がニュータイプだからだ」
アムロレイと同じニュータイプだからこそ彼を理解できる。
「僕だけだ」
他の誰にも理解することは出来ない。
その優越感に浸りながらカミーユはアムロを探して回った。
ああ、ごめん、支離滅裂な文章で。
擬態3
ブライトから極秘で呼び出され、書類を見せられたクワトロバジーナは大きくため息をついた。
「この書類に間違いは無いのだな」
「ああ、連邦のトップシークレットだ。確かな情報源から手に入れた物だ」
答えるブライトノアの声も重い。
「では、ここに書かれていることが真実ならばもうアムロレイはニュータイプでは無いと?」
「そういう結論になる。シャイアンやニュータイプ研究所で7年間、調べた結果だからな」
クワトロは目を細め、もう一度書類に視線を向けた。
何十枚かに渡る報告書
それは全てアムロレイに関しての記述であった。
あの1年戦争後、アムロはホワイトベースのクルーの安全と引き換えにシャイアンに移った。
ニュータイプとしてその能力を調べつくされたのだ。
脳波、動体視力、精神状態、体の隅々まで調べつくされ彼には隠すすべも無かった。
そして7年にも渡る研究の結果がこれだ。
「アムロレイは、白い悪魔は1年戦争の時点でニュータイプとしての能力を使い尽くしたと?」
「白い流星と呼ばれたアムロはホワイトベースのクルーから見たらちょっと勘の鋭い普通の少年でした。我々には1年戦争の時、彼がニュータイプだとわからなかった。MSの操縦がうまいだけにしか見えなかった、連邦の研究結果も同じでした」
ブライトの言葉にシャアは目じりを上げた。
「自分でも信じていないことを」
「そう、我々はアムロを仲間としてみていた。ニュータイプとしては見ていなかった、あの時までは」
ブライトは遠い視線を空へ向けた。
あの時、1年戦争最後の、ア、バオアクーでの死闘の中、アムロの声を聞くまでは。
「俺は思うのですよ、クワトロ大尉、あの時、我々全員に意識を繋げた事でアムロはその能力を全部出し切ってしまったのではないかと」
だからシャイアンでいくらアムロを調べようと何も発見することは出来なかったのではないか。
「・・・馬鹿なことを」
クワトロは笑い飛ばそうとして失敗した。
確かに今、ここアウドムラにいるアムロレイは平凡な、目立たない人間だ。
説明が無ければ誰も彼を1年戦争の英雄だとは思うまい。
かく言うクワトロもアムロを見た瞬間、落胆を隠せなかった。
かつての宿敵 シャアアズナブルことクワトロバジーナが見ても、アムロレイからはニュータイプの素質を見つけ出すことが出来なかったのだから。
擬態はシャアム カミアム 男ベルアムなのですが、話が進まないーすいません、ぼちぼちやります
擬態4
ブライトとの話を終えてクワトロバジーナは部屋を後にした。
その時、廊下を小走りに歩いてきたカミーユとはちあわせする。
「・・・ちっ」
カミーユがあからさまに嫌な顔をして、クワトロから目を背けようとしたが思いとどまって声をかけてきた。
「アムロさん、部屋にいるんですか?」
「いや?打ち合わせはブライト艦長と私だけだった」
カミーユは疑い深い目を向けながら更に問いかけた。
「アムロさん、どこにいるか知りませんか?」
カミーユはクワトロを嫌っている。
本能的に嫌悪しているといってもいいだろう。
子供じみた潔癖さが戦争の匂いを漂わせるクワトロを受け入れられないようだ。
「アムロレイの居所はわからないな、部屋に行ったらどうなんだ?」
飄々としたクワトロの返答にカミーユは目じりの皺を深くした。
「いなかったから探しているんです」
憎憎しげといってもいい口調でそれだけ言うとカミーユはクワトロに背を向けて走り去った。
「子供だな、彼は」
カミーユのそんな反抗心に一々目くじらを立てるほどクワトロも子供では無い。
小さくため息をつくとクワトロは意識をめぐらした。
「カミーユは何故あんなにアムロレイにこだわるのか?」
まるで親を探すひな鳥のようにカミーユはアムロレイについて回る。
滑稽で、何故か苛立ちを感じるカミーユの態度にクワトロは眉を潜めた。
「アムロレイか・・・」
能力を失ったニュータイプ
地球に囚われている哀れなオールドタイプ
そんな事を考えながらデッキを歩いていると向こうからアムロレイが来るのが見えた。
「アムロ、まだ仕事をしていたのか?」
「ああ、新しいMSの装備を見ていたら遅くなってしまった」
夜11時を過ぎている この時間まで彼はMSに張り付いていたらしい。
「お休み、アムロ」
「ああ、お休み、クワトロ大尉」
それだけ言うとすれ違った。
すれ違い、部屋へ戻りながらクワトロはふと気がついた。
「そういえば、アムロレイとよく会うな」
同じ艦内にいれば顔を合わせることもあるだろうが、それにしても
「私が彼の事を考えている時、必ず会うような気がする」
カミーユなどはあれだけ探していても会えないらしいのに、クワトロは彼を思うとき、必ずといってもいいほど彼の顔を見ることが出来た。
「・・・偶然かな」
アムロレイはすでにニュータイプではないのだから、これは偶然なのだろう、
そう結論付けるとクワトロは部屋へと向かった。
クワトロは気がついていなかった。
彼はブライトの部屋から帰るのに、直線コースではなく、わざわざMSのデッキを迂回する帰り道を無意識のうちにとっていたことに
擬態5
結局今日はアムロさんと会えなかった。
失意の中、カミーユは部屋に戻ると毛布をかぶった。
会いたかった。
話せなくともせめて、顔だけでも見れたら満足出来たのに。
会うどころか気配すら感じることが出来なくてカミーユは指を噛んだ。
「アムロさん、会いたい」
もう時間は12時を過ぎている。
今部屋に行っても迷惑なだけだ。
どんなに会いたくともアムロに嫌われるのは嫌だから、自分を自制する。
頭から毛布に包まりながらカミーユはアムロレイの事を思った。
「アムロさん、アムロさん、アムロ、アムロレイ」
綺麗な人、綺麗な微笑み、綺麗な精神
そして・・・
カミーユは下肢が高ぶるのを押さえられなかった。
きっと、アムロさんはとても綺麗な体をしているのだろう、
顔だけじゃなく、精神だけじゃなく、
「・・・アムロさん」
服の上からでも見て取れる華奢な肢体
はかなげと言ってもいい細い腰、
服の合間から見えるきめ細やかな肌。
「アムロさん、アムロ」
それは全てカミーユを興奮させる
ニュータイプだから?
ニュータイプ同士だから?
どうしてこんなに興奮するのだろう。
彼は男で、自分も男で、
なのに想像することをやめられない
「アムロさん。会いたいよ」
カミーユはつぶやきながら下肢に手を伸ばした。
快感が体の奥からあふれ出すのを抑えられない
アムロレイの事を考えるだけで獣のように盛ってしまう
「ふっはあぁ、気持ちいい」
せわしなく手を動かしながらカミーユは自問自答した、
こんなに会いたいのは彼がニュータイプだからだろうか?
こんなに興奮するのは自分がニュータイプだからだろうか?
「ああ、アムロさん」
白濁した意識の中、カミーユはかつてのニュータイプ
ファーストニュータイプ、アムロレイの事以外考えられなかった。
ごめん、妄想続きます
擬態6
部屋に戻るとクワトロは肩の力を抜いた。
シャワーを浴び、ワインをくゆらせながら今日一日のことを思い返す。
「アムロレイはもはやニュータイプでは無い」
再会した時から感じていたことだが、ブライトから最終通告のようにつきつけられて、クワトロ、かつてのシャアアズナブルは落胆していた。
「アムロレイ・・・か」
彼はクワトロにとって呪縛のような存在であった。
ララァや他の人間に対し、漠然と感じていたニュータイプという存在を、定義を、アムロはあの時シャアに見せ付けたのだ。
ア、バオアクーでの共鳴
気のせいだったと片付けるには衝撃的で、革新的ですらあった。
あの瞬間からクワトロの意識は全てアムロレイへと向かったのだ。
父、ジオンダイクンが唱えてきたニュータイプがそこにはあった。
それだけでは無い。
アムロレイはあの、アバオアクーでのひと時でシャアアズナブルをとりこにしたのだ。
彼の存在無くてはこんなにもニュータイプという存在にこだわらなかっただろう。
それがわかっているだけに、彼アムロレイがすでにニュータイプでは無いといわれてもこだわることをやめられなかった。
アムロの事を考えていたからだろうか。
体が興奮しているのを感じ、クワトロは苦笑した。
アウドムラに来てから女を抱いていない。
クワトロの容姿やカリスマ性に引かれる女は多かったがやっかいごとになるので色恋は避けてきた。
だからだろうか。
下肢が高ぶってきている。
正常な男なら当然の事だ。
今更女を見繕う気にもなれず、クワトロは下肢に手を伸ばした。
単純な自慰作業の最中、脳裏に浮かんだのはかつてのニュータイプ
今はただのオールドタイプに成り下がった彼の事であったのにクワトロはその意味を考えることを拒否して行為に没頭した。
ごめん、本当にすまん、へたれで・・・
擬態7
「いっいやぁ」
毛布に包まりながら、アムロは熱い吐息を漏らした。
全身が性感帯になってしまったのかの様に感じている、
誰にも触れられていない、誰もいない部屋の中、アムロは羞恥にほほを染めた。
「いや、やだ、カミーユ」
カミーユの意識を感じる、
今、部屋で、彼は自分の事を思いながら己をなぐさめている。
「やあぁ、やめて、あっ」
カミーユはたぐいまれなニュータイプだ。
だから彼は感じている。
知っている。
ニュータイプとしての本能でアムロの本質を暴きたてようとしている。
カミーユがアムロを思う度に、カミーユの意識が流れ込んでくる、
拒否しようとしても無駄だ。
たぐいまれな素質を持つカミーユビダンの意識は否応無くアムロの中を蹂躙する、
「あっああぁ、やあぁ」
カミーユは気がついていないだろう。
自分の秘められた行為をアムロが感じているなどと、
アムロは気がつかれないように細心の注意を払っているというのに、カミーユは意識を強引につなげてくるのだ。
「ああぁ、っもうっ」
白濁した意識の中、アムロが背をそらした時、
もうひとつの意識が重なった。
「ああぁ、やだぁ、シャアッ」
シャアの意識がアムロを包み込む、
「あ、そんなっやあぁ」
シャアも今自分を思っている。
カミーユほど強くないニュータイプであったが、彼とはアバオアクーでの共鳴が引き金となり意識がつながりやすくなっているのだ。
シャアの意識が流れ込んでくる。
カミーユの意識とシャアの意識が混濁する。
今のアムロは受信機のようなものだ。
こちらからの感情は伝わっていないのに。彼らの欲望が流れ込む。
「いやっいやだ、ああっ]
アムロが隠している秘密を暴き立てるかの様に二人は激しくアムロをさいなむのだ。
「やめて、見ないで」
悲鳴は嬌声とあいまって狭い部屋に鳴り響いた。
擬態8
どれくらい時間が経っただろうか?
深夜、アムロは毛布に包まりながら熱い吐息をもらした。
長い蹂躙の時間が終わり、静寂があたりを包み込む。
シャアことクワトロとカミーユの欲望にさいなまれた筈の体は寝着すら乱れた様子は無かった。
だが、下肢は己の漏らしたもので濡れている。
不快感にシャワーを浴びようとアムロは体を起こしかけ、小さく呻いた。
「あっ」
どろりっと後蕾から男の欲望が流れ落ちる感覚に震える。
しかしそれは気のせいで、実際にはアムロの蕾には何も注がれていなかった。
精神の共鳴だけで、実際に体を繋げた訳ではない。
だからこの体のけだるさも、奥に残る置き火のような感覚も、全ては偽り。
「んっはあぁ」
アムロは無理やり起き上がるとシャワーブースへと向かった。
熱いシャワーを浴びながらアムロは唇をかみ締める、
目の前にある鏡には湯気に包まれたアムロの肢体が映し出される。
あれだけカミーユに吸われ、シャアに甘噛みされた体のどこにもその痕跡は残っていない。
二人の男を受け入れた蕾も処女のように密やかに閉じられている。
そう、あれは単なる共鳴、夢の中でしかありえない。
「こんな事は慣れている、大丈夫だ」
ポツリとアムロは呟くと痛いくらいに体を洗い清めた。
毎晩のように訪れる共鳴。
実際の体は無垢なままなのに、快楽に流されていく。
シャアにねじ入れられ、カミーユに衝かれ、二人によっていたるところを嘗め回される。
「大丈夫、これは単なる共鳴だ。まだ誰にも気がつかれていない」
カミーユは自慰をしている事をアムロに知られているなどと夢にも思うまい。
クワトロは自分を慰めるのに、気まぐれにアムロを想像しているだけだ。
「誰にも気がつかれる訳にはいかない、誰にも」
アムロはそう呟きながら熱いシャワーを浴び続けた。
擬態9
翌日の朝。
妙に重い体をもてあましながら食堂へ行くと彼はもうそこにいた。
「おはようございます」
「おはよう、カミーユ」
アムロレイは相変わらずの存在感の無さで席に座っていた。
顔を見るだけでけだるさなどどこかへ行ってしまう。
カミーユは横の席を陣取ると横目でアムロを盗み見ながら食事を始めた。
アムロはサラダを少し口にしただけでコーヒーを飲んでいる。
くつろいでいるように見えるその仕草にほっとしながらカミーユは朝食をほおばった。
いつもと変わらないメニューなのに、アムロが横にいるというだけで美味しく感じるのは気のせいだろうか?
その時、背後から声がした。
「私も同席していいかな?」
振り向かなくてもわかる。
カミーユは眉を盛大にしかめたがアムロは微笑んで受け入れた。
「おはよう、クワトロ大尉」
クワトロはアムロの前の席に陣取ると朝食を食べながら会話をしかけてきた。
「今日はカラバの人員と合流する予定だな」
「ああ、そう聞いているよ」
アムロとクワトロが雑談をしている最中、カミーユはほおばった食べ物を租借することに終始した。
先ほどまであれほど美味しく感じていたのに今は砂を噛んでいるようだ。
苦々しく思いながらも食事を済ませるとブザーが鳴った。
「ああ、カラバの人員が到着したのだな、出迎えるとしよう」
「そうだな」
クワトロが促すとアムロも大人しく立ち上がった。
二人が去った後、苛立ちをつのらせたまま、カミーユはコーヒーをやけのみするしかなかった。
擬態10
カラバからの応援人員は4名だった。
20歳前後の若者たちだ。
彼らはアウドムラのメンバーに挨拶を交わす。
4名はどこにでもいる、若さゆえの 血気盛んさと、明るさ、ある意味軽さを持ち合わせていた。
戦争の中にいる緊迫感と、最前線・・・宇宙にいないという楽観的な思考が見え隠れする若者たち。
その中でもやけに目立つ青年がいた。
「ベルトーチカイルマです」
豪奢な金髪にグリーンアイズ、目鼻立ちの整った、ハンサムな青年だ。
アウドムラの女性クルーなどは早速色めきたった。
「クワトロ大尉と並ぶくらいかっこいいわよね」
「カミーユビダンもいいけど子供だし、クワトロ大尉は美形だけど大人すぎて怖いし、彼ならいいわ、遊びなれていそう」
勝手なうわさを立てる女性クルー達の色目にベルトーチカイルマはまんざらでもなさそうだった。
その時、クワトロ大尉と、アムロレイが現れた。
ブライト艦長はカラバの人員に二人を紹介する。
カラバのメンバーは紹介された二人を、正確に言うとアムロレイをしげしげと見つめた。
驚いた、というか落胆したような表情から何を考えているのかわかる。
一年戦争の英雄、にしては全然覇気の無いアムロレイ
少しの沈黙の後、ベルトーチカイルマは苦笑しながらこう言った
「この人がニュータイプと言われた人なんですか」
どても一年戦争の英雄とは思えない。
緑色に透き通った瞳はどこか呆れた色合いを含ませアムロレイ、かつての英雄を見つめていた。
擬態11
一通りの挨拶が終わった後、カラバのメンバーは部屋に戻ると雑談を交わしていた。
もっとも雑談と言う名の飲み会なのだが。
「一年戦争のニュータイプ。俺結構憧れていたのにな」
ビールを飲みながら一人がぼやく
「まあな、普通だったよな、普通のさえない、っ地味な奴」
「拍子抜けって言うのか、ああいうの」
彼らは思い思いに口にする。
[所詮現実ってのはあんなのだよな、ソラにいる奴らのたわごとだよ、ニュータイプなんてさ」
この4人がアウドムラへの支援に志願したのは・・・もちろん協力する意欲があったからだが・・・・あのアムロレイがアウドムラに合流したという報告を受けたのもあった。
ある意味ミーハー根性で、一年戦争の英雄を拝みにきたのだ。
「こんな機会でも無いと一生あえないからな、アムロレイなんていう超有名人とは」
「平凡だったけどね、実際は」
「あんな細くてMS操れるのかね、へたすりゃカラバの女より華奢だぜ」
一人が下品な笑いを浮かべた。
「そうそう、知ってるか?アムロレイのもうひとつの噂」
「英雄にまで伸し上がったのは連邦の高官連中に尻ふったからって奴?」
「でなきゃたかだか民間人の子供が最新鋭のガンダムのパイロットに抜擢されるわけないだろ」
「本人見ると噂もまんざらじゃないって気がするよな」
酒の勢いもあって4人は下品な噂を肴に盛り上がる。
「でもあんなにさえないのだったらエッチする気にもならないぜ」
「あれなら女抱いたほうがいいよなぁ、あーあ、俺憧れていたのに」
ぶつぶつ勝手な文句を言う奴らである。
「でもさあ、ベルならやれるんじゃないか?」
一人がベルトーチカイルマに話を振った。
「そうそう、こいつ悪食だし」
「ゲテモノ好きというかなんでもOKだし」
三人はにやにやと人の悪い笑みを浮かべる。
「この前だって三流雑誌のグラビアアイドルといい仲になっていたじゃん」
「その前は女性仕官だったよな、12歳年上のアマゾネス」
ベルトーチカは苦笑を浮かべビールを飲んでいる。
「どの子も可愛かったよ、僕は女性を差別しないんだ」
来る者拒まず去る者追わず。
この時代、恋愛くらいは軽く明るく楽しみたいではないか。
ベルトーチカイルマの恋愛感は幅広かった。
楽しければ、興味をひかれれば誰とでも寝る男
「じゃあアムロレイでもいけるんじゃないか?英雄とのセックスなんて滅多に出来ないぜ」
「ベルが誘えばアムロレイだってOKするだろ」
確かにベルトーチカイルマの顔は非常に整っている。
鍛え上げられた体躯も彼をいっそう魅力的にしている。
「男は対象外だよ」
ベルトーチカがそう言えば、
「嘘付け、この前新人の従卒くっちゃったじゃん」
「ええっあのカラバ一の美少年をか?羨ましい」
「まあ彼は可愛かったからね、言い寄られたら悪い気はしないよ」
でもアムロレイはもうおじさんだぜ。俺たちから見れば
ベルはそう言いながらビールを口にした。
「そんな事言って、自信無いんだろ、いくらカラバ一の色男でも一年戦争の英雄には相手にしてもらえないってさ」
「相手はニュータイプ様だもんな、ベル相手じゃ無理か」
「今までの相手とは格が違うもんな、ベル、あきらめろ相手が悪い」
「だからどうしてそんな話になるんだよ」
膨れるベルトーチカを仲間はからかいの種にする。
「だってお前結構憧れていただろ、アムロレイに」
「知ってるぞ、アングラ雑誌の切り抜きとか集めてたの」
「この応援にだってお前が一番熱心に志願していたからなぁ」
仲間の口さがない言葉にベルトーチカはビールをあおった。
「まあね、確かに興味はあったさ、あのアムロレイなんだから」
「じゃあ落としてみろよ、興味あるんだろ」
「ベルなら出来るぜ、簡単だ」
お前ら、さっきと言っていることが違うぞ、
ベルは苦笑しながら呟いた。
「恋愛対象には、あの顔じゃちょっと無理だけどお友達くらいにならなってもいいかな」
「おお、ベルがその気になったぜ」
「俺、ベルが一週間でアムロレイを落とす、一万かける」
「俺は3日」
「コナかければ速攻ベット行きさ、そうだろ、ベル」
「お前ら、俺を賭けの対象にするなよ」
ベルトーチカは苦笑しながらさわやかに笑う。
「俺は恋愛を賭け事にしたりしないけどな、まあアムロレイ といい仲になったらお前らには酒の一杯でも奢って貰おうか」
酒の席でのたわごと、若者たちのたわいないゲーム
長く続く戦争の時代、こんなゲームでもしなきゃやっていられない。
彼らは笑いながら酒を飲み笑い続けた。
擬態12
アムロレイはごく平凡な、さえない男だった。
誰が話しかけても朴訥とした返事しかしない。
一日中、MSに張り付いている機械おたく。
「ヘレンヘレンだね」
ベルトーチカが話しかけた時もそんな風だった。
「ヘレンヘレン?」
「そう僕の好きな石鹸だよ」
いいにおいだね、そう言いながらベルが首筋に顔を寄せても彼は凡庸な表情のままだ。
「ああ、そう」
アムロレイはそれだけ言うとまたMSの整備に意識を戻した。
首筋に顔を寄せたベルトーチカイルマは戸惑った。
普通こうすれば男も女も頬を赤らめてベルを意識するのに。
アムロは、アムロレイはうろたえた様子も無く、目の前のMSに没頭している、
まるでベルなど無視しているかのように
ベルなど眼中にないように。
目の前のMSにのみ没頭している
「良い匂いだね、アムロの香りだ」
ベルが更に顔を寄せるとアムロはうざそうに首を振った
「ブリッジに行った方がいいよ、仕事が山ほどあるんでしょう、ベルトーチカイルマ」
アムロはそう言うとベルから離れようとした。
「確かに仕事はあるけどね、僕はアムロレイと話をしたいんだ」
「何故?」
アムロの瞳がベルトーチカを捉え 何故かベルトーチカは胸の高まりを覚えた。
「当然だろう、アムロレイといえば一年戦争の英雄なんだ、僕はアムロのことをもっと知りたいんだよ」
黙り込んだままベルトーチカを見つめるアムロにベルはささやいた。
「アムロはすごいんだろう、ファーストニュータイプだし、一年戦争でかの赤い彗星と渡り合った英雄だし、すごいよ、尊敬するね」
ほめ言葉を羅列する。
ベルの美貌で、微笑みながら耳元でささやけば誰でもいい気分になるだろうに。
「話はそれだけ?」
そっけなく見つめられたまま言われ、ベルは一瞬躊躇した。
「僕はアムロレイに憧れていたからもっと話をしてわかりあいたいのだけど」
戸惑いを隠すように早口で言えばアムロは小さく笑った。
口元だけで。
それが妙に悔しくてベルは悔し紛れに顔を寄せた。
キスのひとつでもしてやれば驚いて真っ赤になるだろう。
軽い気持ちだったのだが。
唇が離れてもアムロレイはポーカーフェイスを崩さなかった。
「僕からは話すことは無いよ、ベルトーチカイルマ、わかったら仕事に戻るんだね」
アムロはそっけなくそれだけを言うとベルトーチカに背を向けた。
「ブリッジに行った方がいいよ、仕事が待っている」
離れていくアムロ、ベルトーチカはいつもの手腕が空振りに終わったことを感じ、屈辱に頬を染めるしかなかった。
擬態13
それは偶然であった。
否、偶然を装った必然であったのかもしれない。
クワトロバジーナがアムロレイの事を考えながらブリッジをよぎった時、視線に飛び込んできたもの
かつてのライバルとカラバの男、
シャアは物音ひとつ立てず、しかし目を離すことは出来なかった。
「アムロ、アムロレイ」
ベルトーチカイルマと分かれた後、エレベーターに乗り込もうとする彼に声をかける。
「・・・クワトロ大尉?」
彼はばつの悪そうな顔をして唇に手を当てた。
自然にその仕草に見ほれる。
さっき、彼は何をしていた?
何をさせていた?
あの軽薄なベルトーチカイルマとかいう若者に?
苛立ちを隠しながらクワトロはアムロに続いてエレベーターに乗り込んだ。
アムロはしきりに唇を気にしている。
あの唇にベルトーチカイルマは触れたのだ。
アムロレイはそれを許したのだ。
なぜか、クワトロにはそれが耐え難い裏切りのように感じた。
そう感じる自分を失笑しながらクワトロはきつい視線をアムロに向ける。
エレベーターの中の密室、ここならば誰も聞いていない、
二人だけの空間。
クワトロはこの機会を逃すつもりはなかった。
「何故地球圏に戻ってきたのですか?」
沈黙に耐えられなくなったのか・・・先に口を開いたのはアムロであった。
「君を笑いにきた、そういえば君の気が済むのだろう」
それは先ほどの事なのか、それともMSに乗らない事に関してか、アムロは判断がつかなかった。
「 好きでこうなったのではない、あなたにだってわかるはずだ」
顔を背けるアムロにクワトロは冷笑を返す。
「しかし同情が欲しいわけでもないだろう ならばカツ君の期待にも答える君であってほしい、それが私に言える最大の言葉だ」
暗にこんなところで男とたわむれている暇など無いはずだ、と言外に含ませた言い方をする。
「・・・何故地球圏に戻ってきたんだ?」
アムロはクワトロの顔を見ずまた尋ねた。
「ララァの魂は地球圏にさまよっている。火星の向こうにはいないと見た」
「・・・ララァ」
一瞬 驚きの表情を浮かべアムロはクワトロに顔を向けた。
アムロの青い瞳がクワトロを捉える、
「自分の殻の中に閉じこもっているのは地球連邦政府に、いやティターンズに手を貸すことになる」
クワトロの言葉は容赦ない、
「ソラにいかなければ出来ない相談だ」
アムロは力なく呟く。
「籠の中の鳥は鑑賞される道具でしかない。籠から出たくば君もソラにあがればいい」
強い力を持ったクワトロの言葉にアムロは力なく首を振った。
「行きたくは無い。あの無重力の感覚は怖い」
「ララァに会うのが怖いんだろう」
クワトロの言葉にアムロは奇妙な顔をする。
「死んだものに合える訳ないと思いながらどこかで信じている。だから怖くなる」
アムロは黙ったままクワトロを見つめていた。
クワトロの瞳の中にある言葉の裏を探るかのように。
「あなたはララァが火星の向こうにはいないと言った」
「ああ、彼女の魂は地球圏にあると思っている」
しばらくの間、アムロはクワトロの瞳を見つめていた。
そして不思議そうに呟く。
「あなたは彼女がどうなったのか、知らないのか?」
その言葉にクワトロは眉をひそめた。
「どういう事だ?何を知っている?」
どれくらい時間がたったのだろうか?
アムロはクワトロから視線をそらすと小さい声で答えた。
「エルメスが爆発したあの時、あなたも僕も感じた、わかった筈だ、ララァがどこへ行ったのかを」
「どこへ行ったというのだ?」
「それは僕がしゃべる事では無いよ、クワトロバジーナ大尉」
アムロはしゃべりすぎたことを後悔したように頭を振った。
「僕はもう昔とは違う、ソラに戻ることは出来ない」
「ニュータイプの力を失ったからというのか?アムロレイともあろうものが」
クワトロは怒りを滲ませながらアムロに詰め寄った。
「生きている間に生きている人間のすることがある。それを行うことが死んだものへのたむけだろう」
「・・・・喋るな」
アムロが身をよじってもクワトロは掴んだ腕を放そうとはしない。
「こんなところでベルトーチカイルマなどと馬鹿げた遊びをするくらいなら私と一緒に宇宙に上がれ」
「僕にはそんな力は無い、ソラへ言っても足手まといなだけだ」
「その判断は私がする」
二人がもつれ合ったその時、エレベーターが目的の階に着いた。
扉が開くと同時にアムロはクワトロを突き飛ばす。
「あなたと僕は理解することは出来ない、例えニュータイプだったとしても」
それだけ言うとアムロは逃げるように背を向ける。
追おうとしたクワトロだが、一瞬の戸惑いの後 アムロの去った方向とは逆の、ブリッジへと足を向けた。
擬態14
3日後、
「なあどうしたんだよ?」
「最近イラついているな、ベル」
カラバの仲間達が心配そうに声をかけてくる。
だがその声の中には好奇心がありありとうかんでいる。
ベルトーチカイルマは苛立たしげにビールを飲み干した。
毎晩のように開かれる飲み会。
その席で皆興味津々にベルの報告を待っていたのだ。
アムロレイとどこまで進展したのか?
最近、飲み会の話題はそればかりだ。
最初の頃はベルも面白おかしく話してくれていた。
だがここ数日、ベルは不機嫌をあらわにして口をつぐんでいる。
「やっぱベルでも駄目だったってことか?」
「あんなさえない奴でも一応は一年戦争の英雄だもんな」
「プライドだけは高いんだろ、気にするなよ、ベル」
「相手が悪かっただけさ、ニュータイプなんて相手にするな」
あまりにもベルの機嫌が悪いので、仲間達は口々に彼をなぐさめようとする、
ベルは失敗したのだろう。
そう勝手に憶測して。
それがどれだけベルのプライドを傷つけるかわかりもせずに。
失敗したのならいい。
やはりニュータイプなんて恋愛対象にならない。
そう言って笑って、飲んでやりすごせばいい。
だが、ベルは相手にすらされなかった。
失敗以前の問題だった。
「納得いかない」
一気にビールを飲み干すとベルは酔った勢いで立ち上がった。
「どこいくんだ?ベル」
「もう就寝時間だぜ」
声をかける仲間達。
「ナシつけてくる。このままじゃ寝覚めが悪い」
そういい残して部屋を出て行くベルに皆あっけにとられた。
「まさか。ベルの奴夜這いかける気じゃないだろうな?」
「アムロレイに?」
一瞬の沈黙、その後一気に盛り上がる。
「俺、ベルが成功するに一万かける」
「俺は玉砕に1万」
「ベルはプライド高いからなぁ」
「振られたことないし、意地でも落としにかかるだろ」
勝手なことをいいながら、皆ベルの行為に少々驚いてもいた。
「俺、ベルが本気になったとこ始めて見たぜ」
「俺もだ、軽い奴だから、なびかなかったからといって追いかけていくような奴じゃないのに」
「アムロレイに本気?冗談だろ」
今までにないベルの態度にカラバの仲間は事後報告を待ちわびるのであった。
小さくブザーのなる音がする。
「こんな夜更けに?」
部屋でシャワーを浴び、ベットに入ろうとしていたアムロは眉をひそめた。
ドアの前にいるのはベルトーチカイルマ、
最近アムロの周りをうろついていたカラバの青年だ。
無視しても彼は帰らないだろう。
それがわかるから、アムロは小さくため息をつくと彼に向かい合った。
「何か用?ベルトーチカイルマ」
アムロの問いかけにベルトーチカは狼狽したような仕草を見せた。
酔った勢いで部屋に押しかけたものの、まさか本当にドアを開けて出てくるとは思わなかったのだ。
訪ねてみて、アムロの顔を間近で見てベルトーチカは自分の体温が急に上がったように感じた。
急に酔いが回ってきたようだ。
酒臭い息を吐きながらベルトーチカは強引に部屋に入り込もうとする
「話をしたいんだ、アムロ」
肩を掴まれ部屋に押し込まれる。
「しょうがないな」
アムロはため息をつくとベルトーチカを部屋に招き入れた。
擬態15
カミーユがそこをとおりかかったのはニュータイプ特有の直感だったのかもしれない。
その晩は妙に寝苦しかった。
アムロの事を考え、火照る体を冷まそうと夜風にあたる為廊下を歩いていた時、ベルトーチカイルマを見かけた。
「ちっあの男」
カミーユはベルトーチカが嫌いだった。
嫌悪しているといっていい。
アムロレイに まとわりついている嫌な奴。
軽薄で浅はかなオールドタイプだ。
アムロがファーストニュータイプだから、一年戦争の英雄だからという理由だけでミーハーな好奇心を隠そうともしない。
自分の興味を満たすためなら人に迷惑をかけてもかまわないタイプ
カミーユは目をそらそうとしたが、ふと嫌な予感がして彼の後を追った。
どこへ行くんだ?あの男は。
まさか ?
ベルトーチカは酒に酔っているらしい。
おぼつかない足取りである部屋の前に立った。
しばらくして扉が開く。
ベルトーチカは押し入るようにして中に入った。
部屋の主は呆れたような気配だったがベルトーチカを部屋に招きいれた。
「アムロさんっ」
廊下の影から覗き見ていたカミーユが怒りで青くなった。
まさかっアムロさんはあいつを受け入れたのか?
部屋の中で何が行われているのか気になる。
だが、カミーユは苛立たしげに爪を噛んだ。
ドアを叩く勇気が無い。
もし、もしもアムロがベルトーチカを迎え入れていたとしたら?
あの馬鹿なオールドタイプに全てを許していたとしたら。
自分は壊れてしまう。
アムロに付け込んだベルトーチカも、ベルトーチカを受け入れたアムロも憎んでしまう。
あんなに綺麗な人を嫌いたくない。
アムロはカミーユが初めて好きになった人なのだから
「アムロさんがあんな奴相手にするわけがない」
そう自分に言い聞かせながらもカミーユは自室に戻ることが出来なかった。
こんな深夜に、酒に酔った男を招き入れたのだ。
自分に気がある男だと わかっていながらアムロは部屋に入れたのだ。
「アムロさんはそんな人じゃない」
わかっているのに、わかっているからこそ部屋の様子を確認したい。
確認して安心したい。
カミーユはきびすを返すとブリッジへと上がった。
「あれ?カミーユ、どうしたんだ?こんな夜更けに」
夜間勤務の同僚が声をかけてくる。
今は危険空域ではないから、深夜勤務の数は少ない。
運のいいことにブライトもクワトロもいなかった。
「ちょっとね、席かりるよ」
カミーユは同僚から離れた席に座るとコントロールパネルを開いた。
そしてコードを打ち込んでいく。
アウドムラは安全管理のため全ての部屋にカメラが添えつけられている。
もちろん、それは個人情報保護のため普段は使われていないがその画像は保管されているのだ。
カミーユにとって暗号解除など造作もなかった。
しばらくいじるとパネルに映像が映る。
アムロレイの部屋、337ルーム
ベルトーチカイルマはベットのふちに腰掛けていた。
それを見てカミーユは頭に血が上るが自分に言い聞かせる、
部屋には椅子が一つしかないのだから、ベルトーチカが座るとしたらベットしかない。
「はい、水だよ」
アムロが手渡したコップをベルトーチカは飲み干していた。
「もし、アムロさんに何かしたら殺してやる」
不快感を隠しながら、カミーユは映像に見入った。
物騒な殺意をも隠しながら。
なんか穴だらけのあらだらけでごめん
擬態16
部屋に入ったはいいが、ベルトーチカは戸惑っていた。
酒の勢いで来てしまったのだが、アムロレイの冷たい視線を見ていると頭がひえてくる。
「こんな夜更けに話ってなに?」
彼はベルトーチカを招きいれても動揺した様子は無かった。
それどころか話の内容はもう分かっていて、付き合ってやるから早く話して帰れという雰囲気すら感じる。
ベルは手元の水を飲み干すと言葉を発した。
「僕は、アムロと仲良くなりたいんだ」
唐突で勝手な言い分だった。
少なくとも夜更けに訪問してまでして話す内容ではない
だが返事は返ってきた。
「友達ごっこをする年齢は過ぎただろう」
アムロはそっけなかった。
「いいじゃないか、僕はあんたの事が気になるし知りたいのに何故そんなに距離をおこうとするんだ?」
言っていることが支離滅裂な気がするのは酒が残っているからだろう。
「ここは戦場だよ、ベルトーチカイルマ」
友情だとか甘ったるい事は別の場所でやってくれ。
「戦場だったらあんたと仲良くなっちゃいけないのか?そんなの変だ」
アムロの態度にベルは怒りを感じたようだ。
「仲良くなりたいと話しかける人間にあんたはいつもそうなのか?誰に対しても距離を置いて、自分は一人で戦ってますって顔をしている」
アムロは黙って聞いていたがおもむろに問いかけた。
「君は友達が欲しいのか?違うだろう」
「俺は、僕はあんたが気になる。一年戦争の英雄、ファーストニュータイプのアムロレイは僕達の憧れだったから、近づきたい、あんたの事を知りたいと思うのは当然だろう」
「興味本位でむやみに近づかないほうがいい」
「興味本位じゃない、そりゃあ確かにちょっとは興味もあるけど僕はアムロの事が知りたいし、自分の事も知ってもらいたい あんな風にキスしても無視されたら傷つくよ」
もうベルは自分が何を言っているのか分からなかった。
ああ、酒なんて飲んでくるんじゃなかったと後悔する。
これじゃあまるで駄々をこねる子供だ。
「何故?」
アムロは静かに問いかける
問いかけられてベルは始めて気がついた。
賭けだからじゃない、プライドが傷ついたからじゃない。
自分はずっと・・・・
「アムロに憧れていたんだ、さっき言っただろう。僕にとってファーストニュータイプは天の上の・・手の届かないすごい人で、でもずっと憧れていて、あんたに会いたくて・・・」
「会って幻滅しただろう、こんな平凡な人間で」
「でもファーストニュータイプなんだから他の人間と違う筈だ」
見た目は取り立てて秀でたところの無い凡庸な人間。
だからこそベルは気になったのかもしれない。
これがクワトロバジーナの様なカリスマ性かカミーユビダンのごとき才能を見せていたら、ベルだって納得していただろう。
平凡だからこそ納得がいかず、気になり、知りたいと思った。
アムロはしばらくベルの瞳を見つめていたが、やがて小さくため息をついた。
「君はニュータイプを過大評価しているようだね」
「ニュータイプが、ガンダムが、あなたが一年戦争で連邦を勝利に導いたというのは事実だろう」
「人間にそんな事が出来るわけないじゃないか」
「でもあなたは出来た、ニュータイプだからだ」
勇むベルの言葉にアムロは苦笑を返した。
「君はニュータイプを誤解している、ニュータイプはそんな便利な、神がかりなしろものじゃないよ」
まるで子供を諭すような口調だった。
「そうやって笑って誤魔化して、僕を煙にまこうっていうのか?」
酔った勢いもあってベルの口調はとても上官に向けるものでは無くなっていた。
「僕はそんなことであきらめないから、ずっとあんたに憧れていたんだ、誤魔化されるくらいであきらめたりはしない」
ベルは立ち上がるとアムロの腕を掴んだ。
「ベルトーチカイルマッ」
「どうしてだろう、あんたはこんなにさえないただのおっさんなのに僕はあんたに惹かれるんだ。これはアムロレイがニュータイプだからなのか?」
教えてよ、と言いながらベルはアムロの髪に顔を寄せる。
「いいにおいだ。ヘレンヘレン、僕の 大好きな香りだ」
ベルトーチカは酒の匂いがまだ残る唇を近づけてきた
続く・・・・て支離滅裂でごめんなさい
擬態17
あと1センチ 唇が触れようとした瞬間、アムロが口を開いた。
「ベル、君はニュータイプを誤解しているよ」
冷静な声であった。
初めて彼からニックネームを呼ばれたことに驚いてベルの動きが止まる。
冷静で、冷たい声が聞こえた。
「君はニュータイプって何だと思っているんだ?」
怒っているのでは無い。卑屈になっているのでは無い。
唯、感情を見せない声であった。
「えっニュータイプってのはMSをうまく操れて、勘が良くて・・・」
「それじゃエスパーだね」
アムロが苦笑した。
口元は笑っているのに目が笑っていない。
ベルはそんな人間に口付ける勇気は無い。
固まってしまったベルにアムロは笑いかける。口元だけで。
「世間のニュータイプへの認識なんてその程度のものだよ」
何故だろう、部屋の温度が急に下がったような気がする。
妙な息苦しさをベルは感じた。
「 ニュータイプとはね、ジオンダイクンが提唱した進化のあり方なんだ。宇宙という広大な生活圏で人類の認識能力が拡大し、精神的肉体的にあらゆる物事を理解する事ができる。それが全人類に広がった時にかつてなしえなかった相互理解が可能となる・・・・、そんな事が出来る人間がいると思う?」
それこそ超能力者だ、とアムロは笑う。
「アムロ?」
息苦しさが酷くなる。
「でもね、これが肝心なんだ、ニュータイプってのはあらゆる物事を理解できるらしいよ。みんながそうなったら全人類が考えるだけで理解できる存在になる」
「・・・・アムロ」
「気持ち悪いよね、そんなの」
考えるだけで相手に思考が伝わってしまうんだよ。
相手の思いが知りたくなくとも感じてしまうんだ。
「それこそ化け物だ」
息苦しい、それが何故なのかオールドタイプのベルにも分かっていた。
目の前のアムロから発せられる空気が重いのだ。
なのに目が離せない。
凡庸なただのおっさんな筈なのに、先程とはまるで雰囲気が違う。
切れるような痛い静寂の中、アムロの声だけが聞こえる。
「全人類がニュータイプ化したら相互理解が可能・・・、じゃあ一部だけがニュータイプだったら?」
考えてごらん、
アムロは優しくベルにささやいた。
まるで子供を諭すように。
「ニュータイプは相手の思考を感じることが出来る。でもオールドタイプには出来ない」
気持ち悪いと思わないか。ニュータイプは人の心の中を全て読み取ることが出来るんだよ。
君の隠している秘密も、考えている事も、やろうとしている事も全てお見通しなんだ。
硬直しているベルの頬にするりと手をあててアムロがささやく
「たとえば、こうして触れるだけでベルが考えていることが分かるとしたら?」
「うわっ」
ベルは思わず後ずさった。
「そう、それが当然の反応だよ、ベルトーチカイルマ」
アムロは口元に笑みを浮かべながら言った。
今度は作り笑いじゃない。
「だから言っただろう、興味本位で近づくんじゃないと」
さあ、もう話は済んだだろう。
アムロはそういうとベルを促した。
「部屋に帰るんだ。そしてぐっすりと眠って忘れてしまうがいい。ニュータイプの事も、僕の事も」
ベルは何も言えなかった。
反論どころか言葉を発することが出来ず、部屋を出た。
扉が閉まった瞬間、あの息苦しさから開放される。
息苦しさが、ニュータイプ特有のプレッシャーだったのだということにオールドタイプのベルは気がつかなかった。
ニュータイプの定義はウイキペディアで引きました。(それでもダムファンかよ(苦笑))
擬態18
モニターでアムロの部屋を覗き見ていたカミーユは気が気ではなかった。
アムロはあまりにも無防備だ。
酒に酔った男を平気で部屋にいれている。
ベルが腰を下ろしたのがアムロのベットだというのも気に入らない。
そして、深夜訪れたベルトーチカの話は更にカミーユの怒りを買った。
「アムロさんが優しいからってつけあがりやがって」
爪を噛みながら画面を激視する。
ベルはくだらない戯言をほざいていたが、ふいに立ち上がりアムロに近づく。
「っあいつっ」
アムロの手を掴み、引き寄せ、キスを迫る仕草にカミーユの堪忍袋の尾が切れた。
「ちくしょうっ」
椅子を蹴飛ばしアムロの部屋へ怒鳴り込みにいこうと思った時、ふいに空気が変わった。
画面越しからでも感じる冷えた気配。
カミーユは慌てて椅子に座りなおし画面を見やる。
モニターには硬直したベルトーチカイルマ
そしてアムロは口元に微笑を浮かべていた。
部屋の空気が重い。
まるでニュータイプ特有のプレッシャーに包まれているように。
アムロのプレッシャーはベルトーチカのみに向けられているから、画面越しのカミーユにはそれが本当にプレッシャーなのかどうか判断がつかない。
だが画像越しにでも部屋の温度が冷えたような重圧は感じることが出来る。
カミーユは息を呑んで見守った。
アムロとベルが話している。
アムロは何時もの凡庸さを微塵も感じさせない、氷のような鋭い気配をまといながらベルに語りかけている
「 ニュータイプとはね、ジオンダイクンが提唱した進化のあり方なんだ。宇宙という広大な生活圏で人類の認識能力が拡大し、精神的肉体的にあらゆる物事を理解する事ができる。それが全人類に広がった時にかつてなしえなかった相互理解が可能となる」
それはカミーユも知っている。
自分もニュータイプらしいからニュータイプとは何なのか一応は調べた。
だがそれをあまり深く考えはしなかった。
いままでは・・・
アムロの声が遠くから聞こえる
「でもね、これが肝心なんだ、ニュータイプってのはあらゆる物事を理解できるらしいよ。みんながそうなったら全人類が考えるだけで理解できる存在になる」
何がいいたいんだ?アムロさんは?
重く冷たい気配、息苦しさに襟を緩め、カミーユは耳をそばだてた。
「気持ち悪いよね、そんなの」
考えるだけで相手に思考が伝わってしまうんだよ。
相手の思いが知りたくなくとも感じてしまうんだ。
「それこそ化け物だ」
アムロさんはニュータイプをそんな風に思っているのだろうか?
自分を化け物だと思っているのだろうか?
そしてニュータイプであるカミーユの事も?
「全人類がニュータイプ化したら相互理解が可能・・・、じゃあ一部だけがニュータイプだったら?」
考えてごらん、
アムロは優しくベルにささやいている
まるで子供を諭すように。
カミーユはまるで自分が囁かれているようなデジャブに陥った。
「ニュータイプは相手の思考を感じることが出来る。でもオールドタイプには出来ない」
気持ち悪いと思わないか。ニュータイプは人の心の中を全て読み取ることが出来るんだよ。
モニター越しにアムロが語りかけてくる。
カミーユは目をそらせない。
君の隠している秘密も、欺瞞も、欲望も全てお見通しだよ
毎晩アムロレイを想像しながら自慰をしていることも、ニュータイプ特有の選民意識を抱いていることも、クワトロバジーナを嫌う本当に理由も、
そう囁かれている気がした。
カミーユの隠している全てを暴いて、こっそり覗き見ているとしたらどうする?
いつも涼しい顔をしているアムロが、実は毎晩カミーユがしていることを知っていて、それで平気な顔をしているのだとしたら?
バタンッ
ドアの閉まる音でカミーユはハッと我に返る。
気がついたらベルトーチカが部屋を出て行ったところであった。
続く
擬態19
侵入者が去った後、アムロはベルが座っていたベットに腰を下ろす
俯いているため、表情は分からない。
カミーユは目をそらすことが出来ず見つめ続けた。
その時、小さい声が聞こえる。
「地球にいたとき、フラウから聞いたことがある」
独り言のようだ。
「フラウは家族と地球の日本にいて、そこで知った御伽噺を教えてくれた」
独り言というにははっきりとした口調だった。
「昔々、ある猟師が山で道に迷った。散々迷った男は一軒の家にたどり着く」
こんな険しい山奥に誰が住んでいるのだろう?
「不思議に思いながら猟師は家に入ると化け物がいた」
その家は化け物の家だったのだ。
化け物は言う。
「今お前の考えていることをあててみせよう。お前は化け物に会ってしまったと怯えているな」
猟師は驚いて鉄砲を握る。
「その鉄砲で俺のことを撃とうとしているな」
猟師は怯えて後ずさる
「逃げようとしているな、でもどこへ逃げたらいいのかわからない」
「その化け物の名はさとり、人の考えていることを何でも悟る化け物だった」
アムロは小さく笑った。
「まるでニュータイプみたいだね」
「日本だけじゃない、世界中でこういうモンスターの伝承はいくらでもある」
彼らは例外なく忌み嫌われ排除される。
「人間はね、人間以上の能力を持った存在を許せない生き物なんだ」
アムロの表情は見えない
カミーユは息を飲んで画面を見入る。
目が離せない
「だってそうだろう。自分の心の中を全て知られて平気でいられる人間なんていやしないのだから」
アムロはふいに顔を上げる。
「ッッ」
偶然だろうかっ
カメラ越しにアムロと目があった。
雄弁に物語る青い瞳がカミーユを捉える
アムロに囁きかけられた気がした。
「そうだろう?カミーユ」
その習慣、カミーユは席から飛びのいた。
アムロは気づいている?
自分がのぞき見ていることを?
まさかっ
偶然だ。
でも・・・・
アムロはカメラから視線を外すと小さく笑ってシャワールームへと消えた。
パチリッ
電源を落とすとモニターが暗くなる。
画面に何も見えなくなってもカミーユは椅子から立ち上がることが出来なかった。
擬態20
シャワーを浴びながらアムロは大きくため息をついた。
「これでもう近寄っては来ないだろう」
あれだけ脅したのだ。
ベルトーチカイルマがいくら無謀な人間だといってももうアムロの事を知りたいとは思わないだろう。
それに彼も
「・・・・カミーユビダン」
類まれなニュータイプ
彼が監視カメラを通じてアムロたちを見張っていることには気がついていた。
だから少し怖い目にあわせてあげたのだ。
「ニュータイプならなおさらの事近寄ってこない」
優秀なニュータイプなら、否優秀なニュータイプだからこそ係わり合いになるのを避けるだろう
本能で・・・・
彼の能力がアムロに近寄るのを危険だと告げるはずだ。
「それでいい、それで」
カミーユは知らないほうがいいのだ。
ニュータイプとはどういう存在なのか。
その能力がどういうものなのか?
「与えられた能力だけで満足していたほうがいいんだ」
アムロは呟くとシャワーブースから出て体を拭き清める。
目の前には大きな鏡が備え付けられている。
そこには誰も知らない、誰にも知られることのないアムロレイの本当の姿が映っている。
「知らないほうがいいんだ」
誰もアムロレイの本当の姿を知らない。
カミーユは薄々感じていたようだが・・・・・
「これ以上深入りしないほうがいい」
知らないほうがいい。
ニュータイプの能力の行き着く先など・・・・
アムロは鏡から目を背けると寂しそうに笑った。
それは連邦軍も、アウドムラの人間も、他の誰も知らないアムロが隠し続けてきた真実の表情であった。
擬態21
翌日
最初にその報告を受けたのは艦長であるブライトであった
技術班長から個人情報にアクセスした痕跡があると知らされたのだ
アクセス先は337号室、アムロレイの部屋だ
アムロレイは今アウドムラで微妙な立場に立っている
失望された元ニュータイプとして皆の視線はきつい
アムロがMSに乗らないこと
積極的に皆とかかわろうとしないことも一因だった。
確かにアウドムラの人間にも問題はある
興味本位に一年戦争の英雄に近寄りたがる輩は多すぎた
ベルトーチカイルマなどその最たる例だろう
プライバシーにまで首を突っ込んできそうな雰囲気にアムロが拒否反応を示すのは当然かもしれない
しかし、それだけでなくアムロは人との距離をおいているように見えた
昔、感情のままブライトに突っかかってきた少年はもういない
無気力な青年がいるだけだ
それが皆を苛立たせるのだろう
それだけではない
アムロは今は普通の人間だがあの一年戦争を勝利に導いたという実績を持っている
彼が連邦の秘密機能にかかわっていたのではないか?
そういう疑心が艦内を漂っている
もう少し時が過ぎればアムロも慣れ、人々もアムロの存在に慣れることが出来るだろうに
今の時期にアムロレイの部屋へ無断アクセス?
ブライトは眉を潜めると極秘に調査した
不法にアクセスできたとしても出来る場所は限られている
メインコンピューターと繋がっているこのブリッジ でないとデーターにアクセス出来ない。
そこでブライトはカミーユを見たという話を聞いた
「カミーユが?昨夜?」
「ええ、てっきり艦長の指示かと思ったのですが、カミーユはそこの席で何か情報を見ていましたけど」
昨夜ブリッジにいたメンバーから聞かされブライトはある意味納得した
カミーユはアムロをやけに気にかけていた。
彼の好奇心がアムロレイのプライベートに向かったとしても不思議は無いくらいに
「しかし、突然何故アクセスしようとしたのだ?」
カミーユくらい機械に強ければ、自室でメインコンピューターにアクセス出来るよう自分のパソコンを改造することも出来るだろう
もっともそれには膨大な時間がかかる
「急ぎで知りたいことでもあったのか?」
ブライトはカミーユがアクセスした時間のアムロレイの情報を確認することにした
会議室に一人こもり、アムロのデーターを見入る
「ベルトーチカイルマ?」
密かなノイズの後、画面にはベルトーチカが現れた
アムロは彼を部屋に招き入れる
ベルトーチカは酔っているらしくアムロに絡んでいた
「んっノイズが酷いな」
ザザッと画面が見ずらくなる
画面からはアムロの声が聞こえる
「ベル、君はニュータイプを誤解しているよ」
その瞬間ノイズが酷くなり画像が映らなくなる
「なんだこれは・・・故障か?」
戸惑うブライトの前で画面は砂嵐を見せるだけであった
続く
擬態22
その晩、ブライトはカミーユを自室へと誘った
事がアムロ に絡むだけに個人的な会話で済ませておきたいというのがブライトの本音だ。
アムロだけでなくカミーユも微妙な立場にいる
Zのパイロットだがブライトから見ればまだ子供の域を出ていない
戦争という現実を受け止めかねているように見えた
だからこそ、一年戦争で同じ立場だったアムロレイに関心を抱き盗聴までしてしまったのだろう。
ブライトはカミーユを軽く諌め、この件は不問にするつもりであった。
しかし、現れたカミーユを見てブライトは眉を潜めた
「昨日、寝れなかったのか?」
ブライトの問いかけにカミーユはうなずいた
目の下には隈が浮かび目は充血している
全身から疲労が漂っている
たった一晩寝なかっただけでこれだけ憔悴するものだろうか?
それだけでは無いような気がする
「何か・・・悩み事でもあるのか」
相談に乗るぞ、とブライトが言うとカミーユはぼそぼそと呟いた
「ブライト艦長はアムロさんと一年戦争で一緒だったんですよね」
「ああ、そうだが」
「アムロさんって昔からああだったんですか?」
カミーユの言う「ああだった」という意味を図りかねたがブライトは言葉を紡いだ。
「アムロだって昔は意固地でわがままだったよ」
言外に今のカミーユと一緒だと含ませる
「今はだいぶ穏やかになったが・・・・」
それでも昔の傷が深いのかMSに乗ろうとしない。
ブライトはカミーユにはアムロのように傷を持ってもらいたくなかった。
だからこそ親身になろうとも思う
いけない事をしたらちゃんと叱ってあげられるくらいに。
「アムロが気になるのか?」
「・・・・・」
黙ってうつむくカミーユにブライトは少々きつい声を出した
「アムロはファーストニュータイプと呼ばれた人間だから 興味があるのは分かる、だが人のプライベートを覗き見るようなことはいけない」
カミーユは俯いたままだ。
「アムロの事を知りたければアムロ本人に聞くんだ。人間なんだから言葉でコミニケーションをとるようにしないとな」
「・・・アムロさんは教えてくれません」
「カミーユがちゃんと話をすればアムロだって相談に乗ってくれるさ」
「・・・・・」
カミーユは俯いて唇をかみ締めていた。
「カミーユ?」
その肩が震えていることにブライトは気がつく
「僕は・・・僕はアムロさんの事が知りたい、なのにアムロさんは隠していて教えてくれない」
「だから覗き見などしたのか」
ブライトがため息をつくとカミーユはいらだった声で答えた。
「あれはっベルトーチカイルマがアムロさんの部屋に押しかけたから心配で・・・それで」
ベルトーチカが画面に映っていた をブライトは思い出した。
だがその内容は確認出来ていない。
「アムロはベルトーチカと何を話したんだ ?」
「・・・・ニュータイプについて、でもそれだけじゃない」
「それだけじゃない?」
「アムロさんすごく怖かった、ベルトーチカも怯えていた。」
「アムロが怖い?暴力でもふるったのか?」
あのアムロがそんな事をするとも思えないが ブライトがもっと詳しく話しを聞こうと身を乗り出しカミーユの異変に気がついた
目がうつろだ。
どこか宙を見てぶつぶつ言っている
「すごく怖かった。あんなに怖いのに、僕とても怖いのに」
小声で話すカミーユにブライトは聞き耳を立てる
「それでもアムロさんを知りたい。アムロさんの全てを、アムロさんが欲しいんだ」
念仏のようにぶつぶつ呟いている
「アムロさんは僕より強い、とても強くて、怖くて、どうすればあの人を僕のものに出来るんだろう」
「カミーユ・・・?」
目の前にブライトがいることも忘れてしまったかのようにカミーユは独り言を言いながら爪を噛んでいる。
「アムロさんに触れたら僕は壊れちゃうのかな、でもいいや、あれは僕のものだから、僕しか理解できないんだ。ベルトーチカなんて怯えているだけだった。アムロさんが言っていたことを理解できたのは僕だけなんだ」
病的なその姿にブライトは大声を出した
「カミーユッ」
はっと気がついたかのようにカミーユは目をしばたかせる
「あ、すいません。ブライト艦長。ちょっと寝ていないせいかぼーとしてしまって」
自分が独り言を言っていた事に気がついていないのか?
カミーユは自然な態度で立ち上がると頭を下げた。
「覗き見などしてしまってすいませんでした。もうしません」
そう言うと部屋を退出する。
残されたブライトは悪い夢でも見てしまったかのような後味の悪さに襲われた。
カミーユをあのままにしておいてはいけない
オールドタイプであるブライトに分かるのはそれだけであった。
続く
擬態23
「ブライト艦長、ちょっと話があるのだが」
表面上は何事も起こらず、小さな戦闘はいくつかあったが比較的穏やかな数日が続いたある晩、ブライトはクワトロ大尉に呼び止められた。
「なんですか?クワトロ大尉」
ブライトは表情を変えなかったが、やはりきたか・・・という気持ちにさせられる。
クワトロ大尉の目を誤魔化せるわけなかったのだ。
彼はあの晩からカミーユが不安定なのに気がついているのだろう。
戦闘で明らかなミスをしたわけでもないし表向きは変わらない。
だが・・・ニュータイプらしき(それはオールドタイプであるブライトには判別つかないが)クワトロバジーナは異変を感じているのだ
「飲みながら話さないか」
「いいですね、たまには気晴らしも必要でしょう」
そういいながら二人は士官室へと向かった。
「私の誘いを断らないところを見ると艦長も気がついているんだな」
バーボンのグラスを傾けながら問いかけてくるクワトロにブライトは答えた。
「実は・・・・」
ベルトーチカとアムロが部屋で会っていたこと
それをカミーユが覗き見ていたこと
その直後からカミーユの精神が不安定になり始めたこと
「そうか、やはりアムロレイが絡んでいるのか」
クワトロは納得したという顔でグラスの中身を飲み干す。
「繊細な問題ですからね、カミーユにとってもアムロにとっても」
口を出さずに静観したほうが良いのではないか?
と言うブライトにクワトロは首を振った。
「見守ることでカミーユが安定するとは思えない。今の彼は抜き身の刀のようだ」
神経を研ぎ澄まして、アムロの様子を伺っている。
まるで獲物を狙う獣のようにギラギラしながら。
「アムロレイはこの事を知っているのか?」
「いや、まだ話してはいない」
「一応知らせておいたほうがいいだろう。そのほうが何かあったとき自衛する心構えも出来るはずだ」
クワトロの言葉にブライトは眉を潜めた。
「自衛・・・・カミーユがアムロに暴行を働くとでも言うのですか?」
「可能性が無いとは言い切れないだろう、今のカミーユの状態では」
それに、暴行といっても色々な手段があるからな。
「軍隊ではよくあることですね、」
ブライトはため息をつくと艦内放送でアムロを呼び出した。
「アムロレイ大尉、入ります」
シュッと軽快な音とともに扉が開く。
ブライトの士官室に入ったアムロは中にクワトロがいるのに驚いたようだ。
「話って何?ブライト」
戸惑いの視線を向けるアムロにブライトは苦笑しながらグラスを渡した
「久しぶりに飲まないか?」
「それだけのために僕を呼んだのか?」
ブライトとクワトロ大尉とアムロで飲み会だなんて・・・・寒すぎる
よほど表情に出ていたのだろう。
クワトロは笑いをこらえながらアムロに椅子をすすめた。
「相談があるんだ、カミーユビダンについて」
アムロは怪訝な顔を向けたが、大人しく座ると差し出されたグラスを受け取った。
続く
なんとこのシリーズ・・・ここまで書いて重大なボンミスに気がつきました
この時、アウドムラの艦長ってブライトさんじゃないじゃん
なんか艦長っていうとブライトさん、みたいな思い込みがあって・・・・
えーこれはなんちゃってZなのでご都合主義なので・・・・ブライトさん艦長のままでいきます
ごめんハヤト
擬態24
「アウドムラにはもう慣れたのか、アムロ」
「ええ、そうですね」
居心地が悪そうにぽつぽつと返事をしながらアムロはグラスの中身を舐めている
クワトロがいるから落ち着かないのだろう
この前、エレベーターの中で言い争ったことをしこりに思っているのが見え見えであった。
だからクワトロも単刀直入に切り出した。
「今日呼び出したのは他でも無い。カミーユビダンのことだ」
「カミーユの事?それで何故僕に聞くんですか?」
しらばっくれるつもりなのだろうか?
幼稚な事だ。
「カミーユの様子がおかしいことは君も気がついているだろう」
「戦闘に集中できていないようだったけど、気がついたのはそれくらいかな」
彼はまだ若いのだからムラがあるのは当然だろう。
そう言うアムロにクワトロは皮肉な笑みを浮かべた。
「気がつかないわけが無い、君は当事者なのだから」
「僕が?」
「カミーユに何をした?何を話した?」
クワトロの口調は攻めているものであり、ブライトは慌てて間に入った。
「アムロには悪いが部屋の監視カメラを調べさせてもらった。数日前ベルトーチカイルマを部屋に入れているね」
ブライトの言葉にアムロは眉を潜めた。
「確かにそうだけど・・・・監視カメラの確認って?まさか僕が連合軍のスパイだとでも?」
戸惑いを浮かべるアムロの表情にあやしいところは無い。
「そうじゃない、アムロとベルトーチカイルマが話しているのをカミーユが監視カメラを使い見ていたんだ、それからだ。カミーユがおかしくなったのは」
アムロは首をかしげた。
「変だな、あの時ベルトーチカと話したのは単なる雑談だよ。彼は酔っていて絡んできたから適当に話をして終わらせた。5分もかからなかった筈だ」
「雑談とは何を?」
クワトロが鋭く問いかけてきた。
「雑談は雑談だよ。彼は僕がニュータイプで憧れているとか言うから、ニュータイプとはどういう者なのかという話をしただけだ」
「・・・・・それは」
ブライトが顔をしかめた。
一年戦争での戦功がニュータイプとみなされシャイアンで幽閉されていたアムロにその質問?ベルトーチカはなんて無神経な質問をするのだろうかとブライトは怒りさえ感じる。
だがクワトロの考えは違った。
興味深そうにアムロを見つめなおす。
「それで君はなんと答えたのかね」
「 ニュータイプとは、ジオンダイクンが提唱した進化のあり方で宇宙という広大な生活圏の中、人類の認識能力が拡大し、精神的肉体的にあらゆる物事を理解する事ができる。それが全人類に広がった時に相互理解が可能となる と答えたよ」
「通り一遍の回答だな」
アムロは苦笑を返す
「かつて、ニュータイプともてはやされた頃は何も知らない16歳の子供だったんだ。そして凡人となった今、僕が答えられるニュータイプ の定義なんてこのくらいさ」
「アムロレイはもはやニュータイプでは無いと自分で言うのか?」
不快感を隠さずクワトロは聞いてきた。
「そうだよ、連邦軍の資料、シャイアンでの実験結果を見れば分かるけど僕はもう能力を失っている」
ブライトとクワトロは言葉につまった。
「確かに、シャイアンの資料は見た。7年にも渡る検査の結果、何も見つからなかったという訳だ」
「見つからなかったんじゃなくて無かったんだよ。はじめから」
アムロはクワトロの言葉を訂正した。
険悪な空気が部屋に流れる。
「アムロ、シャイアンでの検査とはどういうものだったんだ?お前の人間性などは保障されていたのか?」
ブライトが聞きづらそうに問いかけた。
「シャイアン?検査は普通の・・・血液検査、生体検査、脳波、運動能力、思考能力とかそういう物だったよ。僕は彼らにとって貴重な実験体らしかったから丁寧に扱ってくれた」
「人体実験とかされなかったんだろうな」
ブライトの言葉にアムロは苦笑した。
「いやだなぁ、ブライト 小説の読みすぎだよ。いくら連邦軍でもそこまではしないって。検査して僕が凡人だって分かったらシャイアンに館をくれて、召使もついて隠居させてくれたしね」
「隠居という名の幽閉だろうが」
「まあね、うっとおしい見張りがついたけど、それ以外は快適だったよ。シャイアンは」
いっそすがすがしい口調で言い切られクワトロは皮肉な笑みを浮かべた。
「まさに飼い殺しというやつだな。そしてアムロレイは腑抜けになったと」
「そう思いたければ思えばいい」
アムロはグラスの中身を一気にあけるとと立ち上がった。
「とにかく、カミーユの事に僕は関知していない。それだけだ」
強いアルコールを飲み干したにもかかわらずしっかりとした足取りでアムロは部屋を出て行った。
「アムロもああいっていることだし、カミーユは落ち着くまで見守るしかありませんね」
ため息をつきながら言うブライトにクワトロは頷いた。
「私がカミーユにつこう、彼の状態でアムロに近づくのは危険だ」
そういいながら、クワトロの視線はアムロの出て行ったドアへと向けられたままであった。
擬態25
部屋に 戻るとアムロはシャワーもそこそこにベットにもぐりこんだ。
「嫌な話だった。嫌な・・・」
クワトロ大尉とブライトとの会話はアムロの心をかき乱すに十分な要素を含んでいる
「なんであんな話するんだ、思い出したくないのに」
カミーユを心配しての行動なのだろうが。
会話の流れから出てきたシャイアンでの軟禁生活について、アムロは唇をかみ締めた。
「あんなこと、思い出したくないのに、忘れてしまいたいのに」
二人と話すとき平静を装っていたがばれなかっただろうか。
シャイアンでアムロがなにをしたのかを悟られなかっただろうか。
それを考えるだけでアムロは全身に鳥肌をたててしまう。
「忘れるんだ。シャイアンでのことなど、僕はなにもしていない。何もやっていない」
アムロはそう呟きながら手元の毛布を抱きしめた・
シャイアン アムロレイを捕獲するために作られた研究所
16歳の頃 戦争が終わり何も分からないままそこへ連れて行かれた・
ニュータイプを研究するためだと言われ、訳もわからないまま検査された。
体の隅々まで調べつくされ、脳波はおろか精神まで蹂躙される日々
怖かった。なにもかもが
世界で何が起こっているのか、戦争が終わったのかも見届けないうちにシャイアンに放り込まれ、薬を打たれ、体中を検査された。
泣き叫んでも誰も助けてくれない
アムロを監視していた兵隊は・・・・確かにアムロと同じ連邦軍なのに彼らの視線は別な生き物を見る目だった。
人間としてみていない。
研究対象を・・・モルモットを見る目つきであった。
どれくらい検査が続いただろう。
研究者達が焦れているのを感じた
思うようなデーターが取れないのを憤っている。
彼らは連邦軍に対して成果を報告する義務があった。
成果が得られないことに憤慨している。
その怒りは全てアムロに向けられていた。
アムロレイ、ニュータイプがいけないのだ。
彼は能力を隠していて、我々に教えない。
仮にも連邦軍人であるのに軍に協力しないとは・・・
今のアムロは連邦の軍人として・・・否、人として扱われていないというのに彼らは憤った。
能力を見せないならば見せるように改造すればいいのだ。
だから・・・だから僕は・・・
うとうとと眠りにつきながらアムロは思い出していた。
シャイアンで何があったのか。
シャイアンで何をしたのかを。
擬態26
「まったく役に立たないニュータイプ様だな」
「でもほら・・・今晩には・・・」
嫌な笑い声が聞こえる
薬で朦朧となった自分には聞こえていないと思っているのだろう・
見張りが何か話しをしている
繰り返される検査。薬漬けにされてベットから動けない
「手術の後には従順になるって本当か?」
「そうらしいぜ、頭に穴あけて前頭葉とっちまうんだから」
遠くで声がする。
「ロボトミー手術かよ、怖いねえ」
「どうせ今じゃ役立たずなんだからいいんじゃねえのか?」
「なあ・・・おい お前何しているんだ」
何かが首筋に触れた。
気持ち悪い
でも動くことが出来ない
「いいじゃねえか、どうせ明日には人形になっているんだろ、だったらちょっとくらいいたずらしても構わないじゃないか」
胸に生暖かい手が触れる
振り払いたいのに指はぴくりとも動かない
「お前ゲイだったのかよ」
見張りの一人から呆れた声が上がる。
「そうじゃねえけどさ、もう半年も女抱いてないんだぜ。この際こいつでもいいって」
「まあ見てくれは可愛いしな。女みたいに細いし」
見張りの一人がいやらしい声を上げた。
「見てみろよ、この肌、吸い付くみたいだぜ」
もう一人が覗き込んできた
「ヒューッ女でもこんな綺麗な肌いないな。これだったら」
4本の手が体中をまさぐっている
「どうせ明日にはこいつは忘れちまっているんだし」
「俺達がツマミ食いしても構わないよな」
嫌だ。気持ち悪い 触らないで
心の底から叫んだけれど誰も助けてくれない
彼らにとって自分は人間では無いのだ。
実験対象のモルモットなのだ。
それでもアムロは叫び続けた
怖い、怖い 触らないで 酷いことしないで 痛いことしないで
頭の中だけで悲鳴をあげ続けた
擬態27
「ようやく手に入れた」
声が聞こえる
これは夢のだ。
夢だから・・・と思った瞬間に覚醒する。
しまった。
油断していた
注意を怠っていた
ブライトとクワトロ大尉との会話に引きずられ、シャイアンでの記憶に引き摺られ注意を怠っていた。
だから他人の意識が介入するのに気がつかなかった、
盗聴の後、カミーユの精神は不安定になっていた。
それはもう自分には近寄らないだろうというアムロの思惑とは反対のものであったのだ。
何時も、どこにいてもカミーユの気配を感じる。
ニュータイプの感応能力を使って意識を繋げようとしてくる。
前は無意識に行っていたそれを明確な意思を持って使うようにさえなっていた。
だから 気を配っていたのに
彼が。カミーユビダンが自分の意識に入り込もうとするのを感じていたから注意をしていたのに・・・
クアトロ大尉とブライト艦長との会話が。
シャイアンでのことを暗示させる会話がアムロに一瞬の隙を作ったのだ。
アムロの心が弱くなっているのをカミーユは見逃さなかった。
「アムロさん、綺麗だ」
いつの間にかまさぐっていた4本の手は一つとなり明確な意思を持って動き回る。
まるで実体を持っているかのように生々しく息遣いさえ聞こえてくる。
目が覚めている状態でこんなにはっきりと感覚があるのは初めてのことであった。
「やめろっカミーユっ」
抗おうとするが動けない
ベットに縫いとめられたかのように身動きが出来ない
「何故?気がついていたんでしょう、アムロさんは僕がどんな気持ちでいたのか」
「カミーユッ」
「僕があなたを思って自慰をしていたのにも気がついていたんでしょう」
カミーユの手がアムロの下肢に触れる。
「やっああぁ」
生暖かい感触が下肢に触れる
「僕があなたに夢中なことを、あなたを欲しがっていることを知っていたんでしょう」
ぺちゃぺちゃと淫猥な音が響く
下肢を這い回る舌の生暖かさが気持ち悪い
「ああぁっんっ」
アムロの果実が反応しかけていることを見せ付けるかのように舌の動きは激しさを増す。
「僕はあなたが好きなんです」
吸い付いて、嘗め回され 甘噛される。
密かに腰を振り始めたアムロを追い立てながら彼はうっとりとした声で囁いた。
「僕のものだ。ようやく手に入れた」
続く
擬態28
カミーユは執拗であった。
執拗にアムロの性感を探してくる。
「ああっはあぁ」
腰を揺らして達しようとする果実の根元を握り締め、ねちゃねちゃと嘗め回す。
「いやっやあぁ」
「イきたいでしょう。ほら、こんなに蜜を漏らしてる」
楽しそうな、うっとりとした声が聞こえる。
「あうっ」
カミーユは後ろの蕾に舌を這わすことを躊躇いもしなかった。
くちゅりっ密かな水音を立ててぬめった舌が進入してくる。
「あんっああぁ、カミーユ」
「気持ちいいでしょう。ここ」
唾液で十分濡らしたそこにカミーユは指を突き入れた。
「ああ、アムロさんのここ狭い。それに熱くて」
ごくりっと喉を鳴らす音が響く。
指はいつの間にか3本に増えていた。
奥を突くようにまとめて抜き差しされ、、時には快楽を引きずり出すように ばらばらに動かされる。
「ひっあんっああぁ」
ある一点に触れた瞬間、アムロの体が跳ね上がった。
「見つけた」
無邪気にすら聞こえる声
「ここがアムロさんのいいところだね」
まるでおもちゃを見つけた子供のように喜びと興奮に満ち溢れた声。
「たっぷり弄ってあげる」
カミーユの指が、蕾の奥にある前立腺を集中的に攻め立ててきた。
「いやっいやぁ、そこやだぁ」
こりこりとした性感帯の突起を指の腹で刺激する。
揉む様に押さえつけたり、つねるように弄ったり、優しく撫でてきたり・・・・
壮絶な快楽にアムロは我を忘れて泣きじゃくった。
「いやっイきたい、イかせてぇ」
前の根元を押さえつけられているので 射精することが出来ない。
果実も蕾もどろどろになるまで愛撫され、今のアムロの頭にはイくことしか考えられなくなっていた。
「お願い」
涙の滲む瞳で、ここにいない筈の男に懇願する。
イかせてほしいと、焦らさないでほしいと。
「可愛い、アムロさん」
上ずった、興奮を抑えきれない声と荒い息遣い。
それと同時に熱い、灼熱の肉棒がアムロの体内に押し入ってきた。
「ああぁっおっ大きい」
指などとは比べ物にならない質量が蕾を蹂躙する。
「気持ちいいでしょう。アムロさん。僕も、僕も気持ちいい」
入れると同時に激しいピストン運動を開始した。
入れて、抜いて、奥まで突きこむ。
「ひっああぁ、あんっ」
カミーユの動きは的確であった。
若さゆえに我武者羅に腰を振りたてているが、切先がアムロの前立腺にあてている。
先走りでぬめった先端の割れ目を押し付けられ刺激される。
「ああ、なんてすごいんだ。アムロさん。僕のアムロさん、アムロ」
カミーユの腰の動きが早さを増す。
絶頂が近い証拠だ。
「んっんんっはあぁ」
「アムロさん。一緒にイきましょう。ねえ」
動きを止めると感極まったように胴振るいする。
同時にアムロをふさぎとめていた指を外し、震える果実を撫で上げてやった。
「ああぁ、」
細く、小さい声を上げてアムロは蕾にカミーユの精液を受け止めながら己も蜜を溢れさせた。
何故そんな気になったのだろうか。
今思えば予感だったのかもしれない
ブライトを交えて話をした後、クワトロバジーナは一旦は部屋に戻った。
だがどうにも気になる。
「あの時のアムロレイの態度、何かを隠している」
シャイアンでの生活が快適だったわけが無い。
彼は何かを隠している。
そう思うのはニュータイプの勘だったのかもしれない
そして、今感じている嫌な予感はニュータイプだからこそかもしれない。
「この間のエレベーターでの事も気になる」
アムロレイはララァについて何か知っている。
隠している。
先ほど、分かれてからアムロの事が頭から離れない。
シャワーを浴び、一杯飲んでもまだアムロの事を考えてしまう。
「仕方ないな」
このままではろくな睡眠も取れないだろう。
もう一度顔を見て、話をすれば納得するだろうと考え、クワトロは部屋を出るとアムロのところへと向かった。
アムロのプライベートルーム
337号室のブザーを鳴らしながらクワトロはやけに緊張していた。
考えてみればアムロレイの部屋に来るのは初めてだ。
「もう寝ているのか?」
何度かブザーを鳴らすが応答が無い。
何故だろう。
嫌な予感はますます強くなった。
ニュータイプとしての勘がアムロが中にいることを伝えてくる。
クワトロは意識を集中した。
カミーユほど強くは無い、出来損ないのニュータイプでも感じるものはある。
特にアムロレイが関わる時、シャアの能力は増幅するのだ。
「中に誰かいる?」
アムロの気配だけではない。
他の誰かを感じた。
「まさか・・・カミーユが」
クワトロは汗ばむ手で部屋のコードナンバーを解除する。
普通は部屋の持ち主でしか知らないそれだが、今回の件でクワトロにも知らされてあったのだ。
アムロの部屋とカミーユの部屋の暗証番号。
緊急時、部屋に篭城された時の対策としてブライトから知らされたそれはクワトロを信用しての事だったのだろう。
番号を入れると部屋のロックが解除された。
「アムロッアムロレイ大尉、私だ、クワトロバジーナだ。入るぞ」
声をかけ、室内に入ると背後でドアが閉まった。
自動でロックがかかる。
「アムロレイ?」
明かりのついていない部屋は暗かった。
だが夜目にも何かが起こっているのはわかる。
「アムロ?」
アムロはベットに寝ていた。
だが。唯眠っているのでは無い。
クワトロは驚愕に目を見開いた。
アムロに誰かが覆いかぶさっている。
激しい腰の動きから、誰かがアムロに何をしているのかが分かる。
「誰だ?」
そいつは毛布の影に隠れてクワトロからは見えない。
カミーユなのだろうか?
「あっああぁっあんっ」
一瞬立ちすくんだクワトロだが、アムロの扇情的な声に我に返った。
「何をしているっ」
つかつかとベットに近寄り、クワトロは勢い良く毛布を剥いだ。
「・・・っ」
そこには何も無かった。
毛布を剥ぐまでは確かにそこに誰かいたのに。
毛布の下には誰も存在していなかったのだ。
「・・・・馬鹿な」
どこかに隠れたのか?いや、隠れる場所など、隠れる隙など無かった。
クワトロが近寄るまで誰かがアムロを犯していたのに、そいつは霧のように消えてしまった。
「どういうことは、これは」
呆然としながら毛布を見つめ、ベットに目を戻す。
そして再び声を発することが出来なくなった。
目の前には犯されていたアムロの肢体がある。
ショックな出来事に意識が混濁しているのだろうか。
潤んだ瞳で宙を見つめている。
赤らんだ頬、密かに聞こえる吐息、色づいた肌。
下肢はアムロが放った蜜で濡れている。
ごくりっクワトロは知らず唾を飲み込んだ。
目の前にいるのはアムロレイ。
分かっているのに目を逸らせない。
男を誘う・・・魅せられずにはいられない肢体がクワトロの前に横たわっていた。
ごめんなさい・・・・・・乙女チックエロポエムな文になってしまいました。
カミーユ粘着攻めでシャアは出刃亀親父・・・・・
アムロが「あんっ」とか「はぁっあっ」とかしか言っていないのはHANAに文才が無いからです。そして最後は据え膳のマグロアムロ・・・すまん。
エロは続きます。お約束のパターンです 続く
擬態29
クワトロバジーナには、否シャアアズナブルには男色の気は無い。
宇宙世紀に入って幾年月、同性愛は異端では無くなり同姓婚も多くなった。
科学の発達により同姓同士の遺伝子を持った子供を誕生させることも出来るようになっている。
しかし未だ異性との恋愛を尊ぶ風潮は残っており、 シャアは同姓愛者を差別するような考えを持ってはいなかったが愛の対象としては見ていなかった。
どれほどの美少年であろうともそそられはしなかった。
だというのにこれはなんだ?
目の前のアムロを見ているだけで強烈な欲望が湧いてくる。
こいつを組み敷き、犯したいという獣の本能にも似た欲望が。
アムロレイと再会して随分立つが、一度たりとてそんな気分になったことは無い。
自慰をする時、無意識にアムロレイを思い出すことはあったがそれは性処理にしか過ぎない。
男を抱くなど考えも及ばなかったのだ。
アムロレイを抱くなどという可能性を考えたことも無かった。
この時、シャアは理性と欲望の狭間で揺れていた。
強烈な欲望を感じる肉体と これは男なのだという嫌悪感との間で。
どれくらい時間が過ぎただろうか。
立ちすくむシャアに密かな息遣いが聞こえる。
甘い、男を誘惑する吐息が。
そして、小さいかすれた声が
「・・・シャア・・・」
潤んだ瞳を向けてアムロはシャアの名を呼んだ。
クワトロバジーナでは無くシャアアズナブルを。
それはシャアの理性を引きちぎる呪文となった。
無言のままシャアはアムロを組み敷くとその足を大きくあげる。
「あっなに?」
細く綺麗に伸びた足はやすやすと開かれる
白い蜜で濡れそぼったアムロの果実が震えている。
その奥にある蕾も、淡い色で収縮している。
同じ男、同じ性だというのに嫌悪感は感じなかった。
それよりも早くここに己を突き入れかき回し、射精したいという肉欲がシャアを支配する。
アムロレイの体は綺麗だった。
MSパイロットだとは思えない程華奢で、シャアが力を入れたら砕けてしまいそうな細い腰。
男の象徴もシャアとは違う。
大きさも、色も、形も。
あまり自分でも弄ったことが無いのだろう
幼ささえも感じる薄い紅色のそれ。
蕾は男を受け入れたことなど無いかのように、処女のように小さく窄まっている。
シャアはアムロが放った蜜を指で掬うと蕾に塗りこめた。
「もうほぐれているな、十分に」
アムロの蕾は先ほどまで男を入れていたかのように馴染み、濡れている。
その事にシャアは強烈な怒りと・・・本人は気がつかない嫉妬を覚えた。
優しくなどはしてやらない。
無言のままシャアは猛り狂っている雄を取り出すと切先を蕾にあてた。
「あっなに?いやっ」
意識が朦朧とし、されるままだったアムロがここに来て抵抗を始める。
抵抗といってもシャアにとっては猫がじゃれている程度だが。
いやがるアムロを無視してシャアは腰を進めた。
大きく、太いシャアの男根がずぶずぶと入っていく。
「いやっいやあぁっ」
アムロの悲鳴が部屋に響いた。
(これは・・・・)
最奥までたどり着きシャアは大きく息を吐いた。
狭い、それにぎゅうぎゅうと締め付けてくる。
初めてと言われても信じてしまいそうな頑なさだ。
だが奥は・・・
シャアの剛直を受け入れた内壁はうねうねと蠢き、喜びにわなないている。
頑なな締め付けは強弱をつけた愛撫へと変わっていく。
(すごいな、こんな体は初めてだ)
幾多の女を相手にしてきたがここまでの名器を抱くのは初めてだ。
馴染んできたのだろうか?
アムロの蕾は美味しそうにシャアの男をほおばり、更に高ぶらせようと内壁で締め付けてくる。
「くったまらんな」
もっと焦らせるつもりであったが耐えられそうにない。
シャアは大きく腰を前後にゆすり始めた。
「ああっあっいやっいやぁ」
「いいよ、アムロレイ、まさかこれほどの体とは思わなかった」
「いやぁあーっ」
アムロの悲鳴が続く
しかしそれは先ほどとは異なり、明らかに愉悦を含んでいた。
擬態30
自分は夢を見ている。
体の奥にシャアの雄を感じながら、朦朧とした意識でアムロはそう思った。
現実であるはずが無い。
あのシャアが自分を犯すなどと
「男慣れした体だな」
そうさけずみながらアムロの腰を掴み揺さぶる男がシャアである筈が無い。
そう夢を見ているんだ。
ずっと長いこと見ていた夢を
シャイアンから続く終わることの無い悪夢を・・・
「一体どれだけの男に足を開いたんだ?」
シャアはアムロに腰を打ちつけながら低く呻いた。
抵抗は最初だけ、今ではもうアムロはシャアの律動にあわせて内壁を収縮させている。
こんな快楽は初めてであった。
どんな商売女よりも具合がいい。
アムロの体は、奥はまるでシャアのために作られたかのごとくしっとりと馴染み従順だ。
シャアが触れれば即座に快楽を示す。
受け入れた蕾はシャアの男根を包み込み、蠕動しその欲望を引きずり出す。
何度抱いても足りなかった。
抱く先から欲望が溢れ出てくる。
足りない。全然足りない。
抱き殺してしまいそうな狂気すら己の中に感じ、シャアは深く息を吐いた。
「アムロ、君を仕込んだのは誰だ?こんな淫乱にしたのは」
聞いても意味が無いことだと分かっていても聞かずにはいられなかった。
雄を小刻みに揺らしながら、奥にあたる前立腺を押し上げてシャアは聞いてくる。
「答えるんだ。誰が君をこんな体にしたっ」
自分でも嫉妬とは気がつかぬままシャアはアムロを問いただす。
途切れ途切れの意識の中、激しくののしられアムロはうっすらと目を開いた。
瞳に写るのは青い目。
ずっと、自分を犯してきた男の目だ。
「シャア・・・」
体の奥に生々しい雄の証を感じる。
ぬめった感触と熱がそれを現実だと伝えてくる。
「答えろっアムロレイっ」
シャアの声にどこか悲痛なものを感じる。
それが辛くて、何故か切なくてアムロは小さな声で呟いた。
「あなただけだ。僕に触れるのは、僕の中に入ってくるのは・・・昔から」
その瞬間、シャアは激情に任せて深くアムロを貫く。
「あうっやあぁっ」
「嘘をつけっこの体は男に抱かれることに慣れている、誰を相手にした?連邦の軍人か?シャイアンの研究員かっそれともカミーユか?」
怒りに任せて腰を打ちつけながらシャアはアムロから答えを引き出そうとする。
「知らないっあっんっ他の男なんて・・・誰も僕に触れたりしないっ僕にこんなことするのはシャアだけっやああぁっ」
「真実を言えっアムロレイっ」
アムロの告白はシャアの怒りを更に煽るだけだ。
「ひっあうっあっあんっ」
激しく奥に射精をされ続け、今度こそアムロが意識を無くしてもシャアは動きを止めることが出来なかった。
誰だ?誰が君を抱いたんだ?
誰が私の物に手を出したのだ?
彼が私の物だということは昔から決まっていたというのに。
昔、そうアバオアクーの時からアムロはこのシャアアズナブルの物だと決められていたのに。
許さない。私の物を汚した人間を。
シャアはうわごとの様に繰り返しなからアムロを抱き続けた。
続く
擬態31
「だから言ったでしょう アムロ」
遠くでララァの声が聞こえたような気がした。
懐かしい声に呼び起こされるように目が覚める。
部屋の中は明るくなっており朝を伝えてきた。
ゆっくりと体を起こそうとすると激痛が走る。
ベットの倒れこんで浅く呼吸を繰り返していた時、呼び出し音がなった。
「アムロ、目が覚めたのか?」
唐突に通信が入り、アムロは首まで毛布に包まったまま体をこわばらせる。
「クワトロ大尉から聞いた、風邪をひいたそうだな。今日の任務は大尉が引き受けるそうだからそのまま一日休んでいろ」
「・・・ああ、そうするよ」
寝たまま答えるアムロの声がかすれていたのでブライトは心配そうな顔をする。
「大丈夫か?医者をよこそうか?」
「寝ていれば平気」
「分かった、じゃあ用心しろよ」
ブライトからの通信が途絶えるとアムロはのろのろと起き上がった。
体は清められていた。
シーツも新しいものに変えられている。
でも、だからといって 何もなかったことには出来なかった。
昨夜の情交が色濃く残る体
全身に鬱血の後が散らばっている。
後蕾はじんじんと痛み、全身に倦怠感が漂っている。
「・・・・・シャア」
アムロは小さく呟くと己の体を抱きしめた。
アムロの任務を交代し、巡回に出ていたクワトロはサザビーの中、昨夜の出来事を思い出していた。
綺麗な体、淫乱な性質。
無垢で初心な顔をしていながらシャアの雄を美味しそうにほおばっていた蕾
何もかも、シャアのために作られたかのごとく体に馴染んだ。
前を一度も触れなくともシャアの男根に反応して蜜 をこぼした果実、
男に慣れている証拠だ。
「シャイアンか・・・・」
監禁されている間、性的暴行を受けたとしても不思議では無い。
アムロはシャイアンでの暮らしが快適だと言っていたが、まさか体を使い快適な生活を手に入れていたのだろうか?
そこまで落ちぶれたとは考えたくないが、他の場所で性技を仕込まれたとは考えにくかった。
「・・・・くそっ」
アムロの事を考えるだけで下肢が脈打ってくる。
クワトロは己の変化に小さく舌打ちした。
昨晩、あれだけ交わったというのにまだ足りないのか。
「アムロはまだ眠っているのだろうか」
早く帰りたい。
らしくも無いがクワトロは考えてしまう。
早く部屋に戻りアムロの傍にいたい。
そして抱きしめて、昨夜のような快感を感じたい。
アムロの中はとても良かった。
癖になるほどに・・・麻薬のようにはまったら抜け出せなくなる。
抱いて、抱きしめて、抱き殺したくなる
今、傍にいないこの瞬間に誰かがアムロに触れていたとしたら?
アウドムラにそんな人間はいないと分かっていながらも苛立った。
昨夜、見えない影に犯されていたアムロ
あれがもし今やってきているとしたら?
「・・・どうかしている」
抑えきれない嫉妬心を胸に抱えながらもクワトロは華麗にサザビーを操縦し巡回を続けた。
擬態32
巡回を終え、クワトロは部屋に戻ろうと急いでいた。
自分の部屋では無くアムロの部屋へ。
その時、急ぎ足のクワトロに声がかかる。
「お疲れ様です。クワトロ大尉」
「ああ、ブライト艦長か」
一刻も早く戻りたかったが無視するわけにもいかない。
ブライトは笑顔で話しかけてきた。
「カミーユの様子、落ち着いたみたいですね」
「そうかな?」
「今日の彼は普通でしたよ。苛立ったところも無い」
「そうだったかな?」
正直、カミーユの事など気にかけていなかったクワトロは適当に相槌を打つ。
「普通というより、楽しそうだったな」
ブライトは少し面白そうな顔をした。
「浮かれているといった方が正しいかもしれません。まるで初恋をした子供の様に浮ついています」
その表現が適当なのかどうか、
「見ているだけで分かるものか?」
クワトロの問いかけにブライトは笑いながら答える。
「分かりますよ、露骨に幸せそうな顔をしているのですから」
とにかくブライトは安心しているらしい。
「相手はファなのか? それとも他のクルーなのか?まあなんにせよ良かった。昨日までの鬱屈した様子はひょっとすると恋に悩んでいたからかもしれないですね」
笑えない冗談を言ってブライトは離れていった。
部屋に戻るとアムロはまだ眠っていた。
動くことも辛いのか、それとも面倒なのか
クワトロが出て行ったその状態のままで。
「・・・アムロ」
おこすのも躊躇われ小声で名前を呼ぶとクワトロはベットの淵に腰掛けた。
ギシリッという音にアムロが目を覚ます。
ゆっくり瞼を開けると無防備な声を発した。
「シャア?」
まだ寝ぼけているのだろう。
警戒心も無く名前を呼んでくる。
それが誘っているように聞こえ、クワトロはアムロの上に覆いかぶさった。
「いやっもう出来ない」
身をよじりむずがるアムロを抱きしめてその耳元で囁く
「君が欲しい」
「昨日あれだけしておいてっ」
アムロの抗議は最後まで続かなかった。
「まだ足りない」
クワトロの唇がアムロの言葉を絡めとる。
「足りない、全然足りないのだよ」
飢えている。
嫌がるアムロを押し倒し、口付けを交わしながらクワトロは胸の奥に宿る飢餓を 自覚していた。
この飢えはアムロレイにしか癒すことが出来ない。
ぬるくてごめん
擬態33
最初の強姦後から、アムロは抵抗しなくなった。
シャアが体を繋げてくるのを受け入れる。
否、受け入れるというのとは違うのかもしれない。
抗っても無駄だというかのように無抵抗であった。
それは諦めているかのようでもあった。
この数日、昼も夜も関係なく、隙を見てはアムロを引き寄せ押し倒してきた。
だが、何度抱いても飢餓感は収まらない。
抱けば抱くほど足りなくて苦しくなる。
「何故だ・・・・」
まるでさかりの付いた獣だ。
クワトロは自嘲の笑みを浮かべながらもアムロを抱き寄せる。
「君がいけない。君が私を狂わせる」
激しく蕾を犯しながらクワトロは耳元で囁く。
快楽で意識を飛ばしたアムロには聞こえていないだろう。
だからこそ本音が出てくる。
「君は何者だ?何故こんなにも私を虜にするのだ」
はじめは体に欲望を感じた。
だが、抱いた後クワトロはアムロに対する認識が変わった。
「何故、君が凡庸な、平凡な人間だと思っていたのか?」
セックスをしている最中のアムロは恐ろしく妖艶で、無垢で男をそそる。
地味な顔だと思いこんでいたのに、今のクワトロにはどんな美女よりも魅力的だ。
他の人間がアムロに接する態度は前と変わらないから、変化したのはクワトロの見方ということなのだろう。
同時にクワトロの心には不審が芽生えた。
自分すらも虜にするアムロに懸想する輩が出ては来ないかと。
「・・・・カミーユか」
あの若造はアムロのこの姿を知っていたのだろうか?
だからあんなにも執着しているのか?
「ニュータイプを惹きつける能力でも持っているのか?君は」
答えを持っているアムロはあまりにも激しい快楽に意識を飛ばし、クワトロの、シャアの腕の中で眠っている。
それを抱きしめながらクワトロは耳元で囁いた。
「君は私の物だ、誰にも渡したりはしない。カミーユにも、誰にも」
続く
擬態34
カミーユは幸せだった。
あの晩の事を考えるだけで体中から幸福が押し寄せてくる。
あの人を抱いたのだ。
あの人は俺を受け入れてくれた。
それまでの苛立ちが、鬱屈が全て消化されていく。
戦争に巻き込まれ、Zに乗り、人を殺し、周囲は自分を分かってくれないと、大人は汚いと悩んでいたことが嘘のようだ。
アムロレイがいるだけで、彼の傍にいるだけで世界が変わっていく。
初めて見た時からアムロレイはカミーユビダンにとって特別な存在となった。
ファーストニュータイプだから?
同じニュータイプ同士だから?
それだけでは納得出来ない程、強烈な吸引力でカミーユはアムロに惹かれた。
あんなに綺麗な人間は見たことが無い。
なのにその美しさを知っているのは自分だけなのだ 。
それはカミーユを満足させた。
それだけでいい。
カミーユだけが本当のアムロを知っている。
クワトロ大尉も、ブライト艦長も知らないアムロレイ。
だが、満足すればするほど、彼を見続ければ見続けるほど欲が湧いてくる。
アムロレイを理解している、と思っていた矢先にカミーユの 知らないアムロレイが見えてくるのだ。
ベルトーチカイルマがきっかけだったのかもしれない。
アムロはカミーユが思っていたより、感じていたよりもずっと怖い存在であった。
怖くて美しくて、その奥が見えなくて苛立ちが募る。
彼が欲しくてたまらない。
気が狂いそうな執着の中、カミーユはじっと耐えて機会をうかがっていた。
アムロの心に隙が出来るのを。
意識を繋げ、アムロを手に入れた。
それはカミーユを有頂天にさせる。
アムロはあの時、カミーユを受け入れたのだ。
口では嫌がっていたが精神は繋がっていた。
ニュータイプ同士の感応。
肉体だけのセックスなどとは比べ物にならない至高の快楽。
あの時の事を思い出しカミーユは口元に笑みを浮かべた。
「あれは誰にも理解できない。僕とアムロさんにしか」
クワトロバジーナ、クワトロ大尉がアムロレイにどれほど執着しようとも、あの出来損ないには感じることは愚か理解すら出来ないだろう。
下種野郎は彼の体を強姦した。
アムロと繋がった夜、クワトロが無理やりアムロを抱いたのをカミーユが知っている。
怒りではらわたが煮えくり返り、クワトロを殺してやろうかと考えたが思いとどまった。
あのいつもえらそうな顔をした大人は アムロを抱いたけれどもニュータイプの感応は微塵も感じることが出来なかったのだから。
所詮は体だけだ。
アムロを手に入れたつもりでいい気になっている出来損ないを見ると怒りで殴りかかりたくなるが、反対に笑いもこみ上げてくる。
「あの男には理解できない。アムロさんを本当に手に入れることなど出来ないんだ」
クワトロがどれほど努力しようとも、あがこうとも真のニュータイプにはなれないのだ。
「でも、体だけとはいえアムロさんに触るのは許せないよな」
嘲笑を浮かべていたカミーユだが笑うのを止めると指を口元に寄せる。
爪をがりがりと噛み締めながらぶつぶつと呟いた。
「アムロさんは俺のものなんだから、あんな奴に体だけとはいえ触られちゃいけないんだ」
ぼろぼろになるまで噛み続けながら呟き続ける。
「あの出来損ないをどうにかしなくちゃ、あいつを・・・クワトロバジーナ、シャアアズナブルを・・・・・」
呟きは誰にも聞かれることなくカミーユの中に沈殿していった。
ごめん、しばらくSS書いていなかったのでリハビリ中です。
擬態35
シャア、クワトロバジーナに抱かれるようになってからアムロは抵抗しなくなった。
従順と言ってもいいほど簡単に体を開く。
慣れているかのようにシャアを受け入れる。
しかし、たった一つの件に関しては別であった。
「私と共に宇宙に来い、アムロ」
情事の後、ベットの上でそう囁かれアムロは気だるげに首を振った。
「それは出来ない」
痛みとも痺れとも言えぬ快楽が残った体を起こし服を身に着ける。
「何故?君は宇宙に帰ってこそ真価を発揮出来る」
「そう思っているのはあなただけだよ」
アムロはため息を付くとまだベットの上にいる男を見据えた。
「あなたは宇宙に帰る。僕はここにいる、それだけの事だ」
「許さない。君は私の物だ」
「僕は誰のものでも無いよ」
毎回、情事の後に繰り返される会話
シャアは焦れた様にアムロの手を引いた。
着替え終えた制服の上から撫で上げる。
「ここに私を受け入れ何度も啼いて欲しがったというのにか?」
「シャアッ止めろっもう任務の時間だ」
「君の任務とは?MSの整備をするだけだろう」
皮肉な笑みを浮かべながら手を動かしていく。
何度も抱き合ったのだ。
シャアはもうアムロの体の隅々まで知り尽くしている。
的確に性感帯をなぞる手にアムロは震えながら答えた。
「僕に出来ることは整備くらいだからね。宇宙に行ってもやることなど無い」
「君にしか出来ないこともあるだろう」
「今の僕にニュータイプとしての能力は無い」
あなたが僕に求めているのはそれだけだろう。
「宇宙に出れば変わる」
「変わらない。僕は役に立たない。あなたの力にはなれない」
アムロは遠くを見詰め、心の中で呟いた。
・・・・僕には別の役目があるのだから・・・・
どこか切なげなアムロを抱き寄せシャアはまだ続ける。
「それでもいい、一緒に来るんだ」
「役に立たない人間を連れて行っても重荷になるだけだ。それとも僕に愛人になれとでも?」
性欲処理のために連れて行くというのなら意味もあるのだろう。
「アムロッ君はっ」
怒りを滲ませたシャアを振り払うようにその手から逃れるとアムロは乱れた服を直した。
「あなたも巡回があるんだろう。早く服に着替えたらいい」
それだけ言うとアムロは部屋を出て行った。
一人残された部屋、シャアは大きくため息を付くとベットサイドから煙草を取り出す。
宇宙の話をすると何時もこうだ。
喧嘩腰とまでは言わなくとも 話は平行線を辿り決着がつかない。
煙草に火を付けると紫煙が辺りに漂った。
シャアは煙草を吸いながらアムロの出て行ったドアに視線を向ける。
「どれ程抵抗しても、私は絶対に君を連れて行く。宇宙へ」
何故ここまでアムロに執着するのか。
嫌がられても宇宙へ連れて行こうとするのは何故なのか?
彼がニュータイプだから?
体の相性がいいからなのか
それとも・・・
煙草を吸い終わるまで考えても答えは出なかった。
シャアは苦笑すると吸殻をもみ消し、制服を身に着け仕事に戻っていった。
擬態36
部屋を出た後、アムロはドッグで整備をしていた。
体はだるかったが、一旦手に付けると雑念は消え飛ぶ程集中出来る。
7年のブランクがあったとしてもアムロの技術は優秀ですぐに新機種に対応出来るようになっていた。
数時間が過ぎ、周りのメカニックが休憩に入った事も気が付かずアムロは整備に夢中になっていた時、背後から声がかかった。
「アムロさん」
呼ばれ振り向くとカミーユが立っていた。
何故こんなに近くに来るまで気が付かなかったのか?
彼、カミーユは何時もそうだ。
いつのまにか傍に来ていて・・・中に入り込もうとする。
「・・・カミーユ」
一瞬の動揺を悟られまいとアムロは薄く笑みを浮かべながら答えた。
「どうしたんだ?今日はクワトロ大尉と一緒に巡回じゃなかったのか?」
「体調が悪いと言って変わってもらいました」
アムロの口からクワトロ大尉の名が出たからだろうか。
不機嫌そうにカミーユは答えた。
「そう、具合が悪いのなら部屋で休んでいた方がいいよ」
無難な答えを返しアムロは整備を続けようとする。
「アムロさん」
カミーユが一歩近づいた。
アムロは工具を取る振りをして一歩後ずさる。
カミーユは傷ついた、子供のような表情をした。
「アムロさん」
また距離を縮めてこようとする。
「あ、ブライトから呼び出されていたのを思い出した。じゃあカミーユ、失礼するよ」
今思い出した、とばかりに手を打つとアムロはカミーユから離れようとしたがそれは許されなかった。
「アムロさん、何故逃げるんですか?」
「逃げる?僕が?カミーユから?どうして」
距離が近い。
お互いの吐息まで感じる位置だ。
アムロは離れようと後ずさろうとしたが背後の壁に邪魔された。
「アムロさん」
カミーユが両手を壁に付いて離しかけてくる。
まるで囲われたような居心地の悪い距離。
「カミーユ・・・冗談は止めろよ」
軽く笑って誤魔化そうとしたアムロにカミーユが覆いかぶさってくる。
「アムロさん、会いたかった。僕が会いたかった事、あなたも知っているんでしょう」
「カミーユッ冗談はっ」
「何時も何時も僕がアムロさんに会おうとするのをあいつが邪魔して、僕がアムロさんに会えないように同じチームで見張っていて。今日の巡回だって僕が仮病を使わなければあいつが・・・」
「カミーユッ?」
「あいつのせいでアムロさんに会えなくて。あの出来損ないはアムロさんに酷いことをして、アムロさん嫌がっているのに。あいつのせいだ、あいつの」
どこか不安定なカミーユの言動にアムロは目を潜めた。
目は獣の様に鋭く息も荒い。
でも言葉遣いは冷静で、それが返って不気味だった。
「あの男がアムロさんに何をしているのか、僕は知っているんですよ。酷い奴だ。権力を嵩にアムロさんにあんな事を強要して、可哀想なアムロさん」
「カミーユ、何を言っているんだ」
「僕は知っているんです。でも大丈夫です。僕が守ってあげますから。あんな男、僕が修正、いや処分してあげますから」
その時、背後から怒声が響いた。
「何をしているっカミーユビダン」
驚いてアムロとカミーユが視線を向ける。
丁度チームがパトロールから帰ってきた所であった。
クワトロ大尉はMSからすばやく降り立つと カツカツッと足音高く近づくと同時に殴り飛ばす。
「巡回をさぼってこんな所で油を売っているとはいい度胸だな」
倒れこむカミーユの腕を掴むとクワトロは怒り露に怒鳴りつける。
「自室で謹慎しろ、追って処分は艦長のほうから通達する。Zのパイロットだからといって付け上がるんじゃない」
叱り付けるようにクワトロは言い放ち、呆然としている部下たちに命じカミーユを連行させた。
「クワトロ大尉、今のやり方は横暴だっカミーユはただ話をしていただけだろう」
あまりの事にアムロが口を出そうとするのをクワトロは冷たい視線で制す。
「アムロ大尉、君にも聞きたいことがある。私の部屋へ来るように」
部下たちは目の前であった出来事にうろたえている。
カミーユは確かにさぼった。それは悪いことだがこれほどまでクワトロ大尉を怒らせるとは。
普段、温厚とは言いがたいが怒鳴ったりしない冷静な上官の立腹に皆驚きを隠せなかった。
「カミーユは反抗的だからな」
「Zのパイロットだからなおさら厳しくしているのか?」
「クワトロ大尉は彼を目にかけてやっていたから、こういう違反は許せないんじゃないか」
小声でそう噂しながらもそそくさと自分の任務に帰っていった。
残されたのはアムロとクワトロ大尉。
「アムロ、ちゃんと説明をしてもらおうか」
その声は聞いた者が震えるほど冷たく、厳しい口調であった。
擬態37
「彼と何を話していた?」
カミーユが連れて行かれた後、アムロは引き摺られるようにしてクワトロの自室へと連れ込まれた。
一見冷静だがその瞳は冷たく全身から怒りを発している。
寒気すら感じる空気にアムロは目を逸らせた。
その態度が気に食わなかったらしい。
顎を掴まれ強引に顔を引き上げさせられる。
「私だけでは足りず、カミーユをもくわえ込もうと言うのか」
「違うっ」
どうやって反論したらいいのか
どう言えばシャアは納得するのか。
あのカミーユの状態をなんと言えばいいのか
修正、いや処分してあげますから
カミーユはそう言った。
実際問題カミーユが何か出来る筈ないし、 黙ってやられるシャアでは無いだろう。
だがカミーユの精神状態は普通では無い。
それが自分のせいなのだ、という事実をアムロは自覚していた。
カミーユは自分に引き摺られたのだ。
アムロレイというニュータイプに反応しただけなのだ。
アムロと離れればカミーユは元に戻るだろう。
だから
「後数日であなたは宇宙に上がる。そのための準備は出来ている」
「だから私の後釜にカミーユを据えよう誘惑したのか」
シャアは嘲笑した。
「残念だったな、カミーユは宇宙に連れて行く」
「そして僕は地球に残る。この問題はそれで終わりだ」
アムロの言葉にシャアの怒りが増したかのごとく空気が冷たくなる。
「君も宇宙に連れて行く。これは命令だ」
「僕がいたのではカミーユの状態は良くならない。僕は彼に悪い影響を与えるだけだ」
「それは私が判断する。もし今のカミーユがそれ程不安定ならば宇宙には連れて行けないだろう」
「カミーユはニュータイプだぞっ宇宙でこそその能力が発揮されるとあなたは言っていたじゃないか」
彼の進化を阻むつもりなのか?
「君もニュータイプだ、アムロレイ」
言い争いにも似た口論 その時呼び出し音が鳴った。
シャアは視線を向ける。
「ブライト艦長からの呼び出しだ。それでは話し合ってこよう」
「僕も行く」
「君はここにいるんだ、これは命令だ」
「何故?僕は当事者だろう」
「当事者はカミーユだけだ。彼の態度如何で今後を判断する」
宇宙へ連れて行くか行かないか
Zに今後搭乗させるのかさせないのか。
「その場に君の存在は邪魔だろう」
君はカミーユの精神バランスを崩させる要因なのだから。
絶句したアムロを残してシャア、クワトロは部屋を出て行った。
残されたアムロは唇を噛み締めることしか出来なかった。
擬態38
会議室でブライト艦長とクワトロ大尉は議論を重ねていた。
「一時は安定したかと思ったが、カミーユがあの状態では宇宙に上がるのは無理でしょう しばらく地球で様子を見て落ち着いたら宇宙へ上げるのが得策かと思います」
ブライトの言葉にクワトロも同意する。
「だがZは宇宙に持っていかなければならない 操縦はアムロに任せるのが適任だ」
「アムロに?彼はまだシャイアンでの傷が癒えていない、いきなり宇宙に上げるのは危険じゃないのですか?」
ブライトの疑問にクワトロは首を振る。
「腐っても彼はファーストニュータイプだ。宇宙にさえ出ればすぐに感覚を取り戻せるだろう」
「確かに、クワトロ大尉のいう事にも一理あるがアムロはそれを了承しているのか?」
「今はまだだ、だが強引でも連れて行く」
クワトロの決意を感じ、ブライトは眉を潜めた。
「俺には・・・カミーユだけでなくクワトロ大尉もアムロに執着しているように思えるのですが」
「当然だろう、彼は稀有な存在だ」
「シャイアンでの結果、アムロはすでにニュータイプでは無かった」
「今はその能力を忘れているだけだ。宇宙に出れば取り戻せる」
「何故・・そこまでアムロに拘るのです。あなたほどの人が」
ブライトの言葉に隠された意味を感じクワトロは苦笑した。
「一年戦争の時、アムロレイはニュータイプの真価を人々に見せつけた。あれから7年たってもアムロレイ以上のニュータイプは存在していない」
「カミーユならアムロを継ぐにふさわしい能力者と言えるのでは?」
「そうかもしれない、だが精神が不安定すぎて諸刃の剣だ。今は地球で養生させたほうがいい」
それがカミーユのためなのだ。
あまりにも高い能力のため影響を受けすぎる。
ファーストニュータイプのアムロに引き摺られている。
「カミーユがアムロに固執すること、それこそがアムロがまだニュータイプだという証ではないのか?」
クワトロの言い分はもっともだった。
ならばアムロを宇宙に連れて行く意味もある。
ブライトも、同じニュータイプならば不安定なカミーユよりはアムロを選ぶクワトロの意見に賛成したいところではあるが・・・
「まだ答えを貰っていません。あなたが何故アムロに執着するのか」
答えによっては反対することも辞さないブライトにクワトロは苦笑を返した。
「ライバルだから・・・と言うのはあまりにも陳腐だな。私にはアムロが必要なのだよ」
本音なのか嘘なのか、ブライトの表情が強張る。
「アムロレイは類まれなニュータイプだった。今その能力が無くとも彼の存在には意味がある。彼が能力を取り戻せば他に類を見ない戦力となるだろう」
「あなたは・・・アムロを戦争の道具にしか考えていないのですか?」
怒りすら感じブライトは拳を握り締めた。
だがこの怒りは自分にも向けられている事に気づいていた。
ブライトは 軍人だ。
アムロも、カミーユも所詮は戦争の道具でしかない。
もちろん自分もクワトロ大尉も・・・
「心外だな、私はアムロを、ニュータイプを戦争の道具だけとは考えていない。ニュータイプは人の革新、進化を具現した人間だ。その存在はオールドタイプを導くのに意味がある」
「あなたはっアムロを政治にも利用しようというのかっ」
「利用と言うのは人聞きが悪いな。人々は何のために生きているのか、どう進化していくのかを伝えるのにニュータイプ程適した存在は無い。アムロレイは一年戦争でニュータイプ能力を見せつけ、ニュータイプの概念を世界に浸透させた。その効果は大きいと思うが」
「だからカミーユでは無くアムロを連れて行くというのでは無いでしょうね」
「私はそこまで打算的では無いよ。ブライト艦長、今はカミーユを宇宙に上げるのは危険だから他にZを操縦出来るアムロを連れて行くだけだ」
話は終わった、とばかりにクワトロは回線をつなげた。
「カミーユビダンを会議室へ連行するように」
命令した後、ブライトに向き直る。
「とにかく今はカミーユの状態を判断することが大切だ。彼も高いニュータイプ能力者なのだから。出来れば宇宙に連れて行きその能力を開花させたい」
「・・・・ああ、そうですね」
重苦しい空気の中、ブライトとクワトロはカミーユが連行されるのを待った。
擬態39
殴られた顎が痛い。
容赦なしの一発だった。
空手有段者の自分が構える間も与えられず殴り飛ばされた。
屈辱に顔を歪めるカミーユはそのまま自室で謹慎させられている。
ドアの前に見張りは2名。
今頃ブライト艦長とクワトロ大尉はカミーユの処分を話し合っているだろう。
「ちくしょうっ」
ベットの上で丸くなりカミーユは痛む顎を押さえた。
怒りと屈辱で頭が沸騰しそうだ。
クワトロの鉄槌は柔道黒帯のプライドをいたく傷つけた。
有段者といっても所詮は素人。軍人として鍛えられたクワトロの反射神経と戦闘能力に適わないのだと言わんばかりの態度が鼻に付く。
正論で怒鳴られたのにも腹が立つ。
一言も言い返せなかった。
「ちくしょうっあんな奴大嫌いだ」
大人の正論で叩きのめされ子供の自分は丸まってすねているしかない。
「あんな奴にアムロさんがっアムロさんっ」
彼の事を考えるだけで焦燥感に胸が焼ききれそうだ。
僕とアムロさんの間に割り込む邪魔な人間
クワトロ大尉は自分に嫉妬している。
カミーユのニュータイプ能力に、
アムロとの繋がりに、
だからたかがさぼったくらいの事で殴り飛ばされ監禁されているのだ。
あいつは、クワトロ大尉は邪魔者を処分するためならどんな汚い手段でも使うだろう。
「でも僕たちは引き剥がせない、僕とアムロさんは一緒に宇宙に行くのだから」
クワトロ大尉はアムロさんを宇宙に連れて行くつもりだ。
アムロさんは嫌がっているが大人の正論でアムロさんの意思を封じ込め、無理やりにでも連れて行こうとしている。
カミーユもアムロが宇宙に来るのは賛成だったから今まで黙っていた。
だが・・・あいつはどんな汚い手段でも平気で使う。
アムロに近づく人間を排除するためなら方法を選ばないだろう。
その時、ふとカミーユは思いついた。
「もしかしたらクワトロ大尉は今回の事で・・・・」
僕を宇宙へ連れて行くのをやめるかもしれない。
唐突に思いついたその考えに呆然とした。
「いや、まさか・・・いくらあいつでも」
カミーユはZのパイロットだ。
必要な人間だから宇宙に連れて行かない筈が無い。
どんなに自分が邪魔だとしてもクワトロの一存でZを宇宙に上げない訳にはいかない。
「でも・・・・あいつは今回の事を利用するかもしれない」
精神が不安定だからと理由をつけてカミーユを排除するかもしれない。
それはカミーユの被害妄想だというにはあまりにも正鵠を射ていた。
高いニュータイプ能力が状況を判断させたのか、勘が働いたのか・・・
一度思いつくとそれが頭から離れない。
それこそが真実だとすら思えてくる。
「あいつは、あいつは僕とアムロさんを引き離すつもりなんだ」
その考えにカミーユは病的なまでに 震えた。
「アムロさんと離れ離れになるなんて考えられない」
そんな事をしたら僕は死んでしまう。
「いやだっそれだけはっ」
あの綺麗な人に、綺麗な魂に、海の様な波動に触れない。
考えるだけで絶望が押し寄せてくる。
「いやだっ許さない」
オールドタイプがニュータイプ同士の共鳴を阻むことは許されることでは無い。
あの出来損ないにそんな事はさせない。
「あいつは、あいつらは何も知らないくせに」
カミーユはぶつぶつ呟きながら立ち上がった。
ドアの前に立つと話しかける。
「ここを開けてください。」
ドアの前にいた衛兵の声が聞こえる。
「駄目だ、クワトロ大尉に厳重な警戒をするようにと命じられている」
「頭痛が酷くて・・・さっき殴られたとき頭を打ったのがいけなかったんでしょうか。鼻血が止まらないんです」
「なんだとっ」
「めまいもするんです、まっすぐ立っていられない」
弱々しい声でカミーユは懇願する。
「ふらふらするんです、医務室へ連れて行ってください」
衛兵二人は何か相談しあっていたが、非常事態だと判断したのだろう。
ドアを開けた、その瞬間カミーユの回し蹴りと拳が決まった。
音も無く崩れ落ちる衛兵二人を部屋に運び入れ銃を奪う。
「待っていてください、アムロさん、今助けにいきますから」
どこか壊れた口調でカミーユは呟きながらしっかりとした足取りで目的な場所へと向かった。
337号室 アムロレイのプライベートルームへと
擬態40
337号室
部屋の呼び出し音が鳴った時、アムロはシャアが帰ってきたのかと思った。
普段ならば確認してドアを開けるのだが、やはり気持ちが焦っていたのだろう。
自分の部屋に来るのはシャアか、ブライトしかいなかったから思い込みもあった。
動揺しているためかニュータイプの感知能力も下がっていたのかもしれない。
アムロはコールにドアを開けながら慌しく問いかけた。
「シャアッカミーユは・・・」
そこまで言って声を詰まらせた。
ドアの前に立っていたのは今名を出したカミーユ本人であったから。
「・・・カミーユ、どうして」
彼は謹慎させられていた筈だ。
なのに何故、ここに立っているのだろう。
一瞬不思議そうな顔をしたアムロにカミーユは柔らかな笑みを見せた。
「迎えに来ました。アムロさん」
「迎えに?ブライト達が呼んでいるのか?」
やはり当事者の一人としてアムロも打ち合わせに出席させるのか?
でもどうしてカミーユが迎えに来る?
背中に嫌な汗を感じてアムロは後ずさった。
「アムロさんはこんなところに居たら駄目です」
「何を言っているんだ?」
カミーユは笑っている。
でも目線は危うい。
どこか壊れた物を感じ、アムロは更に後ずさった。
背後には自分の部屋、逃げられる訳が無い。
カミーユは柔道の有段者だ。
7年もシャイアンに引きこもっていた自分など太刀打ち出来ないだろう。
それが分かるから、アムロは慎重に行動しなければいけなかった。
カミーユを刺激してはいけない。
精神の不安定が最大になっているカミーユを宥めなければ。
「アムロさん、行きましょう、二人で」
カミーユがアムロの腕を掴んだ。
「痛いっカミーユ」
強引に引き寄せられアムロは顔を歪める。
その時、掴んでいる腕とは別の、もう一本の手に握り締められた物にアムロは気が付いた。
「カミーユっ銃なんてどうしたんだ?」
「必要だから借りてきました」
誰からっ当然衛兵からだろう。
カミーユは逃げてきたのだ。
誰から?どこから?
「誰もカミーユを傷つけたりしない、カミーユ、その銃を渡すんだ」
アムロは慎重に声をかける。
「そんな物持っていたら危ないよ、僕が預かるから」
アムロの言葉を無視してカミーユは歩き出した。
腕を掴まれたアムロは黙って従うしかない。
今ここでカミーユを刺激したらまずい。
カミーユはアムロの腕を引いて格納庫へと向かった。
そこにはカミーユの愛機が待っている。
Zガンダム、今現在最強のMSが・・・・
擬態41
「カミーユがいなくなった ?」
部屋に連れてくるよう指示して数分後、部下から報告を受けてブライトの顔は強張った。
「衛兵二人が倒れているだとっそれでカミーユはどこへ行ったんだっ」
インターフォン越しに怒鳴るブライト
その言葉を聞いた瞬間、クワトロが立ち上がった。
「クワトロ大尉っどこへ行くんですか?」
「カミーユが向うとしたらアムロのところだ、それ以外に無い」
サングラス越しからもクワトロの焦りが伝わってくる。
何時も冷静なクワトロの常に無い慌てぶりにブライトも事態の緊急さを思い知った。
二人は部屋を飛び出すと廊下を駆けて行く。
337号室。辿りついた時、そこには誰もいなかった。
「アムロにはここで待機するよう命じてある」
クワトロが苦い口調でそう言うとブライトは艦内に命令を出した。
「カミーユビダン、又はアムロレイ もしくは両方を見た場合即刻確保、連行するように」
まだ二人は艦から出ていない。
今なら間に合うはずだ。
「しかしカミーユはどこへ?艦内ではいくら隠れたところですぐ発見されるだろうに」
ブライトは呟き、そしてはっと気が付いた様に顔を上げた。
「まさかっ」
「私もブライト艦長と同じ意見だ。カミーユが逃げ出すとしたらZを使うに違いない」
二人は急ぎ格納庫へと向った。
「間に合ってくれ、アムロ」
走りながら小さい声で呟くクワトロ、その声を隣でブライトは聞きながら気を引き締めた。
もし、ここでカミーユを外に出してしまったら取り返しのつかないことになる。
そして走りながら思い出していた。
1年戦争のあの時、アムロもガンダムを使って家出騒動をやらかしたことを。
「全くニュータイプってのはどうして家出の仕方が派手なんだっ」
今そっくり同じ事をしようとしているカミーユに腹が立つ。
あの時はアムロを止められなかった。
(結局は帰ってきたがそれまでの間、やきもきさせられたものだ)
今度は止めてみせる。
そしてその性根を叩きなおしてやるっ
普段温厚なブライトにしては過激な事を考えながらZの収納されている格納庫へと急いだ。
擬態42
「カミーユッZから離れろっ」
格納庫に着くと同時にブライトは大声で恫喝した。
今まさにカミーユはアムロを連れてZに搭乗しようとしていたのだ。
周りには数名のメカニックがいたが、どう対処したらいいのか分からずおろおろしている。
彼らにしてみればカミーユはパイロットなのだからZに乗るのは当然の事だ。
だがアムロを連れて・・・となるとおかしい事に気が付く。
先ほどの艦長命令は作業をしていたメカニックにまでは届いていなかったのだが、一見して様子の おかしいカミーユにどう接したらいいのか分からないようだった。
「これは重大な軍務違反だぞっカミーユビダン」
ブライトの声が格納庫に児玉する。
カミーユはブライトの声を無視してクワトロを睨んだ。
「アムロを離せ、カミーユ」
「貴様みたいな人間にアムロさんは渡さない」
そう怒鳴ると 手に持っていた銃をかざした。
「そんな事をしてどうする?ここを出ても逃げ切れると思っているのか」
クワトロは冷たく言い放つ。
「今なら内輪ごとで済む。だがZで出て行ったら、しかもアムロ大尉を拉致してとなると軍法会議どころの話ではすまないぞ」
「そういう正論ばっかり言う貴様が大嫌いなんだっ」
「まるで子供だな、浅はかで短慮な」
クワトロはカミーユを煽り立てた。
これで怒りにまかせたカミーユが自分に殴りかかればその隙をついてアムロを保護出来る。
彼から銃を取り上げることが出来ればいい一発くらい殴られてやってもいい。
だが、カミーユはクワトロの挑発には乗らなかった。
口元を奇妙に引きつらせ、乾いた笑いを浮かべる。
「僕が子供だから何も分かっていないとでも言うのか?そういう貴様は何を分かっているって言うんだ。何も知らないくせに」
「カミーユッ」
悲鳴のような声は隣のアムロから発せられたものだった。
「クワトロ大尉は何を知っているんだ?ニュータイプの事も、アムロさんの事も全然理解してない」
「カミーユっ止めろっ」
言わないでくれ、と言うようなアムロの声を無視してカミーユは嫌な笑いを浮かべた。
「ブライト艦長も、ここにいる誰も理解していない。本当のアムロさんを知っているのは僕だけなんだ」
どこかヒステリックな笑みを張り付かせたまま、カミーユはアムロに銃を突きつけた。
「誰も動くな、動いたらアムロさんを撃つ」
そして固まっているクワトロに哀れんだ瞳を 向けた
「教えてやろうかっあんた達はずっと騙されていたんだって事を」
「何を騙されていたというのだ?」
それでも冷静なクワトロの口調にカミーユは刺激されたらしい。
「カミーユッ言わないでくれ、お願いだ」
隣で真っ青になっているアムロの懇願を無視してカミーユはしゃべりだした。
「アムロさんはずっとあんた達を騙していたんだ、暗示をかけて、自分をただのくだらない凡人だと思い込ませていた 自分はニュータイプじゃないって思い込ませていた。この艦内の全ての人間にプレッシャーを与え続けて擬態していたんだ」
あまりにも突飛な話に声さえ出ない。
それはカミーユの妄想だ。
カミーユは頭がおかしくなっているのではないかと誰もが思う
最初に沈黙を破ったのはブライトだった。
「馬鹿馬鹿しい、カミーユ、君は疲れているんだ。だからそんなありもしない妄想に取り付かれる 艦内全員を暗示にかけるなんて不可能だろうに」
「分からない人たちだな、だからそれがアムロさんのニュータイプ能力なんですよ、 それこそが進化したニュータイプ能力なんだから」
どこか自慢げな、見下した態度でカミーユはしゃべる。
しゃべりだしたら止まらなかった。
誰も知らない、自分しか知らない本当のアムロを見せ付けてやったらこいつらはどう反応するだろうか?
それを考えると面白くておかしくてしゃべることを止められなかった。
続く
擬態43
カミーユは初めから不思議だった。
どうしてみんなアムロさんの事を無視するのだろうか?
アムロさんはこんなにも綺麗なのに、何故誰もそれに気が付かないのだろうか?
シャイアンから脱出したアムロ レイがアウドムラに合流した時から周囲の彼に対する反応は微妙であった。
アムロレイに対する失望 落胆 嘲笑
かつて一年戦争で戦功を上げたニュータイプを待っていた人々は凡人に成り下がったアムロレイを見下した。
無視と言ってもあからさまなものではない。
見下すと言ってもはっきり態度には表していない。
唯、ニュータイプでは無い凡人に興味は無いとばかりに視界へは入れなかった。
それがカミーユには疑問だった。
どうしてこんなにも綺麗な人を無視することが出来るのだろうか?
カミーユから見てアムロレイは輝きを放っていた。
強烈に惹かれ、彼の事意外は考えられなくなった。
精神、ニュータイプの波動はもちろんカミーユにも察知出来たから それに惹かれたのもある。
だがアムロレイの見た目、外観にも心を奪われた。
繊細な肢体。兵士とはとても思えない程細くて華奢な、ガラス細工の様な存在
赤い癖毛は目立つパーツなのに彼には良く似合っている。
顔立ちも整っている。
カミーユの少年特有の美貌やクワトロの芸術的な美貌とは違う。
男らしさを感じない、だが女々しさも無い、
中庸的な美しさがあった。
だからこそカミーユは不思議だった。
たとえニュータイプで無くともアムロのこの美貌ならば何かしら噂になってもいいだろうに。
カミーユですらZのパイロットとして認められるまでは顔の事で相当騒がれたし好奇の対象となっていたのに。
何故アムロレイにはそれが無いのだろう?
「みんながアムロさんを平凡な人間として扱う度に僕は不思議でしかたなかった。なんで誰も気が付かないのか?みんなちゃんと見えていない様にしか思えなかった、みんなアムロさんを見ているようで見ていない、それが何故なのか分かったのは僕がニュータイプだったから」
カミーユは自慢するような口ぶりで話を続ける。
「アムロさんとニュータイプ同士の交感をしてやっと気が付いた。アムロさんは自分を見る人間にフィルターをかけていたんだって事に、高いニュータイプ能力を使って相手の思考を操作していたんだ」
アムロレイに興味を抱かないように・・・
深い沈黙の中、カミーユの声だけが響き渡る。
格納庫の中に重苦しい空気が充満している。
息苦しい。
誰もがそう感じていた。
これがニュータイプのプレッシャーなのだろうか。
この重苦しい空間はカミーユのニュータイプ能力が作り出しているのだろうか。
「しかし・・・アムロは、アムロレイはシャイアンで7年にも渡る研究の結果、すでにニュータイプでは無いと診断されている」
ブライトはあえぐように反論した。
そう、シャイアンの最新鋭設備、ニュータイプ研究の第一人者、医者、技術者が揃いアムロを調べつくしたのだ。
結果何も出てこなかったのに今更アムロが想像を超えた能力を持っているなどありえない。
これはカミーユの妄想だ。
ブライトの言葉にカミーユは嫌な笑みを浮かべた。
「シャイアンでの研究がなんだっていうんですかっあんなの研究なんかじゃない」
「カミーユッそれ以上言うなっ」
悲鳴を上げるアムロにカミーユは優しく微笑んだ。
「みんなに教えてあげましょうよ、アムロさんがシャイアンで何をしたのか?何をされたのかを」
「カミーユッ」
「だってあそこが始まりだったんだから」
そう、シャイアンが全ての始まりだった。
アムロレイの能力が拡大する要因はあの研究所・・・
忌まわしいニュータイプ研究機関
鍵はシャイアンに隠されている。
擬態44
シャイアン ニュータイプのために作られた研究所
16歳から7年間、アムロはそこで軟禁され、全てを調べつくされた。
もう何も隠すことなど残っていない程、精神も肉体も研究しつくされる。
その結果、アムロレイはもはやニュータイプでは無い、ニュータイプの残骸、残りかすであり利用価値は無いと診断されシャイアンの一部に豪邸を与えられ飼い殺しにされていたのだ。
「だからそれが間違いなんですよ、そもそも研究などおこなわれていなかったのだから」
カミーユは言う。
「まあ最初の半年は全うな研究をしていましたよ、だがそれがいけなかった。彼らはオールドタイプでニュータイプなど見たことも無い輩ばかりだった。調べるといっても何を、どう調べたらいいのか分かりもしなかった」
行なわれたのは脳波、精神鑑定、血液検査、肉体の隅々まで研究対象となった。
「そんなありきたりの検査じゃ分かるわけないのに」
何を持ってニュータイプと定義するのか、ニュータイプとはいかなる存在なのかも曖昧なのに、ただアムロの戦果が異常だったからそれを軍事目的に利用しようとする。
「だからシャイアンの奴等には見つけられなかった。アムロさんのニュータイプ能力を」
半年が過ぎ、一向に成果が得られない研究者達は焦っていた。
連邦軍上層部からの叱責と結果要求は激しくなっていく。
最新鋭の設備と人材を集めたというのに何故ニュータイプを解明出来ないのかと。
「奴等は焦っていた。結果を出せなければ軍法会議ものだ。巨大な研究費と日数を使っておきながら成果を挙げられなければ怠慢ということで処罰される」
焦りはストレスを生み、ストレスは冷静な判断を狂わせる。
彼らはしまいにこう考えるようになった。
自分達は怠慢では無い。精一杯努力している。
努力した結果が得られないのは アムロレイ、ニュータイプがいけないのだ。
彼は能力を隠していて、我々に教えない。
仮にも連邦軍人であるのに軍に協力しないとは・・・
アムロは連邦の軍人として・・・否、人として扱われていないというのに彼らは憤った。
「研究者達のストレスは肥大しすぎていて誰も止められなかった。いや止めようともしなかった。シャイアンの憎しみはアムロさん一人へと向けられていたのだから」
一年戦争で恐ろしいまでの戦績を残した子供
我々と違う進化した存在。
だというのならその進化を教えろ よこせ。分け与えろ
進化したというならそれが我々に対する義務であろうにアムロレイは隠している。
調べても調べても出てこないニュータイプ
調べても無駄なら暴き立てればいい。
能力を見せないならば見せるように改造すればいいのだ。
「彼らが取った最後の手段、それはロボトミー手術だった」
カミーユの言葉に誰もが息を飲んだ。
「まさか・・・そんな非人間的な研究が連邦軍の中で行なわれるはずが無い」
ブライトの反論は頼りなく弱々しかった。
行なわれるはずが無い、といいながら連邦軍ならばやりかねないという疑惑が透けて見えるかのように。
カミーユは嘲笑を張り付かせながら言葉を続けた。
「連邦は利益のためならなんでもしますよ。それはブライト艦長が一番よく知っているでしょう」
一年戦争の時、子供ばかりのホワイトベースを軍はおとりにしたのだ。
戦争後、ブライトは閑職に回され講演会などで見世物にされた。
アムロはシャイアンに軟禁された。
「奴等はアムロさんに手術をしようとした。アムロさんには身を守る術が無かった。周りは敵ばかりで味方は誰もいない。体は薬漬けで動かないしMSも無い。そんな状態でアムロさんが自分を守るにはどうしたらいい?」
味方も、自由も全て奪われた子供。
残っているのは意思の力のみ。
「その時、アムロさんは始めて人に向ってプレッシャーを与えたんだ。明確な意思を持って相手に命令した」
僕に障るな、研究を中止しろ・・・・と
擬態45
忌まわしい記憶。出来ることなら忘れてしまいたかった。
この7年間、アムロが必死で目を背けてきた事実をカミーユは皆に見せ付ける。
それに耐えられず、アムロは目をつむり耳を覆った。
あの時、あの晩・・・・
「まったく役に立たないニュータイプ様だな」
「でもほら・・・今晩には・・・」
男達は自分を慰み者にしようとしていた。
「手術の後には従順になるって本当か?」
「そうらしいぜ、頭に穴あけて前頭葉とっちまうんだから」
「ロボトミー手術かよ、怖いねえ」
「どうせ今じゃ役立たずなんだからいいんじゃねえのか?」
手術で何も分からなくなるのだから、暇つぶしにセックスをしようとしていた。
「なあ・・・おい お前何しているんだ」
「いいじゃねえか、どうせ明日には人形になっているんだろ、だったらちょっとくらいいたずらしても構わないじゃないか」
「お前ゲイだったのかよ」
「そうじゃねえけどさ、もう半年も女抱いてないんだぜ。この際こいつでもいいって」
「まあ見てくれは可愛いしな。女みたいに細いし」
「見てみろよ、この肌、吸い付くみたいだぜ」
「ヒューッ女でもこんな綺麗な肌いないな。これだったら」
「どうせ明日にはこいつは忘れちまっているんだし」
「俺達がツマミ食いしても構わないよな」
薬のため、朦朧としている自分の体を撫で回す連邦の兵士
自分を人間扱いすらしてくれない連邦軍
そんな連邦にアムロは嫌悪と・・・吐き気すら覚えた。
1年戦争の時、自分は何のために戦っていたのか。
仲間を守るため。
大切な人を守るため。
そして・・・自分を守るため。
なのに今、自分は連邦によって殺されようとしている。
犯されようとしている。
「可愛いよな、こんなに縮こまっているぜ」
「まだ使ったことも無いんだろ。ニュータイプ様はさ」
下品な笑いが聞こえる。
男達の手がアムロの下肢に辿りついた。
こねくりまわされ、弄くられる。
思春期を戦場で過ごしたためか、元からひきこもりがちで性的知識も欲求も無かったアムロにとってそれは拷問と同じだ。
悲鳴を上げようとしたが声が出せない。
誰か助けて。
でも誰も助けてくれない。
味方はいない。
敵だらけだ。
みんな自分を殺そうとしている。
僕に障るな
最初の命令は無意識だった。
生命の危機が、死への恐怖が、セックスへの嫌悪感が引き金となった。
戦場でプレッシャーを感じたことならいくらでもある。
知らないうちに自分がプレッシャーを発していたこともある。
だが、人に向けて、明確な意思を持って能力を使ったのは初めてであった。
「おい、何か言ったか?」
「いや・・・でも何か聞こえたな」
男達はいやらしく動いていた手を止めて怪訝な、不思議そうな顔をした。
突然頭の中に湧いてきた言葉に驚いたようだ。
「気のせいかな?まあいい、続きを・・・」
男の言葉は最後まで語られなかった。
拘束を外せ。僕に障るな
頭の奥で誰かが命令する。
恐怖で蒼白となった男の頭に何かが命令してくる。
強くて。恐ろしくて。抗うことの出来ない何かが・・・・
強すぎるプレッシャーに耐え切れず男達は精神を手放したらしい。
どろんとした白雉のような目で、表情でアムロの指示に従う。
従順で愚鈍な 操り人形に成り下がる。
そんな男達にアムロは目を向けることすらしなかった。
体がだるい。
まだ薬が効いているため起き上がることも出来ない。
でも、もう僕は知っている。
どうすればいいのか。方法は分かっている。
アムロはベットに横たわったまま目を閉じた。
そしてゆっくりと精神を覚醒させていく。
もしシャイアンにニュータイプがいたら この状況に絶句したに違いない。
アムロが発するプレッシャーはベットを中心にして広がっていく。
空気の様に、水の様に流れシャイアンという建物を覆っていく。
中にいる人間全てを取り込むように 穏やかに、しかし確実にアムロの思念で覆われていく。
翌日、ニュータイプのロボトミー手術は行なわれなかった。
研究者は相変わらず研究を繰り返している。
だが、もうベットの上に被験者はいなかった。
それでも研究者達は実験を繰り返す。
繰り返している、研究をしていると思い込んでいる。
アムロの下した命令に従って。
意味の無い数字の羅列を、報告書を作成するために研究を続けるのであった。
擬態46
カミーユの告発は衝撃であった。
誰もが言葉すら発せず動けない。
もし・・・・もしもカミーユの言っている事が事実ならば・・・・
今までの、世間で知られているニュータイプ概念が一気に崩れ去る。
ニュータイプはオールドタイプが考えていた、世間が認識していた物よりもはるかに優れた能力を持っていることとなる。
まさに、ニュータイプとしての進化の在り方根本をを見直すこととなる。
「今の話には矛盾があるな」
沈黙の中、クワトロが口を開いた。
全員の視線がそこへ注目する。
カミーユも敵意に満ちた視線で睨み付けてきた。
「アムロが人の意思をコントロール出来るニュータイプだとしたら、何故彼はずっとシャイアンに幽閉されていた?何故逃げ出さなかった?」
シャイアンがアムロの支配下にあったというのなら7年も監禁されてなどいなかった筈だ。
すぐに脱出し、エウーゴと合流できたのではないか。
クワトロの指摘はもっともであった。
だが、カミーユはそんな疑問を鼻で笑った。
「だからあんたはオールドタイプなんだよ、分からないのか?アムロさんの能力の高さが」
馬鹿にしきった笑い声をあげながらカミーユは説明してやる。
「アムロさんの能力が世間に知れたら戦争は大きく変わるよ、兵士を集め教育する必要なんて無くなる。アムロさんが命令するだけでいいんだ。それに戦争そのものが無くなる。敵に命令するだけで従うのだから。だからアムロさんは」
カミーユの言葉を遮る様にブライトが呟いた。
「それではまるで独裁政権だ」
「そうだよ、それをアムロさんは恐れたんだ。自分の能力が知られ利用されることを恐れた。オールドタイプよりも、世間のニュータイプよりも進化してしまった、しすぎてしまった自分を恐れ隠れていたんだ、シャイアンで」
「ならば何故今更出てきたりした?」
クワトロが強い口調で問いかける。
カミーユは憎悪の視線を質問の主に投げつけた。
「あんたのせいだ」
「私の?」
「あんたがいたからだ。あんたさえいなければアムロさんは今でもシャイアンに隠れていただろう」
「どういうことだ?」
今度の質問にカミーユは答えなかった。
「だけど俺はあんたに感謝しているよ。あんたがアムロさんを引きずり出してくれたおかげで俺は会うことが出来た。アムロさんを手に入れることが出来た」
「アムロはお前の物ではない」
クワトロの激しい叱責にもカミーユはもう怯えなかった。
初めて会った時 クワトロは大人で、軍人でとても怖いと思ったけれども今はもう怖くない。
こんな出来損ないのオールドタイプを今まで怖がっていた自分が馬鹿みたいだとさえカミーユは思った。
「アムロさんは俺の物だ。俺だけが彼を理解出来る。他の人間には出来ない。俺だけがアムロさんを守ってあげられる」
「何から守ろうというのだっ」
「連邦から、軍人から、戦争から、政治から・・・そしてオールドタイプから」
カミーユは独り言のように繰り返した。
「アムロさんを利用しようとするものから守らなくちゃいけない。だって彼は世界で唯一、完璧な進化を遂げた存在なんだから」
だから クワトロによって表舞台に連れ出されることは許されない。
アムロさんがクワトロの物になるのは許さない。
カミーユはアムロを捕らえたまま後ろへと下がった。
その手には銃が握り締められている。
背後に控えているのはZ カミーユの愛機
「カミーユっZでの脱走は軍務違反だぞっ」
ブライトはあわてて叫んだ。
叫んだ後でむなしい、意味の無い言葉を言っていることに気が付いたが言わずにはいられなかった。
「どこに逃げる?どこにも逃げられないぞ」
クワトロが追い討ちをかける。
カミーユは薄ら笑いを浮かべたまま銃を構えた。
「カミーユっやめろっ」
「何をするっカミーユっ」
彼の構えた銃はクワトロを狙ってはいなかった。
その銃口はアムロの頭に押し付けられている。
「邪魔したら打ちます、アムロさんを」
「何を考えているんだっカミーユ」
ブライトは必死でカミーユを説得しようとした。
「アムロを打つなんてお前に出来るはずが無い。ただのおどしだ。もうやめるんだ」
「出来ますよ、アムロさんが俺の物にならないなら・・・・他の人にとられるくらいならアムロさんを殺して俺も死ぬ」
カミーユの本気は見るまでも無く明らかであった。
誰も動けない中、カミーユはアムロを引き摺るようにしてZに乗り込む。
ウィィーンっ低いモーター音と共にZが始動を始めた。
コクピットにアムロを押し込み、自分も乗り込んでからカミーユは残された人々に目を向けた。
メカニックやブライト、そして最後にクワトロと目を合わせると冷たい視線で別れを告げる。
「さようなら、オールドタイプ」
残された人々はZが発進し、その姿が見えなくなるまで誰も動くことは 出来なかった・
擬態47
鬱蒼とした緑が大地を覆い隠している。
地平線まで続くような密林を見ていると地球の生命力すら感じられる。
アウドムラの目的地であるヒッコリーまで目と鼻の先だというのに、文明を感じさせないジャングルが広がっている。
Zガンダムは密林の奥深く静かに着地した。
上空からは絶対に見つからない場所を探し、Zを木々で覆い隠す。
ある程度はZを使って、後は手作業で事を進めていくカミーユにアムロは言った。
「そんな事をしても無駄だよ、すぐに見つかる」
「・・・・・」
「一年戦争の時、僕も脱走したことがある、砂漠の中にガンダムを隠した。あの頃はそれでよかったけれども今は違う。技術は進歩している。Zの位置など隠してもすぐに発見されるだろう」
「・・・・・」
カミーユは無言のまま、Zを隠し終えるとアムロの腕を掴んだ。
「行きましょう、アムロさん」
「どこへ?周りはジャングルだよ」
「それでも、ここに居たら捕まる」
「Zを置いていくのか?カミーユ」
「もう僕にはZは必要ないから」
「Zを捨てるのか?君はパイロットだろう」
カミーユは密かに笑った。
「脱走したのに今更パイロットを気取っても意味ないでしょう」
「君にとってZは特別なMSだろう」
昔、ガンダムがアムロにとって大切な物だったように、カミーユにもZはかけがえの無い機体の筈だ。
「必要ない、もうアムロさんが傍にいるから」
「・・・・カミーユ。帰ろう、今なら許される。このまま逃亡したら取り返しの付かない事になるぞ」
「あのまま戦場にいたらもっと取り返しの付かない事になっていた。だから修正したんです。これでいいんだ」
「どこへ行こうというんだ。右も左も分からないこのジャングルの中で」
「アムロさんと二人ならどこへでも行ける」
「カミーユっ」
アムロがいくら説得しようとしてもそれ以上カミーユは答えなかった。
無言でアムロの腕を掴むと歩き出す。
道無き道を。
密林の奥へ、隠れるように 逃げるように足を進める。
「もう夜が来る、休める場所を探さないといけない」
独り言の様にカミーユが呟く。
周囲には闇が近づいていた。
擬態48
アウドムラは混乱に襲われていた。
Zが脱走したのだ。
しかもアムロレイを人質にして。
即座にブライトから戒厳令が布かれた 。
だが人の口に戸は立てられない。
何が起きたのか詳細は分からずとも重大事が起きている事をクルーは感じ取っていた。
「ミノフスキー粒子が酷いな、これではZの位置を特定出来ない」
ブライトが憔悴仕切った表情で現状を告げる。
ここは戦闘区域なのだ。
ミノフスキー粒子が拡散しているこの地域ではよほど接近しない限り確認することは出来ない。
「私が捜索する。一日経っても発見出来ない場合は公にするしかないだろう」
クワトロ大尉の言葉にブライトも頷いた。
「そうですね、隠しておくのも一日が限度でしょう。一晩たってカミーユも頭が冷えて投降してくれればいいのだが」
「ああ、そうだな」
返事をしながらもシャア はその可能性を否定していた。
カミーユはもうアウドムラに戻るつもりは無いだろう。
彼は戦闘に、アウドムラに何も価値を見出せなかったのだろうから。
カミーユにとって必要なのはアムロレイのみ。
狂気を秘めた目付きを思い出すと憤怒の感情が湧き上がる。
戦争から逃げて、現実から目を背けて
アムロレイを道連れに世捨て人にでもなろうというのか。
そんな事は許さない。
若気の至りですまないことを教えてやらねばなるまい。
カミーユがアムロに危害を加えることは無いだろう。
だが、一晩でも私の物を盗んだ責任は取ってもらおう。
クワトロバジーナ、否シャアアズナブルは胸に荒れ狂う怒りを抑え百式に乗り込んだ。
続く
擬態49
人の介すること無い密林、ジャングル。
そこは文明に慣れた人間にとっては未知の世界だ。
夜の闇は深く暗く、星の明かりすら届かない。
むせ返るような熱気。
纏わり付く空気の密度が違う。
どこかから獣の遠吠えが聞こえてくる。
アムロを連れたカミーユは野営できる場所を見つけると火を起した。
雨の結露が作り出した窪み。
自然が長い年月かけて作り上げたそれは洞窟といってもいい大きさである。
ここならば火を炊いても灯りが外に漏れる心配も無い。
無言で火に枝をくべていると雨の音が聞こえてきた。
初めはぽつぽつと、次第に雨音は激しさを増していく。
この雨ならば、アウドムラの捜索はますます困難になるだろう。
そんな事を考えていた時、無言だったアムロが口を開いた。
「それで、これからどうするんだ?カミーユ」
「・・・・・・」
咄嗟に答えることが出来ない。
勢いで飛び出した時はなんとかなると思っていた。
アムロさえ入れば、手に入れば後の事は考えられなかった。
だが冷静になると状況が見えてくる。
ここはジャングル。
右も左も分からない。
どこへ逃げたらいいのかも分からないし誰も助けてくれない。
明日になればアウドムラは総力を挙げてZを探し出すだろう。
カミーユは軍法会議の上、懲罰される。
アムロはどうなるのだろうか?
カミーユを置き去りにして宇宙へ上がるのだろうか。
考えれば考えるほど暗い現実しか出てこない。
火を見入りながらうずくまるカミーユにアムロは問いかけた。
「何がしたいんだ?何をしたかったんだ?カミーユ」
その問いになら答えられる。
「アムロさんが欲しかった。欲しいんです、今も、これから先もずっと」
「なんでそんなに僕にこだわるんだ?カミーユは僕よりも強いニュータイプじゃないか」
「アムロさんより強いニュータイプなんていません」
「僕には経験があるからね、それで強く見えるだけさ。カミーユは能力を持っている。これから経験をつめば僕よりよほど覚醒出来るだろう」
「そんなの僕には分かりません、みんな僕の事をアムロレイの再来だ、最強のニュータイプだっていうけど自分では分からない、だけどアムロさんの事は分かる。アムロさんはすごく強い、誰よりも覚醒していて、ニュータイプの能力を全て持っていて・・・・・」
何がいいたいのだろう?僕は何をアムロさんに訴えたいのだろう。
カミーユは言葉を上手く伝えられず唇を噛んだ。
アムロは静かに問いかける。
「カミーユは僕がニュータイプだから連れ出したのか?君より強いニュータイプだから?」
「違いますっ」
それだけは違うっカミーユは大声で否定した。
「違わないよ、カミーユが僕の中のニュータイプ能力に惹かれたんだ。それがカミーユのもつ力を上回っていたから引き摺られた」
可哀想に・・・・アムロの声に成らない言葉が聞こえる。
「違います、違う、ニュータイプだから好きになったんじゃない。アムロさんだから好きなんだ」
これだけは分かって欲しくてカミーユは叫び声をあげる。
だけどカミーユがヒステリックな否定をするたびにそれが真実に聞こえてくる。
耳を塞ぎ、目を閉じてカミーユは頭を振った。
しかしアムロの声は呪縛の様にカミーユの心に侵食してくる。
「カミーユは僕に引き摺られたんだ。アウドムラで君が言っていた事は事実だよ。僕はシャイアンの人間にもアウドムラの人間にもプレッシャーを与えていた。僕に近づかないように、興味を持たないようにと」
それに気が付いたのはカミーユだけだった。
自分しか気がつかなかったから、そこにアムロとの繋がりを感じてしまった。
ニュータイプと言われ賞賛されても実際にはそれが何なのか分からない。
世間一般のニュータイプに対する認識などせいぜい戦争の道具だ。
アムロと出会う前のカミーユはふてくされ、ニュータイプである自分に嫌悪すら抱いていた。
もてはやされても所詮人殺しの道具。
それがアムロに出会い、彼の能力に惹かれた。
初めはアムロのプレッシャーに気が付かなかった。
でも本能で惹かれた。
自分と彼とは同じ人種なのだ。
このアウドムラで二人だけのニュータイプ
アムロだけが自分を分かってくれる。
アムロの事はカミーユにしか分からない。
そんな思いが膨れ上がっていた時に気が付いた。
アムロレイの隠された能力を。
それはカミーユにとって衝撃であった。
ニュータイプは、自分達は戦争の道具では無い。
それよりももっと強い、素晴らしい能力を持っている。
オールドタイプに害されることの無い能力、人間としての進化 種としての覚醒
その瞬間からアムロレイはカミーユにとって同属という仲間意識以上の・・・・未来への希望となった。
同属意識、尊敬、崇拝、恋愛感情、独占欲 支配欲
ありとあらゆる感情がアムロへと向う。
強くて、抗いがたい感情の波がカミーユを浚っていく。
「この気持ちを、ニュータイプだからの一言で片付けないでください」
カミーユは胸を押さえながら叫んだ。
あまりにも強烈すぎて、色々な思いが入り組んでいてカミーユにもこの気持ちが何なのか解きほぐすことは出来なくなっていた。
でもこれだけは分かる。
欲しい。アムロレイが欲しい。それ以外はいらない。
「可哀想に・・・」
アムロの声が聞こえる。
今度ははっきりと耳に伝わってきた。
はっとして顔を上げると真摯なアムロの視線とぶつかる。
悲しそうな、寂しそうな、だけれども揺るがない何かを秘めた視線
カミーユはアムロから目を離すことが出来ず、唯見詰め返した。
続く
擬態50
「可哀想に」
呟くアムロの声は何故か優しかった。
泣きたい気分に襲われて膝に顔を埋め座り込んでしまったカミーユに繰り返し呟く。
「可哀想なカミーユ。可哀想なニュータイプ」
アムロさんだってニュータイプなのに、何故そんなに悲しい声なのだろう。
母親にもこんな優しい声で慰められたことは無い。
アムロはカミーユの青い髪をなでてやりながら囁いた。
「カミーユは僕の秘密を暴いてしまったね」
怒っているのだろうか?
アムロさんに怒られたら、嫌われたらもうどうしたらいいのか分からない。
右も左も分からないジャングルで、二人しかいないのにアムロさんに見捨てられたら本当にもう死ぬしかない。
思いつめたカミーユのプレッシャーを感じてアムロは小さく微笑した。
「見捨てないよ、カミーユ」
君は捨てるには可哀想すぎる。
声にならないアムロの言葉にカミーユは顔を上げた。
間近に顔があってカミーユは頬を赤らめた。
くすりっアムロの笑う気配がする。
「こんなに近づいたのは初めてだね、カミーユ」
二人を取り巻く空気が強まった気がした。
「カミーユは僕の事を全て暴いたと思っているだろう」
からかうような口調だった。
「本当の事を教えてあげようか?」
僕の隠していた本当の秘密を
アムロのプレッシャーがカミーユを包み込む。
威圧するのではなく癒すように覆いかぶさってくる。
心地良さに目を細めたカミーユにアムロは囁いた。
「君は隠していた僕の能力を見破ったね、でもまだ全てじゃない、一番大切な事を君は知らない」
ゆらゆらと揺らめくプレッシャーと共感の波の合間でアムロが囁く。
「教えて欲しい?」
カミーユは頷いた。
「教えてくれるんですか?」
「カミーユは秘密を見破ったからね、そのご褒美だよ」
低い声で笑うアムロはとても綺麗で怖い。
カミーユはそれでも顔を逸らすことは出来なかった。
「実はね」
からかう様にアムロは唇を寄せる。
後1センチ、と言うほど顔を近づけて耳元で呟いた。
「ニュータイプの進化はこれだけじゃないんだ」
「・・・え?」
思いがけない言葉にカミーユは目を見開く。
「君が思っているよりも人間は進化していく生き物なんだ」
何がいいたいのだろう?アムロさんは。
「人間は貪欲なんだ。進化しても進化してもまだ足りないと我侭を言う」
困った生き物だね、アムロは笑った。
「進化のきっかけは欲望、強烈な願いが鍵となる」
欲望により人類は発展し、様々な機械が生み出されついにはMSが出現した。
地球だけでは飽き足らず宇宙へ進出した。
「人間はあらゆる方法を使って欲望を叶えてきた。ニュータイプの進化もその一部に過ぎない。相手と共感したい、相手を服従させたい、相手よりも強い力を持ちたい。そういう種の本能がニュータイプを作り上げた」
子供に諭す大人のようにアムロはゆっくりと語りかける。
「ニュータイプは宇宙進出がきっかけとなって生まれたと言われているけどね、本当は違うんだ。スペースノイドにニュータイプが多いのは事実だけど地球でもニュータイプは存在する」
「・・・・地球でも?」
「そうだよ。絶対数が少ないから気が付かなかっただけ。昔からニュータイプはいたんだ。宇宙へ出るようになってから格段に増えたから話題になっただけさ」
アムロの言葉はニュータイプの概念を崩すものであった。
昔からいた?ニュータイプは人間の進化では無いのか?
不審げなカミーユにアムロは苦笑した。
「昔は、地球時代はニュータイプなんて言葉は無かったからね、その時代ごとに呼び名は違ったよ。エスパー、超能力者、預言者。神の子」
たわいない話をするような口調でアムロは語る。
「彼らは人と共感し、人に影響力を与える力を持っていた。人の心が読めた。ねえこれってニュータイプと同じじゃないか」
ニュータイプなんてのはジオンダイクンが作った造語さ とアムロは言い切って笑う。
口元だけ笑いながらカミーユの瞳を覗き込んだ。
「ああ、話がずれちゃったね、ごめん、進化の行く末の話をしていたんだったね」
綺麗で怖い、恐ろしい瞳がカミーユの瞳の奥を覗き込んでくる。
「本当に知りたい?カミーユ」
知ってしまったらもう戻れないよ。
知らなかった頃に戻りたいと泣いても許してもらえないよ。
全身を包み込むアムロからのプレッシャー カミーユは目を逸らすことも頷くことも出来ずにアムロの瞳を見詰めることしか出来なかった。
続く
擬態51
「人間の欲望ってなんだと思う?」
アムロは唐突に聞いてきた。
少し悩んだ後、カミーユは答える。
「食欲、睡眠欲、性欲・・・」
「そう、それが人間の三大欲望と呼ばれているね」
教師が生徒に話すようなそぶりだった。
「でもそれだけでは飽き足らないから人間は進化していく、もっと力を・・・もっと権力を・・・もっと金を・・・・」
欲望には際限が無い。
「増幅した欲望は進化を加速させる」
宇宙に出た人類は飛躍的に革新した。
地球という枠組みから開放され、宇宙という無限の可能性を秘めた世界へ出ることで欲望も無限に加速した。
人類の夢であった宇宙へ進出出来た人間は、己等の能力も無限に躍進すると思い込んだ。
「宇宙に出たことでニュータイプが増えた。これは間違っていないよ」
ニュータイプは宇宙の申し子 進化の証
「ジオンダイクンはニュータイプをお互い共感し合える進化の形態だと位置づけたけれど、実際は相手にプレッシャーを与えるだけの戦争の道具にしてしまった」
アムロは何を言いたいのだろう?
カミーユは一言も聞き漏らすまいと耳をそばだてた。
「相手に影響力を持つ進化、相手の感情を支配出来る進化・・・・その後には何が来ると思う?」
分からない。
カミーユは首を横に振る。
「後残されるのは人類にとって究極の夢、古代からの悲願だけだよ」
そう言ってアムロは小さく笑った。
笑った顔のまま、恐ろしい言葉を告げる。
「不老不死、永遠の命、時を支配する力」
驚きのあまり声も出せないカミーユの手をアムロはそっと握り締める。
「分かる?感じる?僕の事・・・僕たちの事を」
その瞬間、カミーユの目の前に海が広がった。
ラッララアッララァ・・・ラ・・・・ラァ
音楽の様な、鳥のさえずりの様な、名前の様な、心地良い音が聞こえてくる。
海は果てしなく広がり波音すら聞こえる。
その中心に誰かがいた。
海の上で揺らめくように立っている。
黄色い異国の服、チョコレート色の肌。青い瞳。黒い髪
遠く離れているのに表情まで見えるのは何故だろう。
手を繋いでいたアムロの口から言葉が漏れた。
「ララァ」
擬態52
カミーユの眼前に宇宙が広がる。
宇宙?海?分からない。
自分はジャングルにいた筈なのに。
一瞬パニックを起こしかけ繋いだ手を握り締めた。
目の前にはあの異国の女性が漂っている。
そして・・・アムロレイもいた。
今より随分と幼い、青い連邦の制服を着たアムロ。
あそこにいるのがアムロレイならば今自分が手を繋いでいるのは誰だろう。
手を繋いでいる主に顔を向けたかったが、何故か目の前の二人から目が離せない。
二人は会話をしていた。
口は動かしていない。
精神で会話している。
共感している。
ニュータイプ同士で・・・・
「ララァはなぜ戦うんだ?」
「シャアを傷付けるから」
幼いアムロは戸惑っている。
「シャアを傷付けるいけない人」
「そんな・・・」
「あなたの力が示している・・・あなたを倒さねばシャアが死ぬ」
女性は強い口調で言い募る。
「あなたの来るのが遅すぎたのよ」
「遅すぎた?」
「なぜ、なぜ今になって現れたの?」
「なぜなの?なぜあなたはこうも戦えるの?あなたには守るべき人も守るべきものもないというのに」
「守るべきものがない?」
「私には見える。あなたには家族も故郷もないというのに」
「だから、どうだって言うんだ?」
悲痛なアムロの声が海に児玉する。
「守るべきものがなくて戦ってはいけないのか?」
「それは不自然なのよ」
「では、ララァはなんだ?」
「私は救ってくれた人の為に戦っているわ」
「たった、それだけの為に?」
幼いアムロは呆然としている。
女性は優しく微笑み、子供を諭すように囁く。
「それは人の生きる為の真理よ」
「では、この僕達の出会いはなんなんだ?」
女性の悲鳴が宇宙に轟く。
「これは?これも運命なの?アムロ」
「ああ、そうだ、そうだと思う。これも運命だ」
「なぜ、なぜなの?これが運命だなんてひどすぎるわ」
「しかし、認めなくちゃいけないんだ。ララァ、目を開いて」
「そうなの?そうなのかしら?アムロの言う通りなの?」
二人は共感している。
こんなにも分かり合っているのに・・・
カミーユは瞬きすら出来なかった。
目の前の二人を見届けることしか出来ない。
「でも、なんで、・・今になって・・・」
「それが人の背負った宿命なんだろうな」
突然視界が暗転する。
目の前に戦場が広がった。
赤いMSが表れる。
「ララァ、奴とのざれごとはやめろ」
「シャア」
金髪の女性の声が響いた。
「兄さん、下がってください」
「ここは危険です、セイラさん下がって」
「兄さん、私よ、わからないの?」
「ララァ、私はガンダムを討ちたい・・・私を導いてくれ」
「お手伝いします・・・・大佐」
先ほどまであれほど共鳴していた二人が戦闘に身を委ねる。
戦いあう。
「ララァを手放す訳にはゆかん」
「大佐、近づきすぎます」
異国の女性の悲鳴が聞こえる。
「大佐、いけない」
金髪の女性が操る機体が戦闘を阻む
「アルテイシアかっ」
その瞬間悲劇が起きた。
「シャア、覚悟」
ガンダムがレーザービームを振りかざす。
異国の女性が前に躍り出た。
赤い機体を庇うように・・・
「・・・大佐・・・」
悲鳴が鳴り響く。
女性と・・・・アムロレイと・・・シャアアズナブルの・・・
海が広がる。
悲しみで満ち溢れる海が幼いアムロの視界を覆う。
声がする。女性の声が。
強烈な共感。
ララァとアムロは分かり合っている。
溶け合っている。
肉体を超えて精神が一つになっていく。
「人は変わってゆくのね・・・あたし達と同じように」
「そうだよ・・・ララァの言う通りだ」
「アムロは本当に信じて?」
「信じるさ、君ともこうしてわかり合えたんだから・・・・人はいつか時間さえ支配することができるさ」
「ああ、アムロ、時が見える」
女性の機体が、エルメスが爆発する。
女性の肉体が砕け散る。
後に残るのはアムロの泣き声だけ。
「ララァ・・・・・僕は・・、取り返しのつかないことを、取り返しのつかないことをしてしまった・・・僕はララァを殺してしまった」
全てを見届けたカミーユは理解した。
これは過去の出来事なのだ。
これがアムロレイとシャアアズナブル・・・クワトロバジーナの確執なのだと。
※アムロとララァの台詞はテレビ版の台詞集から引用しました
擬態53
まるで映画を見ているようだった。
リアルな戦闘が映し出され消えていく。
ジャングルの静寂が戻ってきても、カミーユは震えを抑えることが出来なかった。
「あれは・・・・一年戦争?」
握り締めた手の主をようやく見ることが出来る。
自分の知っているアムロレイを視界に入れてようやくカミーユは落ち着いた。
「そう、あの戦争で僕は出会ってしまった。ララァというジオンのニュータイプと」
「そして共感した・・・なのに戦わなければいけなかった。酷い」
「そう、戦いあって僕は殺した。ララァを」
残酷な話をしている。
なのにアムロの声は穏やかだった。
さっきまでララァを死に追いやり残痕と慟哭で泣きじゃくっていた子供の声では無い。
あれから7年が過ぎた事を感じさせる大人の声だ。
「どうして・・・どうしてあれを僕に見せたんですか?あれがニュータイプの為れの果て?ニュータイプは戦争の道具にしかなれないという事ですか?」
興奮さめやらないカミーユの問いかけにアムロは小さく苦笑した。
「ララァは死んだ。エルメスは爆発した。僕が殺した」
「アムロさんっ」
アムロは優しい瞳をカミーユに向けた。
「カミーユはあの時何を見たんだ?」
「ララァさんが、光に溶け込んでいくところを」
「時が見える・・・ララァはそう言った。君は光を見た?」
「はい・・・見ました」
「その先は?」
質問の意味を図りかねてカミーユは眉を潜めた。
「先にある所。時の彼方。ララァの魂はそこにある」
優しいが背筋が凍るくらいに冷たい声だった。
「あの時、ララァと僕は共感していた。一つの魂として解け合っていた。ララァは死んで光の先へ、時の彼方へといったけれど僕は生きたままあそこへ行ってしまった」
大きなため息。切ない表情をアムロは浮かべる。
「人間は時を見てはいけないんだ。光の先へ行ってはいけない。そこで待っているのは虚無の世界だけだ」
アムロは何を言いたいのだろう。
カミーユは全身を傾けて次の言葉を待った。
「前に話したよね。ニュータイプなんてジオンダイクンの造語で昔からそういう物は存在したのだと」
エスパー 超能力者。預言者、神の子
「彼らは高い能力を持っていた。そして中には時を超越出切るまでに進化したものもいた」
ララァだけが特別じゃない。
きっかけと、強い思念と能力があれば人は時を支配出来るのだ。
「でもそれにはネックがある」
「ネック?」
「この体さ。人間の肉体は時間に正確だ。どれ程能力があろうともなかろうとも平等に老いていく」
アムロは皮肉な笑みを浮かべた。
「人間の精神が成長するのに、ニュータイプとして進化するのに地球の枷は邪魔だった。宇宙に出たことでニュータイプは格段に増えた。地球の・・・重力の呪縛から解き放たれたから」
肉体の、環境の変化に順応しニュータイプは増加する。
「しかし精神の進化に肉体がついていかない。時を越えられる能力を持っても老いていく体は止められない」
だから・・・本当に進化しようとするなら
「肉体を捨てなければならない。真のニュータイプとして進化するならば」
そこまで言ってアムロは笑った。
「ああ、また話がずれてしまったね。ニュータイプは昔からいたという話だったね。もちろん中には時を支配した存在もあった。彼らは肉体を無くし精神体となり時間という枷から開放された」
「肉体を無くし・・・って死んでって事でしょう。それってまるで・・・」
最後までいえなかったカミーユの後を継ぐようにアムロが答える。
「それってまるで幽霊みたい・・・そうだよ、カミーユ、強い情念を、欲望を持った人間が肉体の檻から開放されて精神だけの存在となる」
驚愕の内容にカミーユの思考はついていかない。
アムロはふいっと横を見て微笑んだ。
誰もいないのに。まるで何かがそこに存在しているかのように目で語りかけ笑う。
「・・・・アムロさん?」
「カミーユには見えない?感じない?」
「何をですか」
アムロは空間に目で笑いかけるとカミーユに向き合った。
「ここにララァがいることを。あの日、あの戦争から僕たちはずっと一緒にいるんだ」
背筋がぞっとした。
目の前のアムロは狂っているのだろうか。
後ずさりそうになるカミーユにアムロは微笑みながら言った。
「これがニュータイプの進化の末路だよ」
擬態54
怖い。とてつもなく怖い。
立っていられないほど震えを感じてカミーユは両腕を抱きしめた。
目の前のアムロは普通に見える。
何時もどおりの、穏やかなアムロレイ。
なのにその瞳はカミーユには見えない別の物を映し出している。
彼は狂ってしまったのだろうか?
否、始めから狂っていたのだろうか?
一年戦争の後、シャイアンで静かに少しずつ壊れていってしまったのだろうか。
それともララァを殺した瞬間から狂気の淵に落ちてしまったのか?
怯えているカミーユにアムロは微笑みかけた。
「ララァは僕と一緒にいるといってもね、普段は眠っている。だからカミーユが気が付かないのも無理は無い」
「眠っている?」
「そう、肉体を無くし精神体となり、ララァとしての記憶も薄れ人としての自我も忘れかけエネルギーの塊となっている」
人は自分を認識する肉体を失うと自己を保つのが難しいんだろうね、
アムロは寂しそうにそう言った。
「それは・・・それでもララァさんだって言えるんですか?」
「言えるよ、本来ならララァの精神体はもっと早く消滅していた、宇宙に漂ったまま自我を保ち続けるのは辛いことだから」
「なら何故?」
「僕がララァを取り込んだんだ、自分の中に」
「アムロさんの中に?」
「そう、ララァと僕は共鳴しあっていた。だからララァをこの身に取り込むのは苦労しなかった。ララァは僕に溶け込み僕の一部となった。ララァもそれを望んでいた」
「ララァさんも?」
「そう、だってララァの望みは僕達の最後を見届けることだったから」
だから眠っている。最後の時を見届けるために。
出来るだけエネルギーを消耗しないように、アムロの中で僅かに残った自我を保つため眠っている。
最後の時、ララァは目覚めるだろう。今はまだその時で無い。
ララァは眠りながら未来で自分達を待っている。
アムロの言葉にカミーユは目を見開いた。
僕達・・・それは自分とアムロの事ではない。
アムロと・・・クワトロバジーナ。シャアアズナブルを指している。
「死んでからもシャアの事を気にかけているんですか・・・ララァさんは」
女としての業を感じる。精神だけでも愛する男の傍にいたいのだろうか。
アムロに感じるのとは違う薄ら寒さをララァに対して感じる。
「でも、死んじゃったら近くで見守っていても何も出来ないじゃないですか。アムロさんの中で生きていて・・・それが何の意味があるというのですか?」
「ララァは知りたいだけだよ、未来を」
アムロは小さく笑った。
「カミーユは見たね、俺達の過去を」
カミーユは素直に頷いた。
一年戦争の生々しい映像は脳裏にこびりついている。
「でもその先は見ていない。見えなかった?僕とララァの行き着く先を」
「どういう事ですか?」
鳶色の瞳を瞬かせアムロはカミーユを見詰めた。
「カミーユ程のニュータイプならもしかしたら未来も見えたかと思ったけど、まだ無理だったみたいだね」
意味不明の言葉、カミーユの振るえは酷くなった。
「もし君が僕達と同じ物を見ることが出来ていたら聞きたかったのだけど。僕とララァ、どちらが正しいのか」
「正しい?」
「そう、ララァと僕は光の果てに、海の彼方に未来を見た。二人の見た未来は一つだった。でも違ったんだ」
辛い事を思い出しアムロは顔をゆがめた。
「僕達の精神は重なり合い完全に共鳴していたのに、同じ未来を見た筈なのに、僕達は全く違う結論を出した」
ララァは未来に希望を見出した。
アムロは未来に終幕を見つけた。
「どちらが正しいのか分からない。どちらも間違っているのかもしれない。分からないから未来を見てもララァは消滅出来なかった。僕達のどちらが正しいのか見届けるまで死ぬことすら出来なかった」
「・・・・どんな未来だったのですか?」
声を震わせカミーユは問うた。
アムロは遠い空を見上げ、静かに答える。
「アクシズが落ちる」・・・・と
擬態55
「見たい?カミーユ」
震える カミーユにアムロは笑いかける。
「知りたい?シャアと僕の行く末を・・・末路を」
答えられないカミーユに微笑みかける。
「ララァが見た未来を、僕が見た終末を知りたい?」
それを知ればアムロにはもう隠すものが無くなる。
本当の意味で全てを暴いたことになる。
知ればカミーユはアムロを手に入れる事が出来るのだろうか?
「君はとても強いニュータイプだからね、深く共感すれば知ることが出来るよ」
「深く共感?」
何故か喉が渇く。
ごくりっと唾を飲み込んでカミーユはアムロを激視した。
アムロの雰囲気が、身にまとう空気が僅かに変わっている。
先程までは可哀想な子供を慰める慈母の表情だった。
今は・・・どうしてだろう。
とても艶めいた誘うような顔をしている。
アムロから発せられるプレッシャーが重みを増す。
「どうすれば・・・深く共感出来るんですか?」
今でさえアムロとカミーユは共鳴しあっている。
これ以上何をすれば更に共感出来るのだろうか?
「簡単だよ、昔から行なわれてきた方法だ」
くすりっと笑うとアムロはシャツのボタンに手をかけた。
ゆっくりと一つずつ外していく。
前がはだけられカミーユは息を飲んだ。
白い漉けるようなアムロの肌。
そこには無数の赤い跡が付いている。
所有を知らしめる様に付けられたそれの意味
カミーユは性的に疎かったがキスマーク位は知っている。
そして誰がそれをつけたのかも知っていた。
目線に気がついたのかアムロは指先でそれをなぞった。
「シャアはしつこいからね、気が削がれた?」
カッとカミーユの頬が赤くなる。
キスマークを見て、シャアの行いを見てますます煽られたのを見破られている。
「ずっとカミーユは僕の共感の中でセックスをしてきたね」
アムロには全て知られている。
「とても気持ちよかったよ、身体が融けてしまいそうなほど」
思い出すだけでカミーユは反応した。
前が張り出すのを恥ずかしく思う余裕も無い。
「でもね、カミーユ、それは所詮精神だけの話だよ。本物じゃない」
キスマークで覆い尽くされた身体を抱きしめてアムロは笑う。
「人が人を分かり合おうとする時、セックスは有効な手段だね、精神では補えないところをカバーしてくれる」
「ア・・・アムロさん」
蜜に吸い寄せられる蝶のようにカミーユはアムロから目を逸らすことが出来ない。
「カミーユが僕を抱いたらもっと深く共感出来るよ。僕の未来を見ることも出来るだろうね」
アムロはカミーユの耳元で囁いた。
「本当に知りたい?未来を」
知ったらもう戻れないよ。知らなかった頃には、無知な子供には帰れないよ。
「それでも僕を抱きたい?カミーユ」
誘いは逆らいがたい魔力を持っていた。
続く
擬態56
震える手で触れた肌は柔らかく弾力がある。
伸ばした指先がアムロの胸に触れた瞬間、感電したかのように怯え離れた。
「どうしたの?カミーユ」
誘う声に導かれ、 今度はそっと、ゆっくりとあらわになった胸に触ってみる。
女と違う男の身体。
自分と同じ作りなのに何故こんなにも興奮するのだろうか。
白く艶やかでそそられる。
寒さのせいか胸の飾りはつんっと尖っている。
指先で触れるとアムロが身動ぎした。
綺麗な薄紅色をしたそこがカミーユを誘う。
「アムロ・・・さん」
まるで赤子の様に唇を寄せる。
舐めて吸い付く。
ミルクなど当然出るわけが無いが甘いと感じた。
精神が幼児退行しているのだろうか。
こうして乳首に吸い付いていると不安が消し飛んでいく。
ちゅうちゅうっと音を立てて吸い上げると悩ましい吐息が聞こえた。
「カミーユ、あっそれだけでいいの?満足するの?」
カミーユの口の中、ますます赤く色づき固く尖ったそれはアムロが感じている事を伝えてくる。
顔を上げると見下ろしてくる瞳と目が合った。
潤んだ目の下には唇がある。
赤く色づいて悩ましい吐息を漏らす唇が・・・
誘われるようにカミーユはそこにも吸い付いた。
初めての口付け。
幼馴染の女の子ともしたことが無い。
初めてのキスはカミーユを夢中にさせた。
お世辞にも上手いといえない行為。
だが稚拙なりに情熱的で荒々しい舌使いにアムロはうっとりと瞳を閉じた。
ぴったりと密着した体はお互いの熱を伝えてくる。
アムロの太股にあたる固い感触。
それはしきりに小刻みを繰り返している。
キスをしたままカミーユは位置をずらしてきた。
「あっああぁっカミーユっ」
固い雄がアムロの股間にあたる。
服の上からこすり付けられ煽られる。
若さゆえテクニックなど無いが熱をダイレクトに伝えてくる。
恋愛の駆け引きも知らない、愛撫の意味も判っていない我武者羅な愛情。
全てを欲しがる子供をアムロは抱きしめた。
「いいよ、カミーユ、すきにして」
全てを教えてあげる。
アムロの呟きはカミーユの唇の中へと消えた。
えーしばらくエロなので裏に潜ります。よろしくです