監禁の後、夜神月は明らかに変わった。
それはずっとキラを追い続けてきたLにだけ分かる変化だ。
Lにしか悟られない僅かな差であった。
だが、その僅かがLにとってもキラにとっても重要な部分である。
監禁から解放された夜神月はLを嫌わなかった。
Lを避けたり疎んだりしなかった。
「好きです」
そう言うLに微笑みすら返してくれる。
「僕もだよ、竜崎」
答えを返してくれる。
Lはそれに有頂天になった。
以前の夜神月は、見かけはLと友人であったが心の中は敵対していたのだから。
Lが追いかければ追いかけるほど月は逃げる。
Lが真剣なのを見て嘲笑うその姿は残酷で禍々しかった。
なのに追い続けた。
目が離せなかった。
彼こそがキラだと思った。
だが、今の夜神月は違う。
優しくLを包み込んでくれる。
愛していると言ってくれる。
「月君は私の全てです」
そう言うと嬉しそうな顔をしてくれる。
「僕も、竜崎が大切だ」
男同士なのに、何故だろうと悩んだけれどもやっぱり竜崎が僕には必要なんだ。
月の言葉は真剣で、Lはそんな月に夢中になる。
優しい月
綺麗な月
清廉潔白で傷一つない美しい君
月はLの理想のパートナーだ。
Lにも匹敵する頭脳を持ち、正義感に溢れている。
「このままずっと月と捜査を続けたいです」
Lの言葉に月が頬を膨らませる。
「なんだよ、それって僕はキラ容疑者のままずっと手錠で繋がれていろってことなのか?」
不服そうな月。
なんて可愛い月
「いやですか?」
Lは長い手を伸ばして月を抱きしめた。
そのまま唇を首筋に這わすと月の唇から甘い吐息が漏れる。
「いやじゃないけど、でもいやだな、キラだと疑われたままだなんて」
正義感に溢れる彼はそれが気になるらしい。
「月君、私の月」
Lは月の言葉に答えることよりも月の体を貪ることに夢中になった。
「いやっ竜崎、まだっあっ」
「大丈夫です、月君、息を吐いて」
Lの言葉に従い月は浅く呼吸をしながらLを受け入れる。
その瞬間、強烈な射精感がLを襲った。
もう何度も体を重ねあっているというのに、月の内部は初めてのように収縮を繰り返しLを刺激する。
処女を犯すような倒錯した快感を入れる瞬間に感じてしまうのはLのせいだけではないだろう。
月の初々しさや精錬さがそうしたイメージを与えるのだ。
それが月の、今の月の魅力なのだ。
「月君、とても気持ちいいです」
「うんっ僕も」
素直に月も頷いてLの動きに合わせて腰を揺らめかせる。
扇情的で、でもどこか綺麗な月
どれだけLとセックスをしても無垢なまま、穢れない存在のような彼。
「月君、愛しています」
そう言いながら激しく射精すると月も甘い声を出して絶頂を向かえた。
深夜、月を抱きしめながらLは浅い眠りを漂っていた。
眠っているのに意識はある。
そんな状態だった。
何故か今日に限って上手く眠れない。
月が傍らにいるというのに、
恋人を抱きしめているというのに。
どうしてこんなにも神経が張り詰めるのだろうか?
その時、Lの腕の中にいた月が身じろいだ。
月君?
声をかけようとするが上手く発声できない。
月はLの腕の中を擦り抜けると起き上がった。
暗闇の中、彼の姿が浮かび上がる。
Lは目を閉じていた。
なのに月が覗き込んでいることは分かる。
金縛りのような状態がLの動きを阻んでいた。
月はしばらくLの顔を覗き込んでいた。
眠っているかどうか確認しているかのように。
どれくらい時間が立っただろうか
Lが寝ていると思って安心したのか。
彼は独り言を呟いた。
「竜崎、お前はどこを見ているんだ?」
何を彼は言っているのだろう?
「竜崎はちっとも僕を見ていない」
彼の声は悲しそうだった。
「いつも僕じゃない僕を見ているみたいだ」
違います、それは誤解です。
私はあなたを見ています、
あなただけを。月君
そう言いたいのに言葉が出てこない。
手を上げて彼を抱きしめることも出来ない。
目を開けて彼を見つめることも出来ない。
浅い眠りの中、Lは月の独り言を聞いていた。
「竜崎」
彼は小さくため息をつくと、低く笑った。
「竜崎は物足りないんだろう、僕では」
彼は私を覗き込んでいる。
眠っているかどうかを確認するためか。
言い聞かせているのかのように。
まるで眠る子供に話を聞かせているかのように。
「お前は僕では退屈なんだろう、L」
月の笑い声が聞こえる。
小さい含み笑いはどこか毒を含んでいる。
何を言っているんですか?
そう言おうとして失敗する。
「僕がいないと寂しい?」
彼は何を言っているのか。
僕とは誰だ?
「夜神月を抱いてもお前は僕のことばかり考えている」
目の前にいる彼は誰だ。
Lは奇妙な感覚に襲われた。
声も、体温も愛する恋人のものなのに、中身だけ摩り替わってしまったような感覚。
いや、自分は彼を知っている。
誰よりもよく知っている。
キラ、
彼の名を呼ぼうと口を動かすが声は出ない。
そんな私を彼は笑う。
「夜神月にこれを入れているときよりも、キラのことを考えている方が興奮するんだろう」
甘く耳元で囁かれる。
彼の手は私の男に触れている。
そうされて初めて気がついた。
私は激しく勃起していた。
恋人と散々抱き合った後だというのに。
「お前はそういう男なんだ、だから僕はLを選んだんだ」
嘲笑うように言うその声は確かに月のものだ。
だがLは心の中で問いかけた。
お前は誰だと
「分かっているくせに」
彼が答える。
「こうして会うのは初めてだね」
彼は何を言っているんだ?
「やっと会えた、ずっと会いたかった」
僕のL
嘲笑う声が聞こえる。
それは禍々しく残酷だというのに、どこか無邪気で無垢な響きを持っている。
キラ?月?
どちらなのか?それとも両方なのか?
Lは必死になって目を開けた。
石のように動かない目蓋をこじ開け、無理やり目覚めるとそこには彼がいた。
優しく笑っている残忍な彼。
その手元には黒いノートを持っている。
パンッどこかで何かが破裂する音がした。
「竜崎、竜崎、起きて」
唐突に揺り動かされ、私は目を覚ました。
「すごいうなされていたよ、大丈夫?」
彼が覗き込んでくる。
夢だったのか?あれは
私は大きく息を吐いて恋人を抱きしめた。
「夢を見ました、すごく怖い夢です」
「へえ、Lでも怖い夢を見るんだな」
月は笑いながら背中を優しく撫でてくれる。
「月君がいるのに動けない夢です」
「それが怖い夢?」
私はこくりと頷いた。
「月君が遠くへいってしまう夢です」
「僕はここにいるよ」
優しい言葉、その声に偽りは感じられない。
Lは月を抱きしめた。
「あなたが大切なんです」
「知っているよ」
当然のように月が答える。
「本当なんです、信じてください」
「一体どんな夢を見たんだ、Lともあろうものがそんなに怖がるなんて」
Lは何も答えずに月を抱きしめた。
夢の中の月と同じように。
夢の中の月は知っていた。
キラはLが目をそむけていた思いを暴いてきた。
「月君、こんなにあなたが大切なのに」
私はキラが欲しいんです。
最後の言葉は口にすることが出来なかった。