Lは親の顔を知らない。
自分を生んでくれた母親の顔も、自分の父親の顔も何も知らない。
知らないのも当然だ。
Lにはそんな物ないのだから。
必要ないのだから。
「キラはLの名を知ろうとしているが意味は無い」
Lと呼ばれる男は笑った。
彼には名前が無い。
Lという呼称があるだけだ。
それを名前というのならそうだろう。
Lは名前を持たない存在だった。
彼はLという機関に作られた存在なのだ。
Lが作られたのは第二次大戦の後。
連邦を中心として作られたその機関は世界平和、世界の治安維持のためにあらゆる国から人材を集めて結成された。
まだ合衆国が膨大な力を発揮する前、英国の権威が失墜し、第三帝国が滅び、世界が混沌としていた時期。
Lは勝戦国と敗戦国と、それに参加しなかった国々との間で作られた。
何にも縛られない純粋な機関として。
国連と似ているようで違う。
あらゆる国の重圧から逃れた唯、世界平和だけを目的とする機関。
敗戦国となってもまだ財力を持っていた国は勝戦国に全てを統治されることを拒んだ。
勝戦国の中でも内乱は続いていた。
混沌とした時代だからこそこの機関を設立出来たのだ。
Lはどの国の制約も受けない唯一の組織であった。
Lを統治するのはどの国籍の人間であってもいけない。
だからLに選ばれる人間は、Lの頂点になる人間は戸籍も国籍も持たない。
親も、兄弟も、血のしがらみを一切持たない。
Lは選ばれた遺伝子から作られる。
人はそれを科学の奇跡とも悪魔の所業とも呼ぶ。
人間が人間を作り出す。
世界各国の最高水準を誇る科学者の遺伝子からLは作られる。
人工授精で作られたLは親を持たない。
名前を持たない。
「だからキラに殺される心配も無い」
日本の偽名、竜崎と呼ばれる男は笑う。
「もし、キラが私の名を記すとしたら?」
Lとしか呼ばれない男。
名前を持たないが、名前という意味は何なのか?
それが個人を識別する言葉だとしたら、Lという字は男を指している。
Lと記せば男は死ぬのだろうか?
その事を考えると男は愉快になる。
キラは知っているのだ。
Lの本名を。
なのにそれに気がついていない。
「滑稽だ」
男は笑いながらキラを思った。
「お前がそのことに気がつくのが先か、私がお前を手に入れるのが先か?」
考えるだけで興奮する。
今まで、何をしても感じることの無かった心が高揚してくる。
人工授精で作られたLの心に血が通ってくる。
「キラ、お前は私のものだ」
キラはLにその存在を定義してきた。
Lの名を知りたがった。
それだけで十分だ。
「お前だけが私に名を与えてくれる」
男は狂気じみた笑みを浮かべる。
「夜神 月、私のキラ」
呟きは闇に消えていく
その瞳は暗く、深い執着で彩られていた。
Lが日本に来てすぐ、監視カメラくらいの話です。