夜神月はまさに今 Lと対決しようとしていた。
喫茶店の一角、人の目の死角で二人はお互いの手の内を読もうと腹を探り合っている。
Lの 問いかけは狡猾で巧みだった。
キラしか知りえない情報をライトから引き出そうとする。
もちろんそれに引っかかるライトでは無い。
全ての回答を模範的に弾き出す。
だが、Lはライトを追求する手を緩めない。
FBI捜査官のリスト、犯罪者の遺書の写真、
それらをライトは切り抜けた。
ライトの答えからは何も導き出せない筈だ。
なのに、Lはその黒い底知しれない瞳でライトをじっと観察している。
観察していることを隠そうとしない。
「ではもし、夜神君がLだとして、キラの可能性のある者に相対したらキラであるかどうかどうやって確かめようとしますか?」
Lの誘導尋問は続く。
「一般には報道されていないキラしか知りえない事を相手にしゃべらせる。今流河がしていることだ」
ライトの答えにLは眼を見開いた。
今の答えはLの興味を惹いてしまったらしい。
ライトは大きくため息をついた。
こんな茶番に付き合っているのが苦痛になってきたのだ。
目の前のLはライトを見つめ、なにやら興奮しているらしくしきりに貧乏ゆすりをしている。
微妙に前かがみで。
その時である。
ピピピッ
流河の携帯が鳴った。
「失礼」とことわり流河は電話に出る。
「竜崎、大変な事に」
電話の主はワタリであった。
「どうした?」
「夜神さんが倒れました」
ショッキングなその情報に流河は驚愕の表情を浮かべる。
その時、ライトの携帯も鳴り出した。
「ライト、お父さんが」
電話から母の悲痛な声がする。
驚きのあまり声の出ないライトの耳に流河の声が響く。
「夜神君、義父さんが!!」
義父さん?
何故流河はうちの父の事を義父さんと呼ぶのだろうか?
いや、問題はそこでは無い。
父の心臓発作だ。
いや、もしかするとこれはLのひっかけかもしれない。
キラが父に心臓発作を起こさせたという情報で僕がどういう反応をするか観察しているんだ。
ここは一発、演技をするしかない。
ライトはその場に崩れ落ちた。
「父は心臓発作、まさか、そんな」
流河がそっとライトの傍によってくる。
「もしこれがキラの仕業なら僕はキラを許さない」
我ながら迫真の演技であった。
Lは僕に言った。
「ライト、義父さんは大丈夫だ、きっと助かる」
だから何故義父さんと呼ぶのだろうか?
それにナチュラルに呼び捨てだし。
首をひねるライトをLは抱きしめた。
真昼間の喫茶店の死角の一角で。
「泣きたかったらわたしの胸の中で泣いてください」
これもLのひっかけなのだろうか?
振り払ったらキラっぽいのか?
それともここでおとなしく流河の腕の中にいたら?
それもそれでキラらしいと推理されるのだろうか?
いや、それ以前に男同士で真昼間の喫茶店で抱き合っているのはどうだろうか?
苦悩するライトに気がつかずぎゅうぎゅうと抱きしめてくる流河。
微妙にその手つきがいやらしいのは、自分の気のせいだ。
気のせいでなかったら。もしこいつが本当にLだったら。
「・・・いやすぎる」
苦悩するライトの呟き、しかし苦悩は始まったばかりである。
続く