[ライトの苦悩2]

大学生活を流河と過ごすようになってから夜神月18歳の神経はいつも極限の状況に置かれていた。
流河はL,世界的に有名な探偵である。
彼の一言で世界の警察が動く。
そのLがライトをキラではないかと疑っているのだ。
ライトの一挙一動をつぶさに観察し、キラである証拠を掴もうとしているに違いない。
現に流河はライトの傍を決して離れようとしない。
どんな講義にも必ず付いてくる。
本当ならばこんな授業を受ける必要の無い頭脳を持っているにもかかわらずだ。
Lにとって東大の講義など退屈しのぎにもなりはしない。
だから、ほら、今だって。
チラリッとライトは横に視線を送った。
ライトの横で個性的な座り方をしている流河は内職をしている。
なにやらイタリア語の原書を読んでいる。
机の上にもフランス語やラテン語、様々な国の本がつまれている。
こうまでオープンに内職をされては教授も注意出来ないだろう。
東大教授に同情するライト。
しかもだ。
Lの奇行はそれだけでは無かった。
彼が大変忙しいのは分かる。
なにせキラ捜査の責任者でありながら大学生もやっているのだ。
非常に忙しいのはライトも理解出来る。
・ ・・だが
「ここで報告書は読まないでほしい」
流河は大胆にもキラに対する捜査書類を授業中に読んでいるのだ。
「これは僕を試しているのだろうか?」
ライトがそう思うのも無理はない。
ここで覗き見たらキラだと思われるか?
それとも無視したらますますキラっぽいか?
それよりもなんでこんなにこいつはオープンなんだ?
うちの父親だって捜査資料は家族の前で読まなかったぞ。
しかし、気になる。
今日流河が読んでいるのはキラの報告書では無い様だ。
「何を読んでいるんだろう?」
博識と名高いLが真剣に読みふけっている。
彼をそこまで集中させる本とは一体なんだ?
ライトはこっそり本の題名を確認しようとして、驚愕に目を見開いた。
「HOW TO SEX」
英語の本のタイトルは分かりやすかった。
しかもそれにはビギナー向けとまで記されている。
フランス語の本は「愛の囁き」
イタリア版は「愛のときめき」
日本版は「48手」
驚愕に震えるライト、その様子にようやく流河が気がついたらしい。
熱中していたスペイン語「愛の営み」から目を離すとライトに問いかけてきた。
「どうしました?顔色が悪いようですが、保健室に行きますか?」
「・・・いや、いい」
ライトはそう答えるのが精一杯だった。
すると流河はまたも本に集中し始めた。
その集中力はすばらしい。
・・・すばらしいのだが、
「貧乏揺すりはやめてくれ」
Lは本に熱中している。
しかも興奮してきたらしく何やらしきりに体を揺すっている。
息も荒く目も充血している。
・ ・・何を想像しているのだろう。
またもライトの視線に気がついたのか?それとも何か思惑があるのか流河は視線を月に向けた。
しばらくじっと見つめると本に目を戻し、またライトを見つめる。
だからなんで本と僕を交互に見るんだ?
なんでそんなに興奮しているんだ。
さっきより息が荒いぞ、流河
月は耐えられなくて流河の本を奪い取ったがそこにはラテン語でなにやらびっしりと書かれてありライトに読めるはずが無い。
当然いやらしい写真も載っていない。
これに何故あんなに興奮できるのか謎だ。
しょうがないからライトは本人に直接聞くことにした。
「何を勉強しているんだ?流河」
「性交の方法です。夜神君」
ライトは目眩を感じた。
だがくじけてはいけない。
「なんでそんな事を調べるんだ?」
「必要が生じたので」
流河の答えは簡潔だった。
聞いてはいけない、いけないけれど。
ライトは聞かずにはいられない。
「必要?」
「はい。今までは性的欲求は自分で処理していたので問題なかったのですが」
そこで間を置きライトを見つめる流河。
「緊急に必要となりました」
ひいいいっライトは心の中で悲鳴をあげた。
「わたしは童貞なので始めての時、失敗してしまうかもしれないと思いこうして調べているのです」
「・・・童貞?」
今つっこむところはそこじゃないだろう、ライト。
流河が誰と初体験予定なのかが重要なんだ。
「大丈夫です。夜神君。本を読んでポイントは掴みました」
だからなんで僕にそれを言う?
なんでそんなに息が荒いんだ?流河。
ライトは耐え切れず視線を逸らした。
そして逸らした先、他の本に混じっているそれを見た瞬間
「ひいいっ」
恐怖のあまりライトはぷるぷると震えた。
[さぶ]と書かれたその本は一部にはとてもメジャーである。
震えるライトを流河は充血した目で見つめている。
「ああ、それは今から読もうと思っていたんです。必要ですから」


ライトの苦悩はまだまだ続く。