「ライトの苦悩6」

 

 夜神 月18歳、
 天下の東大生でありしかも主席、眉目秀麗才色兼備、立てば芍薬座れば牡丹、歩く姿は百合の花こと夜神月は悩んでいた。
 悩みの元凶は当然Lである。
 本来ならば月はキラとして世の中のあり方や正し方、正義や倫理観について悩まなければいけない立場なのに今の月にはそれを悩んでいるゆとりは無かった。
「・・・何故だ」
 ライトを悩ますのは世界についてという壮大なものでは無くもっと個人的、主観的な問題であった。
 と言うよりっもずっと低レベルのものであった。


 今、ライトは東大キャンパスの廊下にいる。
 今日の休講など予定を調べようと掲示板の前に立ち、そのまま硬直していた。
 掲示板には教授からのお知らせ、東大からの連絡事項、その他もろもろに混じって東大キャンパスライフと呼ばれる学校新聞も貼り付けられている。
 当然東大なのだからそんじょそこらの学校新聞とはレベルが違う、
 訳が無い。
 所詮学校新聞は学校新聞。
 真面目な記事も載っているがゴシップネタや三面記事、はてはシモネタもちょびちょび載っている。
 そんな東大キャンパスライフ新聞の最近の目玉は「東大生の恋愛事情」
 しかも連載記事である。
 記事の内容としては学業と恋愛の両立についてという堅苦しい前置きから始まる。
 記事のモデルケースはT君とL君
 一応仮名である。
 東大の恋愛についてT君とL君の立場を通してみんなで考えよう、という涙が出るくらいすばらしい主旨の記事だ。
(どうやら出会い、お互い主席、仲がよすぎる親友?テニスでの熱い戦いなどが変な誤解を呼んだらしい)
 この記事には色々な問題が含まれている、(という事になっている)
 若者の恋愛事情だけでは無い。
 T君とL君は同性だという設定で恋愛における性のあり方も提議している。
 また、T君は貴族階級ブルジュワなのに大してL君はマフィアの御曹司成り上り(ここいらはリムジンで通学しているから流れたデマ)という身分格差についても問題を投げかけている。
 それだけでは無い。
 T君は絶世の美人に対してL君は頭がいいだけがとりえの爬虫類、恋愛に顔は重要かという議論も持ち出していると言う奥の深い連載記事なのだ。
 記事に対して読者の投稿欄もある。
「L君、がんばって、愛があれば顔の差なんて乗り切れるわ。一年女子一同」
というコメントの横には
「Lの奴にT姫は渡さん、3年男子有志」
 というわけの分からないコメントもある。

「・・・何故だ」
 月はこめかみを押さえた。
この記事の連載が始まってから東大キャンパスライフ新聞は売り上げを10倍に伸ばしたらしい。
(つまり東大のほとんどの人間がキャンパスライフを購入している計算になる)
 この前は特別号だとかで隠し撮りされた写真が載っていた。
(一応目は黒く塗られていたが人権侵害だ)
「・・・嫌いだ。マスコミなんて」
 キラのことで面白おかしく書かれるのは仕方ない。
 有名税だと思って諦める。
 だが、何故にこんなキャンパスライフとかいうせこい新聞でLとの恋愛を噂されなければいけないんだ。
「・・・・僕がそんなに悪いことをしたか?」
 月は肩を落として呟いた時、遠くから駄犬がぺたぺたと走ってくるのが見えた。
「夜神君、おはようございます」
 あいかわらずの猫背。
 しかも爪を噛みながら頬を赤らめて全速力で走ってくる流河。
「ひいいっ」
 月は背を向けてLから逃げようとした。
 だがそんな月の前にはカメラマンがいる、
 コメントをもらおうと待ち構えている記者も何時の間にかいる。
 ふと気が付くと周りの人たちが自分達を見ている。
 これは、ひょっとして暖かく見守られているのだろうか?
「応援しているぞ」
「がんばってね、禁断の恋」
 すでに東大の昼メロ状態。
 二人の恋?はみんなの関心ナンバー1
「夜神君、みんなの応援には答えなければいけなせん」
 何時の間にか横には流河がいて頬を染めて無表情で立っている。
「東大生としてこの恋愛は成就させましょう」
 流河の言葉に周囲から歓声と拍手が沸きあがった。


「何故だ?」
 何時の間にか昼メロ主人公に祭り上げられてしまった夜神月、彼の苦悩はまだまだ続く