「ライトの苦悩、日常編2」


 Lこと流河は物事に拘らない。
 普通の若者が興味をもつようなものには一切気を引かれない。
 テレビもニュースしか見ないし音楽を聞いているところも見たことが無い。
 どこかへ遊びにいったことも無い。
 一日中捜査本部のあるホテルで推理をしている。
 それでなければキラ容疑者である月のいる大学に行っている。
 年頃の男が興味を持つアイドルや女の子にも関心が無いようだ。
 まあそれはいい。
 所詮月には関係の無いことだ。
 なのに、その筈なのに。
「・・・・なんで僕を見て赤くなっているんだ」
 何時も無表情のLが何故だか月を見るときだけ頬を赤らめるのだ。
 青白い無表情で頬だけ赤いのは不気味だ。
 しかも目の周りには黒いくまがあるものだからLの顔は彩色豊かになっている。
 時々月に笑いかけてくる。
 微笑んでいるといってもいい。
 無表情に「うふふ」と笑われると不気味だ。
「なんで笑っているんだ?」
 と聞くと恥らいながら無表情に答えられる。
「ライト君と一緒にいるのが嬉しいんです」
 何故だ?
 月にはLが理解できなかった。
 理解したいとも思わなかった。
 だが月とLはお互い腹の中を探り合う同士。
 月はLの考えを読まなければいけない。
 Lは今も嬉しそうに無表情にあの独特の座り方で月を見つめている。
 仕方なく月はLとコミュニケーションを取ろうと努力した。
「流河は何か趣味を持っていないのか?」
「推理することが趣味です」
「それは流河の仕事だろう、もっと一般的な、例えば好きなものとか楽しいこととか無いのか?」
「ライト君を見ているのが好きです」
「それは僕をキラだと疑っているからだろう」
「うふふ」
 爪を噛みながらLは答えた。
「・・・とにかく流河は何かもっと趣味を持った方がいい、せっかく大学にいるんだから合コンするとかサークルに参加するとか」
「ライト君も参加していないじゃないですか」
「・・・」
 月は頭痛を覚えた。
「テレビもニュースだけじゃなくバラエティとか見たほうがいいよ。音楽とかも色々聴いて趣味を作った方がいいよ」
「そうですか」
 Lは興味なさそうに爪を噛んでいる。
「そうだよ、大体流河、携帯に着メロもいれていないだろう。何か入れたほうがいいよ」
 Lの着信は何時も無機質な呼び出し音だ。
「分かりました」
 Lはおもむろに携帯を取り出すとセットした。
 その時ジャストタイミングで携帯がなった。
 モーニング娘の着メロ
「あ、僕だ」
 月が自分の携帯を取り出そうとしたが。
「はい、ああ、分かりました」
 目の前でLが電話で受け答えしている。
「・・・・」
 電話が終わったLに月が問いかけた。
「何の着メロを入れたんだ?」
「モーニング娘です」
 月は机をひっくりかえしそうになった。
「なんで僕の着メロを知っているんだ」
 流河はうふふっと笑った。
「なんで僕と同じ着メロにするんだ」
「言ってもいいですか?」
「・・・・いや、言わなくていい」
 月は目眩を起こして机に突っ伏しそうになった。
 そんな月にLが言う。
「私はニュースばかり見ているわけではありません、ビデオも見ています」
「ビデオ?映画か何か?」
「いえ、個人的に取ったビデオです」
「・・・・」
 そういえばLは捜査で月の部屋に監視カメラを仕掛けていた。
 合計64個の膨大なビデオ。
 あれの行方はどこに行ったのだろうか?
 聞きたくない。
 聞きたくないけれど、月は勇気を出して聞いてみた。
「個人的なビデオ?」
「はい、私のアイドルのビデオです」
 それはおかずということか?
 ぷるぷると震える月にLが駄目押しをする。
「膨大なビデオ量なのでお気に入りのシーンを編集しているんです、今はそれに忙しくて眠る暇もありません」
 そういえばLのくまが何時もよりも濃いような気がする。
 ビデオのことを思い出したのかLはしきりに貧乏ゆすりをしている。
 目も寝不足のためか充血している。
 震える月をじっと見詰めながら息荒くLが言った。
「でも、ビデオよりも生がいいです」
 何を興奮しているんだ?L
「やっぱり流河は趣味なんて持たない方がいいよ、流河はキラ逮捕で忙しいんだからそんな趣味もっていたら大変だろう、今はキラ逮捕に全力をそそくべきだ」
 焦って言う月。
「大丈夫です。趣味と捜査を兼ねていますから」
 やめろ、やめてくれ、
 僕のビデオを編集なんかしないでくれ。
 と言うかどんな編集が行われているのか恐ろしい。
 しかし月はビデオを取られたことを知らないことになっている。
「そ、そう、良かったね、趣味と実益が合っていて」
 月は敗北を感じながらもにっこりと微笑むしかなかった。


 Lと分かれた後、月は即効で着メロを変えた。
 だが何故か次の日にはLの着メロも変えられている。
 


 数日後
 捜査本部で会議中、軽やかな着メロが流れる。
「チャララララー」
 コミカルなひげおやじのテーマ
「誰だ?携帯を切り忘れたのは」
 夜神本部長が言うよりも先にLが携帯を手に取る。
 そして確認すると月に向かって言う。
「私のではありませんからライト君のですね」
 しぶしぶと携帯を取り出す月に皆の視線が集まる。
「・・・・竜崎とライト君の着メロは一緒なのか?」
 沈黙の中、相澤が代表して口を開いた。
「うふふ」
 嬉しそうに無表情なL。
 苦虫をつぶしたような月が対照的だ。
「・・・・何故?」
 捜査陣みんなが聞きたかった。
 だが怖くて聞けなかった。

 ライトの苦悩はどんどん続く