「ライトの苦悩、表情編」

 注意 
この苦悩はPAGE58胸中の感想を元に作成されています。

 

 


 Lが死んだ。
 今まで月に付きまとっていたあのLがやっと死んでくれたのだ。
 月がすがすがしい気分だった。
 Lが死んだ翌日、
 洗面台で顔を洗いながら月は会心の笑みを浮かべていた。
「やっとあのLから解放される」
 Lが月にとって目の上のたんこぶであった。
 初対面から月のプライドを逆撫でしてきたL。
 月をキラ容疑者として監禁したこともある。
 監視カメラを仕掛けたり、ストーカーのごとく付きまとったり、風呂を覗いたりチュウしたりエッチなことを仕掛けてきたり・・・・
 屈辱の日々を思い出すと月の肩が震える。
「だがもうLはいない」
 はははっ 月は高笑いした。
 ああ、なんて晴れやかな気分だ。
 これでもうあの変態Lに付きまとわれることは無いのだ。
 Lは何をとち狂ったのか月を好きだといい続けていた。
「愛しているんです、月君」
 結婚してくださいとプロポーズされたこともある。
「Lの気持ちは嬉しいけど・・・僕達は男同士だから」
 婉曲にお断りを入れる月、だがLは諦めなかった。
 くじけなかった。
「愛があれば性別も犯罪歴も関係ありません」
 いや、そういう問題じゃないだろう。
 月はこめかみを押さえた。
 しかし、月はキラでありLの動向は気になる。
 Lの動きを逐一見張っている必要がある。
 すげなくお断りをする訳にはいかないのだ。
(ここが月の苦悩の所以である)
 押せ押せのLに流されて
「それじゃあお友達から」
 月とLの交際は始まってしまったのだ。

 

「辛くて苦しかった・・・Lとの交際」
 思い出すと月はぷるぷる震えた。
 お友達からと言ったのに、ちゃんと言ったのに。
・・・3日後には月のバージンはLに奪われていたのだ。
 口先三寸で月を騙して体まで奪った憎いL
 嫌なのに、とっても嫌なのにLに抱きしめられると胸がきゅうっと高鳴ってしまう
 チュウされたりエッチされたり、愛していますと囁かれて月は流されてしまったのだ。
 そんな二人をお似合いだといって祝福する捜査メンバーが憎い。
 松田の馬鹿に似たもの夫婦だとからかわれた事もある。
「確かに僕とLは考え方が似ていた」
 思考回路が一緒なのだろうか。
 Lの推理はよく月に理解できたし、月の考えていることもLにはお見通しだった。
 俗に言うツーカーの仲、というのか?
 だが、もうLはいない。
 月はにやりと笑った。
 はははっと高笑いする。
 その時、洗面台の鏡に自分の姿が映った。
「・・・・?」
 なんだ、この表情は?
 月は自分の顔に驚いた。
 それは今まで見慣れた自分の顔とは思えないくらい凶悪だったのだ。
「まさかっデスノートを使ったから?」
 キラとして殺人をおかしているうちに顔が凶悪になってしまったのだろうか?
 慌てて月は洗面台の前で百面相をした。
 一応これでも月はデスノ界一の美形キャラ。
 ちゃんと公式に設定されていてそれは覆ることは無い。
 無いはずなのに・・・・
 目の前の鏡には凶悪なカエル面が写っている。
「なんだっこの顔は?」
 これではまるでLみたいじゃないか。
 そこまで考えて月はハッと思い当たった。
「まさか・・・これが世間でよく言われるあれなのか?」
 似たもの同士、
 それは夫婦や恋人によく使われる言葉だ。
 長年一緒に連れ添った夫婦は動作仕草表情までもそっくりになると言う。
 恋人同士や兄弟もそうだ。
 親密な人間関係は時に個性までも似てきてしまう。
 好意を持つ、また持たれたいと願う相手の動作を真似するという習性が人間には存在する。
「思い当たるところはある」
 Lと月は手錠で繋がれて24時間いつも一緒だった。
 それに、言いにくい話だがエッチなんかもしている仲だった。
 お互い思考回路はよく似ている。
「・・・・そんな馬鹿な」
 月は洗面台を前に自分の顔をこねくり回した。
 僕は美形な筈なのに。一応爽やかな好青年な筈なのに。
「Lそっくり・・・」
 月は気が付いていなかったがLが死んだ倒れたとき見せた微笑はカエルそのものであった。
 その後、新世界の神になるとか考えながらほくそえんでいた顔もカエルそのもの。
「これはっLの呪いなのか?おのれL」
 そう言えば、あの時松田が言っていた。
 竜崎みたいな言い方やめてくださいよ。
「僕のどこが竜崎みたいなんだ」
 その場では冗談だと思ったのだが・・・・
 あれは言い方だけでなく顔のことも言っていたのか。
「おのれ、L、ここまで僕を苦しめるとは許せん」
 月は怒りでぷるぷる震える
 そんな姿もL、カエルそっくりであった。

 

 

 Lと月は似たもの夫婦のラブラブさん。
 そのことに月はまだ気が付かない

 

 

 

「ライトの苦悩 鏡編」


 注意 
この苦悩はPAGE58胸中の感想を元に作成されています。そして表情編の続きです


 鏡を前に動揺するライト
 その頃夜神父も動揺していた。
「なっなんなんだ?どうしたんだ?」
 夜神父は目の前の画面に驚愕して動けない。
「分かりません、私にも」
 横に座っている男が頷いた。
「何か意味があってしているのかもしれません。もう少し様子を見ましょう」
 男はそう言うと目の前のチョコレートを口いっぱいに頬張った。

 

 

 さてこの展開、もう皆様はお分かりであろう。
 座っている男はL
 Lは生きていた。
 あの時、椅子から転げ落ちてカエルのように痙攣していたのは、心臓麻痺をおこして死んだように見せかけたのは、全て月を欺くための甘い罠だったのだ。
 大体読者の皆さんも変に思われただろう。
Lが死んだのに立会いが夜神パパ一人だけなんて不自然すぎる。 
それはLが夜神局長に他の立会いをさせないように指示を出していたからだ。
 あの時、手術室に運ばれたLは立ち会った夜神局長にこう言った。
「月君がキラです。間違いありません」
「まだうちの息子を疑うのか?息子はノートを使っていなかったじゃないか」
「何か仕掛けがあるはずです。それを探します」
 今、今ならば夜神月は油断している。
 Lが死んだと思い込んでいる。
「今でなければ夜神月は隙を見せない、これは絶好のチャンスです」
 熱心なLの説得に夜神父は折れた。
「分かった、そこまでライトを疑うのなら仕方が無い、思う存分調べるがいい」
 そこまで言うと夜神局長は決意の表情を固めた。
「だが、ライトの捜査には私も立ち会う、それでいいな」
「承知しました、では早速手配します」

 

 

 Lの指示で都内高級ホテルの一室に仮本部が設置された
(といってもメンバーは父とLとワタリだけ)
 松田や他のメンバーにはLとワタリのことは秘密にしてある。
「ワタリさんも生きていたんですね、よかった」
「ほほほ、あそこで私がまず死ななければ、キラは納得しなかったでしょう」
 なんという演技力、なんという正義感
 夜神局長は感動に涙をぬぐった、
 こうしてLの指示により再度、夜神家に監視カメラが取り付けられた。
 今度は見つからないように念入りに、
 天井から床下。
 あらゆるところにカメラは設置された。
 もちろん鏡の中にも

 

 


「ライトはなんで百面相をしているんだ?」
 怪しい、これはちょっと怪しい。
 ライトは鏡を前に自分の顔をこねくり回している。
 驚く父の耳にLの呟きが聞こえた。
「どんな顔をしていても、ライト君は可愛いですね」
 ハッまさかっつ
 父が横を見るとLが鼻血を出しながら月を見詰めている、
「寝乱れたパジャマ姿。寝癖のついた可憐な髪形。どれをとっても最高です」
 なにかこの展開には覚えがある。
 確か初めての捜査、Lが夜神家に監視カメラを付けた時もこういう反応をしていた。
「竜崎っこれは本当に捜査なのか?」
 疑いの目を向ける父
「もちろんです。捜査の基本は情報収集にありますから24時間月君を監視させてもらいます」
 きっぱりと言い切るL、しかしその鼻はでれでれ伸びきっている。
「今なら月君も油断しているから、くつろいだ姿やあどけない表情を見せてくれるかもしれません」
 はあはあっ息が荒いぞ、L
「そ、そしてもしかしたら、マスターベーションしているところも見せてくれるかもしれません」
 前回はエロ本を読んでいても自慰はしてくれなかった・・・ そのことをLは大変不満に思っていたのだ。
「今度こそ、その瞬間をビデオにとってみせます」
 Lはそのためなら24時間寝ない覚悟だ。
「・・・・竜崎」
 あまりの恐怖に父は立ち竦んだ。
 目の前では息子が監視カメラに気がつかず百面相をしている。
 これでは、これでは最初からやり直しでは無いか、
 あの監視カメラを仕掛けた時と同じ状況、

 

 

捜査は振り出しに戻る?
「ゼロからの再出発というわけか。だがL、お前の思い通りにはさせん」
 父はふるふると震えた。
「可愛い息子の可愛いムスコをビデオに取らせたりはしない、息子は無実だーっ」
 錯乱する父。
 興奮しながら画面を見るL
 カメラに全く気がついていないで高笑いをする月
 


 こうしてキラ捜査はpage59零へと続くのであった(嘘です・・・)

 

 


「ライトの苦悩 呟き編」


 注意 
この苦悩はPAGE58胸中の感想を元に作成されています。そして鏡編の続きです


 月はしばらく鏡の前で百面相をしていたが、自分の部屋に戻っていった。
「気のせいだ、僕の顔がカエルになるはずが無い」
 ぶつぶつと独り言を言う月
 もちろんLと夜神父はモニターで監視を続けていた。
「相当精神的にまいっているようですね、月君は」
 画面の中、月は憔悴しきっていた。
 父も大きく頷く。
「やはり竜崎が死んだことがショックだったのだろう。私達捜査メンバーの前では平静を保っていたが・・・」
 それが帰って不憫だ。
 Lの仇を取るっと強がっていた息子を思い夜神父は目頭を抑えた。
「息子も不安なんだ。Lが死んだことにショックを受けている」
 L、ワタリが死んだ今、何時キラの魔手が自分たちに向けられるか分からないのだ。
 松田も、相沢や他のメンバーも怯えきっている。
 局長である自分も正直言って怖い。
「そんな極限状態でもライトはLの仇を討つといってがんばっているんだ」
 そんな健気な息子がキラであるはずが無い。
 そう言おうとした局長であったが・
「ライト?」
 目の前のモニターに映る息子が奇妙な行動を始めたのだ。
 Lも身を乗り出して画面に見入る。
「行動を始めたようですね」
 ライトはなにやらぶつぶつ独り言を言いながら部屋中を家捜しし始めたのだ。
「僕がカエルになるはずが無い、これはきっとLが仕組んだ罠に違いない」
 何を探している?
「罠の証拠は必ずどこかにあるはずだ。おのれLめ」
 真剣な表情は見ていて恐ろしいくらいだ。
 Lと夜神局長は緊張して成り行きを見守った。
 

 どれくらい時間がたっただろうか。
 部屋中を家捜ししても何も出てこない
(今回はカメラを絶対見つからないところに隠していた)
 ライトは疲れきった表情でベットに腰掛けた。
「大体あのLが簡単に死ぬわけないんだ。僕は死体を確認していない。Lは生きていて僕にカエルの呪いをかけたんだ」
 さすが月。Lが生きていることにもう気がついたのか?
 Lと夜神局長の間に緊張が走った。
「そうだ、そうに違いない。Lがあんなにあっさり死ぬなんておかしい」
 月はまたがさがさごとごとと家を家捜しし始めた。

 

 

 3時間後。
 ぐったりしてベットにしゃがみこむ月
「・・・・無い」
 監視カメラも、もちろんカエル呪いのアイテムも見つけられなかった。
「じゃあLは本当に死んだのか?」
 その瞬間、月は高笑いをした。
 仁王立ちで高笑いする月は相当怖い。
 父もLもモニターから目を離せない。
(やっと告白する気になったか?夜神月)
 Lはぐううっと身を乗り出した。
「僕は勝った。僕は新世界の神になる」
 そうだ、そして言え。
 自分こそがキラなのだと。
 Lの興奮して激しく貧乏揺すりをした。
 父も驚愕の表情で画面の月に見入っている。
 どれくらい時間が過ぎただろうか。
 仁王立ちしていて高笑いしていた月はまたベットにしゃがみこんだ。
「・・・Lは死んだ」
 そしてぽつりと呟く
「寂しい」
 その瞬間Lが立ち上がった。
「どっどこへ行くんだ?竜崎」
「月君が私を呼んでいます」
 ちょっと待てーっ
「今出て行ったらLが生きていることがばれてしまうぞっ」
 まだ月は自分をキラだと認めていない。
 ここでLが出て行ったらまた捜査はゼロに戻ってしまう。
 必死で食い止める夜神局長。
「月君が寂しがっています、私がいないと泣いています」
「いや、泣いてない、泣いてないから、息子はっ」
 あわててLを引きとめようとした父は驚愕に凍り固まった。
 立ち上がったL、 その股間はLの心と同様に興奮していたのだ。
「月君、今すぐ私が傍にいって慰めてあげます、もう一人にはしません」
 ハアハアッ息が荒いL
 なんでそんなに興奮しているんだ?L
 なんでそんなに目が血走っているんだ?L
「待てッ貴様のような奴を息子のところに行かせるわけにはいかんっ」
「離してくださいお義父さんっ」
「貴様には、貴様にだけはお義父さんと呼ばせんーっ」
 こうして仮捜査本部は修羅場に突入していった。


 その頃月はまた新世界の神になったと高笑いしていた。
 ちょっと情緒不安定な月の未来はいかに?

                       続く

 

 


 
「ライトの苦悩 新世界の神編」


 注意 
この苦悩はPAGE58胸中の感想を元に作成されています。そしてつぶやき編の続きです

 仁王立ちして高笑いを続けている月
「僕は新世界の神になる」
 Lと夜神局長は緊張して画面を見詰めた。
「新世界の神?どういう事だ」
 息子の言っている意味が分からない。
 新世界の神とはなにかの暗号なのだろうか?
 それとも言葉の通り、神にでもなろうというのか?
 沈黙が仮捜査本部を包み込む。
 Lも真剣な顔で何やら考え込んでいる。
「まさか・・・月は本当にそんな馬鹿げたことを考えているのか?」
 人間が神になれるわけがない。
 そんなこと、凡人では考えもつかない。
 もし、そんな事を考える人間がいるとしたらそれは世界に唯一人、キラだけだ。
「どうやら息子さんは真剣になりたがっている様ですね」
 新世界の神とやらに
 抑制を込めたLの言葉に父は頷くしかない。
「信じられない、息子がそんな馬鹿げたことを思いつくだなんて」
 項垂れる夜神局長にLは淡々と告げた。
「新世界の神になるだなんて馬鹿げた行為は許せません」
「そうだ、その通りだ」
「ですが、あの様子では月君は絶対に諦めないでしょう」
 モニターの中、月の高笑いは続いている。
「新世界の神になれないと絶望のあまり狂ってしまうかもしれない」
「そんなッ月はいい子なんだ。今ちょっとおかしくなっているだけなんだ」
 動揺する夜神局長にLは断言した。
「そうです。ですから月君には別の地位を用意します」
「新世界の神ではなくて?」
 驚愕する夜神局長にLははっきりとこう言った。
「新所帯の妻になっていただきます」
「・・・?」
「月君と私が結婚して新しい所帯を築き上げます。月君はそこで妻になればいいのです」
 あまりの展開に夜神局長は絶句した。
「なんだそれは?新世界の神と新所帯の妻では全然違うじゃないかっ」
「違いません、この世界的名探偵の所帯ともいえば世界を手に入れたも同然。そして妻といえば一家で一番強い存在、神といっても過言では無いでしょう」
 そう言いながらLはでれーんと鼻を伸ばす。
「私と月君で新しい家族になるのです。お義父さん」
 長く苦しかったL対キラの戦いもようやく終わる。
 そしてその後はラブラブ新婚ハッピーライフ
「死んだ甲斐がありました」
「死んでないだろうがーっ私をお義父さんと呼ぶなー」
「これはもう決定事項です。お義父さんといえど私達の愛は止められません」
 うきうきとLはワタリに指示を出す。
「ワタリッ今すぐ新婚用のマンションを一つ用意するように、いや、団地の方がいい。団地の方が新婚さんの雰囲気が出る」
 Lは火曜サスペンス劇場や土曜ワイド劇場で新婚さん情報をチェックしていた。
「日本の正しい新婚さんは団地にすむのが基本だそうです。」
 間違っている、間違っているぞ、L
「息子を新所帯の妻にすることだけは絶対にゆるさーん」
 錯乱する父を横に、団地妻計画はちゃくちゃくと進んでいく。

 


 その頃、月はまだ高笑いを続けていた。


     次回、団地妻シリーズに続く
(某サイトさんのお題配布、むちゃくちゃ面白くてはまっています。という訳で団地妻、やりたいな)

 

 

「L月団地妻 いってらっしゃい」


 
「・・・・何故だ?」
 その日、いつもどおりの爽やかな朝。
 月はいつものようにキッチンに立ち尽くしていた。
「何故僕がこんなことをしなければいけないんだ?」
 僕はLに勝って新世界の神になったはずだったのに。
「なんで新所帯の妻になっているんだ?」
 月の疑問はもっともだ。
 page58胸中で確かにLを殺したと思ったのに・・・ だがそれはLの罠だった。
 巧妙に?張り巡らされた罠にまんまと落ちた月はそのまま団地妻になってしまったのだ。
「屈辱だ」
 口癖となってしまった言葉を吐きながら朝食を作る月。
 Lと付き合うようになってからすっかり屈辱にも慣れてしまったことに月は気が付いていない。
 とにかく今日も屈辱に震えながら朝ごはんを作っているとのろのろとLが起きてきた。
「おはようございます、月君」
 ちゅうううっと口を間抜けに突き出して迫ってくるL
「おはよう、竜崎」
 月はこめかみに青筋を浮かべながらフライパンで防衛した。
「おはようのチュウ」
 しかしLは諦めない。
 しつこく口を尖らせている。
 Lのモーニングキスを綺麗に無視する月は火曜サスペンス劇場や昼の連続ドラマに出てくる鬼嫁のように冷たい。
 愛していないけれど利用するために結婚してやったのよ、、感謝してちょうだいと言わんばかりの冷たい態度
「酷いです。月君」
 しょぼくれるLに月は氷の視線を向けた。
「何が酷い?竜崎の方がよっぽど酷いじゃないか。僕を騙してこんなところに閉じ込めて働かせるだなんて。しかも無給で」
「そんな言い方酷いです、新婚さんなのに」
 Lは激しく貧乏揺すりをした。
「僕はしたくなかった。結婚なんて、まだ18歳なのに、しかもカエル相手に・・・」
 月は憤慨している。
 だがちょっと待て。
 Lが自分を騙したと怒っているが、月はLを殺そうとしたのである。
 酷さであれば月の方が数段上だろう。
 だがそういう事実は綺麗さっぱり忘れて今の現実だけを見ている月はポシティブだ。
(都合の悪いことは忘れるタイプ)
「そんなところも可愛い」
 でれーん、激しく激しく鼻を伸ばすLはすっかり馬鹿婿さん。
 これが火曜サスペンス劇場や土曜ワイド劇場なら真っ先に殺される旦那役だろう。
 月はそんなLを冷たい視線で見下げた。
「馬鹿言っていないで早く食べろ」
 ガンッと用意した朝食をテーブルに置く。
「いただきます」
 無言のままLはもそもそと朝食を食べた。
 食べながらほわわーんと幸せに浸った。
 目の前には大好物ほかほかのフレンチトースト
 それからLの大好きなはちみつたっぷりの紅茶が用意されている。
 Lの起きる時間に合わせて用意された朝食はどんなホテルのブレックファーストよりも美味しい。
「僕は完璧主義なんだ」
 Lの視線に気がついたのか月はちょっと頬を赤らめた。
 本来ならば夜神家の朝食は和食、なのに月はLのためにフレンチトーストを作ってくれるのだ。
 うふふ、Lの鼻は1メートル伸びた。
「フレンチトーストは簡単だから手間もかからない」
 そんなことを言ういじっぱりな月はむちゃくちゃ可愛い。とLには見える・・・
 幸せな朝食が終わりLは捜査本部に行く時間になった。
 月はまだキラ容疑者だから捜査に加われない。
 それが相当悔しいらしく何時もつっけんどんな月はかわいいLの花嫁さん。
 でれれれれん
 Lの鼻は3メートル伸びた。
「早く支度しろよ、仕事に遅れるぞ」
 月はぶつぶつ文句いいながらもLのためによれよれのシャツとよれよれのジーンズを用意してくれた。
 いそいそと着替えると月はすげなくLを追い出しにかかる。
「ほら、もう下にリムジンが向かえに来ているぞ」
 月はそう言ってくるけれど、Lは今日こそ決めるつもりだった。
 朝のチュウもしてもらっていない今、いってらっしゃいのチュウを決めるのだ。
「月君、ちゅうううっ」
 玄関先でLは口を尖らせた。
 精一杯、限界まで口を突き出した。
「いってらっしゃいのチュウッください」
 その瞬間、月渾身の回し蹴りが決まる。
「いってらっしゃいーっもう帰ってくるなよー」
 月は美人で可愛くて力持ちの花嫁さん
 その見事な脚力でLを叩き出すのは日常のことだ。
 蹴りだされたLの前で扉が閉まるのもいつもの事。
「あうううっ月君、いってらっしゃいのチュウーっ」
 玄関でよれよれいじけるLをリムジンに引きずっていくのはワタリの役目

「265号室の新婚さん、いつも熱いわねえ」
「仲いいわね、痴話喧嘩ばっかりして、羨ましい」
「うちなんてもう何年も痴話喧嘩していないわよ」
 この光景を見て近所の主婦は噂する。
265号室の竜崎さん家は本当にラブラブ新婚さんで羨ましいわねえ、と


 こんな二人の新婚ライフはまだまだ始まったばかりである。

 

 


「L月団地妻 昼下がりの主婦」

 昼下がりの午後、まどろみながら月は高笑いをしていた。
「僕は新世界の神になるっ」
 しばらく高笑いした後
「・・・・むなしい」
 月は高笑いに飽きてテレビをつけた。
 キラである時はニュースばかりを見ていた月。
 だが今はデスノートが無い。
 そんな月はバラエティー番組を見ながらせんべえをかじっていた。
「お昼休みはうきうきウオッチングッあちこちあちこちいいともーっ」
 チャララララッチャッ
 むなしい音楽が聞こえてくる。
「どうしてこんなことになってしまったんだ?」
 キラとして新世界の神になる覚悟を決めたあの時から、月は決めていた。
 どんな試練にも、屈辱にも耐えて見せると。
 その証拠に月はLにキラ容疑者として付きまとわれても(ストーカー?)Lに監禁されても我慢してきたのだ。
 それもこれもLを殺すため。
 なのに何故?どうして
「Lのお嫁さんになっているんだ?」
 分からない。
 何ゆえに神はこんな試練?を月に与えたもうたのか?
 月は怒りと屈辱でせんべえをばりばりとやけ食いした。
「大体僕はLなんかちっとも好きじゃないんだ。Lなんて、Lなんてっ」
 朝の事を思い出して月は頬を赤らめた。
 結婚した朝からLはしつこかった。
 しつこくしつこく粘着質に月に脅迫してくるのだ。
 モーニングキッスを・・・
「恥ずかしい」
 あーもうむちゃくちゃ恥ずかしい。
 月は頭をかきむしった。
 目覚めのチュウなんて・・・いってらっしゃいのチュウなんて今時どんなベタなドラマにも無いだろう。
「大体Lは恥ずかしすぎる、もう日本人離れしているよ」
 外人じゃあるまいし、とそこまで考えて月はあの時の屈辱を思い出した。
「そうだっLは日本人じゃない、でも何人なのか妻である僕にも教えてくれないんだ」
 月が怒る原因は結婚証明書。
 その時月はちょっと期待した。
 これでLの本名が分かると。
「だが・・・あいつは僕を信用していなかった」
 それは月がキラだから。
 証明書にはLの名前しか書かれていなかったのだ。
 夫のところにはL
 妻のところにはL月
 Lは苗字なのか?
 いや名前なのかも分からない。
「なんだ、これは?これで書類が通るのか?」
 ・・・通ってしまった。
 だから月は怒っている。
 無茶苦茶怒って怒って、そのまま新婚さんに突入している。
「どうせ僕にLは本当のことを教えてくれないんだ」
 そう呟く月は屈辱でプルプル震えている。
「いいんだ、どうせ僕はキラなんだから、新世界の神になるんだから」
 そこまで言ったとき、月はふと思い出した。
「そういえば、今日はイトーヨーカドーの特売日」
 Lの大好きな大福最中、和菓子も3割引きになる特別な日だ。
「急がなくっちゃ。早くしないとおはぎが売切れてしまう」
 いそいそと出かける支度をする月
 その姿は心無し楽しそうだ。
「おはぎだけじゃなくて、今日は特別にプリンも買ってあげよう」
 買い物計画を思い描きながら財布を手にする月はしっかりきっぱり新所帯の妻であった。

              続く

「L月団地妻  酒屋さん」

 月はキラである
 それは新婚さんでも新妻さんでも変わらない事実だ。
 そして月はL打倒を諦めていなかった。
「そのためには情報がいる」
 何事にも情報、今の現代社会、情報こそが勝敗を左右するのだから。
 そこで月はスパイを用意した.
 この団地に出入りしても不自然でない。月の住む265号室にもやってこれるその人物を。

「だからなんで俺が酒屋なんだ?」
「適任だろうが、リューク」
 いや、三河屋さんと呼んだほうがいいだろうか?
 配達にやってきた酒屋さんを部屋に連れ込む新妻さん。
 密談する酒屋さんと新妻さん
 まるで火曜サスペンス劇場のような展開である。
「酒屋さんなら団地に配達しても不自然じゃない」
 声高らかに言う月
「いや絶対不自然だって、俺死神だし」
 リュークのいう事はもっともだ。
「お昼休みはうきうきウオッチングッあちこちあちこちいいともーっ」
 チャララララッチャッ
 バラエティー番組を見ながらせんべえをかじる月
 りんごをかじるリューク
「リュークの存在はまだ捜査本部の誰も知らない、メンツも割れていない」
 今がチャンスだ。
 月は高笑いを上げた。
「捜査本部に酒屋さんとして、三河屋さんとして潜入しLの本名を探って来いっ」
「・・・だからそれ不自然だって、俺死神だし」
 リュークのいう事など月の耳には届いていない。
「Lの本名を手に入れたその時にこそ、僕は新世界の神になる」
 仁王立ちで高笑いの月
「・・・それで、Lの本名を手に入れてどうするんだ?」
 リュークはシャリシャリとりんごを食べながら問いかけた。
「まず結婚証明書を書き直す、L月なんて間抜けな名前は僕の美意識に反する」
「・・・・問題はそこか?」
 ごねるリュークに月が冷たく言い放つ。
「もし失敗したらりんご抜きだからな」
「うほっ」
 目的のためならば死神をも脅迫する新妻さん。
 こうして月は着々と情報を入手するのであった。

「L月団地妻 お帰りなさい」

 あの日、衝撃のpage58胸中の後からLは変わった。
 あれほどまでに仕事の鬼だったLが定時で帰るようになったのだ。
「新婚さんに残業は禁物です」
 でれれれれん
 Lの鼻は朝から伸びきったままだった。
 そんなLを見て捜査本部のメンバーはため息をつくしかない。
 すっかりキラに骨抜きになっているL
「仕方ない、新婚さんだから」
 その一言で全てが許される。
 そうなのか?それでいいのか捜査本部?
 まあそんな訳でLは家路を急いでいた。
 今日も捜査本部は平和だった。
 三河屋さんを名乗る変な死神が来たが捜査陣に叩き返されていた。
 Lは急ぎ足で団地前の公園を通り過ぎる。
 きっと急いで帰ってきたLを、旦那さんを新妻は優しく出迎えてくれるだろう。
「お帰りなさい、竜崎」
 今日もお仕事ご苦労様。
「疲れているだろう、ご飯にする?お風呂にする?」
 それとも・・・・
 どぼぼぼぼっ
 Lは己の妄想に酔いしれてその場にしゃがみこんだ。
「もちろん月君、月君です」
 激しく貧乏ゆすりしながらそう答える。
「竜崎のエッチ」
 あああ、頬を赤らめる夜神 月キラ容疑者。
「たまりません、もう我慢出来ません」
 激しく貧乏揺すりしながら爪を噛むL世界的名探偵。

「あら、また265号室の旦那さん、あんなところで妄想してるわよ」
「いいわねえ、若いって」
「新婚さんよねえ、ラブラブだわ」
「早く奥さんのところに帰ってあげればいいのに」
 買い物帰りの近所の主婦が噂する。
 Lは団地前の公園の砂場でしゃがみこんでいた。
「うらやましいわ、うちの旦那にもあれくらい妄想してもらいたいわよ」
「無理無理、もう枯れちゃっているわよ、そういううちのも」
 ほほほっと笑う主婦達。

 

 


 Lと月はラブラブ新婚さん
 その姿はすっかり近所の主婦の標的となっていた。

 

 

「団地妻の苦悩、服装編」


注意 
これは団地妻シリーズの設定を元に作成されています。月はLの奥さん、新所帯の妻でLの命を狙っているキラという設定です。

 近頃ジャンプ読者、デスノート読者に変な誤解があるようだからここではっきり言っておこう。
 僕・・・、夜神 月のセンスは悪くない。
 こう見えても僕は新世界の神になる男だ
(今は新所帯の妻にあまんじているが、それは世を偲ぶ仮の姿だ)
 センスはいいがそれを隠している。
 だってそうだろう。
 僕は顔がいい。
 プロポーションも抜群だ。
 滲み出る知性もある。
 そんな僕が今時の服を着てみたらどういうことになるか想像してみてくれ。
 今でさえ多い女の子からの(男も含む)告白やナンパやストーカー(Lも含む)がますます増えてしまう。
 それでなくても新妻として色気が出てきて困っているんだ。
 これもそれもどれもLのせいだが。
 話はそれたが僕の洋服センスは本当は抜群なのだ。
 なのになんでこんな格好をしているかというとそれには訳がある。

 

 


 小さい頃から僕は洋服で苦労してきた。
 子供といえば半ズボン、
 その姿は天使のように可愛らしかったらしい。
 幼稚園の行き帰り、毎日のように誘拐されそうになっていた。
 小学校に通うともっと大変だった。
 僕のランドセル姿は天使のように可愛かったらしい。
 小学校の行き帰り、いつも痴漢に悩まされた。
 それだけではない。
 小学校に入ると僕に憧れる取り巻きは断然増えた。
 と言うか小学校のほとんどが僕のファンだった。
 先生もそうだったところが怖い。
 とにかく、子供の憧れというのはある意味恐ろしい。
 憧れの人と同じ物を持ちたい。
 それは分かる、認めよう、
 僕の持っているランドセルをみんな真似して買いあさった。
 僕が髪を切るとみんな真似して散髪をした。
 そして、みんな僕と同じ服装になった。
 ここで言おう。
 僕は新世界の神になる男だ。
 いくら真似されてとは言え皆と同じ服装は我慢出来ない。
 没個性は僕の一番嫌悪することだからだ。
 だが・・・・
 僕が服装の好みを変えると次の日にはみんな同じ格好になってしまう。
 僕の信者たちは僕の一挙一動を見張っているのだ。
「どうすればいい?」
 そこで僕は考えた。
 他の人が真似できない格好にすればいいのだ。
 だが僕は一般人
 お笑い芸人じゃあるまいし、キテレツな服を着るわけにもいかない。
 じゃあ他の凡人が真似できないくらいカッコいい、ハイセンスなモデルのような服装は?
 駄目だ、
 そんな服を着たら僕のカリスマ性がますます強調されて信者が増えてしまう。
 そこで僕は考えた。
 お笑い芸人ほどキテレツでは無く、なおかつほかの人が真似できないくらい微妙なファッションにすればいいのだ。
 これが案外難しい。
 ダサいとナウいの紙一重。
 笑うほどでは無いけれど、微妙なニュアンスのスタイル。
 これは正解だった。
 誰も真似できない僕流のスタイル。
 大体においてそういう微妙な服はレアものが多い、
 いや、大量生産の服なのだが置いている店が限られている。
 まず若者の店には置いていない。
 こうして僕は個性を保ってきたのだが。

 

 


 不本意なことだがL(僕の旦那さん)といるとその心配は無い。
 Lは僕の服を真似したりしない。
 よれよれのTシャツとジーンズにポリシーをもっているらしい。
 そう思って安心していた。
 だが、僕は裏切られた。
「月君にプレゼントです」
 Lはなにやらいそいそと紙袋を持ってきた。
「なんだろう?」
 開けてみるとそこには、なんと白いTシャツが入っていたのだ。
「なんだこれは?」
「Tシャツです」
「なんでこれを僕にプレゼントするんだ?」
 Lは無表情に頬を染めた。
「ペアルックです」
 ピクピクッこめかみが引きつる僕。
「なんで僕とお前がペアルックしなければいけないんだ?」
「それは私と月君が新婚さんだからです」
 これは新婚さんのきまりです掟です法律です。
 Lはきっぱりはっきり断言した。
「私は月君とペアルックしたいです」
 プチッ僕はキれた。
「なんで僕が竜崎にあわせなくちゃいけないんだっペアルックしたいんなら竜崎が僕にあわせろっ」
 今まで個性を大切にしてきた僕。
 だがLがおろかにも僕の真似をしたいと言うのなら許してやらないことも無い。
 そう言う僕にLはぷるぷる首を振った。
「駄目です、白いTシャツでないと駄目です」
「なんでそんなにTシャツに拘るんだ?これなんて3枚1000円の安物じゃないか」
 そんなものをこの僕に着ろというのか?
 屈辱に震える僕
 Lは白いTシャツを握り締めてぷるぷる震えている
「このTシャツでないと駄目なんです、3枚1000円のTシャツでないとよれよれ感が違います」
 必死の形相で訴えるL
 その姿を見ていると、なんだか哀れになってしまった。
「そうか、そんなにTシャツに拘るんなら仕方ない」
 今日だけは折れてやろう。
 しょうがないから僕は白いTシャツを着てやることにした。

 数分後、
 洗面台で着替えてきた僕にLは鼻の下をでれーんと伸ばした。
「すっ素敵です、月君」
「・・・・ありがとう」
「最高です、月君」
 たかがTシャツ一枚のことに感動するL
 僕は苦笑しながら質問した。
「Tシャツに思い入れがあるんだな、なにか理由でもあるのか?」
「このTシャツのブランドは生地が薄くて最高です」
 よれよれ感がいいのか?
 首をひねる僕に息荒くLが答える。
「肌の上一枚で着ていると・・・月君の乳首が透けて見えて、ああぁっ」
 バキッ
 その瞬間、Lは星になった。

 

 


「L月団地妻   夜の生活」

 新婚さんにとって一大イベント
 それは夜の生活である。
 これぞ新婚の醍醐味、晩から朝までいちゃいちゃいちゃいちゃ。
 ちょっとばかり次の日仕事に集中出来なくても
「まあ、新婚さんだから、にひひ」
 という一言で済まされてしまう 
 それが真の新婚さん。
 新婚さんの正しいあり方。

 だが竜崎家は違っていた。
「ふしだらな生活は許さん」
「どうしてお義父さんがここにいるんですか?」
 Lは恨みがましい目を向ける。
 ここは新居の団地265号室
 そこには愛しい妻と甲斐性のある夫(とLは思っている)と妻の父が座っている。
 夕食の鍋を突付いている。
「いや、月がどういう新婚生活をおくっているか気になってなあ、ははは」
 何が気になってだ・・・・この出刃亀め。
 Lはがりがりと爪を噛んだ。
「こら、行儀悪いだろう、竜崎」
「ははは、仲がいいんだな」
 そう言いながら父の目は笑っていない。
「そうそう、父さんは今日こちらに泊まるから」
「えっ?今日もですか?」
 Lは盛大に不満な声を上げた。
「今日もだ、なにか文句があるのか?義理の息子よ」
 そう言われLも反論出来ない。
 腐っても鯛、邪魔者でも義理の父。、
 邪険には出来ないのが辛いところだ。
「くううっ」
 辛いといえばLの下半身も相当辛い。
 なんとこの夜神父、新婚になったその日からあの手この手で泊まりにきているのだ。
 Lと月の愛の営みを邪魔するために。
「大歓迎だよ、父さん、いっそこのままここで暮らさない?」
 にこやかな顔で恐ろしいことを提案する月は鬼嫁だ。
「ははは、月にそう言われるなら考えてみようかな」
 恐ろしいことを言う義理の父。
「今度松田さん達も呼んで鍋パーティーでもしない?キラ捜査の進展も聞きたいし」
 すかさず情報収集のため提案する月
「それはいいな、でも新婚さんの家に大人数でお邪魔するのは気が引けるかな、ははは」
 心にも無い夜神父の口調
「全然気にしないよ、父さん」
 気にしてください、月君。
 Lは股間を押さえながら鍋をやけ食いした。
「父さんもこうして頻繁に新婚家庭にお邪魔するのは迷惑では無いかと気にしているんだ、母さんにも注意されたしな、ははは」
「そんなこと無いよ、竜崎だってあんなに喜んで貧乏揺すりしているじゃないか」
 前かがみでしきりに体を揺するLを指差して月は高らかに笑う、
「父さんのことをLも本当のお父さんだと思っているんだよ」
「そうかっそうなのか」
 月の言葉に父は目頭を熱くした。
「そんな台詞が言えるようになるとは、月もすっかり大人なんだな」
「そうだよ、父さん、僕だってもう子供じゃないんだからね」
 にっこりと笑う月
 父はぷるぷると震えた。
「子供じゃない・・・という事は大人になったのか?」
 Lは殺気を感じた、
「誰が月を大人にしたんだ、竜崎っお前かっお前なんだなっ」
 がくがくと首を絞められてLは仰け反った。
「父さん落ち着いて」
「そうです、お義父さん落ち着いて」
 Lがそう言った瞬間、父はくわっと立ち上がった。
「私を義父と呼ぶな、まだ私は認めた訳ではないっ」
 ・・・・・お義父さん、まだ認めてくれなかったんですね、現実を
「月、こんな男はほっておいて実家に帰ろう、お父さんがもっといい再婚相手を探してあげるから」
 おいおいと泣きながら月を抱きしめる夜神父
「大丈夫、自分で探すから」
 鬼のような新妻の一言
「酷いです、お義父さんも月君も、私のどこが不満なのですか?」
 Lの言葉に二人は声をそろえて言い返す。
「全部」

 

 


 新婚さんの夜は前途多難である。

 

 

「L月団地妻  出張」


 傷心のLはそのまま出張に出て行った。
 とぼとぼと出て行くその姿は近所の主婦にとって格好の話題となった。
「また265号室の旦那さん、うまく行かなかったらしいわよ」
「欲求不満って顔しているものね」
「いいわねえ、若いって、うちの旦那にもああいう顔させたいわ」
「無理無理おたくのところじゃもう枯れちゃって、そういううちも、ほほほっ」
 そんな噂をされているとはつゆしらず、月はLを送り出した後、父と朝食を食べていた。


「ライト、これはなんだ?」
「朝食だよ、父さん」
 月はにっこり笑ってフレンチトーストを差し出した。
「・・・そうか、こういうのが今時の朝食なのかな」
「いや、うちは特別だよ」
 無類の甘党がいるからね。
 そう言って笑う月は壮絶可愛い
 父はもぐもぐと甘ったるいフレンチトーストを食べた後、本題を切り出した。
「ライト、今からでも遅くない、実家に帰ろう」
 父は泊まった朝、毎回これを切り出すのだ。
「どうして?」
 にっこりと微笑む月は無茶苦茶可愛い。
「新婚といってもLに脅迫されて無理やり関係を迫られているだけだろう、父さんがなんとかするから」
 月は何も心配すること無い。
 父が力を込めて力説している間、月は全く話を聞いていなかった。
 聞いていなくて新聞にはさまったチラシのチェックに余念が無かった。
「今日はLの好きなマドレーヌが3割引か。それに出張で疲れて帰ってくるだろうから大好物のプリンも買ってあげよう」
 うきうきとチラシチェックをするその姿はどこから見ても新婚さん。
 夫の心配をする新妻そのものだ。
「ライト、まさか、ひょっとするとその・・・お前は竜崎を気に入っているのか?」
 好きなのかと聞けない夜神総一郎45歳
 シャイなお年頃である。
 パタンッ
 月はチラシの束を机の上に置いた。
 そしてマジマジと父を見る。
「もしかして、父さん気がついていなかったの?」
「・・・・・」
 うおおおおーっ滂沱の涙を流す父に月は明るくこう言った。
「そうでなきゃこの僕がLと新婚するわけないだろう」
 にっこりと笑う月はポシティブシンキング。
 Lを殺そうとしたこともすっかり忘れて新婚にいそしむ可愛い新妻さんであった。

 

 


「L月団地妻     お隣さん」


 昼下がりの午後
 まったりとした時間が265号室に流れている。
「だから不自然だって、俺死神だから」
 笑っていいともを見ながらリュークがぼそぼそ文句を言った。
「大丈夫だ、今度こそ成功してみせる」
 月は仁王立ちして高笑いしていた。
 高笑いしながら洗濯物を干している。
「そういうことしていると、もうすっかり新妻だな」
 人間って面白―っ笑うリュークに月の回し蹴りが決まる。
「大体お前が失敗するからこんなことになるんだろう」
 そうなのだ。
 リュークの三河屋さん作戦はものの見事に失敗したのだ。
「だから今度はお隣さん作戦だ」
 はははっと高笑いする月
「それ不自然だって、俺死神だし」
「何を言うっ死神だって住居は必要だ」
「でも俺はミサの傍についていなくちゃいけないし」
 ごにょごにょと言い訳するリューク
 今リュークのデスノートを所有しているのはミサなのだ。
 何時までもここにいるわけにはいかない。
「単身赴任すればいいだろうか」
 月は一言で切り捨てた。

 

 

 三河屋さんプロジェクトで敗北した月は綿密な計画を立てた。
 幸い月にはリュークという強い味方(死神だが)がいる。
「まあいないよりはマシだろう」
「酷い・・・ライト」
 ライトは干し終わるとリュークの前に腰掛ける。
「いいか、僕はこうして苦渋の生活を送りながらもずっと頭の中で計画を練っていた」
 キラとして勝利を収めた瞬間に地獄の新婚生活へ叩き落されたその日から。
 ここに監禁され、こうして掃除選洗濯に夜の生活と過酷な重労働を強いられながらも心はLに服しなかった。
「僕は新世界の神になる男だ。こんな事で躓いている訳にはいかない」
 だが今はLの囚われの身
 どうすればいい?
「僕は慎重に行動した、Lにも他の人間にも気付かれないように」
 誰からも疑われないように、自然に、誰から見ても新妻に見えるように行動しながら密かに情報を集め分析してきたのだ。
「新婚生活が始まり、この団地に住むようになってからも僕は情報を収集し続けた」
 今の現代、情報こそ全ての鍵
 情報を握るものこそ世界を制すると言っても過言では無い。
「こうして僕はこの団地の情報を手に入れた、そしてそれを利用する方法を思いついた」
 はははっと高笑いする月
「うほっ?」
「いいか、よく聞けリューク、この団地の情報網は張り巡らされている」
「うほほっ?」
 首を捻るリューク
 月はため息を付くと教えてやることにした。
「リューク、団地には独自のネットワークがある、それは主婦の噂話だ」
 月は自慢げに語る
「この団地は比較的裕福な所帯で形成されている、主婦達はパートなど働く必要が無い」
 うんうんとリュークは頷いた。
「彼女達はこの団地が世界の全てだ。団地の中の噂話が全ての情報、そしてその情報が伝わるのは恐ろしいほど早い」
 102号室のご夫婦が朝、ゴミだしで喧嘩するとしよう。
 光景を見ていたお隣の主婦が友達の2階の主婦におしゃべりする。
「2階の主婦は友達の主婦へ、そしてその友達は友達へ、お昼には団地中の噂の的だ」
 ねずみ講式に増殖していく。
 そう、この団地にはプライバシーは無い。
 全てが主婦のターゲットとなっている。
「こう見えても僕は顔もスタイルも知性も完璧な人間だ。主婦にとってこれ以上の標的は無い」
 しかも旦那はカエル男
「新婚生活を始めてから1ヶ月、僕は衆人環視の中耐えた。それがどんなに辛く厳しい日々であったか」
 ぷるぷると震える月
 リュークは少し同情してしまった。
「だが、僕はこの監視を逆手に取ることを計画した。」
「うほっ」
「よく聞けリューク、計画はこうだ」

 

 


 昼下がりの午後
 けだるいムードの中、新婚家庭の隣に単身赴任の男が引越してくる。
 隣の男は引越の挨拶に訪れる。
 部屋へ引き入れる新妻、
 おりしも旦那は出張中。
「今、こうしてリュークが新婚家庭の部屋にいることを団地の主婦達は噂しているだろう。リュークが部屋にはいってからもう1時間以上経過している」
 彼女たちはなんと思うだろう?

 浮気よ、浮気だわ
 265号室の竜崎さんの新妻さん、男を家に連れ込んでいるわよ、
 まああの旦那じゃ浮気するのも分かるわよね、

 さて、噂が広まった頃竜崎は出張から帰ってくる。
 彼女たちはどうするか?
 当然竜崎に御注進するだろう。
 なんといっても彼女たちは正義感溢れる団地の主婦だからな。

 竜崎さん、もっと奥さんをかわいがって上げなきゃ駄目よ、
 可哀相に、寂しさのあまりお隣さんとお話していたわよ、1時間も・・・
 


怒り狂うL
出張から帰ると妻の不貞を責めるだろう。
「何故なんですかっ私のどこが不満なんですか?月君」
 その時こそがチャンス。
 僕は自慢の演技力でこう言ってやる
「だって、竜崎は僕に本当の名前も教えてくれないじゃないかっ」

 

 


 はははははっつ
 月は仁王立ちで高笑いした。
「愛する妻にそう責められ、竜崎は告白せずにはいられない、いやする絶対する」
 こうして僕は竜崎の名前を手に入れる。
「僕は勝つっ新世界の神になるっわははははっ」
 高笑いを続ける月
 それを観戦しながらりんごを齧るリューク
3つ目のりんごを食べ終えたところでリュークは大きくため息をついた。

「・・・ライト、昼メロ見すぎ」
 しっかり主婦のテレビ番組に染まっている月はまだ高笑いを続けていた。

 

 


「L月団地妻   おすそわけ」

 その日の午後、月は必殺の武器を片手にドアを叩いた。
 カチャリッ
 ドアが開くと月はその美しいかんばせを花のようにほころばせて愛想笑いを浮かべた。
「265号室の竜崎です」
「あら、ライト君どうしたの?」
 月はすかさずもって来た器を差し出した。
「これ、マドレーヌを夕飯用に作ったんですけど慣れていないせいか作りすぎちゃって」
 てへっ月は頭をこつんと叩いて舌を出した。
「よかったら食べてください、お裾分けです」
「あら、いつもありがとう、ライト君のお菓子とっても美味しいから嬉しいわ」
 彼女はにこにこ笑うと月を招き入れた。
「丁度今、334号室の鈴木さんと653号室の田中さん、223号室の山岡さんも遊びに来ているの、ライト君もお茶していかない?」
 そう言う235号室、斉藤さんは町内会長の奥さんで無類の噂好き
 部屋に集まっているメンバーも噂好きの猛者ぞろい。「そうですか、それじゃあちょっとだけ」
 月は愛想笑いを浮かべたまま部屋に上がりこんだ。
「あらライト君、いらっしゃい、まあ今日のお茶請けはマドレーヌ、美味しそう」
「ライト君がこの前おすそ分けしてくれたプリンもとっても美味しかったわよね」
「あら、その前のケーキもとっても素敵だったわよ、いいわねえ竜崎さん、こんなまめな奥さんもらって幸せものだわ」
 ほほほっと言われて月もにっこり微笑んだ。
 微笑みながら心の中でほくそえむ
「ふふふっ僕のネットワークは完璧だ」
 こうして月は日夜情報収集に勤しむ。
 しかしその情報は全く打倒Lに生かされていないことに月は全然気が付いていなかった。

「L月団地妻  不倫?」


「という訳でリュークは全く役に立たないことが分かった」
 昼下がりの午後、まったりとした時間帯、
 月は死神とティータイムを過ごしていた、
 せんべえを齧る月
 りんごを齧るリューク
 テレビはもちろん笑っていいとも
「いや、だから最初から計画に無理があったんだって。俺死神だし」
 リュークのいう事はもっともだ。
 月の考え出したお隣さんプロジェクト
 それは本当に・・・噂にもならなかった。
 あなどれない近所の主婦
「やはり、リュークでは僕の不倫相手として似つかわしくなかったのだろう」
 こんなびっくり目玉の死神じゃあ噂にもなりはしない。
「酷い、ライト」
 月は大きくため息を吐いた。
「やはり死神というところに敗因があった」
 いや、そこじゃないと思うぞライト
 死神はそう思ったが怖くていえなかった。
「だから今度は人間を用意した」
「・・・うほ?」
 頭を捻るリュークに月は高笑いしながら答える。
「松田さんだ」
「・・・・」
 いやそれ絶対無理があるって
 俺よりも百倍無理な設定だって。
「昼下がりの午後、松田さんをこの部屋に呼ぶ」
「・・・・」
「旦那の部下を部屋に連れ込む新妻、完璧だ」
「・・・ライト、昼メロ見るのやめたほうがいいぞ」
 仁王立ちで高笑いする月、リュークの忠告は全く月には聞こえていなかった。

 

 

 

「L月団地妻   出張帰宅」

             


 とうとうこの時がやってきた。
 月のライバル、宿敵、旦那さんのLが帰ってくるのだ。
 昼下がりの午後から265号室は異様な雰囲気に包まれていた。


「だからなんで僕がここにいるんですか?」
 松田のつっこみはもっともだった。
「せっかく新居に招待してあげたのに、嫌なんですか?松田さん」
 にっこり笑ってそう言う月は壮絶可愛い。
 松田は真っ赤になってしどろもどろに答えた。
「えっもちろん月君のお誘いだったらいつでもどこでもokなんだけど・・・・今日は竜崎が帰ってくる日じゃないですか」
 おどおどする松田。
「大丈夫だ、松田、私がついている」
 横で局長が慰めた。
「・・・なんで父さんもいるの?」
 月が疑問に思うのももっともだ。
「いや、せっかく義理の息子が出張から帰ってくるんだ、出迎えてやろうと思ってな」
 顔は笑っていても目は笑っていない夜神父
「いっつもうちに入り浸っていて、ちゃんと仕事しているのか?」
 月のつっこみはもっともだ。
 そして視線を周囲に向けた。
「大体みんなも、ちゃんと捜査しているんですか?」
 周りでは相沢、模木がくつろいでいる。
「いや、なんかここで宴会やるって聞いたもんで」
 アイバーとウエディが答える。
「ライトーなんで結婚しちゃったのーっ」
 ミサまでいる、
 横にはレムとリュークもいる。
「今日はパーティーやるんでしょっミサドレスアップしてきちゃった」
 誰がそんな偽情報を流したんだ?
 月は疑惑の目を父に向けた。
「いや、父さんは久しぶりにみんなで会うのもいいだろうなと思ってだなあ、竜崎の出張をみんなでねぎらってやろうと思ってだなあ、別に竜崎と月が二人きりになるのを阻止しようと思ったわけじゃないんだ」
 横で松田がうんうんと頷く
「そうですよ、大体竜崎はずるいんだ、僕達のライト君を独り占めしちゃうなんてずるい」
「ライトー、ライトはミサミサのライトなのよーっ」
 なんだこの異様な盛り上がりは・・・
 ふと見るとアイバーとウエディがワインを空けている。
 松田は片手にビールを持っていた。
 相沢達も手酌で飲み始めている。
「早すぎ、もう宴会始まっている」
 感心するリュークとレムはりんごを齧っている。
「・・・・・」
 月はこめかみを押さえた。
 はっきりいって無茶苦茶狭い
 265号室は普通の団地だ。
 この人数では耐えられない
「おつまみ買ってきます」
 月はそうそうに脱出することにした。

 てくてくてくっ
 団地の公園前を歩いてダイエーにいこうとしたその時、目の前にリムジンが止まる。
「どうしたんですか?月君」
 降りてきたのは案の定、月のライバル宿敵旦那さんのLだった。
「竜崎」
ちょっとびっくりする月の前で竜崎はひらひらと手を振った。
「ただいまです、月君、どうしたんですか、びっくりした顔をして」
 Lが顔を覗き込んでくる。
 久しぶりの竜崎の顔だ。
相変わらずの猫背
 目の下のクマもばっちり
 カエル面の旦那さん
 ちょっと月は赤くなった。
 お帰りが素直に口から出てこない。
 Lは気にした風もなく首をかしげいてる。
「今から買い物ですか?」
「あっああ、父さんが来ているんだ、松田さんも相沢さんも、アイバーやみんな、ミサも・・とにかくみんな来て飲み会してる」
「・・・それで月君は買出し部隊ですか」
 Lが首を捻りながら残念そうに聞いてきた。
 月と二人になれなくて悲しいと顔に書いてある。
 その姿は月の知っている竜崎だ。
 ぷっと月は吹き出した。
「そう、買出し部隊なんだ」
「そうですか、ならリムジンで行きましょう」
 そう言う竜崎の腕を月は掴んだ。
「歩いていこう、一緒に」
 竜崎の大好きなおはぎ、スーパーで買ってあげる。
 月の手がLの手を握り締める。
 暖かくてほかほかしてくる二人の手
「そうですね、二人で行きましょうか」
 Lは鼻の下を伸ばしながら幸せを噛み締めた。


「仲が良いですなあ、いいですなあ」
 リムジンから二人を見ていたワタリはホホホッと微笑んだ。
「ラブラブですなあ、うらやましい」
 そう言うと二人に聞こえないようにそっとその場を離れるのであった。

 

 

 

 その日、捜査陣がいくら待ってもおつまみを買いにいった月は帰ってこなかった。
 竜崎も出張から帰ってこなかったのは言うまでも無い。