「落ち込んだりもするけれど」


 ライト君は頭がいい。
 捜査本部の昼下がり、Lと議論を続けている月をぼんやりと眺めながら松田はため息をついた。
 尊敬する上司、夜神局長の一人息子 月君はとても頭がいい。
 全国模試第一位という輝かしい成績もさることながらその応用力、推理力も抜群の逸材だ。
 今もそう、あのLと議論できちゃうところなんて尊敬に値する。
「いいなあっ」
 松田は眺めながらため息をついた。
 自分は頭もそんなに良くないし、行動力にもかける。
 あるのは溢れる正義感だけだ。
(でも臆病者)
 そんな松田にとって月は憧れの存在だ。
「まぶしすぎるよ、ライト君」
 初めて会ったその日から松田は月ばかりを見ている。
 見ずにはいられない。
 だってそうだろう。
 月君はとても頭がいいから時々あのLをやりこめたりもするのだ。
 それだけじゃない。
 顔も綺麗だ。
 同じ男なのに綺麗すぎて目が離せない。
 そこはLと対照的だ。(笑)
 姿も顔も、心までもとても純粋で綺麗だ。
 だから月は松田の心を捉えて離さない。
「綺麗だなあ、ライト君」
 今日もぼんやり見てしまう。
 そうすると、ずっと見ていると見えてくることがある。
 今もなにやら激しい議論を繰り広げいてるLと月
 Lは月をキラだと疑っている。
 月はLに怒っている。
 Lのことがあまり、いや相当嫌いなように見える。
 二人は喧嘩ばかりしているから仲が悪いようにも見える。
 でも本当は違う。
「ずっと見ていると分かっちゃうんだよな」
Lにとって月は特別な存在だ。
 キラだから。犯罪者だから?
 疑っているから、そうじゃない。
 言い争いをするのは月が好きだからだ。
 Lは基本的に我侭で傲慢な人間だから、認めない人間に対して辛辣だ。
 この捜査本部でLのおめがねに適うのは月一人
 でもそれだけじゃない。
 Lは月が好きなのだ。
 好きで好きでたまらなくて、どうしたら良いのか分からないらしい。
 あのLが月に翻弄されて振り回されて困っている。
 それはとても見ていて楽しい・・・かもしれない。
 でも。
 松田は視線を月に向けた。
「月君は気が付いていない」
 あんなに突っかかってしまうのはLが気に入っているからだと全く気がついていない月 
 あれだけ頭脳優秀で眉目秀麗なのに自分の気持ちには無頓着。
 Lは気がついている。
 自分が月を好きなことを。
 月に振り向いて欲しくてたまらないことを
 そして月がLを好きなことを。
「なんだかなぁ」
 松田は大きくため息をついた。
 目の前で二人は議論を続けている。
 それは見ていてとても微笑ましい。
 お互いにお互いを認めてもらいたくて一生懸命話をしている。
「でも頭が良すぎるんだよな」
 見事なすれ違いを見せている月とL
「どんなに優秀でも不器用なんだよなぁ」
 そう思うと松田は少し笑った。
 どんなに頭が良くてもやっていることは凡人と同じ。
 好きな相手を振り向かせたくてあがいている。
「なんか、親近感わいちゃうよなぁ」
 独り言を呟くと横の相沢が頷いた。
「ああいう二人を見ていると、俺達が協力してあげなきゃと思うだろう」
 捜査本部のお荷物だと思って落ち込んだりもするけれど・・・
 こんな二人を見ていると落ち込んでなんていられない。
「そうっすね、二人ともまだ18歳なんだから」
 俺達がしっかりしなくちゃいけないよな、
 そう言うと松田と相沢は顔を見合わせて笑った。

 あんなこんなで捜査本部は今日も平和である。

「新ライトの苦悩 復活の日編」

「僕は新世界の神になった」
 今日も高笑いをする夜神 月18歳
 最高の気分だった。
 憎き宿敵 竜崎、流河、Lが死んだのだ。
 死神を操り見事Lをほおむった月。
「もう僕の行く手を阻む者はいない」
 これから先は順風満帆
 新世界への道が月を待っている。
 そう高笑いする月であったのだが・・・


 昼下がりの午後、
 月はミサと青山で会っていた。
 弥 海砂 第二のキラ
 月の協力者であり崇拝者
 L殺害に大きく貢献してくれた功労者だ。
 ミサの背後には死神リュークが控えている。
 二人とも月にとっては欠かせない駒だ。
 彼らの協力の元、新世界の創生を果たす。
 それこそが月に課せられた使命。
「馬鹿は多いからね、Lが死んだからといって、全てがキラの味方になるわけでもない、これからが第二の戦いなんだ」
 月はそう言うとミサに向き直った。
「ミサ、一緒に暮らそう」
「ぶっ」
 後ろでリュークが噴出している。
「ええっ」
 ミサは喜びのあまり頬を真っ赤に染めた。
「ほっ本当?」
「ああ、もう部屋も借りた」
 秀麗な笑みを浮かべる月
 ミサは幸せの絶頂を実感した。
「やったーっ同棲―っミサの勝ちーっ」
 勝ち?
 首を捻る月
「何に?」
 問いかける月にミサはにやりと笑う
「竜崎と流河とかLとかに」
「・・・・・」
 何が言いたいのだろうか?
 確かに月はLに勝った。
 だからミサもLに勝ったということか?
 首を捻り続ける月にミサは答える。
「大丈夫だよ、ライト、竜崎とライトが恋人同士だったのはLをあざむくため利用しただけだもんね、ライトがホモじゃないことくらい分かってるよ」
 月はこめかみを振るわせた。
「・・・それはもう過去のことだから」
 そうなのだ。
 ミサの言うとおり、月はLと恋人同士だった。
 それは全て捜査本部の状況を知るため、
 Lの本名を知るため。
「辛かった、竜崎との恋人生活」
 盗撮したり、カメラで視姦されたり、監禁されて悪戯されたり、手錠プレイであんなことやこんなことをされたり・・・
 その屈辱に耐えてきたのは全てLを殺すため。
「屈辱の日も終わった。これからは新世界の創生が待っている」
「キャーッライトかっこいいっ」
「うほっライト面白―」
 2人と1匹が盛り上がった時、それを制する声がした。
「許しません、そんなことは」
 はっとそちらを見る月とミサとリューク
 まさか、今の会話を全て聞かれていた?
(大声で会話していたので筒抜け)
 秘密の会話を聞かれていたのでは、殺すしかない。
 殺気まじりにミサは声の主を確かめ、戸惑った。
「あなた、誰?」
 そこには一人の老人が立っていた。
 頭髪の薄い、眼鏡をかけたイギリスの老人
「私の名はロジャー、Lの組織とワタリの発明を管理する者だ」
 ロジャーと名乗る老人は厳かに告げた。
「Lは死んだ、ワタリも」
 月が用心深く言う。
「もう管理など必要ない。二人ともこの世にはいないのだから」
 月の言葉にミサとリュークが頷く。
 だがロジャーは違った。
「ワタリ、またの名をキルシュワイミー。彼は偉大な発明家であり、研究者だった」
 ワタリがどれほど世界的に有名だったか、月達は新聞を読んで知っていた。
「だから?」
 だから何だと言うのか?
 どれほどの偉人であったとしても、キラの前に敗れ去ったのだ。
「ワタリはいくつもの特許を元にLの後継者を用意していた」
 ロジャーの突然の発言
 月とミサとリュークに緊張が走った。
「Lの後継者?」
「そう、Lは一人ではない、その優秀な頭脳はワタリの特許により受け継がれていく」
 ロジャーは背後に目をやった。
「さあ、紹介しよう、Lの後継者を」
 ロジャーの後ろに隠れるようにしていた少年が現れた。
 その瞬間、月は驚愕に凍りついた。

「こんにちは、Lです」
 驚く月達をよそに少年は淡々と告げた。
 無表情に、感情を見せず・・・
「誰だ?君は」
 おもわず月はそう語りかけた。
 問わずにはいられなかった。
 だって、あまりにも、あまりにも彼は・・・
「驚くのも無理は無い」
 その時、言葉と共に青山ベルコモンズビルの影に隠れていた父が現れた。
 キラ対策本部局長
(もうすぐ次長に昇進)
 その後ろには相沢、模木、松田が続いている。
「ロジャーさんから連絡をもらい、私達はLの後継者に会って驚いた、まさかこんなに幼い少年だとは思いもよらなかったからだ」
 そして告げる。
「Lの後継者は断言した、こんなにちびっこでもLの記憶は全て受け継いでいると」
「こんな子供の言うことを信じるのか?父さん」
 叫ぶ月、
 だが皆信じ込んでいる、
「子供だといって侮ってはいけない、この少年を見れば分かるだろう。彼はLの財力と地位と、そして頭脳、Lの全てを引き継いでいる」
 そのL後継者がはっきりと言ったのだ。
 キラの正体を掴んだと。
「こっこんな馬鹿な、確かにLは死んだ、死んだはずなのに」
 その場に崩れ落ちる月
 目の前にはL後継者が立っている、
 年の頃は5歳くらいだろうか。
 肩まで伸びた黒髪
 異様な目の輝きとクマ
 異様な猫背。
 そして両手に握り締められたチュッパチャップス
「・・・お前は誰だ?」
 月の言葉にL後継者は無表情に笑った。
「私はLです」
「どういうことだ?」
「全てはワタリ、キルシュワイミーの研究成果です」
 Lは告げた。
 恐るべき真実を


 キルシュワイミーは世界的な発明家で研究者
 彼はその卓抜した頭脳とLの財力によって禁断の研究を完成させたのだ。


 クローン人間


 現在、羊のクローンなど研究されているが、ワタリの開発は更に数段上をいっていた。
 ワタリは生きている人間のクローンを作り出した。
 そして、その人間の知識を、記憶を、感情をクローンに植え付けることにも成功していたのだ。
「つまりこのL後継者はLと同じDNAを持ち、L
の記憶を全て受け継いでいる」
 ロジャーの言葉に月は悲鳴を上げた。
「そんな事が許されるわけが無い、それは神に対する冒涜だ」
「そうでもしなければキラには対抗できません」
 また別の声がした。
 聞きなれた声だ。
 振り向くまでも無くそれが誰かを悟る月
「ほほほっこのL後継者は私の傑作です」
 そこに立っていたのはワタリ、キルシュワイミーその人であった。
「グッジョブだ、ワタリ」
「お褒め頂き光栄です」
 ちびLとワタリはツーカーの仲。
「ワタリさんのクローンも用意してあったのか、くうう」 
 ワタリは生前そのままの老人の姿だ。
「さあ、L、キラに裁きを」
 ワタリがちびLを抱っこして皆の目線の高さまで抱え上げた。
「私は死ぬ直前にキラを見ました。キラは私が心臓麻痺で死ぬ時油断して美しい笑みを浮かべていました」
「だっ誰だ?それは」
 捜査陣に緊張が走る。
 月も、ミサも、リュークも動けない。
 Lはその幼い指をまっすぐに月に向けた。
「それは夜神 月、私の恋人です」
 全員に衝撃が走る。
「月君がキラ?まさかっ」
「いや、だがLは命をかけてキラの証拠を掴んだんだ。間違いないだろう」
 動揺が皆の間を駆け巡る。
 そんな中、月は俯いていた。
 初め、泣いているのかと思われたが、しばらくすると月の小さな笑い声が聞こえてきた。
 それは段々大きくなり月は狂気じみた高笑いを浮かべた
「さすがL、完敗だ、そうだ、僕がキラだ。だがこれだけは言わせてもらおう」
 お前の言うことには誤りがある。
 月は口元に笑みを浮かべながらLを見据えた。
「僕とLは恋人同士では無い、あれは無理やりだったということを」
「なっ何を言うんですか、あれだけ二人で甘い関係を築いてきたというのに」
「あれはLを欺くため、仕方なく恋人のふりをしていただけだ。実は僕はLが大嫌いだったんだ」
「嘘です嘘です。月君はキラでいじっぱりだから素直になれないだけです。本当は私が大好きなんです」
 ちびっこLは足をばたばたさせて癇癪を起こす。
 それを鼻でせせら笑う月
「ふん、だがその屈辱の恋人生活ももう終わりだ。僕がキラだとばれた以上、もうLとお付き合いする必要は無くなったわけだからな」
「そうよっライトはミサと同棲するんだから」
 ミサがこれ見よがしに月に抱きついた。
「ミサさん、離れなさい、私の月君に触ることは許しません」
「ちびっこがナマ言うんじゃないわよ、いーだっ」
 ミサ、大人気ない、
 その場にいた全員が心の中で呟く。
「とにかく、僕はもうLの恋人はやめて青春を謳歌することにしたんだから邪魔するなよ」
 冷たい月の一言にLがぐずぐずする。
「でも、でも私と月君は恋人同士です、これは事実です」
 あ、これは泣く、泣きそう、ああ、泣いちゃうかも
 はらはらと事態を見守る捜査陣の耳に月の非常な言葉が聞こえてくる。
「何を言っているんだ。L」
 そんなちびっこで僕の恋人が務まるとでもいうのか?
「出来ます、ちゃんと出来ます」
「ふん、毛も生えていないお子様の癖に」
 ミサが余計な一言を言う
「大丈夫です。、見かけは小さくてもビックです。月君を喜ばせることに支障はありません」
「なっなにを言っているんだっ竜崎」
「試してみましょう、月君、さあさあさあ」
 動揺する月
 ワタリにだっこされながら月に迫るL
 夢の同棲目前に壊されてヒステリーを起こすミサ。
 それを止める捜査陣とロジャー
 そんな中、死神リュークは辺りを見渡し大きくため息を付いた。
「お前等、ここがどこだか忘れているぞ」

 ここは青山、天下の公道
 こんなLとキラの対決は周囲の注目の的。
 すでに見世物・・・人だかりが出来まくっていることに本人達は誰も気がついていなかった。

「新ライトの苦悩 新1年生の保父編」

「「何故だ、何故なんだ」
 昼下がりの午後
 月は屈辱にこめかみを震わせていた。
 Lをほおむり、自分は新世界の神になるはずだったのに・・・
「なんで新1年生の保父になっているんだ?」
 月が苦悩するのも無理は無い。
 ここは捜査本部ビル20階、キラ対策本部の中枢。
 そこで月は何時ものようにモニターを見ながらため息をついた。
「悩んでいる月君も可愛いです」
 膝の上から声がする。
 そこにはL、クローン人間として生まれ変わったLが
ちょこんと座っていた。
 Lは死んだ、キラによって殺された。
 それは事実である。
 しかしLはクローン人間として復活を果たした。
 果たしたのはいい。
 それは認めよう。
「だが何故?」
 月はLを抱っこしながら頭を抱える。
「なんでLはこんなちびっこなんだ」
 クローンLはなんと5歳のちびっこだったのだ。
 季節は3月もうすぐ4月
 春になればぴかぴかの1年生。
「だからなんでLが小学生なんだ」
 月が悩むのはそこだ。
「クローンなんだろう、生き返ったんだろう、キルシュワイミーの特許なんだろう、なら今までどおりでいいじゃないか」
 わざわざ5歳にしなくても、18歳のLを作ればよかったのに。
 ワタリさんはちゃんと今までどおりの老人じゃないか。
「いえ、ワタリもあれで13歳若返っています」
「いや、分からないから、ワタリさんの年齢じゃ70も83歳も一緒だから」
 でもLはちがう。
 5歳と18歳では大きな壁と溝がある。
「ほほほ、これはLの希望です」
 ワタリが笑いながらアフタヌーンティーを運んできた。
「なんで?5歳に意味があるとでも?」
 月の問いかけにLは恥ずかしそうに足をばたばたさせた。
 そんなLにワタリが変わって答える。
「Lの夢は月君の膝に抱っこしてもらうことでしたから」
「・・・・え?」
「前Lの時からの悲願だったそうです」
 という事は何か?
 抱っこしてもらうためにわざわざ5歳を選んだのか?
「膝枕でも良かったのですが、それは前Lの時一度もやらせてもらえなかったでしょう」
 ほっぺを真っ赤にしながらLは甘えてくる。
「こうやって月君の膝を堪能するのが私の野望でした」
 膝フェチ?膝小僧にときめくタイプ?それとも太股むちむちに興奮する人?
 その瞬間、月は必殺回し蹴りを食らわそうとして・・・
「で、出来ない、僕には」
 例え中身が変態Lでも
 見た目だけがお子様なのだ。
 幼児虐待などキラに出来るわけが無い。
 Lは嬉しそうに月の膝を撫で回す。
「ふふふっ月君の弱点はお見通しです」
「そう言いながら僕の膝でお菓子を食べるなーっ」
 月が怒鳴るのも無理は無い、
 膝の上でぼろぼろお菓子をこぼしながらLは嬉しそうに足をばたばたさせた。
「しょうがないです、ちびっこですから」
 5歳を楯にお菓子をこぼしまくるL
 それが月には耐えられない
「ああ、口の周りにいっぱい生クリームつけて、駄目じゃないか」
 ハンカチでふきふきしてあげながら月は激しく屈辱を感じる。
「月君、おなかいっぱいでお昼寝したくなりました」
 ふにゃふにゃだらーんとしているL
 その姿は緊張感のかけらも無い幼稚園児
 今のLは傍若無人のちびっこなのだ。、恐いものなどありはしない。
 だってLは5歳だから。
 子供にお昼寝は必要不可欠
 昔から寝る子は育つと言われている。
「・・・屈辱だ」
 月はふるえながらLを連れて寝室に引下っていった。

 L完全勝利の巻
 ミサの同棲はいずこへ?

「新ライトの苦悩 新1年生の保父編2」


 屈辱の生活にもすっかり慣れてしまった夜神月19歳
 だが如何に屈辱の日々を送っていようとも譲れないことはある。
 それはLの一言からはじまった。
「必要在りません」
 簡潔に、無表情にそっけなく答えるL5歳
 その言葉に月は激昂した。
「そんなことは許さない」
 膝の上でスイーツを食べるLに月は本気で怒りを感じていた。
「私は世界三大探偵のLです。意味がありません」
「そういう問題じゃないだろう、僕の目の黒いうちは絶対にそんな理不尽許さないからな」
 険悪なムードが捜査本部を支配する。
 一歩も引かないLと月の攻防を横目で見なが 捜査メンバーはため息をついた。
「3月に入ってからずっとあの調子ですよ」
 松田がふーっと息を吐く。
「私は月の言っていることが正しいと思う」
 局長はしきりに頷いている。
「いや、Lの言うことも一理あります、確かにLには必要ない事柄ですから」
 相沢の一言に模木が異を唱えた。
「じゃあ、相沢さんの娘さんがもしLと同じ状況だったらどうしますか?」
「・・・それは?」
「そうでしょう、今の相沢さんと同じ気持ちなんですよ、月君も」
 何時に無い模木の様子に皆、無言になった。
「・・・そうなのか?月君は」
「・・・相沢さんと同じ気持ち?」
「許さん、私は断じてゆるさーん」
 局長の叫びが今日も捜査本部に響く。

「絶対に駄目だ、許さない、6歳になったら小学校に入
るのが日本の法律だ」
 月は断固として譲らない。
「義務教育は大切だ、それがたとえLであっても」
 だがちびっこはお菓子を反論する。
(月の膝の上で)
「今更小学校の知識を身に付けたところで無意味です。私はケンブリッジの博士号を持っています」
「そういうことじゃないだろう、団体生活の常識を身に付けろといっているんだ」
「私にランドセルを背負って低レベルな子供達と一緒に行動しろと言うのですか?このLの私に」
 Lは足をばたばたさせて抗議する。
「駄目だ、は義務教育はちゃんと受けさせるからな」
 月は仁王立ちで高笑いした。
「僕がLの保父さんを引き受けたからには今まで気になっていた部分を全て正して見せる」
 前Lの時には、一応世界三大探偵だから、大人だからということで目を瞑っていた月。
「その猫背も、偏食も、お菓子をぼろぼろこぼすところも、そしてホモも全て矯正させてもらおう」
 はははっ仁王立ちで高笑いの月は完全キラ様モード
 月はLを抱えあげ持ち上げる。
 ぶらぶらと揺れるLの足
 抵抗出来ないL、
 だって彼はお子様だから。
 月はLを目線の高さまで持ち上げるとにっこりと微笑んだ。
「新世界の神?負けたからには諦めよう、その代わり、保父としてLの教育は完璧にこなしてみせる」
 満面の笑みでLを抱っこして高笑いする夜神 月19歳
 そのさまはキラの時よりも数段恐ろしく、遥かに目的に向かって邁進していた。

 月勝利に向かってLET GO!!
 ミサとの同棲はいずこへ?


「祝福」


 嬉しい。
 嬉しくて嬉しくてたまらない。
 世界中が月を祝福している様だ。
 あまりの幸福感に大声で叫んでしまいそうだ。
「僕は勝った」と。
 僕はLに勝った。
 Lは死んだ。
 だが皆の前では悲しい顔をしなければいけない。
 それが辛い。
 こんなにも嬉しいのに。
 踊りだしてしまいそうなくらい楽しくて仕方が無いのに。
 月はLに勝ったのだ。
 Lを殺したのは僕
 夜神 月、 僕なんだ。
 月はその美しい顔をほころばせた。
 誰もが見ているだけで幸せになれるような、満ち足りた笑みを一人になると浮かべる。
「Lを殺した、やっと」
 それはずっと月が望んでいたことだった。
 悲願といってもいい。
 新世界の神になること。世界を創生すること。
 どれも大切なことだが、Lと会ってから月の目的はLを殺すこと一つに絞られていたように思う。
 その達成感に月は笑みを隠しきれない。
「やっと殺せたんだ」
 月は喜びのあまり震える自分の体を抱きしめた。
「ようやく」
 月はLが憎かった。
 最初から、初めてテレビで声を聞いたときから憎くて憎くてたまらなかった。
 キラの全てを否定したL
 執拗なまでにキラを追い詰めたL
 そして。
 月をキラだと言い、追い詰めたL
「記憶を無くしてもあいつは諦めなかった」
 月をキラだと言い続けたL
 月の全てを否定したL
 キラしか認めなかったL
「傲慢で勝手なL」
 気まぐれで我侭な男
 彼はキラに執着しているのは犯罪者だから。
 自分に解けない謎をキラが持っているから。
 それだけだ。
 もしキラがLに捕まればLは興味を無くす。
 飽きた玩具のようにキラを捨てる。
 誰が見てもそれは明らかだった。
 子供じみた、しかし世界を動かすL
 どうして惹かれずにいれようか。
 Lは月の全てを否定し、月の全てを奪ったのだ。
 初めての時から月はLしかいなかった。
 その存在に月は心を奪われた。
 Lしかキラの敵になるものはいない。
 Lしかキラを理解出来ない。
 だが、Lにとってこれは幾つもの事件の中の一つにしか過ぎない。
 誇り高い月にはそれが我慢出来なかった。
 Lの全てを手に入れたかった。
 そのためならなんでもする、
 監禁であろうと、拘束であろうと、記憶を無くそうとも構わない。
 Lさえ手に入れることが出来れば何を捨てても構わなかった。
 そして月は手に入れた
「僕のものだ」
 月は己を抱きしめながらLのことを思う。
 Lはキラに殺された。
 もう誰にも触れることは出来ない。
 Lはキラの事だけを考え月の胸の中で死んだ、
 それはキラだけのものだ。
 月だけのものだ。
 もう心配することは無い。
 Lにキラだと暴かれるのではないかと怯えることは無い。
 Lがキラに興味を無くすのではないかと震えることも無いのだ。
 他に犯罪が起きて、Lの視線が反れることも無い。
「もう誰にも渡さない」
 月はようやく手に入れた思いを抱きしめながら幸せそうに微笑んだ。
 
 

月は手に入れた幸せを噛み締める。
今の月は誰よりも幸福で孤独な子供だった。


「月とリューク1」

 月とリュークは仲が良い。
 そんなことはミサだって分かっているけれど
「ちょっとヤけちゃうな」
 目の前の光景を見てミサは大きくため息を付いた。

 

 昼下がりの午後
 フローリングの床の上で月はすやすや熟睡している。
 窓辺から差し込む春の光が柔らかく月を包んでいる。
 傍らには死神、
 寝ているリュークの背中によりかかって寝ている月は天使みたいに綺麗だ。
 大好きなリュークの羽にくるまれて月は完全に眠りこけている。
 ずっとLとの手錠生活が長かったから心身ともに疲れきっているのだろうか?
 最近、月はよく眠る。
 Lがいなくなったから安心している?
「それともリュークがいるから?」
 リュークの傍だから月は安心して眠れるのだろうか?
 すやすやと寄り添い眠る一匹と一人を見てミサは苦笑するしかない。
「いいなあ、リューク」
 月にこんなに好かれているリュークが羨ましい。
 月はミサの前ではこんなにくつろいだりしない。
 こんな風に熟睡したりしない。
 ミサの前の月はかっこよくて大人で頭が良くて。隙が無い。
「そんなライトも大好きだけど」
 ミサはため息をつくと二人の傍にしゃがみこんだ。
「もっといろんなライトが見たいのに」
 どんなライトでもミサは好きになってみせるのに。
「もっとミサに頼ってよ」
 そう膨れながら、ふとミサは思った。
「あの男は?どんなライトを知っていたのかしら」
 もういない、キラに執着していた男の目にはライトはどういう風に映ったのだろうか。
 そんなことを考えていると眠たくなってくる。
 ミサは大きくあくびをすると二人の横に寝そべった。
「ミサも混ぜてね、ライト」
 リュークの次でいいから。2番目でいいからミサのこともちゃんと見てね。
 そう心の中でつぶやきながらミサも昼寝に参加するのであった。


 昼下がりの午後の一こま。


「月とリューク2」


 最近 月は不安定だ。
 よくしゃべるしよく笑う。
 時々泣きそうな顔をするし寂しそうだ。
 みんなの前では強がっているけれど、リュークの前でだけは素直になる。
「リュークはずっと僕の傍にいるよね」
 二人きりになると必ず聞いてくる。
「うほ、もちろん」
 リュークは必ずそう答える。
「本当に?」
「本当だ」
 リュークは言う。
「俺は絶対ライトから離れない」
「ずっと一緒なのかな?」
 酷く幼い表情で、不安そうに何度も問う月。
 新世界の神は自分のしでかした事に怯える子供のようだ。
 それほどLがいないのが辛いのだろうか?
 リュークはライトをじっと見詰めた。
「あいつはずるい」
 月は爪をしきりに噛みながら文句を言う。
「僕を捕まえると偉そうなことを言っていた癖に、あんなにあっけなく死んでしまった」
 がりがりと爪を噛む月、前には無かった癖だ。
「離れないとか言っていたくせに、監禁したり、手錠までして僕を見張っていたのに」
 月は小声で呟いた。
「どこにいってしまったんだろう?」
 月は不思議に思う。
 あれだけ強い感情でキラを追いかけていたくせに、死んだらもう忘れてしまうのだろうか?
 無くなってしまうのだろうか?
 殺したのは月だ。
 それで文句を言うのはお門違いなのかもしれないが、月はそれが不思議だった。
 Lがどこに消えたのか?どこにいってしまったのか不安だった。
「リュークもどこかへいってしまうのかな?」
 月は問いかける
「僕が死んだら、僕はリュークを忘れてしまうのだろうか?無くなってしまうのかな」
 そしてリュークは月を忘れてしまうのだろうか
「忘れない、ずっと傍にいる、ライト」
 不安な月をリュークは抱き込んだ。
 こんな不安定な月を誰にも見せたくないというように、そっと隠すように羽の中に抱きしめる。
「大丈夫、俺がいるから」
 その言葉に月はうっすらと微笑む。
 それは見ている死神が悲しくなるくらい寂しそうな笑みだった。

「ライトの苦悩、表情編」

 注意 
この苦悩はPAGE58胸中の感想を元に作成されています。


 Lが死んだ。
 今まで月に付きまとっていたあのLがやっと死んでくれたのだ。
 月がすがすがしい気分だった。
 Lが死んだ翌日、
 洗面台で顔を洗いながら月は会心の笑みを浮かべていた。
「やっとあのLから解放される」
 Lが月にとって目の上のたんこぶであった。
 初対面から月のプライドを逆撫でしてきたL。
 月をキラ容疑者として監禁したこともある。
 監視カメラを仕掛けたり、ストーカーのごとく付きまとったり、風呂を覗いたりチュウしたりエッチなことを仕掛けてきたり・・・・
 屈辱の日々を思い出すと月の肩が震える。
「だがもうLはいない」
 はははっ 月は高笑いした。
 ああ、なんて晴れやかな気分だ。
 これでもうあの変態Lに付きまとわれることは無いのだ。
 Lは何をとち狂ったのか月を好きだといい続けていた。
「愛しているんです、月君」
 結婚してくださいとプロポーズされたこともある。
「Lの気持ちは嬉しいけど・・・僕達は男同士だから」
 婉曲にお断りを入れる月、だがLは諦めなかった。
 くじけなかった。
「愛があれば性別も犯罪歴も関係ありません」
 いや、そういう問題じゃないだろう。
 月はこめかみを押さえた。
 しかし、月はキラでありLの動向は気になる。
 Lの動きを逐一見張っている必要がある。
 すげなくお断りをする訳にはいかないのだ。
(ここが月の苦悩の所以である)
 押せ押せのLに流されて
「それじゃあお友達から」
 月とLの交際は始まってしまったのだ。

「辛くて苦しかった・・・Lとの交際」
 思い出すと月はぷるぷる震えた。
 お友達からと言ったのに、ちゃんと言ったのに。
・・・3日後には月のバージンはLに奪われていたのだ。
 口先三寸で月を騙して体まで奪った憎いL
 嫌なのに、とっても嫌なのにLに抱きしめられると胸がきゅうっと高鳴ってしまう
 チュウされたりエッチされたり、愛していますと囁かれて月は流されてしまったのだ。
 そんな二人をお似合いだといって祝福する捜査メンバーが憎い。
 松田の馬鹿に似たもの夫婦だとからかわれた事もある。
「確かに僕とLは考え方が似ていた」
 思考回路が一緒なのだろうか。
 Lの推理はよく月に理解できたし、月の考えていることもLにはお見通しだった。
 俗に言うツーカーの仲、というのか?
 だが、もうLはいない。
 月はにやりと笑った。
 はははっと高笑いする。
 その時、洗面台の鏡に自分の姿が映った。
「・・・・?」
 なんだ、この表情は?
 月は自分の顔に驚いた。
 それは今まで見慣れた自分の顔とは思えないくらい凶悪だったのだ。
「まさかっデスノートを使ったから?」
 キラとして殺人をおかしているうちに顔が凶悪になってしまったのだろうか?
 慌てて月は洗面台の前で百面相をした。
 一応これでも月はデスノ界一の美形キャラ。
 ちゃんと公式に設定されていてそれは覆ることは無い。
 無いはずなのに・・・・
 目の前の鏡には凶悪なカエル面が写っている。
「なんだっこの顔は?」
 これではまるでLみたいじゃないか。
 そこまで考えて月はハッと思い当たった。
「まさか・・・これが世間でよく言われるあれなのか?」
 似たもの同士、
 それは夫婦や恋人によく使われる言葉だ。
 長年一緒に連れ添った夫婦は動作仕草表情までもそっくりになると言う。
 恋人同士や兄弟もそうだ。
 親密な人間関係は時に個性までも似てきてしまう。
 好意を持つ、また持たれたいと願う相手の動作を真似するという習性が人間には存在する。
「思い当たるところはある」
 Lと月は手錠で繋がれて24時間いつも一緒だった。
 それに、言いにくい話だがエッチなんかもしている仲だった。
 お互い思考回路はよく似ている。
「・・・・そんな馬鹿な」
 月は洗面台を前に自分の顔をこねくり回した。
 僕は美形な筈なのに。一応爽やかな好青年な筈なのに。
「Lそっくり・・・」
 月は気が付いていなかったがLが死んだ倒れたとき見せた微笑はカエルそのものであった。
 その後、新世界の神になるとか考えながらほくそえんでいた顔もカエルそのもの。
「これはっLの呪いなのか?おのれL」
 そう言えば、あの時松田が言っていた。
 竜崎みたいな言い方やめてくださいよ。
「僕のどこが竜崎みたいなんだ」
 その場では冗談だと思ったのだが・・・・
 あれは言い方だけでなく顔のことも言っていたのか。
「おのれ、L、ここまで僕を苦しめるとは許せん」
 月は怒りでぷるぷる震える
 そんな姿もL、カエルそっくりであった。

 Lと月は似たもの夫婦のラブラブさん。
 そのことに月はまだ気が付かない

「ライトの苦悩 鏡編」


 注意 
この苦悩はPAGE58胸中の感想を元に作成されています。そして表情編の続きです


 鏡を前に動揺するライト
 その頃夜神父も動揺していた。
「なっなんなんだ?どうしたんだ?」
 夜神父は目の前の画面に驚愕して動けない。
「分かりません、私にも」
 横に座っている男が頷いた。
「何か意味があってしているのかもしれません。もう少し様子を見ましょう」
 男はそう言うと目の前のチョコレートを口いっぱいに頬張った。

 さてこの展開、もう皆様はお分かりであろう。
 座っている男はL
 Lは生きていた。
 あの時、椅子から転げ落ちてカエルのように痙攣していたのは、心臓麻痺をおこして死んだように見せかけたのは、全て月を欺くための甘い罠だったのだ。
 大体読者の皆さんも変に思われただろう。
Lが死んだのに立会いが夜神パパ一人だけなんて不自然すぎる。 
それはLが夜神局長に他の立会いをさせないように指示を出していたからだ。
 あの時、手術室に運ばれたLは立ち会った夜神局長にこう言った。
「月君がキラです。間違いありません」
「まだうちの息子を疑うのか?息子はノートを使っていなかったじゃないか」
「何か仕掛けがあるはずです。それを探します」
 今、今ならば夜神月は油断している。
 Lが死んだと思い込んでいる。
「今でなければ夜神月は隙を見せない、これは絶好のチャンスです」
 熱心なLの説得に夜神父は折れた。
「分かった、そこまでライトを疑うのなら仕方が無い、思う存分調べるがいい」
 そこまで言うと夜神局長は決意の表情を固めた。
「だが、ライトの捜査には私も立ち会う、それでいいな」
「承知しました、では早速手配します」

 Lの指示で都内高級ホテルの一室に仮本部が設置された
(といってもメンバーは父とLとワタリだけ)
 松田や他のメンバーにはLとワタリのことは秘密にしてある。
「ワタリさんも生きていたんですね、よかった」
「ほほほ、あそこで私がまず死ななければ、キラは納得しなかったでしょう」
 なんという演技力、なんという正義感
 夜神局長は感動に涙をぬぐった、
 こうしてLの指示により再度、夜神家に監視カメラが取り付けられた。
 今度は見つからないように念入りに、
 天井から床下。
 あらゆるところにカメラは設置された。
 もちろん鏡の中にも


「ライトはなんで百面相をしているんだ?」
 怪しい、これはちょっと怪しい。
 ライトは鏡を前に自分の顔をこねくり回している。
 驚く父の耳にLの呟きが聞こえた。
「どんな顔をしていても、ライト君は可愛いですね」
 ハッまさかっつ
 父が横を見るとLが鼻血を出しながら月を見詰めている、
「寝乱れたパジャマ姿。寝癖のついた可憐な髪形。どれをとっても最高です」
 なにかこの展開には覚えがある。
 確か初めての捜査、Lが夜神家に監視カメラを付けた時もこういう反応をしていた。
「竜崎っこれは本当に捜査なのか?」
 疑いの目を向ける父
「もちろんです。捜査の基本は情報収集にありますから24時間月君を監視させてもらいます」
 きっぱりと言い切るL、しかしその鼻はでれでれ伸びきっている。
「今なら月君も油断しているから、くつろいだ姿やあどけない表情を見せてくれるかもしれません」
 はあはあっ息が荒いぞ、L
「そ、そしてもしかしたら、マスターベーションしているところも見せてくれるかもしれません」
 前回はエロ本を読んでいても自慰はしてくれなかった・・・ そのことをLは大変不満に思っていたのだ。
「今度こそ、その瞬間をビデオにとってみせます」
 Lはそのためなら24時間寝ない覚悟だ。
「・・・・竜崎」
 あまりの恐怖に父は立ち竦んだ。
 目の前では息子が監視カメラに気がつかず百面相をしている。
 これでは、これでは最初からやり直しでは無いか、
 あの監視カメラを仕掛けた時と同じ状況、

捜査は振り出しに戻る?
「ゼロからの再出発というわけか。だがL、お前の思い通りにはさせん」
 父はふるふると震えた。
「可愛い息子の可愛いムスコをビデオに取らせたりはしない、息子は無実だーっ」
 錯乱する父。
 興奮しながら画面を見るL
 カメラに全く気がついていないで高笑いをする月
 


 こうしてキラ捜査はpage59零へと続くのであった(嘘です・・・)


「ライトの苦悩 呟き編」


 注意 
この苦悩はPAGE58胸中の感想を元に作成されています。そして鏡編の続きです


 月はしばらく鏡の前で百面相をしていたが、自分の部屋に戻っていった。
「気のせいだ、僕の顔がカエルになるはずが無い」
 ぶつぶつと独り言を言う月
 もちろんLと夜神父はモニターで監視を続けていた。
「相当精神的にまいっているようですね、月君は」
 画面の中、月は憔悴しきっていた。
 父も大きく頷く。
「やはり竜崎が死んだことがショックだったのだろう。私達捜査メンバーの前では平静を保っていたが・・・」
 それが帰って不憫だ。
 Lの仇を取るっと強がっていた息子を思い夜神父は目頭を抑えた。
「息子も不安なんだ。Lが死んだことにショックを受けている」
 L、ワタリが死んだ今、何時キラの魔手が自分たちに向けられるか分からないのだ。
 松田も、相沢や他のメンバーも怯えきっている。
 局長である自分も正直言って怖い。
「そんな極限状態でもライトはLの仇を討つといってがんばっているんだ」
 そんな健気な息子がキラであるはずが無い。
 そう言おうとした局長であったが・
「ライト?」
 目の前のモニターに映る息子が奇妙な行動を始めたのだ。
 Lも身を乗り出して画面に見入る。
「行動を始めたようですね」
 ライトはなにやらぶつぶつ独り言を言いながら部屋中を家捜しし始めたのだ。
「僕がカエルになるはずが無い、これはきっとLが仕組んだ罠に違いない」
 何を探している?
「罠の証拠は必ずどこかにあるはずだ。おのれLめ」
 真剣な表情は見ていて恐ろしいくらいだ。
 Lと夜神局長は緊張して成り行きを見守った。
 

 どれくらい時間がたっただろうか。
 部屋中を家捜ししても何も出てこない
(今回はカメラを絶対見つからないところに隠していた)
 ライトは疲れきった表情でベットに腰掛けた。
「大体あのLが簡単に死ぬわけないんだ。僕は死体を確認していない。Lは生きていて僕にカエルの呪いをかけたんだ」
 さすが月。Lが生きていることにもう気がついたのか?
 Lと夜神局長の間に緊張が走った。
「そうだ、そうに違いない。Lがあんなにあっさり死ぬなんておかしい」
 月はまたがさがさごとごとと家を家捜しし始めた。

 3時間後。
 ぐったりしてベットにしゃがみこむ月
「・・・・無い」
 監視カメラも、もちろんカエル呪いのアイテムも見つけられなかった。
「じゃあLは本当に死んだのか?」
 その瞬間、月は高笑いをした。
 仁王立ちで高笑いする月は相当怖い。
 父もLもモニターから目を離せない。
(やっと告白する気になったか?夜神月)
 Lはぐううっと身を乗り出した。
「僕は勝った。僕は新世界の神になる」
 そうだ、そして言え。
 自分こそがキラなのだと。
 Lの興奮して激しく貧乏揺すりをした。
 父も驚愕の表情で画面の月に見入っている。
 どれくらい時間が過ぎただろうか。
 仁王立ちしていて高笑いしていた月はまたベットにしゃがみこんだ。
「・・・Lは死んだ」
 そしてぽつりと呟く
「寂しい」
 その瞬間Lが立ち上がった。
「どっどこへ行くんだ?竜崎」
「月君が私を呼んでいます」
 ちょっと待てーっ
「今出て行ったらLが生きていることがばれてしまうぞっ」
 まだ月は自分をキラだと認めていない。
 ここでLが出て行ったらまた捜査はゼロに戻ってしまう。
 必死で食い止める夜神局長。
「月君が寂しがっています、私がいないと泣いています」
「いや、泣いてない、泣いてないから、息子はっ」
 あわててLを引きとめようとした父は驚愕に凍り固まった。
 立ち上がったL、 その股間はLの心と同様に興奮していたのだ。
「月君、今すぐ私が傍にいって慰めてあげます、もう一人にはしません」
 ハアハアッ息が荒いL
 なんでそんなに興奮しているんだ?L
 なんでそんなに目が血走っているんだ?L
「待てッ貴様のような奴を息子のところに行かせるわけにはいかんっ」
「離してくださいお義父さんっ」
「貴様には、貴様にだけはお義父さんと呼ばせんーっ」
 こうして仮捜査本部は修羅場に突入していった。


 その頃月はまた新世界の神になったと高笑いしていた。
 ちょっと情緒不安定な月の未来はいかに?

                       続く


 
「ライトの苦悩 新世界の神編」


 注意 
この苦悩はPAGE58胸中の感想を元に作成されています。そしてつぶやき編の続きです

 仁王立ちして高笑いを続けている月
「僕は新世界の神になる」
 Lと夜神局長は緊張して画面を見詰めた。
「新世界の神?どういう事だ」
 息子の言っている意味が分からない。
 新世界の神とはなにかの暗号なのだろうか?
 それとも言葉の通り、神にでもなろうというのか?
 沈黙が仮捜査本部を包み込む。
 Lも真剣な顔で何やら考え込んでいる。
「まさか・・・月は本当にそんな馬鹿げたことを考えているのか?」
 人間が神になれるわけがない。
 そんなこと、凡人では考えもつかない。
 もし、そんな事を考える人間がいるとしたらそれは世界に唯一人、キラだけだ。
「どうやら息子さんは真剣になりたがっている様ですね」
 新世界の神とやらに
 抑制を込めたLの言葉に父は頷くしかない。
「信じられない、息子がそんな馬鹿げたことを思いつくだなんて」
 項垂れる夜神局長にLは淡々と告げた。
「新世界の神になるだなんて馬鹿げた行為は許せません」
「そうだ、その通りだ」
「ですが、あの様子では月君は絶対に諦めないでしょう」
 モニターの中、月の高笑いは続いている。
「新世界の神になれないと絶望のあまり狂ってしまうかもしれない」
「そんなッ月はいい子なんだ。今ちょっとおかしくなっているだけなんだ」
 動揺する夜神局長にLは断言した。
「そうです。ですから月君には別の地位を用意します」
「新世界の神ではなくて?」
 驚愕する夜神局長にLははっきりとこう言った。
「新所帯の妻になっていただきます」
「・・・?」
「月君と私が結婚して新しい所帯を築き上げます。月君はそこで妻になればいいのです」
 あまりの展開に夜神局長は絶句した。
「なんだそれは?新世界の神と新所帯の妻では全然違うじゃないかっ」
「違いません、この世界的名探偵の所帯ともいえば世界を手に入れたも同然。そして妻といえば一家で一番強い存在、神といっても過言では無いでしょう」
 そう言いながらLはでれーんと鼻を伸ばす。
「私と月君で新しい家族になるのです。お義父さん」
 長く苦しかったL対キラの戦いもようやく終わる。
 そしてその後はラブラブ新婚ハッピーライフ
「死んだ甲斐がありました」
「死んでないだろうがーっ私をお義父さんと呼ぶなー」
「これはもう決定事項です。お義父さんといえど私達の愛は止められません」
 うきうきとLはワタリに指示を出す。
「ワタリッ今すぐ新婚用のマンションを一つ用意するように、いや、団地の方がいい。団地の方が新婚さんの雰囲気が出る」
 Lは火曜サスペンス劇場や土曜ワイド劇場で新婚さん情報をチェックしていた。
「日本の正しい新婚さんは団地にすむのが基本だそうです。」
 間違っている、間違っているぞ、L
「息子を新所帯の妻にすることだけは絶対にゆるさーん」
 錯乱する父を横に、団地妻計画はちゃくちゃくと進んでいく。
 その頃、月はまだ高笑いを続けていた。


     次回、団地妻シリーズに続く
(某サイトさんのお題配布、むちゃくちゃ面白くてはまっています。という訳で団地妻、やりたいな)

「L月団地妻 いってらっしゃい」


 
「・・・・何故だ?」
 その日、いつもどおりの爽やかな朝。
 月はいつものようにキッチンに立ち尽くしていた。
「何故僕がこんなことをしなければいけないんだ?」
 僕はLに勝って新世界の神になったはずだったのに。
「なんで新所帯の妻になっているんだ?」
 月の疑問はもっともだ。
 page58胸中で確かにLを殺したと思ったのに・・・ だがそれはLの罠だった。
 巧妙に?張り巡らされた罠にまんまと落ちた月はそのまま団地妻になってしまったのだ。
「屈辱だ」
 口癖となってしまった言葉を吐きながら朝食を作る月。
 Lと付き合うようになってからすっかり屈辱にも慣れてしまったことに月は気が付いていない。
 とにかく今日も屈辱に震えながら朝ごはんを作っているとのろのろとLが起きてきた。
「おはようございます、月君」
 ちゅうううっと口を間抜けに突き出して迫ってくるL
「おはよう、竜崎」
 月はこめかみに青筋を浮かべながらフライパンで防衛した。
「おはようのチュウ」
 しかしLは諦めない。
 しつこく口を尖らせている。
 Lのモーニングキスを綺麗に無視する月は火曜サスペンス劇場や昼の連続ドラマに出てくる鬼嫁のように冷たい。
 愛していないけれど利用するために結婚してやったのよ、、感謝してちょうだいと言わんばかりの冷たい態度
「酷いです。月君」
 しょぼくれるLに月は氷の視線を向けた。
「何が酷い?竜崎の方がよっぽど酷いじゃないか。僕を騙してこんなところに閉じ込めて働かせるだなんて。しかも無給で」
「そんな言い方酷いです、新婚さんなのに」
 Lは激しく貧乏揺すりをした。
「僕はしたくなかった。結婚なんて、まだ18歳なのに、しかもカエル相手に・・・」
 月は憤慨している。
 だがちょっと待て。
 Lが自分を騙したと怒っているが、月はLを殺そうとしたのである。
 酷さであれば月の方が数段上だろう。
 だがそういう事実は綺麗さっぱり忘れて今の現実だけを見ている月はポシティブだ。
(都合の悪いことは忘れるタイプ)
「そんなところも可愛い」
 でれーん、激しく激しく鼻を伸ばすLはすっかり馬鹿婿さん。
 これが火曜サスペンス劇場や土曜ワイド劇場なら真っ先に殺される旦那役だろう。
 月はそんなLを冷たい視線で見下げた。
「馬鹿言っていないで早く食べろ」
 ガンッと用意した朝食をテーブルに置く。
「いただきます」
 無言のままLはもそもそと朝食を食べた。
 食べながらほわわーんと幸せに浸った。
 目の前には大好物ほかほかのフレンチトースト
 それからLの大好きなはちみつたっぷりの紅茶が用意されている。
 Lの起きる時間に合わせて用意された朝食はどんなホテルのブレックファーストよりも美味しい。
「僕は完璧主義なんだ」
 Lの視線に気がついたのか月はちょっと頬を赤らめた。
 本来ならば夜神家の朝食は和食、なのに月はLのためにフレンチトーストを作ってくれるのだ。
 うふふ、Lの鼻は1メートル伸びた。
「フレンチトーストは簡単だから手間もかからない」
 そんなことを言ういじっぱりな月はむちゃくちゃ可愛い。とLには見える・・・
 幸せな朝食が終わりLは捜査本部に行く時間になった。
 月はまだキラ容疑者だから捜査に加われない。
 それが相当悔しいらしく何時もつっけんどんな月はかわいいLの花嫁さん。
 でれれれれん
 Lの鼻は3メートル伸びた。
「早く支度しろよ、仕事に遅れるぞ」
 月はぶつぶつ文句いいながらもLのためによれよれのシャツとよれよれのジーンズを用意してくれた。
 いそいそと着替えると月はすげなくLを追い出しにかかる。
「ほら、もう下にリムジンが向かえに来ているぞ」
 月はそう言ってくるけれど、Lは今日こそ決めるつもりだった。
 朝のチュウもしてもらっていない今、いってらっしゃいのチュウを決めるのだ。
「月君、ちゅうううっ」
 玄関先でLは口を尖らせた。
 精一杯、限界まで口を突き出した。
「いってらっしゃいのチュウッください」
 その瞬間、月渾身の回し蹴りが決まる。
「いってらっしゃいーっもう帰ってくるなよー」
 月は美人で可愛くて力持ちの花嫁さん
 その見事な脚力でLを叩き出すのは日常のことだ。
 蹴りだされたLの前で扉が閉まるのもいつもの事。
「あうううっ月君、いってらっしゃいのチュウーっ」
 玄関でよれよれいじけるLをリムジンに引きずっていくのはワタリの役目

「265号室の新婚さん、いつも熱いわねえ」
「仲いいわね、痴話喧嘩ばっかりして、羨ましい」
「うちなんてもう何年も痴話喧嘩していないわよ」
 この光景を見て近所の主婦は噂する。
265号室の竜崎さん家は本当にラブラブ新婚さんで羨ましいわねえ、と


 こんな二人の新婚ライフはまだまだ始まったばかりである。


「L月団地妻 昼下がりの主婦」

 昼下がりの午後、まどろみながら月は高笑いをしていた。
「僕は新世界の神になるっ」
 しばらく高笑いした後
「・・・・むなしい」
 月は高笑いに飽きてテレビをつけた。
 キラである時はニュースばかりを見ていた月。
 だが今はデスノートが無い。
 そんな月はバラエティー番組を見ながらせんべえをかじっていた。
「お昼休みはうきうきウオッチングッあちこちあちこちいいともーっ」
 チャララララッチャッ
 むなしい音楽が聞こえてくる。
「どうしてこんなことになってしまったんだ?」
 キラとして新世界の神になる覚悟を決めたあの時から、月は決めていた。
 どんな試練にも、屈辱にも耐えて見せると。
 その証拠に月はLにキラ容疑者として付きまとわれても(ストーカー?)Lに監禁されても我慢してきたのだ。
 それもこれもLを殺すため。
 なのに何故?どうして
「Lのお嫁さんになっているんだ?」
 分からない。
 何ゆえに神はこんな試練?を月に与えたもうたのか?
 月は怒りと屈辱でせんべえをばりばりとやけ食いした。
「大体僕はLなんかちっとも好きじゃないんだ。Lなんて、Lなんてっ」
 朝の事を思い出して月は頬を赤らめた。
 結婚した朝からLはしつこかった。
 しつこくしつこく粘着質に月に脅迫してくるのだ。
 モーニングキッスを・・・
「恥ずかしい」
 あーもうむちゃくちゃ恥ずかしい。
 月は頭をかきむしった。
 目覚めのチュウなんて・・・いってらっしゃいのチュウなんて今時どんなベタなドラマにも無いだろう。
「大体Lは恥ずかしすぎる、もう日本人離れしているよ」
 外人じゃあるまいし、とそこまで考えて月はあの時の屈辱を思い出した。
「そうだっLは日本人じゃない、でも何人なのか妻である僕にも教えてくれないんだ」
 月が怒る原因は結婚証明書。
 その時月はちょっと期待した。
 これでLの本名が分かると。
「だが・・・あいつは僕を信用していなかった」
 それは月がキラだから。
 証明書にはLの名前しか書かれていなかったのだ。
 夫のところにはL
 妻のところにはL月
 Lは苗字なのか?
 いや名前なのかも分からない。
「なんだ、これは?これで書類が通るのか?」
 ・・・通ってしまった。
 だから月は怒っている。
 無茶苦茶怒って怒って、そのまま新婚さんに突入している。
「どうせ僕にLは本当のことを教えてくれないんだ」
 そう呟く月は屈辱でプルプル震えている。
「いいんだ、どうせ僕はキラなんだから、新世界の神になるんだから」
 そこまで言ったとき、月はふと思い出した。
「そういえば、今日はイトーヨーカドーの特売日」
 Lの大好きな大福最中、和菓子も3割引きになる特別な日だ。
「急がなくっちゃ。早くしないとおはぎが売切れてしまう」
 いそいそと出かける支度をする月
 その姿は心無し楽しそうだ。
「おはぎだけじゃなくて、今日は特別にプリンも買ってあげよう」
 買い物計画を思い描きながら財布を手にする月はしっかりきっぱり新所帯の妻であった。

              続く

「L月団地妻  酒屋さん」

 月はキラである
 それは新婚さんでも新妻さんでも変わらない事実だ。
 そして月はL打倒を諦めていなかった。
「そのためには情報がいる」
 何事にも情報、今の現代社会、情報こそが勝敗を左右するのだから。
 そこで月はスパイを用意した.
 この団地に出入りしても不自然でない。月の住む265号室にもやってこれるその人物を。

「だからなんで俺が酒屋なんだ?」
「適任だろうが、リューク」
 いや、三河屋さんと呼んだほうがいいだろうか?
 配達にやってきた酒屋さんを部屋に連れ込む新妻さん。
 密談する酒屋さんと新妻さん
 まるで火曜サスペンス劇場のような展開である。
「酒屋さんなら団地に配達しても不自然じゃない」
 声高らかに言う月
「いや絶対不自然だって、俺死神だし」
 リュークのいう事はもっともだ。
「お昼休みはうきうきウオッチングッあちこちあちこちいいともーっ」
 チャララララッチャッ
 バラエティー番組を見ながらせんべえをかじる月
 りんごをかじるリューク
「リュークの存在はまだ捜査本部の誰も知らない、メンツも割れていない」
 今がチャンスだ。
 月は高笑いを上げた。
「捜査本部に酒屋さんとして、三河屋さんとして潜入しLの本名を探って来いっ」
「・・・だからそれ不自然だって、俺死神だし」
 リュークのいう事など月の耳には届いていない。
「Lの本名を手に入れたその時にこそ、僕は新世界の神になる」
 仁王立ちで高笑いの月
「・・・それで、Lの本名を手に入れてどうするんだ?」
 リュークはシャリシャリとりんごを食べながら問いかけた。
「まず結婚証明書を書き直す、L月なんて間抜けな名前は僕の美意識に反する」
「・・・・問題はそこか?」
 ごねるリュークに月が冷たく言い放つ。
「もし失敗したらりんご抜きだからな」
「うほっ」
 目的のためならば死神をも脅迫する新妻さん。
 こうして月は着々と情報を入手するのであった。

「L月団地妻 お帰りなさい」

 あの日、衝撃のpage58胸中の後からLは変わった。
 あれほどまでに仕事の鬼だったLが定時で帰るようになったのだ。
「新婚さんに残業は禁物です」
 でれれれれん
 Lの鼻は朝から伸びきったままだった。
 そんなLを見て捜査本部のメンバーはため息をつくしかない。
 すっかりキラに骨抜きになっているL
「仕方ない、新婚さんだから」
 その一言で全てが許される。
 そうなのか?それでいいのか捜査本部?
 まあそんな訳でLは家路を急いでいた。
 今日も捜査本部は平和だった。
 三河屋さんを名乗る変な死神が来たが捜査陣に叩き返されていた。
 Lは急ぎ足で団地前の公園を通り過ぎる。
 きっと急いで帰ってきたLを、旦那さんを新妻は優しく出迎えてくれるだろう。
「お帰りなさい、竜崎」
 今日もお仕事ご苦労様。
「疲れているだろう、ご飯にする?お風呂にする?」
 それとも・・・・
 どぼぼぼぼっ
 Lは己の妄想に酔いしれてその場にしゃがみこんだ。
「もちろん月君、月君です」
 激しく貧乏ゆすりしながらそう答える。
「竜崎のエッチ」
 あああ、頬を赤らめる夜神 月キラ容疑者。
「たまりません、もう我慢出来ません」
 激しく貧乏揺すりしながら爪を噛むL世界的名探偵。

「あら、また265号室の旦那さん、あんなところで妄想してるわよ」
「いいわねえ、若いって」
「新婚さんよねえ、ラブラブだわ」
「早く奥さんのところに帰ってあげればいいのに」
 買い物帰りの近所の主婦が噂する。
 Lは団地前の公園の砂場でしゃがみこんでいた。
「うらやましいわ、うちの旦那にもあれくらい妄想してもらいたいわよ」
「無理無理、もう枯れちゃっているわよ、そういううちのも」
 ほほほっと笑う主婦達。


 Lと月はラブラブ新婚さん
 その姿はすっかり近所の主婦の標的となっていた。

「団地妻の苦悩、服装編」


注意 
これは団地妻シリーズの設定を元に作成されています。月はLの奥さん、新所帯の妻でLの命を狙っているキラという設定です。

 近頃ジャンプ読者、デスノート読者に変な誤解があるようだからここではっきり言っておこう。
 僕・・・、夜神 月のセンスは悪くない。
 こう見えても僕は新世界の神になる男だ
(今は新所帯の妻にあまんじているが、それは世を偲ぶ仮の姿だ)
 センスはいいがそれを隠している。
 だってそうだろう。
 僕は顔がいい。
 プロポーションも抜群だ。
 滲み出る知性もある。
 そんな僕が今時の服を着てみたらどういうことになるか想像してみてくれ。
 今でさえ多い女の子からの(男も含む)告白やナンパやストーカー(Lも含む)がますます増えてしまう。
 それでなくても新妻として色気が出てきて困っているんだ。
 これもそれもどれもLのせいだが。
 話はそれたが僕の洋服センスは本当は抜群なのだ。
 なのになんでこんな格好をしているかというとそれには訳がある。


 小さい頃から僕は洋服で苦労してきた。
 子供といえば半ズボン、
 その姿は天使のように可愛らしかったらしい。
 幼稚園の行き帰り、毎日のように誘拐されそうになっていた。
 小学校に通うともっと大変だった。
 僕のランドセル姿は天使のように可愛かったらしい。
 小学校の行き帰り、いつも痴漢に悩まされた。
 それだけではない。
 小学校に入ると僕に憧れる取り巻きは断然増えた。
 と言うか小学校のほとんどが僕のファンだった。
 先生もそうだったところが怖い。
 とにかく、子供の憧れというのはある意味恐ろしい。
 憧れの人と同じ物を持ちたい。
 それは分かる、認めよう、
 僕の持っているランドセルをみんな真似して買いあさった。
 僕が髪を切るとみんな真似して散髪をした。
 そして、みんな僕と同じ服装になった。
 ここで言おう。
 僕は新世界の神になる男だ。
 いくら真似されてとは言え皆と同じ服装は我慢出来ない。
 没個性は僕の一番嫌悪することだからだ。
 だが・・・・
 僕が服装の好みを変えると次の日にはみんな同じ格好になってしまう。
 僕の信者たちは僕の一挙一動を見張っているのだ。
「どうすればいい?」
 そこで僕は考えた。
 他の人が真似できない格好にすればいいのだ。
 だが僕は一般人
 お笑い芸人じゃあるまいし、キテレツな服を着るわけにもいかない。
 じゃあ他の凡人が真似できないくらいカッコいい、ハイセンスなモデルのような服装は?
 駄目だ、
 そんな服を着たら僕のカリスマ性がますます強調されて信者が増えてしまう。
 そこで僕は考えた。
 お笑い芸人ほどキテレツでは無く、なおかつほかの人が真似できないくらい微妙なファッションにすればいいのだ。
 これが案外難しい。
 ダサいとナウいの紙一重。
 笑うほどでは無いけれど、微妙なニュアンスのスタイル。
 これは正解だった。
 誰も真似できない僕流のスタイル。
 大体においてそういう微妙な服はレアものが多い、
 いや、大量生産の服なのだが置いている店が限られている。
 まず若者の店には置いていない。
 こうして僕は個性を保ってきたのだが。


 不本意なことだがL(僕の旦那さん)といるとその心配は無い。
 Lは僕の服を真似したりしない。
 よれよれのTシャツとジーンズにポリシーをもっているらしい。
 そう思って安心していた。
 だが、僕は裏切られた。
「月君にプレゼントです」
 Lはなにやらいそいそと紙袋を持ってきた。
「なんだろう?」
 開けてみるとそこには、なんと白いTシャツが入っていたのだ。
「なんだこれは?」
「Tシャツです」
「なんでこれを僕にプレゼントするんだ?」
 Lは無表情に頬を染めた。
「ペアルックです」
 ピクピクッこめかみが引きつる僕。
「なんで僕とお前がペアルックしなければいけないんだ?」
「それは私と月君が新婚さんだからです」
 これは新婚さんのきまりです掟です法律です。
 Lはきっぱりはっきり断言した。
「私は月君とペアルックしたいです」
 プチッ僕はキれた。
「なんで僕が竜崎にあわせなくちゃいけないんだっペアルックしたいんなら竜崎が僕にあわせろっ」
 今まで個性を大切にしてきた僕。
 だがLがおろかにも僕の真似をしたいと言うのなら許してやらないことも無い。
 そう言う僕にLはぷるぷる首を振った。
「駄目です、白いTシャツでないと駄目です」
「なんでそんなにTシャツに拘るんだ?これなんて3枚1000円の安物じゃないか」
 そんなものをこの僕に着ろというのか?
 屈辱に震える僕
 Lは白いTシャツを握り締めてぷるぷる震えている
「このTシャツでないと駄目なんです、3枚1000円のTシャツでないとよれよれ感が違います」
 必死の形相で訴えるL
 その姿を見ていると、なんだか哀れになってしまった。
「そうか、そんなにTシャツに拘るんなら仕方ない」
 今日だけは折れてやろう。
 しょうがないから僕は白いTシャツを着てやることにした。

 数分後、
 洗面台で着替えてきた僕にLは鼻の下をでれーんと伸ばした。
「すっ素敵です、月君」
「・・・・ありがとう」
「最高です、月君」
 たかがTシャツ一枚のことに感動するL
 僕は苦笑しながら質問した。
「Tシャツに思い入れがあるんだな、なにか理由でもあるのか?」
「このTシャツのブランドは生地が薄くて最高です」
 よれよれ感がいいのか?
 首をひねる僕に息荒くLが答える。
「肌の上一枚で着ていると・・・月君の乳首が透けて見えて、ああぁっ」
 バキッ
 その瞬間、Lは星になった。


「L月団地妻   夜の生活」

 新婚さんにとって一大イベント
 それは夜の生活である。
 これぞ新婚の醍醐味、晩から朝までいちゃいちゃいちゃいちゃ。
 ちょっとばかり次の日仕事に集中出来なくても
「まあ、新婚さんだから、にひひ」
 という一言で済まされてしまう 
 それが真の新婚さん。
 新婚さんの正しいあり方。

 だが竜崎家は違っていた。
「ふしだらな生活は許さん」
「どうしてお義父さんがここにいるんですか?」
 Lは恨みがましい目を向ける。
 ここは新居の団地265号室
 そこには愛しい妻と甲斐性のある夫(とLは思っている)と妻の父が座っている。
 夕食の鍋を突付いている。
「いや、月がどういう新婚生活をおくっているか気になってなあ、ははは」
 何が気になってだ・・・・この出刃亀め。
 Lはがりがりと爪を噛んだ。
「こら、行儀悪いだろう、竜崎」
「ははは、仲がいいんだな」
 そう言いながら父の目は笑っていない。
「そうそう、父さんは今日こちらに泊まるから」
「えっ?今日もですか?」
 Lは盛大に不満な声を上げた。
「今日もだ、なにか文句があるのか?義理の息子よ」
 そう言われLも反論出来ない。
 腐っても鯛、邪魔者でも義理の父。、
 邪険には出来ないのが辛いところだ。
「くううっ」
 辛いといえばLの下半身も相当辛い。
 なんとこの夜神父、新婚になったその日からあの手この手で泊まりにきているのだ。
 Lと月の愛の営みを邪魔するために。
「大歓迎だよ、父さん、いっそこのままここで暮らさない?」
 にこやかな顔で恐ろしいことを提案する月は鬼嫁だ。
「ははは、月にそう言われるなら考えてみようかな」
 恐ろしいことを言う義理の父。
「今度松田さん達も呼んで鍋パーティーでもしない?キラ捜査の進展も聞きたいし」
 すかさず情報収集のため提案する月
「それはいいな、でも新婚さんの家に大人数でお邪魔するのは気が引けるかな、ははは」
 心にも無い夜神父の口調
「全然気にしないよ、父さん」
 気にしてください、月君。
 Lは股間を押さえながら鍋をやけ食いした。
「父さんもこうして頻繁に新婚家庭にお邪魔するのは迷惑では無いかと気にしているんだ、母さんにも注意されたしな、ははは」
「そんなこと無いよ、竜崎だってあんなに喜んで貧乏揺すりしているじゃないか」
 前かがみでしきりに体を揺するLを指差して月は高らかに笑う、
「父さんのことをLも本当のお父さんだと思っているんだよ」
「そうかっそうなのか」
 月の言葉に父は目頭を熱くした。
「そんな台詞が言えるようになるとは、月もすっかり大人なんだな」
「そうだよ、父さん、僕だってもう子供じゃないんだからね」
 にっこりと笑う月
 父はぷるぷると震えた。
「子供じゃない・・・という事は大人になったのか?」
 Lは殺気を感じた、
「誰が月を大人にしたんだ、竜崎っお前かっお前なんだなっ」
 がくがくと首を絞められてLは仰け反った。
「父さん落ち着いて」
「そうです、お義父さん落ち着いて」
 Lがそう言った瞬間、父はくわっと立ち上がった。
「私を義父と呼ぶな、まだ私は認めた訳ではないっ」
 ・・・・・お義父さん、まだ認めてくれなかったんですね、現実を
「月、こんな男はほっておいて実家に帰ろう、お父さんがもっといい再婚相手を探してあげるから」
 おいおいと泣きながら月を抱きしめる夜神父
「大丈夫、自分で探すから」
 鬼のような新妻の一言
「酷いです、お義父さんも月君も、私のどこが不満なのですか?」
 Lの言葉に二人は声をそろえて言い返す。
「全部」


 新婚さんの夜は前途多難である。

「L月団地妻  出張」


 傷心のLはそのまま出張に出て行った。
 とぼとぼと出て行くその姿は近所の主婦にとって格好の話題となった。
「また265号室の旦那さん、うまく行かなかったらしいわよ」
「欲求不満って顔しているものね」
「いいわねえ、若いって、うちの旦那にもああいう顔させたいわ」
「無理無理おたくのところじゃもう枯れちゃって、そういううちも、ほほほっ」
 そんな噂をされているとはつゆしらず、月はLを送り出した後、父と朝食を食べていた。


「ライト、これはなんだ?」
「朝食だよ、父さん」
 月はにっこり笑ってフレンチトーストを差し出した。
「・・・そうか、こういうのが今時の朝食なのかな」
「いや、うちは特別だよ」
 無類の甘党がいるからね。
 そう言って笑う月は壮絶可愛い
 父はもぐもぐと甘ったるいフレンチトーストを食べた後、本題を切り出した。
「ライト、今からでも遅くない、実家に帰ろう」
 父は泊まった朝、毎回これを切り出すのだ。
「どうして?」
 にっこりと微笑む月は無茶苦茶可愛い。
「新婚といってもLに脅迫されて無理やり関係を迫られているだけだろう、父さんがなんとかするから」
 月は何も心配すること無い。
 父が力を込めて力説している間、月は全く話を聞いていなかった。
 聞いていなくて新聞にはさまったチラシのチェックに余念が無かった。
「今日はLの好きなマドレーヌが3割引か。それに出張で疲れて帰ってくるだろうから大好物のプリンも買ってあげよう」
 うきうきとチラシチェックをするその姿はどこから見ても新婚さん。
 夫の心配をする新妻そのものだ。
「ライト、まさか、ひょっとするとその・・・お前は竜崎を気に入っているのか?」
 好きなのかと聞けない夜神総一郎45歳
 シャイなお年頃である。
 パタンッ
 月はチラシの束を机の上に置いた。
 そしてマジマジと父を見る。
「もしかして、父さん気がついていなかったの?」
「・・・・・」
 うおおおおーっ滂沱の涙を流す父に月は明るくこう言った。
「そうでなきゃこの僕がLと新婚するわけないだろう」
 にっこりと笑う月はポシティブシンキング。
 Lを殺そうとしたこともすっかり忘れて新婚にいそしむ可愛い新妻さんであった。


「L月団地妻     お隣さん」


 昼下がりの午後
 まったりとした時間が265号室に流れている。
「だから不自然だって、俺死神だから」
 笑っていいともを見ながらリュークがぼそぼそ文句を言った。
「大丈夫だ、今度こそ成功してみせる」
 月は仁王立ちして高笑いしていた。
 高笑いしながら洗濯物を干している。
「そういうことしていると、もうすっかり新妻だな」
 人間って面白―っ笑うリュークに月の回し蹴りが決まる。
「大体お前が失敗するからこんなことになるんだろう」
 そうなのだ。
 リュークの三河屋さん作戦はものの見事に失敗したのだ。
「だから今度はお隣さん作戦だ」
 はははっと高笑いする月
「それ不自然だって、俺死神だし」
「何を言うっ死神だって住居は必要だ」
「でも俺はミサの傍についていなくちゃいけないし」
 ごにょごにょと言い訳するリューク
 今リュークのデスノートを所有しているのはミサなのだ。
 何時までもここにいるわけにはいかない。
「単身赴任すればいいだろうか」
 月は一言で切り捨てた。

 三河屋さんプロジェクトで敗北した月は綿密な計画を立てた。
 幸い月にはリュークという強い味方(死神だが)がいる。
「まあいないよりはマシだろう」
「酷い・・・ライト」
 ライトは干し終わるとリュークの前に腰掛ける。
「いいか、僕はこうして苦渋の生活を送りながらもずっと頭の中で計画を練っていた」
 キラとして勝利を収めた瞬間に地獄の新婚生活へ叩き落されたその日から。
 ここに監禁され、こうして掃除選洗濯に夜の生活と過酷な重労働を強いられながらも心はLに服しなかった。
「僕は新世界の神になる男だ。こんな事で躓いている訳にはいかない」
 だが今はLの囚われの身
 どうすればいい?
「僕は慎重に行動した、Lにも他の人間にも気付かれないように」
 誰からも疑われないように、自然に、誰から見ても新妻に見えるように行動しながら密かに情報を集め分析してきたのだ。
「新婚生活が始まり、この団地に住むようになってからも僕は情報を収集し続けた」
 今の現代、情報こそ全ての鍵
 情報を握るものこそ世界を制すると言っても過言では無い。
「こうして僕はこの団地の情報を手に入れた、そしてそれを利用する方法を思いついた」
 はははっと高笑いする月
「うほっ?」
「いいか、よく聞けリューク、この団地の情報網は張り巡らされている」
「うほほっ?」
 首を捻るリューク
 月はため息を付くと教えてやることにした。
「リューク、団地には独自のネットワークがある、それは主婦の噂話だ」
 月は自慢げに語る
「この団地は比較的裕福な所帯で形成されている、主婦達はパートなど働く必要が無い」
 うんうんとリュークは頷いた。
「彼女達はこの団地が世界の全てだ。団地の中の噂話が全ての情報、そしてその情報が伝わるのは恐ろしいほど早い」
 102号室のご夫婦が朝、ゴミだしで喧嘩するとしよう。
 光景を見ていたお隣の主婦が友達の2階の主婦におしゃべりする。
「2階の主婦は友達の主婦へ、そしてその友達は友達へ、お昼には団地中の噂の的だ」
 ねずみ講式に増殖していく。
 そう、この団地にはプライバシーは無い。
 全てが主婦のターゲットとなっている。
「こう見えても僕は顔もスタイルも知性も完璧な人間だ。主婦にとってこれ以上の標的は無い」
 しかも旦那はカエル男
「新婚生活を始めてから1ヶ月、僕は衆人環視の中耐えた。それがどんなに辛く厳しい日々であったか」
 ぷるぷると震える月
 リュークは少し同情してしまった。
「だが、僕はこの監視を逆手に取ることを計画した。」
「うほっ」
「よく聞けリューク、計画はこうだ」


 昼下がりの午後
 けだるいムードの中、新婚家庭の隣に単身赴任の男が引越してくる。
 隣の男は引越の挨拶に訪れる。
 部屋へ引き入れる新妻、
 おりしも旦那は出張中。
「今、こうしてリュークが新婚家庭の部屋にいることを団地の主婦達は噂しているだろう。リュークが部屋にはいってからもう1時間以上経過している」
 彼女たちはなんと思うだろう?

 浮気よ、浮気だわ
 265号室の竜崎さんの新妻さん、男を家に連れ込んでいるわよ、
 まああの旦那じゃ浮気するのも分かるわよね、

 さて、噂が広まった頃竜崎は出張から帰ってくる。
 彼女たちはどうするか?
 当然竜崎に御注進するだろう。
 なんといっても彼女たちは正義感溢れる団地の主婦だからな。

 竜崎さん、もっと奥さんをかわいがって上げなきゃ駄目よ、
 可哀相に、寂しさのあまりお隣さんとお話していたわよ、1時間も・・・
 


怒り狂うL
出張から帰ると妻の不貞を責めるだろう。
「何故なんですかっ私のどこが不満なんですか?月君」
 その時こそがチャンス。
 僕は自慢の演技力でこう言ってやる
「だって、竜崎は僕に本当の名前も教えてくれないじゃないかっ」


 はははははっつ
 月は仁王立ちで高笑いした。
「愛する妻にそう責められ、竜崎は告白せずにはいられない、いやする絶対する」
 こうして僕は竜崎の名前を手に入れる。
「僕は勝つっ新世界の神になるっわははははっ」
 高笑いを続ける月
 それを観戦しながらりんごを齧るリューク
3つ目のりんごを食べ終えたところでリュークは大きくため息をついた。

「・・・ライト、昼メロ見すぎ」
 しっかり主婦のテレビ番組に染まっている月はまだ高笑いを続けていた。


「L月団地妻   おすそわけ」

 その日の午後、月は必殺の武器を片手にドアを叩いた。
 カチャリッ
 ドアが開くと月はその美しいかんばせを花のようにほころばせて愛想笑いを浮かべた。
「265号室の竜崎です」
「あら、ライト君どうしたの?」
 月はすかさずもって来た器を差し出した。
「これ、マドレーヌを夕飯用に作ったんですけど慣れていないせいか作りすぎちゃって」
 てへっ月は頭をこつんと叩いて舌を出した。
「よかったら食べてください、お裾分けです」
「あら、いつもありがとう、ライト君のお菓子とっても美味しいから嬉しいわ」
 彼女はにこにこ笑うと月を招き入れた。
「丁度今、334号室の鈴木さんと653号室の田中さん、223号室の山岡さんも遊びに来ているの、ライト君もお茶していかない?」
 そう言う235号室、斉藤さんは町内会長の奥さんで無類の噂好き
 部屋に集まっているメンバーも噂好きの猛者ぞろい。「そうですか、それじゃあちょっとだけ」
 月は愛想笑いを浮かべたまま部屋に上がりこんだ。
「あらライト君、いらっしゃい、まあ今日のお茶請けはマドレーヌ、美味しそう」
「ライト君がこの前おすそ分けしてくれたプリンもとっても美味しかったわよね」
「あら、その前のケーキもとっても素敵だったわよ、いいわねえ竜崎さん、こんなまめな奥さんもらって幸せものだわ」
 ほほほっと言われて月もにっこり微笑んだ。
 微笑みながら心の中でほくそえむ
「ふふふっ僕のネットワークは完璧だ」
 こうして月は日夜情報収集に勤しむ。
 しかしその情報は全く打倒Lに生かされていないことに月は全然気が付いていなかった。

「L月団地妻  不倫?」


「という訳でリュークは全く役に立たないことが分かった」
 昼下がりの午後、まったりとした時間帯、
 月は死神とティータイムを過ごしていた、
 せんべえを齧る月
 りんごを齧るリューク
 テレビはもちろん笑っていいとも
「いや、だから最初から計画に無理があったんだって。俺死神だし」
 リュークのいう事はもっともだ。
 月の考え出したお隣さんプロジェクト
 それは本当に・・・噂にもならなかった。
 あなどれない近所の主婦
「やはり、リュークでは僕の不倫相手として似つかわしくなかったのだろう」
 こんなびっくり目玉の死神じゃあ噂にもなりはしない。
「酷い、ライト」
 月は大きくため息を吐いた。
「やはり死神というところに敗因があった」
 いや、そこじゃないと思うぞライト
 死神はそう思ったが怖くていえなかった。
「だから今度は人間を用意した」
「・・・うほ?」
 頭を捻るリュークに月は高笑いしながら答える。
「松田さんだ」
「・・・・」
 いやそれ絶対無理があるって
 俺よりも百倍無理な設定だって。
「昼下がりの午後、松田さんをこの部屋に呼ぶ」
「・・・・」
「旦那の部下を部屋に連れ込む新妻、完璧だ」
「・・・ライト、昼メロ見るのやめたほうがいいぞ」
 仁王立ちで高笑いする月、リュークの忠告は全く月には聞こえていなかった。

「L月団地妻   出張帰宅」

             


 とうとうこの時がやってきた。
 月のライバル、宿敵、旦那さんのLが帰ってくるのだ。
 昼下がりの午後から265号室は異様な雰囲気に包まれていた。


「だからなんで僕がここにいるんですか?」
 松田のつっこみはもっともだった。
「せっかく新居に招待してあげたのに、嫌なんですか?松田さん」
 にっこり笑ってそう言う月は壮絶可愛い。
 松田は真っ赤になってしどろもどろに答えた。
「えっもちろん月君のお誘いだったらいつでもどこでもokなんだけど・・・・今日は竜崎が帰ってくる日じゃないですか」
 おどおどする松田。
「大丈夫だ、松田、私がついている」
 横で局長が慰めた。
「・・・なんで父さんもいるの?」
 月が疑問に思うのももっともだ。
「いや、せっかく義理の息子が出張から帰ってくるんだ、出迎えてやろうと思ってな」
 顔は笑っていても目は笑っていない夜神父
「いっつもうちに入り浸っていて、ちゃんと仕事しているのか?」
 月のつっこみはもっともだ。
 そして視線を周囲に向けた。
「大体みんなも、ちゃんと捜査しているんですか?」
 周りでは相沢、模木がくつろいでいる。
「いや、なんかここで宴会やるって聞いたもんで」
 アイバーとウエディが答える。
「ライトーなんで結婚しちゃったのーっ」
 ミサまでいる、
 横にはレムとリュークもいる。
「今日はパーティーやるんでしょっミサドレスアップしてきちゃった」
 誰がそんな偽情報を流したんだ?
 月は疑惑の目を父に向けた。
「いや、父さんは久しぶりにみんなで会うのもいいだろうなと思ってだなあ、竜崎の出張をみんなでねぎらってやろうと思ってだなあ、別に竜崎と月が二人きりになるのを阻止しようと思ったわけじゃないんだ」
 横で松田がうんうんと頷く
「そうですよ、大体竜崎はずるいんだ、僕達のライト君を独り占めしちゃうなんてずるい」
「ライトー、ライトはミサミサのライトなのよーっ」
 なんだこの異様な盛り上がりは・・・
 ふと見るとアイバーとウエディがワインを空けている。
 松田は片手にビールを持っていた。
 相沢達も手酌で飲み始めている。
「早すぎ、もう宴会始まっている」
 感心するリュークとレムはりんごを齧っている。
「・・・・・」
 月はこめかみを押さえた。
 はっきりいって無茶苦茶狭い
 265号室は普通の団地だ。
 この人数では耐えられない
「おつまみ買ってきます」
 月はそうそうに脱出することにした。

 てくてくてくっ
 団地の公園前を歩いてダイエーにいこうとしたその時、目の前にリムジンが止まる。
「どうしたんですか?月君」
 降りてきたのは案の定、月のライバル宿敵旦那さんのLだった。
「竜崎」
ちょっとびっくりする月の前で竜崎はひらひらと手を振った。
「ただいまです、月君、どうしたんですか、びっくりした顔をして」
 Lが顔を覗き込んでくる。
 久しぶりの竜崎の顔だ。
相変わらずの猫背
 目の下のクマもばっちり
 カエル面の旦那さん
 ちょっと月は赤くなった。
 お帰りが素直に口から出てこない。
 Lは気にした風もなく首をかしげいてる。
「今から買い物ですか?」
「あっああ、父さんが来ているんだ、松田さんも相沢さんも、アイバーやみんな、ミサも・・とにかくみんな来て飲み会してる」
「・・・それで月君は買出し部隊ですか」
 Lが首を捻りながら残念そうに聞いてきた。
 月と二人になれなくて悲しいと顔に書いてある。
 その姿は月の知っている竜崎だ。
 ぷっと月は吹き出した。
「そう、買出し部隊なんだ」
「そうですか、ならリムジンで行きましょう」
 そう言う竜崎の腕を月は掴んだ。
「歩いていこう、一緒に」
 竜崎の大好きなおはぎ、スーパーで買ってあげる。
 月の手がLの手を握り締める。
 暖かくてほかほかしてくる二人の手
「そうですね、二人で行きましょうか」
 Lは鼻の下を伸ばしながら幸せを噛み締めた。


「仲が良いですなあ、いいですなあ」
 リムジンから二人を見ていたワタリはホホホッと微笑んだ。
「ラブラブですなあ、うらやましい」
 そう言うと二人に聞こえないようにそっとその場を離れるのであった。

 その日、捜査陣がいくら待ってもおつまみを買いにいった月は帰ってこなかった。
 竜崎も出張から帰ってこなかったのは言うまでも無い。