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 初めて彼を見た時、奇妙な感覚に襲われた。
 見た、という表現はまさしく正しい。
 私は監視カメラ越しに夜神 月を見ていただけなのだから。
 彼はごく普通の高校生だった。
 彼の頭脳や美貌は非凡ではあったけれどもそれは常識の範囲内だ。
 私が奇妙と言ったのはそういう世間一般的なことではなかった。
 私は第六感というものを信じていない。
 心霊現象は科学である程度説明がつく。
 説明つかないものも将来は解読できるようになるだろう。
第六感とはつまるところ勘が鋭い、鈍いという個人差なのだ。
 そう考えていたのだが、彼を見たときのあの奇妙な感覚は暫く脳裏から離れなかった。


 世界を震撼させている連続殺人事件。
 キラと名乗る犯人はどういう手段を使ったのか心臓麻痺という方法で大量に犯罪人を殺している。
 それはどのような科学でも説明のつかない謎であった。
 キラは一つの季節が過ぎる間に世界を変えた。
 世界はキラのニュースで一色となった。
 キラのニュースがテレビに流れない日は無い。
 つまりはキラが毎日欠かさず殺人を犯しているという事だ。
 これだけ大量に人を殺め、それに対して一片の罪悪感を持っていない。
 だからこそ、毎日習慣のように殺人を繰り返すことが出来るのだ。
 それがキラの恐ろしいところだ。
 どういう方法を使ったか分からない殺人がキラの脅威では無い。
 人を殺め続けることに罪悪を感じないキラの精神構造こそが問題なのだ。
「まるで死神だ。」
日本警察の捜査本部で誰かが呟いていた。
キラを神と例えるものも入れば悪魔だとののしるものもいる。
だがわたしには死神、という言葉が一番キラの特性を表しているように思えた。


キラを捕らえるためインターポールはLに依頼をかけてきた。
L.つまりはわたしの事だ。
幾多の難事件を解決したと功績は大きいがキラの事件は難解であった。
キラ、素性も性別も年も国籍も何も分からないターゲットだ。
キラが一人なのか複数なのかすら情報をつかめない。
プロファイリングするしか手段は無かった。
わたしは幾つかの仮説を立て、キラを誘い情報を手に入れた。
キラは日本の関東にいるということ。
日本の警察に情報網を持っているということ。
あまりにも少ない情報であったが手がかりはそれだけなのだ。
わたしは日本に渡り、捜査本部の関係者からピックアップした人物に監視カメラを仕掛けた。
その中にいたのが夜神、月
彼がキラである可能性は5%にも満たない。
だが手がかりはこれだけなのだ。
夜神 月は全国共通模試1位という頭脳と美しい容姿を持っていた。
どこか儚げで中性的な容姿は男女問わず人を魅了する。
完璧主義なところは監視カメラから見え隠れしていた。
 

 もし彼がキラだったら?

 そう考えてわたしはその仮定に違和感を覚えない事に気がついた。
 彼がキラかどうかは分からない。
 一介の高校生に大量殺人をすることは無理だろう。
 常識で考えるならばだ。
 ビデオで見る限り彼は特別変わったことをしていない。
 部屋に帰ると勉強をし、眠る。
 ただそれだけの生活。
 気負ったところも無く、淡々とそれらをこなしている。
 まるで演じているかのように。
 他にも何人か監視している人間はいた。
 彼らも平凡な日常を送っている。
 だが、そんな平凡な時の中にも喜怒哀楽はありドラマがあった。
 夜神 月にはそれが無い。
 完璧な毎日、
 完璧に平凡な日常を演じているかのように、彼の生活には何も無かった。
 もし彼がキラならば。
 淡々と同じ日常を繰り返しながら殺人を犯していく。
 何の罪悪感も持たず、正義を振りかざすわけでもなく、義務でも無い。
 唯、殺めるために人を殺すだろう。
 


 彼がキラである可能性は5%にも満たない。
 わたしは第六感を信じていない。
 だがこの時、わたしは夜神 月に接触しなければいけないと感じていた。


「うっとおしいな」
 ライトがそう呟くと横にいるリュークも頷いた。
「あいつ、邪魔だ」
 リュークはそう苦々しげに唸る。
「リュークでも人の好き嫌いはあるのか」
 ライトの言葉にリュークは大きく頷いた。
「他の人間には興味が無い、けれどもあいつは嫌いだ」
 リュークは死神、他人には見えないがグロテスクな体と残酷な心を持った死神だ。
 ライトはデスノートを偶然拾ったことでリュークのマスターとなった。
 デスノート、それは人の死を操ることが出来る死神のノートだ。
 ライトはそれを手に入れた瞬間から、犯罪者を罰するキラになった。
 リュークはそれを楽しんでいる。
「ライトはすごい」
 ここまで完璧にデスノートを使いこなした人間はいないと嬉しそうに言う。
「ライトは完璧な俺のマスターだ」
 リュークにとってライトは最高のパートナーだ。
 唯の人間では無い。
 初めは唯の暇つぶしのつもりだった人間界はライトと出会ったことで居心地の良い世界になった。
 今ではもう死神の世界に戻りたいと思わない。
「ずっとライトの傍にいる」
 リュークはそう決めていた。
「だからあいつは邪魔だ」
 L,最近ライトの関心は全てあいつに向けられている。
 東大にライトと同じトップで合格し、まんまとライトの横のポジションを得てしまった。
 ライトをはさんで片側にL,そしてもう片側にはリュークが陣取っている。
 それはリュークを憤慨させた。
「ライトはあいつの事、気になるのか?」
 リュークはしきりにそう聞く。
 ライトは苦笑しながら答える」
「気になるよ、あいつはLだからね」
 Lだから?それだけであいつはライトの関心を引くことが出来るのだろうか。
 リュークにはそれが口惜しかった。
 もし自分がLだったらライトは自分のことだけを考えてくれるだろうか。
 昔、初めて会ったとき、リュークはライトの心を独占出来た。
 グロテスクな死神はライトの関心を引くのに十分であったから。
 キラとしてデスノートを使い出すとライトとリュークの距離はますます近くなった。
 デスノートのことはリュークにしか話せなかったからだ。
 なのに、今、Lがライトの関心を独占している。
 リュークは暗い死神の瞳でライトを見つめた。
 どうやったらライトの関心を取り戻すことが出来るだろうか。
 ライトを手に入れる琴が出来るのだろうか。
 リュークはそればかりをずっと考え続けた。

 大学生活に少し慣れた頃になるとLとライトの仲はますます近づいた。
 Lはライトに興味があることを隠そうとしない。
 ライトはそんなLを遠ざけようとはしなかった。
「流河は面白いよ」
 リュークにライトは言う。
「僕がキラだと疑っているのを隠そうとしない」
 心理戦に持ち込まれている自覚はある。
 それは確かに精神を疲れさせるものであるが逆に高揚感も与えてくれた。
「あいつはキラをよく調べている」
 ひょっとすると僕よりもキラについて詳しいかもしれないね、ライトが冗談でそう言うとリュークは苦い顔をした。
「ライトのことを一番分かっているのは俺だ」」
 リュークの言葉にライトは笑った。
「死神のくせに」
 ライトはそう言うとリュークに口付けた。


 Lの住んでいるところは都内でも最高級のホテルだ。
 しかもスイートを借り切っている。
「こんなところで生活していて疲れないかい?」
 堅苦しく思わないのかと聞くと流河は首を振る。
「ホテル暮らしに慣れていますから大丈夫です」
「家族は?」
「家族はいません」
「それじゃあ寂しいだろうね」
 ライトが同情を浮かべると流河は提案してきた。
「ならば寂しくないように夜神君が遊びに来てください」
 流河の誘いでライトは頻繁にホテルに通うようになった。

「なんであそこにいくんだ?同情か」
 リュークはライトと常に一緒だ。
 だからライトが流河の傍にいるならリュークもいなければいけない。
 リュークはそれが苦痛だった。
「まさか、同情なわけないだろう」
 ライトはリュークの言葉を鼻で笑う。
「あいつも同情をかけられたなんて思っていないよ」
「でも、この前そう話していた」
「馬鹿だなぁ、リュークは」
 あんなの芝居に決まっているじゃないか。
 流河は僕を誘い出したかった。
 僕を近くに置くことで僕の性質を見極めたいとでも考えているんだろう。
 僕は流河の傍にいることで捜査の情報が入るからね、それが目的さ。
 ライトの言葉にリュークは目を剥いた。
「人間って怖い」
「そう?僕は楽しいよ」
 ライトは本当に楽しそうに笑った。
 残酷な笑み、リュークの大好きな笑みだ。
 今はそれがLに向けられている。
 これが嫉妬なのだ、
 リュークは初めてその感情に気がついてしまった。


 その晩、流河は捜査本部に用事があるといって夜遅くに出かけていった。
「3時間程で帰ります」
 流河は名残惜しそうなそぶりでライトを残すと部屋を出て行く。
 残されたライトはベットに寝転がって退屈そうにテレビを眺めていた。
 そこに映っているのはキラのニュース、
 アメリカテキサスでまたもキラによる殺人が行われたという報道であった。
「流河が出かけていったのはこのためかな」
 だったら殺人の時刻を変えるんだったとライトは呟いた。
「なんでだ?」
「だって流河がいないと退屈だろう」
 そう言うとテレビを消す。
ライトは最近常備している睡眠薬を飲み下した。
「ここは監視カメラもないからね、気楽に寝れるよ」
 そしてダブルよりも大きく寝心地の良いベットにライトは潜り込んだ。

 暗い寝室、
 窓から漏れる灯りだけを頼りにリュークはライトを見つめていた。
「綺麗だ、ライト」
 今まで見たどんな人間よりもライトは綺麗だとリュークは思う。
「ライトは俺のだ」
 リュークの手が伸びる。
 シーツの下にあるライトの体をまさぐっていく。
「うっはあぁ」
 夢うつつなのかライトはリュークの与える快楽に従順だ。
 気持ちよさそうに声を上げる。
 リュークの一番好きな声だ。
「ライト、俺のだ」
 リュークはシーツに潜り込むとライトの甘い蜜をすするために行動した
「あっんっあぁ」
 ライトの甘い声が部屋に響く。
 目覚める気配は無い。
 死神の魔力に魅入られたかのように夢の世界をさまよっている。
 睡眠薬が効いているからだろう。
 ライトはキラとしてデスノートを使い出した時から時々睡眠薬を使っている。
 それが琉河と出会ってから頻繁になっていることにリュークは気がついていた。
「あいつがいるから」
 ライトは興奮して眠れないのだ。
 薬の力を借りなければいけないほど、眠るのを忘れるほどの高揚感をライトは感じているのだろう。
 悔しい、リュークはライトの果実に舌を這わせた。
「ああぁ、いいっ」
 眠っているライトは無垢であどけない。
 リュークの愛撫に素直に感じてくれる。
 嬉しくてリュークは蕾にも舌を這わせた。
「ああぁ、んっはあぁ」
 リュークは夢中でライトをむさぼる。
 甘い果汁はリュークを興奮させるのに十分だった。
「ライト、いれたい」
 正気のとき、ライトは決してそれを許してくれない。
 けれども今ならばライトはリュークを受け入れてくれるだろう。
 死神の雄は大きくいきりたち痛いくらいに張り詰めている。
 リュークはそれをライトの蕾にぐりぐりと押し付けた。
「気持ちいい、ライト」
 奥までは入れない。
 先端に押し付けてその感触を味わうだけだ。
 もし最後までやったら目が覚めた時、ライトはリュークを許さないだろう。
 もう二度と触らせてくれなくなる。
 それが怖いからリュークはここまでで我慢するつもりであった。

 薄暗い室内、
 思ったよりも時間をとらず捜査本部を出た流河はホテルへと急いだ。
「夜月君はもう寝てしまっているでしょうね」
 それを残念に思う自分の感情にLは気がついている。
 こんなにも急いでホテルに戻ろうとするのもライトが待っているからだということも、
「奇妙ですね」
 流河はぼそりとつぶやいた。
 ライトを見ているといつも奇妙な気持ちに襲われる。
 この感情に名前をつけるとしたら。
「意味の無いことだ」
流河は首を振ると部屋のドアを開けた。
明かりが消えて暗い部屋、
やはりライトはもう寝てしまっているのだろう。
それを残念に思いながら、せめて顔だけでも見ておこうと寝室へと向かう。
寝室のドアノブに手を掛けた時、またも違和感が襲ってきた。
誰かいる?
気配を感じた。
耳をそばだてると小さいライトの声が聞き取れた。
苦しんでいるような、否、違う。
「夜月君」
 ライトが誰かを部屋に連れ込んだのだろうか?
 そういう事態を想像してはいなかった点ではライトのことを信用していたのだろう。
 裏切られたような苦い気持ちがこみ上げてくる。
 流河は気がつかれない様にそっとドアを開けた。


 暗い寝室。
 そこには夜月がいた。
 ベットの中で快楽に喘いでいる。
 シーツの中に誰かがいる。
「はあぁ、ああぁ、いや」
 呆然としていた流河の耳にライトの声が聞こえてくる。
 扇情的な声であった。
 頬を赤らめ喘ぐ姿に流河は目を奪われる。
 夜神月は男だ。
 わかっているのに、Lがいままで知っているどんな女よりも綺麗だった。
 淫らでありながら恥らっているかのように首を振るライトの姿に流河は見入ってしまう。
「・・・夜月君」
 ぺちゃぺちゃと淫猥な音がくぐもって部屋に響く。
 ごくりっと喉を鳴らす自分の音すら響くようだ。
「誰だ」
 夜神月の相手は?
 ベットを見た瞬間から女の可能性は消えていた。
 シーツの下で蠢く体は相当の大男だ。
 奇妙な形に盛り上がったシーツはライトの下半身で蠢いている。
 ライトの果実を舐めて喜んでいる。
 ぴちゃりっと音がするたびにライトの細い首がのけぞった。
 いやだと首を振る様が痛々しい。
 まるで無理やり関係を強要されているように。
 処女が強姦されているような倒錯した空間
 強烈な飢餓感が流河を襲った。
「夜神君から離れろ」
 声を潜め、流河は命令した。
 しかし相手はライトの体をむさぼることに夢中のようだ。
 男が腰をゆすっているのがわかる。
 気持ちよさそうにライトを味わっている。
「夜神君から離れろ」
 ぞっとするような冷たい声で流河はベットへと近寄った。
 ばさりっ
「そんな馬鹿な」
 シーツの下には誰もいなかった。
 ライト一人が寝ているだけである。
「幻覚?」
 呆然とする流河の目にライトの肢体が映る。
 淫らに下肢をぐっしょりと濡らし、甘い香りを漂わせているライトの姿が。
 流河はそっと指を伸ばした。
 蕾からは男の精液が溢れ出している。
 誰かに犯された名残だ。
 ライトの意識は無く、無防備に足を開いている。
 ごくりっと流河の喉が鳴った。
 意識は無くともライトは流河を誘っている。
 その誘惑に流河は抵抗出来ない。
 否、しようとも思わなかった。
 この夜神月という存在のすべてを知りたいと思う自分がいる。
 寝ている人間に手を出すことへの罪悪感など流河は持っていなかった。
 ただ知りたい。
 欲しい。夜神月の全てが。
 彼がキラだからだろうか?
 流河はライトがキラだと確信していた。
 根拠は無い、
 証拠も無い。 
 だが判る。
 感じるのだ。
 夜神月がキラであると。


 流河はライトの上に覆いかぶさった。
 先程の幻影がしていたようにライトを押さえ込み、唇を合わせ、肌をむさぼる。
「あぁ、んっ」
 気持ちよさそうなライトの声が聞こえた。
「感じているんですね、夜神君」
 流河はライトを抱きしめる。
 そして勃起している己の雄をライトの蕾に押し当てた。
 先ほどの蹂躙でライトの蕾は濡れている。
 死神の精液で犯されている。
「息を吐いて」
 流河はためらうことなく雄を突き刺した。
「ああぁ、痛い、ああぁ」
 意識は無くとも酷い激痛でライトの体が跳ねる。
 それを全身で押さえつけ、流河は腰を動かした。
「夜神君、君の全てが知りたいんです」
愛をささやくかのように流河は呟いた。
 今のライトには聞こえない。
 判っていてもささやかずにはいられなかった。


 夜神月を知ってからいつも奇妙な感覚に苛まれている。
 この感情に名前をつけるとしたら
「執着」
 それはLの中で始めて生まれた感情であった。

 

 

5月大阪で無料配布した準備号です、6月東京で本誌を出したいなぁ、(野望)