[恋愛中毒]

 


「私は夜神君をキラではないかと疑っているんです」
 Lはそう言い、その後言葉を付け加えた。
「いえ、正確に言うと私は夜神君がキラだと確信しています」
 流河は断言し月を刺すような瞳で見つめた。
 暗い奈落の底に落ちていくような瞳。
 月は耐え切れず目を逸らしそうになったが耐えた。
「変なことを言うんだね、流河は」
 正面からLを見つめ月は嘲笑した。
「僕がキラだという証拠でもあるのか?」
 無いのだったら単なる中傷でしかありえない。
 憶測で物を言うのは止めてもらいたい。
「証拠を見せろよ」
 月は自分に絶対の自信を持っている。
 警察に、Lにキラの証拠を掴まれていないという自信がある。
 そんなミスは侵していない。
 だがLは月の自信を覆すかのように見つめてくる。
 漆黒の瞳は人を不安にさせる。
 Lの視線は月を苛立たせる。
 月のことは何でもお見通しだと言わんばかりのまなざしに苛々させられる。
 キラの秘密は知っていると言われているような気になる。
 Lは月の心の奥まで見通そうとしている。
 暗い瞳を大きく見開いてまばたきもせずに月を見つめてくる。
(気持悪い男だ)
 月は流河から目を逸らした。


 テニスを終えた後、流河を連れ立って入った喫茶店。
 人目に付きにくい席を選んだとはいえ昼日中の喫茶店でするような会話ではない。

「僕がキラだという証拠は?」
 再度問いかけると流河はがりがりと爪を噛んだ。
「ありません」
 月の秀麗な眉が潜められる。
「無い?それなのに僕がキラだって決め付けるのか?」
 Lは首をしきりに振った。
「夜神君がキラです。私には分かります」
「大した自信だな、その傲慢さはどこから出てきているんだ?」
 挑発するように言う月に流河はたんたんと答えた。
「私はずっとキラを求めていました。キラの事だけを考え、キラがどういう人物なのかプロファイリングをしてきました」
「それで?」
 うんざりした顔で月は流河の話を聞く。
「夜神君は私のプロファイリングしたキラそのものです」
「はっ馬鹿じゃないか」
 あまりな返事に月は怒りを隠しきれなかった。
 非常識にもほどがある。
「じゃあ流河の想像するキラが僕と似ていたから、僕は容疑者なのかよ」
 流河はこくこくと首を振った。
 壊れた人形みたいな仕草で。
「夜神君は私のプロファイリング通りで嬉しいです」
 どこかうっとりとした表情で流河は月を見つめている。
(気持悪い)
 月は怒りで震えそうになる体を抑えた。
 Lの視線は傲慢なまでの力を持って月を暴きたてようとしている。
「あいにくだけど僕はキラじゃないよ。流河はキラにこだわりがあるみたいだけど想像のキラと類似しているからといって犯人にされたら迷惑だ」
「よくしゃべりますね」
 月の神経を逆撫でするのはLの十八番だ。
 何時もLは月を苛立たせる。
 ふいっとLは話し始めた。
 ぼそぼそと。
「キラは必ず捕まえます、私の手で」
 その口調は犯人を捕まえる探偵のものではない。
「・・・流河はキラを捕まえたらどうするんだ?」
 月の問いかけに流河は笑った。
 無表情に、目の奥だけで楽しそうに。
「飼い慣らします」
 冗談、と笑い飛ばそうとして月は失敗した。
「籠の中に入れて大切に大切にするんです」
 その事を想像しているのだろうか。
 しきりに体を揺すりながらLは楽しそうに言う。
「私だけのものにして誰にも触らせません」
 ぞっとするLの言葉。
 月は寒気すら感じて後ずさりそうになった。
 Lの言葉は狂気じみている。
 だが真剣だ。本気でLはキラを捕獲しようとしている。
「何故?そんなことを」
 声が震えていなかっただろうか?
 月が問いかけると流河は嬉しそうに目の奥で笑った。
「キラは私の理想です」
「理想?」
「ずっとキラのような犯罪者を探していました。完璧な犯罪者を」
 狂っている。
 この男は。
 月は今すぐこの場から逃げ出しそうになる自分を抑えた。
「執着しているんだな、キラに」
 震える声でそう言うとLは笑いながら答えた。
「私はキラが大好きなんです」
 プリンが好き
 シュークリームが好き、
 チョコレートが好き
 そう言う気安さでLが言った。
 キラが大好きだと。
「だから絶対手に入れます」
 Lは言った。
 手に入れると。
 逮捕するではない。
 籠に入れて飼い慣らすと言った。
「夜神君、どうしたんですか、顔色が悪いですよ」
 Lはぐうっと体を伸ばして月の顔を覗き込んだ。
「触るなっ」
 そして流河の手が月の額に触れようとした瞬間、月はその手を払い落としていた。
「・・・あっ」
 気まずい雰囲気が流れる。
「突然手を出されたからびっくりしたよ。」
 月は誤魔化すように愛想笑いを浮かべ、席を立った。
「ごめん、今日はこれから用事があるんだ」
 我ながらいい訳じみていると思ったがこれ以上は耐えられない。
 この男と一緒にいることに月の神経が耐えられない。
 流河の視線は獰猛で、月の内部を覗き込んでくるようだ。
 証拠もなにもないのに月がキラだと言い切るその狂気が恐ろしい。
 気持悪い。
 常人には理解できない。
 この男に近づきたくない。
 こいつは危険だ。
 月の中で警報が鳴り響く。
「じゃあ、話が出来て楽しかったよ」
 月はそれだけを言うと慌しく喫茶店を出て行った。
 後に残されたのは流河はしばらくぼーっと月の去った後を見つめていた。
 その視線は証拠を見つけようとする探偵のものではない。
「・・・夜神君」
 慌しく帰ってしまった月のことを思い残念がっている。
 もっと話したかったのに、もっと顔を見ていたかったのに、もっと触れたかったのに。
 Lは月にはらわれた自分の手を見つめた。
 触るなっと毛をそばだてていた月を思い流河は目を細める。
「私のキラ」
 いやそうに顔を歪めていた月。
 月はLの理想通りだ。
Lは指を噛みながらぼそぼそと呟いた
「私の夜神 月」
 なんて綺麗な犯罪者なのだろう。
 あんなに綺麗な殺人者は見た事が無い。
 Lは初めてキラの事件を見たときからキラに夢中なのだ。  だから必ず手に入れよう。
 そして籠の中で大切に大切にする
 誰にも見せず、誰にも触らせず、自分だけの宝物としてとっておく。
 
 その事を想像し、Lは目の奥で楽しそうに笑った。

           


あうううー。初めてのデスノート参加なのに、
恋愛中毒落としました。
ということで準備号です(無料配布)
本誌は夏コミあたりで出したいなと野望しています。
よろしくです、(とほほのはなより)
土曜日 き29a FETISH