Lは上機嫌で目の前の画像に見入っていた。
「ひどすぎる」
背後で捜査陣の一人が声を出すが気にもしない。
Lはこの展開に興奮していた。
何時ものように膝を抱えて座り爪をがりがりと噛む。
しきりに貧乏揺すりをしながら画面に集中している。
画面に映っているのは捕らわれの少女
第二のキラ容疑者である弥ミサだ。
両手両足を拘束され、目隠しをされている。
立ったままの状態でもう3日
水も与えていない。
たとえ容疑者だからといってこの待遇はあまりであろう。と誰もが思う。
しかしLは断言した。
「第二のキラとして捕まえたんです。これくらいは当たり前です。誤認逮捕だったら問題がありますが確信があります」
Lの言うとおり、ミサを調べると様々な証拠が出てきた。
日記と同じルーズリーフ
速達の判子
大阪から送られてきたガムテープについていた花粉
東京長野間の切符
物的証拠は揃っている。
「後は自白を待つだけです」
Lは嬉しそうにつぶやいた。
そして目の前の画像に話しかける。
「早く、早く、しゃべるんです、早く」
少女の限界を待っているかのようなその態度に捜査陣は戦慄すら覚えた。
この男はL
奇妙な様相と子供じみた態度で普段は隠されているLの本性があらわになる。
世界的な名探偵。
捜査陣はそれを英雄か正義の味方だと取り違えていた。
だが現実はそうではない。
小説にでてくる探偵のように清廉潔白な存在ではないのだ。
Lという男は。
「ワタリ、十分注意しながら多少理不尽なやり方でも構いません、吐かせてください」
Lの命令にワタリは「ハイ」と答える。
好々爺にしか見えないワタリ、しかしそれは見せかけにしか過ぎない。
捜査陣は何も言えなかった。
皆見間違っていた。
Lも、Lの部下も目的のためなら幾らでも非情になれる人種なのだ。
自分達とは生きている世界が違う。
そのことをまざまざと見せ付けられる。
その時、ミサが口を開いた。
「殺して」
Lは耳をそばだてる。
まるで子供のように、嬉々としながら画面に見入っている。
「殺して、もう我慢できない」
捜査陣の誰もが正視出来なくて目をそむける。
そんな中、Lは爪をがりがりと噛んで不服そうに言う。
「そんなことが聞きたいんじゃありません。キラのことを話してください」
口調は丁寧だったが命令だった。
「殺して」
「キラの正体を話しなさい、そうすれば解放します」
「だめ、だめ、殺して」
強情なミサの態度
何時も無表情なLが苛立ちをあらわにする。
「キラと引き換えです。キラのことについてしゃべれば殺してあげます」
その言葉に捜査陣はぎょっとした。
「もういい、早く殺して、殺してくれないなら」
ミサは舌を噛もうとした。
ワタリが急いでミサの口を塞ぐ。
「まさか、もうキラにあやつられている死の前の行動じゃないでしょうね」
Lはミサの態度に一片の感情も乱さなかった。
彼女の事情、動機、そして健気な態度などLには関係ない。
Lが知りたいのは弥ミサが持っている情報だけ。
キラに対する情報だ。
それさえあればLはキラを捉えることが出来る。
目の前で拘束されている人間。
Lはそれを一人の女性としてみていない。
情報の入った入れ物にしか思っていない。
データーが引き出せないならば手荒に扱ってでも情報を取り出すのは当然だろう。
「オレ、帰ります」
松田が怯えたようにあとずさった。
Lは何時ものように無表情で、いっそ純粋さすら感じる黒い瞳で振り返った。
「ああ、皆さんもお疲れですね、容疑者の監視は私がしておきます。もう今日は帰ってください」
その言葉に捜査陣は息を吐く。
そして疲れた足取りで部屋を後にした。
残されたLはまた画面に集中した。
容疑者、弥ミサは気絶している。
明日には彼女は落ちるだろう。
落ちなかったら、発狂するだけだ。
「それはつまらない」
Lはがりがりと爪を噛んだ。
「弥ミサ、早くしゃべるんです。あなたとキラとの関係を」
ミサはLがキラに近づくための唯一の手段だ。
「ようやく手に入れたんです、キラに近づく方法を」
Lは嬉しそうに貧乏ゆすりをする。
「早くしゃべってください、そうしたら私がキラを捕らえます」
そのことを想像してLは目を輝かせた。
「早く捕まえたい、私のキラ。」
捕まえて、捉えて、キラを自分のものにする。
手に入れてみせる。
「そうしたら大切にしますから」
ミサに行った様な拘束をしたりしない。
こんな人間以下の扱いをしたりしない。
「早く捕まえて、その後は・・・」
夜神月を捉えた後のことを想像して Lは呟くと含み笑いを浮かべた。