「祝福」
嬉しい。
嬉しくて嬉しくてたまらない。
世界中が月を祝福している様だ。
あまりの幸福感に大声で叫んでしまいそうだ。
「僕は勝った」と。
僕はLに勝った。
Lは死んだ。
だが皆の前では悲しい顔をしなければいけない。
それが辛い。
こんなにも嬉しいのに。
踊りだしてしまいそうなくらい楽しくて仕方が無いのに。
月はLに勝ったのだ。
Lを殺したのは僕
夜神 月、 僕なんだ。
月はその美しい顔をほころばせた。
誰もが見ているだけで幸せになれるような、満ち足りた笑みを一人になると浮かべる。
「Lを殺した、やっと」
それはずっと月が望んでいたことだった。
悲願といってもいい。
新世界の神になること。世界を創生すること。
どれも大切なことだが、Lと会ってから月の目的はLを殺すこと一つに絞られていたように思う。
その達成感に月は笑みを隠しきれない。
「やっと殺せたんだ」
月は喜びのあまり震える自分の体を抱きしめた。
「ようやく」
月はLが憎かった。
最初から、初めてテレビで声を聞いたときから憎くて憎くてたまらなかった。
キラの全てを否定したL
執拗なまでにキラを追い詰めたL
そして。
月をキラだと言い、追い詰めたL
「記憶を無くしてもあいつは諦めなかった」
月をキラだと言い続けたL
月の全てを否定したL
キラしか認めなかったL
「傲慢で勝手なL」
気まぐれで我侭な男
彼はキラに執着しているのは犯罪者だから。
自分に解けない謎をキラが持っているから。
それだけだ。
もしキラがLに捕まればLは興味を無くす。
飽きた玩具のようにキラを捨てる。
誰が見てもそれは明らかだった。
子供じみた、しかし世界を動かすL
どうして惹かれずにいれようか。
Lは月の全てを否定し、月の全てを奪ったのだ。
初めての時から月はLしかいなかった。
その存在に月は心を奪われた。
Lしかキラの敵になるものはいない。
Lしかキラを理解出来ない。
だが、Lにとってこれは幾つもの事件の中の一つにしか過ぎない。
誇り高い月にはそれが我慢出来なかった。
Lの全てを手に入れたかった。
そのためならなんでもする、
監禁であろうと、拘束であろうと、記憶を無くそうとも構わない。
Lさえ手に入れることが出来れば何を捨てても構わなかった。
そして月は手に入れた
「僕のものだ」
月は己を抱きしめながらLのことを思う。
Lはキラに殺された。
もう誰にも触れることは出来ない。
Lはキラの事だけを考え月の胸の中で死んだ、
それはキラだけのものだ。
月だけのものだ。
もう心配することは無い。
Lにキラだと暴かれるのではないかと怯えることは無い。
Lがキラに興味を無くすのではないかと震えることも無いのだ。
他に犯罪が起きて、Lの視線が反れることも無い。
「もう誰にも渡さない」
月はようやく手に入れた思いを抱きしめながら幸せそうに微笑んだ。
月は手に入れた幸せを噛み締める。
今の月は誰よりも幸福で孤独な子供だった。