[執着」  


「始めまして、キラさん」
 唐突になった携帯
 大学からの帰宅途中、月は見慣れない着信履歴に眉を潜めた。
 それは今日の午後から5分おきにかけられている。
 今は夕方の6時30分。
 一度帰ってから捜査本部のあるホテルに行く予定だ。
 最初いたずら電話かと思った。
 ワン切りのたぐいかと思い無視していたのだが携帯はしきりに鳴り響く。
 留守電には何も入っていない。
 何十回目かの着信メロディが鳴ったとき、月は出てみることにしたのだ。
 聞きなれない女の声。
 否、女の子と言った方がいいかもしれない若い声。
 高校生?中学生くらいだろうか。
「・・・・誰?」
 月は慎重に声を発した。
「私はキラさんの味方です」
 楽しそうなはしゃいでいる声。
 不快感を感じた。
「間違い電話だよ」
 月のそっけない言葉に女の子はくすくすと笑う。
「大丈夫、私は夜神さんの味方だから」
「・・・?」
 相手は月の名前を知っている。
 これは間違い電話ではない。
 だとすれば相手は
「第二のキラ」
 月は声を潜めた。
 帰り道、誰も周囲にはいないが用心するにこしたことは無い。
「月って書いてライトって読むんでしょう。素敵な名前、ライトって呼んでもいいでしょう」
 まるで友達と話すような口調。
 緊張感のかけらも無い。
「・・・何故電話番号がわかったんだ?」
 それ以前に何故月のことを知ったのか?
「知りたい?」
 くすくす笑いながら女の子は言った。
「ああ、知りたい」
 月の答え、電話越しから女の子が喜んでいるのが伝わってくる。
「私もライトのことが知りたい。ライトのことも、キラのことも全部」
 まるで遊びだ。
 女の子は稀代の殺人者であるキラと話している緊張感など感じていないらしい。
 ただ憧れの人とお話出来て嬉しい。
 そんな口調だった。
「会いたいの」
「ああ、そうだな」
「今すぐ、ライトに会いたい」
 月は急いで計算をした。
 第二のキラはキラに好意を持っている。
 憧れているといってもいい。
 今すぐ殺されることは無いだろう。
 だが会うのはどうか?
 今会うべきか?それとも携帯だけの連絡に留めておくべきか?
 どちらも正しいように見える。
「今日は用事があるんだ」
「えー。残念」
 女の子が不服そうな声を出した。
「こっちから連絡するよ」
 そして月が優しく言う。
「名前教えてくれるかな」
「それは駄目」
 女の子は即答した。
「だってキラに殺されたくないもん」
「僕は君の顔も知らないんだよ」
 女の子は無邪気に言った。
「今はね、でもライトのお父さんは警察のお偉いさんだから幾らでも調べる方法があるでしょう」
 どうやら第二のキラは思ったよりも頭がいい。
「・・・僕に会ってどうしたいのかな?」
 月は慎重に問いかけた。
「何が望み?」
 女の子はくすくすと笑った。
 その笑い方は子供のようにも女のようにも響く。
「分からないの?ライト」
「分からないね」
 女の子は言う。
「欲しいものがあるのよ」
「・・・何?」
 第二のキラは何を欲しているのか?
 金、名誉?それとも退屈を紛らわす危険なスリル?
「違うわ」
 分からない月が可笑しいという風に女の子は笑った。
「私の欲しいのはキラよ」
 夜神 月、
 欲しいのはそれだけ。
「・・・」
 携帯はかかってきたときと同じように唐突に切れた。
 月は携帯を握り締めたままその場から動けなかった。


 最後に聞こえた第二のキラの声が頭に鳴り響いている。
「手に入れるわ、キラを」
 それは無邪気な子供のようにどこか純粋な残酷さを含む言葉であった。


          恋心を読んでミサと月の関係ってこういうのがいいなと妄想してしまいました。