コツコツコツッ
埃一つ無い廊下を男達の足音が児玉する。
東京の一等地に聳え立つヨツバグループの本社。
その最上階の一室に八人の男達が集まった。
「そろった様ですね、では定例会議を始めます」
深夜0時、
会議を始めるには遅すぎる時間だ。
これは秘密の会議。
ここに集まった八人だけが共有するプロジェクトなのだ。
「我がヨツバグループが更なる飛躍、世界最大の企業にするために」
議長らしい男の冷たい声が会議室に響き渡る。
スキンヘッドでサングラスをかけた異相の男。
その声音から男の感情を読み取ることは出来ない。
他の7人も皆、普通の人間とはどこか違う雰囲気を醸しだしていた。
世界的に有名なヨツバグループのトップ、社長の椅子をも狙えると噂される人間の集まりである。
全員が一癖も二癖もある男ばかりだ。
この集まりが始まったのは3週間前。
それは彼等に莫大な富と危険をもたらした。
キラ。
世界を震撼させる稀代の殺人者。
救世主とも死神とも呼ばれる謎のキラがヨツバグループのために殺人を請け負うというのだ。
誰を殺すのか?
彼等八人はそれを選択し、実行するために選ばれた企業の殺人グループであった。
「臆病風にふかれるものは確実に殺される」
八人の一人、樹多は断言した。
「我々にはキラとコネクション、繋がりがある」
議長である尾々井の言葉に皆が頷いた。
「先週の三堂の警察、特にLを一応潰しておくという提案はどうなった?樹多を中心に対処すると決まったはずだが」
そう、最初の会議で決まったことはまずLを始末するという内容であった。
L、世界的に有名な探偵がキラを捜査していることはあまりにも有名である。
Lは危険な存在だ。
これから先、八人が殺人リストを作り、キラがそれを実行したとしてもLに嗅ぎつかれる可能性がある。
後々のためにもLは殺しておかなければいけない。
八人の殺人プロジェクト、その最初の犠牲者に選ばれたのはLであった。
これは八人の合意で決定がなされたこと。
だが、樹多はLの議題が出た瞬間、苦悩に顔を歪ませた。
鬼の樹多と呼ばれ、営業本部の誰からも恐れられている彼が震えている。
「どうした?樹多、臆病風に吹かれたのか?報告をしろよ」
奈南川が焦れたように促した。
「確か裏金で依頼人を分からないように世界中の名探偵や殺し屋をやとったはず、そうだろう」
紙村の言葉に樹多は頷いた。
「殺し屋は見つからなかったが探偵は雇ったと言っていっていたじゃないか」
葉鳥は樹多につめよった。
「エラルドコイル 人探しに関してはL以上と言われている探偵だ、Lに関する資料は届いたんだろう」
鷹橋に即され樹多はうろたえる。
「どうした?樹多、お前らしくも無い」
そう皆に詰め寄られる。
しばらく沈黙が続いた後、樹多は意を決したように数枚の写真を取り出した。
「確かにエラルドコイルは名探偵だ。Lの写真をすぐに送ってきた」
まだ本名は分からないがこれで顔はばれたことになる。
「そうか、早く見せろ」
火口が写真を取り上げ、その瞬間息を飲んだ。
「こっこれがL」
皆もその写真を覗き込み絶句する。
「まさか、これがL?」
「信じられない」
口々に驚愕の声が上がる。
樹多は力を失ったかのように呟いた。
「俺は、俺には出来ない、Lを殺すように指示するなど」
誰も、一言も発することが出来なかった。
極度の緊張感が会議室を推し包む。
その中、樹多の声だけが響き渡る。
「こんなに可憐で美しい青年を殺すことなど、俺には出来ない」
皆、何も言えず写真を見詰めた。
そこには青年の姿があった。
隠し撮りの写真からも分かるその造型。
顔立ちはどこか中性的で巨匠によって作られた彫刻のように美しい。
細い肢体は湖にたたずむ一羽の白鳥のごとき。
大きくつぶらな瞳は物憂げで何かを語っている。
「うっ美しい」
尾々井の口から賛辞が漏れる。
「まるで天使だ」
三堂も、鷹橋も、火口も、ここにいる八人全員が一目見ただけでLの虜になっていた。
「こんな美しい、純真な存在を抹殺するなど神が許さない」
樹多の言葉に皆が頷く。
「みろ、この写真を」
取り上げた写真は青年がまっすぐにこちらを見据えているものだった。
「この純真な瞳、嘘一つ無い穢れない瞳を見つめていると、。俺は、俺は」
息を詰まらせる樹多。
「泣くな、樹多、俺たちもその気持ちはよく分かる」
「Lを殺すのはやめよう、違う方法でLの捜査が俺たちに及ぶのを阻止すればいい」
仲間の言葉に樹多は目頭を押さえた。
八人も目頭を熱くしている。
そしてもう一度写真に見入った。
なんて可憐で美しい存在、
・・・
だが?
「この一緒に写っている奴はなんなんだ?」
「手錠をしているぞ、うらやましい、じゃなくて何故Lと手錠をしているんだ?」
「何かの容疑者なのか?」
彼等は口々に疑問を声にした。
「蛙みたいな顔だな、目も瞳孔が開きっぱなしだぞ」
「髪もぼさぼさで猫背だ、こんな奴が何故Lと手錠で繋がっているんだ」
「どの写真にも写っているぞ、ちっこのカエルめ」
疑問と嫉妬をこめて八人は首を捻った。
そんな彼等の背後、八人には見えない存在が大きくため息をついた。
「お前等。人違いしてるぞ」
レムの言うとおり。
エラルドコイルの隠し撮りにはどれも手錠で繋がれた二人の姿が写っている。
本当のLはあまりにも探偵に見えないために起きた些細なミスであった。
だがこれでLの命が助かったのは言うまでも無い。
「おのれ、この蛙め、我々のLと手錠で一緒なんて許せん」
うんうんと頷く八人のメンバー
ちょっとお馬鹿な八人衆の誤解はまだまだ続く。
ヨツバというと某メーカーを連想してしまうhanaです。「我がヨツバグループが更なる飛躍、世界最大の乳○メーカーになるために」なんて会議をこっそりしていて低脂○乳や発酵バ○―について討論していたら・・・・
あまりにもつぼだ。そんなヨツバが大好きです。
「ヨツバのときめき 2」
コツコツコツッ
埃一つ無い廊下を男達の足音が児玉する。
東京の一等地に聳え立つヨツバグループの本社。
その最上階の一室に八人の男達が集まった。
「そろった様ですね、では定例会議を始めます」
深夜0時、
会議を始めるには遅すぎる時間だ。
これは秘密の会議。
ここに集まった八人だけが共有するプロジェクトなのだ。
「我がヨツバグループが更なる飛躍、世界最大の企業にするために」
議長である尾々井の冷たい声が会議室に響き渡った。
「前回の議題であるが、間違いが発覚した」
樹多は用意していた書類を取り出した。
「これはエラルドコイルの報告書だ、これによるとあの写真に写っていた蛙似の男がLであることが判明した」
皆、息を飲む。
「あれが本当のL、おのれ、俺達をたばかるとはさすが名探偵」
自分達の勘違いは置いておいて八人は新事実に憤慨した。
「ではこの青年は誰なんだ?」
火口の問いかけに樹多は報告書を読み進める。
「この青年の名は夜神 月、キラ容疑者だ」
驚愕が会議室を支配した。
「・・・キラ容疑者、まさか」
「夜神 月がキラであるという確率は?」
「エラルドコイルの報告によると九分九厘、Lは夜神 月をキラだと断定したらしい」
恐ろしいほどの静寂が会議室を推し包む。
「これが・・・キラ」
八人は隠し撮りの写真を見詰めた。
「なんて美しい」
議長である尾々井はそう呟き、突然に笑い出した。
「我々の目的は一つ、ヨツバグループの発展にある」
メンバーは突然の議長の高笑いに固唾を飲んで聞き入った。
「そのためにはキラを手に入れる必要がある」
その瞬間、会議室に怒涛の拍手が鳴り響いた。
「そうだ、ヨツバグループの更なる飛躍のため」
「キラを、夜神 月を手に入れよう」
プロジェクトのために集まったメンバーは経歴も価値観も違う。
皆、括弧たる信念を持つ企業戦士だ。
今まで彼等はメンバーをライバルとしか考えていなかった。
だが、今は違う。
八人は手を取り合い団結したのだ。
肩を叩きあい、握手をし合い、プロジェクトのため一丸となる。
そんな中、議長である尾々井の声が児玉した。
「キラを手に入れた暁には」
「暁には?」
「我らヨツバグループの発展のため、キャンペーンボーイになってもらう」
「おお、いいアイデアだ、議長」
「この美しさと神秘性ならばヨツバのマスコットボーイにぴったりだ」
皆大きく頷いて同意する。
「マスコットボーイの名はキラ、殺人者と同じキラという名でありながら天使のごとき存在」
「これは人気が出るぞ」
「今世紀最大のアイドルになることは間違いない。キラであることは伏せながらもキラであることをちらつかせる」
「見事な心理作戦だ」
「マーケティングを心得ている」
「消費者のハートを一掴みにすることは間違いないな」
盛り上がる会議
興奮する八人
そんな彼等の背後、八人には見えない存在が大きくため息をついた。
「Lと夜神は手錠でつながれているんだぞ」
夜神月をマスコットボーイにすればもれなくLもついてくる。
そのことに誰も気がつかないまま、八人はキャンペーン企画を進めるのであった。
こんな八人がトップ、ヨツバの未来は前途多難である。
「ヨツバのときめき 3」
コツコツコツッ
埃一つ無い廊下を男達の足音が児玉する。
東京の一等地に聳え立つヨツバグループの本社。
その最上階の一室に八人の男達が集まった。
「そろった様ですね、では定例会議を始めます」
深夜0時、
会議を始めるには遅すぎる時間だ。
これは秘密の会議。
ここに集まった八人だけが共有するプロジェクトなのだ。
「我がヨツバグループが更なる飛躍、世界最大の企業にするために」
尾々井の冷たい声が会議室に響き渡る。
「前回の議題であるが、問題点が発覚した」
樹多は用意していた書類を取り出した。
「夜神 月を我がヨツバのキャンペーンに起用する事項だが、彼の名をキラにすると色々と問題が発生する恐れがある」
その言葉に鷹橋と紙村も頷いた。
「我々もそれを思案していたところだ。キラという名は直接的すぎて警察に目を付けられる可能性がある」
三堂も同意を示す。
「確かに、我々の存在を警察に知られるわけにはいかない、そのためにはあらゆる危険を回避しなければ」
しかし火口と葉鳥、奈南川が異を唱える。
「キラの名は警察、特にLに目を付けられやすいだろう、だがキラの名以上にインパクトのある名があると思うか?」
「キラの名はすでに固有名詞で無くなっている。それほどに影響力がある」
「他の企業に使われる前に手を打つべきだ」
「そうだ、キラはまだ商標登録がされていない、誰が使っても自由だぞ」
「だからといって警察に我々のプロジェクトを感づかれたら元も子も無い」
キラの名を使うことについて、賛成派と反対派で意見は分かれた。
会議は踊り、結論は出ない。
その時であった。
沈黙を守っていた尾々井が厳かに発言をしたのは・
「キラではあまりにも危険が高い、だがキラのネームバリューを利用しない手は無い、そこで」
「そこで?」
皆が息を飲んで聞き入る。
「キララ、というのはどうだろうか?」
おおっ会議室に沈黙が走った。
「さ、さすが議長、見事な提案だ」
しばらくの静寂の後、樹多が感極まった風で感想を述べる。
「キラを連想させながら警察に付入る隙を与えない見事なネームだ」
「キラキラでもキラリでもなくキララ。心に響く名だ」
先ほどまで対立していた8人はキララの名の下に一つになる。
「よし、キララでプロジェクトを進めるぞ」
「エラルドコイルに連絡を取れ」
樹多がそう言った時、紙村が発言してきた。
「前々から思っていたのだが、エラルドコイルという名は呼びにくくないか?」
鷹橋も頷いた。
「ああ、俺もそう思っていたところだ」
「確かに、探偵の本名を気安く呼んでいると誰かに我々の計画が知られる可能性もあるしな」
葉鳥も同意する。
「エラルドコイルも暗号を使ったほうが安全だ」
すかざず火口が提案してきた。
「エイちゃん。というのはどうだ?」
「矢沢栄吉かよ、却下」
三堂も意見を述べる。
「マッキーというのは?」
「コイルだからか?捻りすぎだ」
奈南川が首を振る。
会議は踊る。
この8人、皆一流の企業戦士ばかりだ。
それぞれに自分の実力とセンスに自信を持っているものばかりだ。
個性派ぞろいの8人、これでは決まるものも決まらない。
その時であった。
尾々井が厳かに口を開いたのは。
「エコ、というのはどうだろうか?」
おおおっ会議室にどよめきが起こった。
「エコ、ナイスネーミングだ」
「エコ、シンプルでありながらエコロジーを連想させる。ヨツバのイメージにぴったりのネーミングだ」
「さすが議長、エコという名ならば誰も探偵とは気がつくまい」
皆が拍手を持ってこの名前に賛同する。
そんな中、議長は満足げに頷くと樹多に指示を出した。
「さっそくエコに連絡を取り、キララの情報を集めるんだ」
「どんな些細な情報も逃すなよ」
「写真はあらゆる角度から隠し撮りするんだ」
会議はにわかに盛り上がった。
皆一丸となってプロジェクトのために力を注いでいる。
そんな彼等の背後、レムは完全に脱力していた。
「お前等、完全に目的を間違えているぞ」
ヨツバの発展のための殺人プロジェクト、それが今ではキララファンクラブに成り下がっていることに8人は誰も気がついていない。