「アムリッツア星域会戦」

イゼルローン要塞の無血占領という勝利に酔った同盟軍は無謀にも帝国への侵攻を決断した。
しかし、それは死への大行進であった。


補給線を絶たれ窮地に陥った同盟軍を殲滅すべく帝国軍は一気に反撃に転じた。
帝国の名将達に追い回され同盟軍は次々に壊滅していく
ようやく兵力分散の愚かさに気がついたロボス元帥はまたも愚かな命令をくだした。
アムリッツア星域に全ての残存兵力を集結すると。
今やそれこそが困難であり、ラインハルトの思う壺だったわけだが。



逃げ惑いながらも同盟軍はアムリッツアへと向かった。
ヤンウエンリー率いる13艦隊も善戦を続けたがいかんせん、絶対数が違いすぎる、
完全な負け戦の中、それでもヤンはチャンスを探した。


完全な勝ち戦、その油断がビッテンフェルト提督の先行を許したその時、ヤンはその一瞬の隙を逃がさなかった。
「今だっ全砲門 背後の中域で回頭する黒い艦隊を撃て」
ヤンの指示と同時に砲撃がビッテンフェルト艦隊を襲った。


ラインハルトフォンローエングラム、帝国軍の総大将は怒りと屈辱に身を震わせていた。
完全な勝利のはずであった。だが・・・・
「ビッテンフェルトは失敗した、ワルキューレを出すのが早すぎたのだ」
「彼の手で勝利を決定づけたかったのでしょうが」
隣からのオーベルシュタインの進言も耳には入らない。
その時、ビッテンフェルト艦隊からの援軍の要請が入った。
「援軍っ援軍だとっ」
ラインハルトは怒りに顔を歪めた。
「私が艦隊の湧き出す魔法の壷でも持っていると思うかっ」
壮絶な立腹ぶりに周囲の幕僚は言葉を発することが出来ない。
「私が持っているのはヤンウエンリーへの愛が湧き出す魔法の壷だけだっ」
ラインハルトは怒りに我を忘れているようだ。
「その壷はヤンが私にかけた魔法によるものっさすがミラクルヤン。私が完璧な勝利を手に入れようとするとき現れる魔法使いっその魔法に私は囚われ愛の壷まで心に持つようになってしまった。いや、愛の壷ではない、愛の泉だっ枯れることの無い純愛の泉っ」


30分後、


「それにしてもあの代13艦隊の動きはさすがヤンウエンリーだ、すばらしい、私の花嫁(予定)」
ラインハルトの怒りはまだ収まっていなかった。
否、怒りからいつのまにかのろけになっていた。
皆、誰もラインハルトの暴走を止めることは出来ない。
そんな時、オーベルシュタインが無表情で口を開いた。
「しかしこのままではわが軍の被害も無視できないものとなります」
冷静に現状を進言してくるオーベルシュタイン
だがそれがラインハルトには不服であった。
言っていることは正しいが・・・・
やはり彼はキルヒアイスとは違う。
もしキルヒアイスだったらこういう時、「さようでございます、ラインハルト様」と合いの手をうってくれるだろう。
そしてラインハルトにもっとも適した進言をしてくれるはずだ。
「一刻も早く勝利を掴み、花嫁を迎えにまいりましょう、ラインハルト様」
キルヒアイスのその一言がラインハルトを勇気付け、更にテンションを上げてくれるのだ。
オーベルシュタインは冷静さがいいところだがつっこみとしてはまじめすぎる。
そう考えるとラインハルトはキルヒアイスの合いの手が聞きたくなった。
「・・・キルヒアイスはまだか?」
「は?ご心配ですか 」
オーベルシュタインが生真面目に問い返してくる。
「心配などしていない、確認しただけだ」
そう言い放ちながらもラインハルトは不完全燃焼ののろけに大変不満足であった。


やっぱハルルンの相方はキルヒアイスよね、という話