「アニメ、嵐の前」

宇宙暦797年
帝国暦488年

この年の幕開けは一見平凡そうである。
しかし誰もがすぐ後に来るであろう嵐を予感せずにいられない。


ここは帝国領のとある公園 ベンチに腰掛けているラインハルト 傍に控えているキルヒアイス
「あれが成功すればヤンウエンリーはイゼルローンから出てこれなくなる」
 捕虜交換の折、リンツをスパイとして送り込み同盟に反乱を起こす。
 それが今回の作戦である。
 ラインハルトはふふんと鼻を鳴らした。
 そんな姿も様になるローエングラム候はいまや飛ぶ鳥を落とす勢いの元帥閣下。
「ところでどんな男であった?ヤンウエンリーとは?」
 昨日行われた捕虜交換。
 イゼルローンの捕虜と同盟の捕虜の交換式にキルヒアイスは出席したのだ。
 ラインハルトは目を輝かせてキルヒアイスに問いただす。
「はい、正直掴みかねております。恐ろしいほどに自然体で懐ふかく、おそらく今回の作戦も見抜いているのかと」
「なに?では何故こちらの策に乗るのか?」
「わかりません、何か手を考えているのか、いかなる状況からでも逆転できる自身があるのか しかしそのあたりがヤン提督の人となりの深さかと」
「・・・・・」
「いずれにせよ敵としてこれほど恐ろしい相手を知りません。しかし」
「しかし?」
「友と出来ればこれに勝るものはないかと」
「ヤンウエンリーか、逢ってみたいものだ」
 キルヒアイスの言葉にラインハルトは悔しそうな顔をした。
「本当は俺だってヤンウエンリーに会いたかった、捕虜交換式に出たかった」
 でもラインハルトは一応元帥閣下
 帝国軍のトップなのだ。
 そんなに簡単に捕虜交換式に出ることは出来ない立場である。
「ずるいぞ、キルヒアイス、余よりも先にヤンウエンリーと対面するなど」
 怒りをあらわにするラインハルト
「ラインハルト様は帝国軍の元帥閣下でいらっしゃいます。捕虜交換式など気軽に出席されては格が下がります」
 控えめだがしっかりと忠言するキルヒアイス。
「だが、俺もヤンウエンリーに会いたかった」
 権力を手に入れるということは自由を奪われるということか、
 肩を落とすラインハルトをキルヒアイスが慰める。
「ヤンウエンリーも閣下にお会いしたいと言っておりました」
「本当かっキルヒアイス」
「私は嘘は申しません、ラインハルト様」
 そしてすかさず手元からテープレコーダーを取り出すキルヒアイス。
 そこには、盗聴により手に入れたユリアンとヤンウエンリーの密談?が記録されていた。
「会ってみたくなったな、ローエングラム候ラインハルト」
 ヤンは言った。確かにそう言った。


「そうか、俺に会いたいか、、ヤンウエンリー」
 そのテープを聴いて機嫌が良くなるラインハルト
 すかさずキルヒアイスが進言する。
「そうです。ヤンウエンリーは閣下に興味を抱いております」
「では、早速会って交流を深めたほうがいいのではないか?」
 ラインハルトの言葉にキルヒアイスは首を振った。
「いえ、それよりもラインハルト様が宇宙の覇者になった時にお会いしたほうがインパクトがあります」
「そうか?」
「そうです、それまでは会わず、ヤンウエンリーの興味と好奇心をひきつけておくことが肝要かと思います。」
「うむ、そう言われればその方が良いような気がしてきたぞ」
 考え込むラインハルト
 すかさず耳元でキルヒアイスが囁いた。
「これが焦らしのテクニックでございますよ、ラインハルト様」
 


その瞬間、ラインハルトは立ち上がった。
秀麗な美貌は興奮で薔薇色に染まり、豪奢な金髪は決意で逆立っている。
 全身からオーラが滲み出ているラインハルト、さすが宇宙の覇者(予定)
「キルヒアイスっ俺は一刻も早く宇宙を手に入れる。反乱軍を鎮圧し同盟を手に入れヤンウエンリーを手に入れる」
「さすがです。ラインハルト様」
「宇宙を手に入れるまではヤンウエンリーに会うまい、そして、宇宙の覇者になったその時こそヤンウエンリーを迎えに行く」
「ご立派なお覚悟です、ラインハルト様っ」
 横で拍手しながらキルヒアイスは一冊の本を謙譲した。
「ラインハルト様、これは捕虜交換式のお土産でございます」
 クワッラインハルトの目が輝く。
「こっこれは」
「同盟で発刊されているヤンウエンリー写真集でございます」
「でかしだぞ、キルヒアイス、さすが俺の親友だ」
「恐縮です、ラインハルト様」

 こうしてラインハルト(主君)とキルヒアイス(部下)の宇宙簒奪計画はちゃくちゃくと進行していくのであった。