第6話 薔薇の騎士より抜粋


 難攻不落のイゼルローン要塞の攻略は新たに結成される第13艦隊の司令官としてヤンウェンリーに与えられた最初の命令であった。


 自由惑星同盟の首都、ハイネセンポリスは清々しい朝の空気で包まれている。
 その一角にヤンの官舎もあった。
 朝10時30分
 リリリリリッ
 軽やかな目覚ましベルの音が響く。
「ううーんっ」
 ベットの中から手探りでベルを止め寝なおそうとした時、部屋に入ってきた被保護者が声をかけた。
「あーあ、やっぱりまだ寝てる、起きてください、ヤン少将」
 ユリアンはうきうきとヤンの毛布をひっぺがそうと手を伸ばした。
「ううーんっユリアン、もしも、もしもだ、私が最高評議会に当選したらまず最初に朝の転寝を邪魔する奴を重罪にする法律を作る事にする」
 可愛らしいヤンの言い分にユリアンは頬を緩めた。
 ヤンは知らないのだ。
 本当はもっと早くに起こさなければいけないのにユリアンが黙っているのは朝の転寝を堪能してもらうため。
 休日なら思う存分転寝してもらうから起きるのが12時過ぎる事もある。
 ヤンの転寝はユリアンにとっても幸せな一時だった。
 寝ているヤンの可愛いお顔をじっくりと堪能出来る。
 時々寝言なんか言っちゃう姿を見れるのは同居人の特権。
 長い睫毛がぴくぴく震えるのも見れる。
 熟睡している時は目覚めのキスなんかもしちゃえるのだ。
(ヤンは気がついていないが)
 しかし今日はヤンに朝の転寝を堪能していただく訳にはいかない。
 ユリアンとて残念だが仕方ないのだ。
 だって今日は
「急がないと大事な行事に遅れますよ」
「大事な行事?」
「お忘れですか、第13艦隊の結成式です」
「ああっ」
 寝ぼけ眼でヤンが飛び起きる。
 実はユリアンはこのびっくり顔も大好きだ。
 根乱れた髪、乱れて外れたシャツの隙間から見える肌にどきどきしてしまう。
 慌てて準備をするヤンも一見の価値がある。
 どれもこれもユリアンにしか見れないお宝シーン
 しっかりと眼に焼き付けながら急ぐヤンのために礼服を用意してあげた。
 もちろん着替えのお手伝いも同居人の特権である事は言うまでも無い。
 ヤンを見送りながらユリアンはちょっと考えた。
 焦る少将も可愛いけど一番は朝のちょっとだらしない寝顔。
「明日は思う存分朝寝坊させてあげよう」
 そう呟くユリアンミンツ、彼は誰よりもヤンの転寝を愛する性少年であった。