「第十三艦隊誕生2」


自由惑星同盟の首都ハイネセンポリス
そこから100キロほど離れたここ、同盟軍統合作戦本部ではこの日アスターテ会戦戦没者の慰霊祭が行われていた。

 

アスターテ会戦の 功労者でもあるヤンウエンリーは慰霊祭を仮病で欠席し、家で不貞寝を決め込みながら慰霊祭の放送を眺めていた。
トリューニヒト国防委員長の美辞麗句にうんざりしていたその時、画面に一人の女性が現れた。
喪服に身を包んだ金髪の女性は通路から壇上に向かって問いかけた。
「国防委員長、私 はジェシカエドワーズと申します。アスターテ会戦で戦死した第六艦隊幕僚ジャンロベールラップの婚約者です、いいえ、婚約者でした」
「それは・・・それはお気の毒です、しかし」
トリューニヒトの言葉をさえぎるようにジェシカは言った。
「いたわって頂く必要はありません、私の婚約者は祖国を守ってあなたのおっしゃる崇高な死をとげたのですから」
「そうですか、いやあなたは銃後の婦女子の鑑ともいうべき方だ」
「ありがとうございます、私はただ委員長にひとつ質問を聞いていただきたくてまいったのです」
「ほう、それはどんな質問でしょう、私が答えられるような質問だといいのですが」
ジェシカはキッと壇上の男をにらみつけた。
「あなたは今どこにいます?」
「は?なんですと?」
「私の婚約者は祖国を守るため戦場にいき、現在はこの世のどこにもいません、委員長、あなたはどこにいます?戦死を賛美するあなたは今どこにいます」
「お嬢さんっ」
「あなたのご家族はどこにいます?私は婚約者を犠牲にささげました、それなのに国民の犠牲の必要を説くあなたのご家族はどこにいるの?あなたの演説はそれらしく聞こえるけれど御自分はそれを実行しているのですか?」
ジェシカの追求はするどく、トリューニヒトはそれに答えることなく衛兵に命令した。
「警備兵、このお嬢さんは取り乱しておられる、別室にお連れしろっ」
駆け寄った兵士にジェシカは連れて行かれた。
その映像を見てヤンは慌て立ち上がった。丁度アッテンボローからも連絡が入る。
「あのままじゃジェシカさんがあぶないっ」
アッテンボローもヤンと同じ結論に達したようだ。
「トリューニヒトが黙っていても憂国騎士団の連中が黙っていないだろう」
ヤンの言葉にユリアンが首をかしげた。
「憂国騎士団?」
「過激な国家主義者の集団さmトリューニヒトの影の軍隊とも言われている」
アッテンボローが変わって答える。
「車で出ます、途中でひろいますから待っていてください」
「すまない、頼む」
ヤンも大きくうなずいた。



慰霊祭の会場を後にしたジェシカは夕暮れの中、一人歩いていた。
「自由の国・・・自由惑星同盟」
力なき呟きはなんとむなしいことだろう。
ジェシカが誰もいない本部前を歩いていたその時である。
背後から足音が聞こえた。
いやな気配を感じ、ジェシカは足を速める。
あたりには誰もいない。
見晴らしの良い本部前の公道でジェシカは男たちに取り囲まれた。
ザッザッザッ
足並みを揃え、軍隊のように整列してやってきた男たち
彼らは用兵のごとく武装をし、赤い頭巾と白いガスマスクを付けている。
まるで地獄の兵士のごときその様相にジェシカは悲鳴を上げた。
「憂国騎士団っ」
20名はいるだろうか。
彼らはジェシカを取り囲んだ。
「貴方の境遇には同情を禁じえない。しかし先程の態度は国家に対する自己中心的な反逆であり、我々憂国騎士団にとって制裁、粛清に値する行為である」
憂国騎士団のリーダーがジェシカを断罪する。
「ああっ」
後ずさるジェシカを取り囲み、その包囲網を縮めていく憂国騎士団
その時である。 


キキーッ
激しい音と共に一台の車が走りこんできた。
ジェシカを取り囲む憂国騎士団をなぎはらうように現れたリニアモーターカーのドアが開く
「ジェシカッ早くっ」
ドアから現れたのはヤンウエンリーであった。
「ヤンッヤンウエンリーだ」
憂国騎士団が目の色を変えた。
一斉に車に向かって突進する。
そして声高に叫んだっ


「ヤンウエンリーっサインしてください」
「ファンなんですっ俺もサインをっ」
「俺もっ俺のほうが先だっ」
「一緒に写真とらせてくださいーっ」
各自手元に握っていた棍棒にサインしてもらおうと詰め掛ける。
それよりも早く、車はジェシカを乗せ走り去った。
車に逃げ込んだジェシカは呆然と・・・小さな声で呟いた。
「憂国騎士団・・・までもがあなたのファンだったのね、ヤンウエンリー」
「私も・・・・知らなかった」
ヤンはひきつった苦笑を返すしかなかった。

 




肩を落としそれを見送る憂国騎士団
「あーあっ行っちゃったよ」
「俺、生のヤンヤン見るの初めてだよ、感激したーっ」
「サイン欲しかったなあ」
「誰か写真撮らなかったのかよ?絶好のチャンスだったのに」
「取れるわけないだろ、棍棒もってんだから」
実はここだけの話、憂国騎士団はヤンのファンが多いのだ。
国を愛する憂国騎士団は当然国のアイドルヤンウエンリーも愛していた。
がっくりと肩を落とす憂国騎士団。
そんな中、一人のメンバーが呟いた。
「俺、ヤンヤンの住所知ってるんだよな」
「えっマジっアイドルの住所は同盟軍でもトップシークレット、トリューニヒト委員長ですら知らないのに」
「シルバーブリッジ街24番地だって、近所のスーパーでヤンヤン見かけたってこの前ヤンおたチャットで流れていたんだ」
「マジッ?いってみたいな」
「俺もっ会えなくても家見るだけでもいいっ」
「もし会えたらサインしてくれないかなぁ、ヤンヤン」
「ガセでもいいじゃん、行ってみようぜ、シルバーブリッジ街」
「高級住宅街だけど、俺たち浮かないかなぁ」
「大丈夫だって、俺たち憂国騎士団だもん」
一致団結する憂国騎士団
目的を共にする者は強い!!



こうしてヤン家、シルバーブリッジ街24番地 はヤンのおっかけ憂国騎士団に襲撃されたのであった。