「アニメ、嵐の前」

宇宙暦797年
帝国暦488年


この年の幕開けは一見平凡そうである。
しかし誰もがすぐ後に来るであろう嵐を予感せずにいられない。

 

 


 司令室で捕虜交換のためイゼルローンにやってきた帝国軍のモニターを見るユリアン、フリデリカ、ポプラン、シェーンコップ
 画面にはジークフリード キルヒアイス上級大将が写っている
 ユリアンは画面を見ながら素直な感想を述べた。
「ハンサムな人ですね」
「そうね、中々の好男子ね」
 フリデリカも同意し、ポプランがそれを茶化す
「まあローエングラム候には叶わないだろうけど」
 その台詞にシェーンコップはにやりと笑った。
「そうだな、後10年も過ぎて人格に深みと成熟さを増したら俺の対抗馬になるかもしれんな」
 だがまだ俺様の敵では無いと言い放つ。
 さすがは色事師シェーンコップ
「すごい、僕と6つしか違わないのに」
 ユリアンは尊敬のまなざしで画面を見詰めた。

 

 


数刻後、ここはイゼルローン捕虜交換式会場
キルヒアイス上級大将と我らがヤン提督は壇上で調印、書類を交換して握手、カメラが炊かれる手順である。
「素敵ね」
 周囲の女性からキルヒアイスへのため息が漏れる。
「可憐だ」
 周囲の男性からヤンへの野太いため息が聞こえる。
 そんな中、二人はサインをする。
「形式というのは必用なものかもしれませんが馬鹿馬鹿しいものですね」
「同感です」
 苦笑するヤンにキルヒアイスは書類を渡した。
「これは?」
 まだ何かサインするものがあっただろうか?
 首を捻るヤンウエンウエンリーにキルヒアイスは言う。
「ローエングラム候からです」
 耳元で囁かれヤンは緊張に身を固くした。
 何かの密書なのだろうか?
 開いてみるとそれはお見合いの釣書
 何か見覚えがあるような無いような・・・
「・・・これは?」
 キルヒアイスが頷く
「そうです。以前電文と一緒にお送りしたものです」
「・・・はあ」
 だからこれ、貰っても困るんだけど
 頭をかくヤンにキルヒアイスが進言する。
「こう言ってはなんですがうちのラインハルト様は中々お買い得です」 
 だから何故、それをこの場で言うんだ?
 ヤンが逃げられない状況でこれを言うキルヒアイス上級大将・・・策士だ。
「顔も財力も帝国一、才能も将来性も宇宙一です」
 顔を引きつらせるヤンウエンリー
 迫ってくるキルヒアイス。
「性格は良い・・・・と申しますかいい性格をしているというべきか」
 硬直するヤンの手を掴みキルヒアイスが説得にかかる。
「とにかくヤン提督を幸せにする自信は有ると言っておりました」
 逃げたい、でもキルヒアイスは強引で手を離してくれない。
 傍目には握手しているように見えるのだろうか?
「ラインハルト様は宇宙の覇者となる御方です。近い将来帝国を平定し、同盟と和平を結んだ暁にはヤン提督を皇紀として迎え入れる心積もりです」
「・・・・」
 沈黙するヤンウエンリー。
 心無し青ざめたその耳元でキルヒアイスが囁いた。
「返事は急ぎません、ラインハルト様が宇宙の覇者となられたその時、お迎えにあがります」
 微笑むキルヒアイス上級大将
 ひきつるヤン提督
 二人はがっちりと握手を交わし(無理矢理だが)その瞬間カメラは一斉にフラッシュを炊いた。

 

 壇上から降りたキルヒアイスは一人の青年に目を留めた。
 彼は確か、ユリアンミンツ
 キルヒアイスは微笑みを浮かべるとユリアンに話しかけた。
「君は幾つになりますか」
「今年15になります」
 緊張しながら返答するユリアンにキルヒアイスは深い笑みを浮かべた。
「15歳といえばもう大人ですね、ではお義父さんの結婚を応援してあげてください」
「・・・・え?」
「二人の幸せを認めてあげてください」
 キルヒアイス上級大将はそれだけ言うと爽やかな笑みを浮かべ去っていった。

 

 

 その頃、モニターを見ながらシェーンコップが爆発していた。
「あいつは敵だ、俺の敵だ」
 怒り狂う不良中年、もちろん純情青年ユリアンやダブルエース、そばかす提督、イゼルローンの同盟軍全員が憤慨していたことは言うまでも無い。