「査問会の憂鬱」


ヤンウェンリーの査問会は頻繁に行なわれる。
いくら目の上のたんこぶであろうとも 同盟のマジシャンと呼ばれる稀代の英雄を排除することは出来ない。
その憂さを晴らそうと政府高官はやっきになって査問会を開きヤンを召集するのだ。
ヤンウェンリーがこれほどまでに嫌がらせを受けるのは彼の人柄にある。
権力者に媚びず、己の信念を曲げない。
聞こえはいいが政府にとって非常に使いずらいやっかいな危険人物なのだ。
本来ならば僻地へ飛ばし閑職にまわしたいところだがそうはいかない。
彼は同盟至上類を見ない名将であったのだ。
ひょうひょうとした風貌とは裏腹にその戦果は素晴らしい。
彼を疎む政府ですら認めずにはおれないほど。
ヤンがいなければ同盟はとっくに帝国の属領となっていただろう。
その自覚があるから政府は彼を退けることが出来ない。
しかし、ヤンが政府に向けるあからさまな嫌悪は彼の能力を差し引いたとしてもプライドの高い政府高官には我慢ならないものであった。
だからヤンは頻繁に呼び出されるのだ。
そして実質何の権限も無い査問会に呼び出され嫌味と嫌がらせを受けるのであった。



査問会は密室で行なわれる。
中央に当事者であるヤンウェンリー
それを取り囲むように円形に議員が座っている。
議員の席は高いところに添えられているためヤンを見下ろす形になるのは、威圧感を与えるための演出だろう。
だがそんなこけおどしはヤンに通じない。
相変わらず東洋系特有の読めない表情で立っている。
ヤンは席に座ることを許されなかった。
「ヤン提督、今回の呼び出しは君に不本意な疑惑がかかっているからだ」
議長のいたぶるような声にヤンは無表情で答えた。
「何の疑惑が説明を願います」
「麻薬だよ、イゼルローンに サイオキシンが出回り往行しているという情報が入ったのだ」
「どこからの情報か説明を願います」
「さる筋だよ、しかも司令官本人がサイオキシンの中毒者だという 情報も聞いておる」
「冤罪です。さる筋という情報元の提示を願います」
「それは出来ない。情報提供者の安全は確保されなければいけない」
議長はねちねちといたぶってくる。
ヤンは起立したまま整然と答えた。
「根も葉もない中傷で私をイゼルローンから呼び寄せたということですか?」
「根も葉もないかはこれから調べさせてもらおう」
舌なめずりするような声にヤンは眉を潜めた。
議長だけでない。
周りを囲む中年議員の誰もがヤンの全身を嘗め回すように観察している。
議員という皮を被った男達のいやらしい視線にヤンは身を震わせた。
「私に麻薬中毒の疑惑がかかっているというのなら血液検査で証明されたでしょう」
ヤンは査問会の前に検査を受けさせられていた。
「もちろん、だが検査には時間がかかるからね、結果が出るまでの間君の弁明を聞くとしよう」
「私に弁明の必要はありません。冤罪ですので」
「頑なだね、ヤン提督。史上最年少の提督だからといって図に乗っているのではないかな」
「君がイゼルローンで専制君主のように振舞っているという情報も入っているぞ」
「問題だな、これは」
議員達がヤンを貶める言葉を口にする。
だがヤン はそのような誹謗に傷つかなかった。
「結果が出るまで査問会の延期を要望します」
「それは出来ない、君は立場を自覚したまえ」
議長はねぶるような視線をヤンに向けいやらしく笑った。
「結果が出るのは先だが、もっと簡単に分かる方法がある、ヤン提督はなにやらお急ぎのようだからな」
議長が指示すると黒い大きなドーベルマンを引き連れたベイ准将が現れた。
「これは優秀な麻薬探知犬だよ、知っているだろう、ヤン提督。君の嫌疑は犬の嗅覚ですぐに解明されるだろう」
いやらしい笑い声が周囲から降り注ぐ。
査問会という名の嫌がらせにヤンは耐えるしかなかった。


ああ、エッチまでいかなかった。続きは書きます。皆様の予想通りの展開です、変態です(笑)