「LOST10」


「なあヤン、お前最近二年のアッテンボローと仲が良いな」
 親友のラップに声をかけられヤンは頷いた。
「ああ、後輩だけど頭はいいし気もいい奴だよ」
 無難な答えを返すヤン。
「そうらしいな、人気者だって話だ。なんでそんな奴と知り合ったんだ?」
「偶然私の読みたい本を彼が持っていて貸してくれたんだ」
 門限破りの事をいう訳にもいかない。
「ふうん、そうなんだ。良い後輩が出来てよかったな」
 世間話の延長といった会話だった。
「その後輩、女関係も派手みたいだな」
 ラップがそう言ったのは他意があってでは無かった。
 話の流れから口に出ただけだ。
「そうなのか?」
「噂だけど案外当たっているかもよ、先週クリスティーナ嬢とデートしていたってみんなが騒いでいた」
「・・・そう」
 クリスティーナは士官学校一の美女だ。
 確か先週末、アッテンボローは用事があるといってヤンを誘わなかった。
 家に帰宅したのだと思っていたけれど・・・
「先月は街で評判の美少女アニーとデートしていたらしいし、全く男として羨ましいよな」
 そこまで言ってラップは親友の表情が暗いのに気がついた。
「まあ気にするなよ、ヤンだっていい所がいっぱいあるさ。すぐデートしてくれる子が見つかるよ」
 見当はずれの慰めをラップは言ってくる。
「どうせならアッテンボローに誰か頼んだらどうだ?良い奴なんだろう、きっとヤンに似合いの可愛い子を紹介してくれるぜ」
「・・・そうだね」
 ヤンは切なさを隠して笑って見せた。
 ラップに聞かされるまでも無くアッテンボローの女性関係は耳に入っていた。
 噂に疎いヤンにまで届くのだ。
 周知の事実なのだろう。
 ヤンは小さくため息を付くしかない。
 アッテンボローはあれだけ魅力的なのだ。
 女が放っておかないのは分かっている。
 彼は優しいから慕ってくる女の子を無碍に出来ないのも判る。
 自分達は男同士なのだから嫉妬するのは筋違いなのも分かっている。
 でも切ない気持を抑えられなかった。
 ヤンはアッテンボローが好きだ。
 愛しているとさえ思っている。
 でも、抱かれる度に感じるのだ。
 自分の思いと相手との温度差を。
 アッテンボローはヤンを好きだと言ってくれる。
 だがそれは他の人間にも与える言葉。
 寄って来る女の子に彼は言う。
 可愛いね、好きだよ。
 綺麗だね、好きだよ。
 社交辞令なのかもしれない。
 本気なのはヤンに対してだけだと思いたい。
 実際、二人で会っている時アッテンボローはどんな美女に声をかけられても振り向きもしなかった。
 ヤンだけを見て大切にしてくれる。
 彼を信じなければ。
 アッテンボローは少々軽薄な所があるがそれは若さゆえ血気盛んなだけだ。
 第一あんなにもてるのに男の自分を選んでくれたのだ。
 選り取り見取りで男に声をかける必要など無いのに、
 同性愛者じゃないのにヤンを好きだと言ってくれたのだ。
 浮ついた気持で好きだと言っているのでは無い。
 本気で思ってくれているに違いない。
 ヤンは身体で感じる温度差を無理矢理無視した。
 心の中で彼を思った。
 信じるんだ。
 生まれて初めて自分を好きだと言ってくれた相手を。
 世界で唯一自分を愛してくれた相手を。