「LOST12」


 クリスティーナとは三回デートした。
 気をつけていたつもりだったが二人とも有名人だ。
 すぐに士官学校中の噂となる。
 やっかみと嫉妬の視線が痛い。
 うざく思いながらも男の勲章でアッテンボローは鼻高々であった。
 そんな彼に一人の上級生が絡んできた。
「お前がダスティ アッテンボローか」
 憎々しげに声をかけてきたのはマルコム ワイドホーン
 4年生で学年主席
 士官学校始まって以来の秀才と名高い先輩だ。
 クリスティーナはアッテンボローの前、ワイドホーンと付き合っていたのは周知の事実だ。
「俺とシュミレーションで勝負しろよ、後輩」
 ワイドホーンの考えは分かっている。
 アッテンボローをこてんぱんにしたいのだ。
 私闘は禁じられているからシュミレーションで恥をかかせたいのだ。
「いいですよ、先輩」
 アッテンボローはにやりと笑い立ち上がった。
 ワイドホーンと同様、アッテンボローも学年主席を誇っている。
 特に艦隊運用のシュミレーションはトップの成績だ。
 負ける気は無い。
 反対にワイドホーンに赤っ恥をかかせてやるつもりだった。
 二人の対決に野次馬が集まる。
 大勢に囲まれ、二人は放課後シュミレーションで勝負した。

 結果はアッテンボローの惨敗であった。
 艦隊運用の動きはどちらも優れていたがワイドホーンの方が経験が多い。
 その差が明らかに出た。
「女に鼻の下伸ばしている暇あったら勉強しろよ、後輩」
 馬鹿にしたようにワイドホーンが言う。
 アッテンボローは屈辱で赤くなったが言い返せなかった。
 負けたのは事実なのだから。
 最悪なのはその後であった。
 クリスティーナはアッテンボローに見向きもしなくなった。
「私、優秀な男が好きなの」
 ワイドホーンに負けたアッテンボローはもう興味の対象では無いという事だ。
 彼女がアッテンボローに声をかけたのは主席だったから。
 一部ではワイドホーンより優秀だと噂されていたから。
 クリスティーナにとって主席の男と付き合うのは自分を輝かせるためのアクセサリーでしか無かった。
 アッテンボローに興味があったのでは無かったのだ。
 悔しい。
 今まで順風満帆だったアッテンボローにとって唯一の汚点となったシュミレーション。
 だが報復する術が無い。
 普通考えれば二年年上の先輩に負けても恥では無いのだが、プライドの高いアッテンボローは屈辱しか感じない。
 クリスティーナとの事も敗北感を増長する。
 アッテンボローは八つ当たり気味にヤンを呼び出して抱いた。
 誰か気の置けない人間に当り散らして慰めてもらいたかったのだ。
 その相手にヤンを選んだ事、ヤン以外の人を思いつかなかった事の意味をアッテンボローは深く考えなかった。