「LOST13」


 テルヌーゼンの裏道にある安いラブホテル。
 夕食も取らず連れ込みアッテンボローはセックスに明け暮れた。
 いつもよりも手荒い扱いだがヤンも答えてきた。
 一心地ついた後、ルームサービスで取ったまずいピザを二人で食べる。
 もそもそするそれをビールで流し込む。
 美味しくない。
 クリスティーナと食べた高級料理を思い出す。
「先輩、今度もっと美味い所いきましょう」
 あんな女に大金を払ってしまうぐらいならヤンに美味しいものを食べさせてやればよかった。
 そう考えながら何時の間にかアッテンボローは自分の中の苛立ちが消えている事に気が付いた。
 目の前の先輩が受け止めてくれたからだ。
 妙に優しくしてやりたい気分になった。
 アッテンボローは口の端にケチャップをつけたヤンにキスを仕掛ける。
「ごめん、先輩、今度は優しくするから」
 もう一度、
 押し倒してくるアッテンボローにヤンは苦笑しながら体を開いた。

 ベットの中でまどろむ時間は気持良い。
 たわいもない話をしながら門限までの一時を楽しむ。
 その話が出たのは偶然であった。
 ヤンの成績が芳しくなく留年の瀬戸際だという話の流れであった。
「教授に救済策を貰ったんだけど、これがねぇ」
 困った顔をするヤンから無理矢理聞き出す。
「4年の主席と戦略シュミレーションをしろと言うんだ。結果次第では留年を譲歩してくれるそうだ」
「主席ってワイドホーン?」
「うん、私が主席に勝てるわけ無いのに、教授曰く負けても内容によっては考えてくれるって」
 アッテンボローもこの案には笑ってしまった。
 自分でも勝てなかった相手におちこぼれのヤンが勝てる訳が無い。
 だがヤンまで負けるのはつまらない。
「先輩、初めから負けると決め付けないで本気でやってくださいよ」
「私は何時も真剣だよ、アッテンボロー」
 成績の方が私の努力に答えてくれないだけさ。
 笑うヤンにアッテンボローは真剣な眼差しを向けた。
「先輩は歴史の本いっぱい読んでいるじゃないですか、古来からの戦闘方法とか知っているでしょう。それを生かせばいいんですよ」
「そう簡単に言うけどね、昔とでは武器も兵力も違いすぎる、あまり参考にはならないけどね」
 それにそんな奇抜な策を使っては返って評価を下げてしまうよ。
 ヤンは今まで教科書に乗っている定石しかシュミレーションに活用していなかった。
 一度思うとおりに艦隊を動かしてみて、勝利したけれど教授からは怒られたから。
 本当の戦争ではこんな奇策は通用しない。もっと常識に乗っ取った作戦を立てろと。
 あまりのくだらなさにヤンはそれから真剣になることを止めてしまった。
 その事を見透かすかの様にアッテンボローはヤンを焚き付ける。
「先輩も聞いているでしょう、俺ワイドホーンに艦隊運用シュミレーションで惨敗したんですよ」
「うん、聞いているけど、ワイドホーンは二年も先輩なんだからアッテンボローが自分を卑下すること無いよ」
「でも悔しいです、仇とってくださいよ」
「なんだい?それ」
 ヤンは笑って取り合ってくれない。
 アッテンボローは甘える様にヤンに抱きついた。
「まあ仇とかっていうのは冗談ですけど、俺、先輩が本気になったところを見てみたいんです」
 ごろごろとなつきながらおねだりする。
「一度でいいから、俺のために真剣になって」
 ヤンは膝に懐いて来る鉄灰色の頭を撫でながら優しく呟いた。
「そうだね、君がそう望むのならがんばってみるよ」