「LOST16」

卒業式の日は雨だった。
 あいにくの天気だがそれを吹き飛ばすように学生は羽目を外している。
 パーティーは16時から始まる。
 アッテンボローはヤンと15時に街の広場で約束をしていた。
 学校の中で落ち合うと周りがうるさいからだ。
 アッテンボローが一張羅を着てこっそり寮を抜け出そうとした時、悪友に見つかってしまった。
「どこいくんだよ、ダスティ、そんな格好して」
 パーティーは制服が基本だ。
 私服のアッテンボローは脱走するのがばればれである。
「なんだよ、また誰かとデートか?」
「卒業パーティーの日くらい大人しくしろよ」
 アッテンボローは苦笑いするしかない。
「どうせ俺達は主賓じゃないからな、欠席しても問題無いし」
 そう言うと仲間も苦笑する。
「そうだよなぁ、どうせ美人や可愛い子は卒業生が持っていっちゃっているし」
「そういやクリスティーナ嬢、ワイドホーンのパートナーだって、羨ましい」
「ステラも俺を振って先輩のパートナーしているぜ」
「そりゃあお前より先輩の方がいいだろうって」
 げらげら笑う悪友に付き合いながらちらりと時計を見る。
 もう14時30分だ。
 今出ないと間に合わない。
 そんな時、仲間の一人が言った。
「憧れのジェシカ エドワーズ嬢も今年の卒業生のパートナーなんだってさ」
「ええっあの校長の娘さん?羨ましい、すごい美女なんだよな」
「俺憧れていたんだよ、誰だ?相手は」
 一気に場が盛り上がるのをアッテンボローは焦りながら聞いていた。
「なんだっけ?ほら、ワイドホーンより優秀じゃないかって言われていた奴」
「そんな奴いたっけ?」
 アッテンボローの脳裏にヤンの姿が浮かぶ。
「さっき二人を見かけたけど、ありゃあ全然つりあってないな」
「さえない奴だったぜ、ジェシカ嬢には相応しくない」
「でも仲よさそうだったな」
「なんでも直前にジェシカ嬢から誘ったらしい。羨ましいな」
「彼女から誘われたら断れないよなぁ」
 ヤンの事だ。
 アッテンボローは頭に血が上るのを感じた。
 怒りが全身を駆け巡る。
 落ち着け。
 アッテンボローは大きく息を吐くと悪友から離れ携帯の番号を押した。
 先輩は俺と約束しているんだ。
 ジェシカエドワーズとパーティーに出席する筈が無い。
 三度ベルを鳴らした所でヤンが電話に出る。
「先輩っ今どこにいるんです?」
「ああ、アッテンボロー、丁度良かった、私からも連絡を入れようと思っていたんだ」
「なんですか?」
 声が強張る。
「すまない、約束通りいけそうにないんだ」
 背後で誰かの声が聞こえる。
 女の声だ。
 どうしたの?ヤン、何か問題?
 ああ、なんでもないよ、ジェシカ
 ヤンが答えるのが聞こえる。
「本当にごめん、用事を済ませたらすぐに行くから」
 怒りでアッテンボローの頭が沸騰する。
 普段の彼ならばこんな事くらいで怒らなかった。
 何か間違いだろうと考えてみる余裕があった。
 ヤンに事情を聞くくらいの事は思いついただろう。
 なのに、この時アッテンボローは今までの人生で一番怒っていた。
 我を忘れる程キれてしまった。
 先輩は俺よりもジェシカを選んだのだ。
 パーティーに二人で出席するつもりだ。
 馬鹿にしやがって。
 何故こんなに怒ったのか後で冷静になれば分かる。
 しかしこの時、アッテンボローは自分を制する事が出来なかった。