「LOST20」

 一年後
 士官学校でアッテンボローは優秀な成績を収めた。
 入学以来主席を維持している。
 入った頃はやんちゃで門限破りの常套犯だったが3年になりすっかりと落ち着いた。
 派手だった女遊びもしなくなった。
 真面目になったアッテンボローは教授の覚えも良い。
 昔の悪ガキぶりは見る影も無くなった。
 あれは一時の麻疹のようなものだ。
 プライドが高くて高慢な若者だったアッテンボローはもういない。
 相変わらず人を惹き付ける魅力を振りまいていたが2年の終わりから女に手を出すことは無くなった。
 大人になったのさ、と皆が言う。
 だがアッテンボロー自身には理由が分かっていた。
 一年前、酷い失恋をした。
 大切な人を傷つけてしまった。
 自分の若さが、短慮さがどれだけ相手を傷つけるか思い知った。
 謝ることさえ出来なかったのだ。
 この恋はアッテンボローを大きく成長させた。
 人を思いやる事が出来るようになった。
 そんな彼の元には多くの人が集まる。
 何時も人々に囲まれていたがアッテンボローは時々寂しい顔を見せる。
 会いたい人に会えない。
 切ないという思いをアッテンボローは学んだ。
 恋の終わりはアッテンボローにも傷を残したのだった。


 ある日、届いた同盟軍のニュース
 士官学校は騒然となった。
「俺達の先輩が栄誉を成し遂げたぞ」
「去年卒業した先輩がエルファシルで大活躍したそうだ」
「ミラクルっ魔法だ」
「誰だっワイドホーン先輩か?」
「ヤンウェンリーだって、知っているか?」
「さあ、とにかくすごいよな」
 学生達は興奮してテレビにかじりつく。
 アッテンボローも皆と一緒に画像に見入った。
 テレビではニュースキャスターが興奮に頬を染めて叫んでいる。
「ごらんください、この大歓声を、奇跡です、帝国の大軍に囲まれた中、たった一人の中尉が民間人300万人を連れてエルファシル脱出に成功したのです」
 画面にはハイネセンに到着した艦隊と功労者が映っている。「彼がヤンウェンリー、士官学校を出て一年だというのに大きな功績を上げました、軍の発表では彼は本日中尉、そして少佐に昇進するそうです」
 画面に見入っていた学生が感嘆の声を上げる。
「すごい、一年でもう少佐かぁ」
「これで出世街道間違い無しなんて羨ましい」
「ここの先輩なんだろ、俺手紙書いてみようかな」
「俺も」
 はしゃぐ友達を残してアッテンボローは部屋に戻った。
「先輩・・・変わっていなかった」
 ベットに寝転がり先程の画面を思い出す。
 黒髪に黒い瞳、
 ニュースキャスターの問いかけに頭を掻いて困っているところも昔のままだ。
 ヤンの姿を見れて嬉しかった。
 彼の手がかりを知ることが出来て嬉しかった。
 だが彼は士官学校の一学生である自分よりも余程上の立場になってしまった。
 自分と同等か、下だと思っていた学生時代とは違う。
 今、ヤンと連絡を取って彼は応対してくれるだろうか。
 不安は際限無く襲ってくるがアッテンボローは軍に電話した。
「士官学校の後輩です、ヤン少佐と連絡を取りたいのですが」
 答えはわかりきったものだった。
「ヤンウェンリー少佐の個人情報はお答え出来ません」
「親しくしていた者なんです、せめてこちらから連絡があったことだけでも伝えていただけませんか」
「申し訳ありませんが、毎日そういう電話は何十件もかかってきます。士官学校の後輩やお友達、幼馴染や親戚の方々が少佐へ連絡を取りたがっていますので対応する訳にはいきません」
「では、どうすればいいんですか」
「お手紙をお書きになることをお勧めします。住所は同盟軍作戦統合本部宛で」
 アッテンボローは礼を言い電話を切った。
 無駄だと分かっているが紙を取り出した。

 拝啓、ヤンウェンリー殿
 
 エルファシルの成功を祝う言葉を綴る。
 覚えているでしょうか、俺の事を。
 うまくかけない。
 あの時の気持を、
 謝罪の言葉を書ききれない。
 それでもアッテンボローは会いたいと記して投函した。
 返事は返ってこなかった。

 考えてみれば当然だ、
 あの時、エルファシルの英雄には一日に何百通もファンレターが来ていたのだから。