「MAGIC1」
魔術師死す
その訃報は全宇宙に落雷を落とす。
帝国との交渉がようやく決まった矢先の不幸。
敵国の刃では無く狂信者の罠にかかった英雄。
あまりにもむごい結末。
非常な運命の悪戯。
人々は嘆き悲しむよりも信じてもいない神に呪いの言葉を投げつけた。
早すぎる死であった。
ようやく和平の兆しが見えかけていたのだ。
魔術師はその中心人物であり、彼自身が民主主義の具現者であった。
同盟という組織が壊滅した中、唯一の希望。
民主主義を未来に残せるかは魔術師にかかっていた。
だというのに彼は死んだ。
訃報は同盟人のみならず帝国の人々をも沈黙させる。
敵というにはあまりにも偉大すぎた魔術師。
皇帝ですら彼には一目も二目も置いていた。
魔術師の死んだ同盟とカイザーは戦おうとは思わなかった。
彼の死後、皇帝は戦意を失い帝国軍は撤退した。
民主主義はかろうじて首に縄をかけた状態で生き延びた。
しかしかの人がいなくなってどうすればいいのか?
全てを魔術師に頼りきっていた旧同盟は怒りと憎しみと悲しみで混乱をきたした。
また帝国も最後まで皇帝は魔術師に敵わず・・・というしこりが残った。
宇宙暦800年 新帝国暦2年 6月1日
回廊の戦いを終えたイゼルローン軍は皇帝からの通信文を受け取った。和平交渉。
検討の結果会見の場へヤンウェンリーとパトリチェフ、ブルームハルト、スールそしてロムスキーが巡航艦レダUで向う。船出から3日後、アンドリューフォークがヤンウェンリーの命を狙っていると報が入った。イゼルローンに残っていたユリアンやシェーンコップは直ちに後を追う。
5日23時50分 ヤンは三次元チェスを楽しんでいた。
翌6日0時25分、眠れないため睡眠導入剤を使用する。
寝付けないので読みかけの怪奇小説を読む。
0時45分 帝国軍から入電
フォークが企てる暗殺計画と武装商船の情報が入る。
数分後、武装商船を破壊したと帝国から連絡。
報告のためレダUに現れた帝国軍、それは地球教徒のテロリストであった。全ては彼等の仕組んだ罠だった。
ロムスキーと側近はその場で射殺された。
ヤンをかばってパトリチェフは殉死
ブルームハルトも殉職、スールも傷を負う。
2時40分 一人艦内を歩いていたヤンウェンリーの前に帝国軍の服を着た地球教徒が現れ銃口を構える。
太股の動脈叢を打ち抜かれ出血多量、
通路に座り込むようにして意識を失い2時55分死亡。
享年33歳
伝えられている事はそれだけである。
しかし帝国軍も旧同盟も知らなかった。
この時刻より少し前、混乱に紛れて一隻のシャトルがレダUから飛び立ったことを。
搭乗員は地球教徒であった。