「MAGIC10」


補給を受ける二日間、ロイエンタールは部下に休暇を与えた。
 久しぶりの休み、しかも大勝利の後だ。
 部下たちは喜び勇んでエルファシルの街へ繰り出していく。
 寂れた辺境の惑星だが盛り場はある。
 兵士達はつかの間遊び、酒を飲み疲れを癒す。
 エルファシルはかつて敵国であったが今は帝国領。
 地球教も討伐した現在、帝国に対抗する勢力はいない。
 イゼルローンがかろうじて民主主義の形態を取っているが帝国の情けで生き延びさせてもらっている小さい自治体だ。
 本来ならば同盟と共に滅ぶべき物を皇帝は慈悲でイゼルローンを容認したのだ。
 ロイエンタールはその事を思い出し小さく舌打ちした。
「カイザーは拘りすぎだ。もうあの男はいないのに」
 存続を皇帝が認めた理由は唯一つ。
 イゼルローンが敵であった男に縁のある場所だからだ。
 魔術師の意思を継いだ人間が集っているからだ。
 民主主義に一片の意味も感じない皇帝が無駄とも言えるその存在を容認したのは魔術師を尊重しての事。
「死んだ奴に義理立てしても意味なき事だ」
 そこがロイエンタールには不満だった。
 皇帝は人類まれに見る指導者だ。
 ロイエンタールが、ミッターマイヤーが、多くの有能な人材がラインハルト フォン ローエングラムの元へ集まったのは支配者だと認めたから。
 彼は見事期待に答え、腐敗しきった帝国を改革し同盟をも制圧した。
 フェザーンをも統治下に置いた。
 今や帝国は宇宙唯一の巨大国家として君臨している。
 頂点に立つのはラインハルト フォン ローエングラム。
 彼は君主として必要な全てを備えている。
 そんなカイザーが唯一心を動かされるのがかつて魔術師と呼ばれた男。
 奴のためにバーミリオンで皇帝は命を落としかけた。
 だというのに奴を殺した地球教を滅亡させるために重臣であるロイエンタールを起用した。
 ミュラーでも、もっと下の部下でも容易に遂行出来るこの任務に態々元帥であるロイエンタールを充てたのだ。
 死んでも尚カイザーの心を捉えて離さないペテン師。
 我が皇帝唯一の弱点。
 奴が絡むとカイザーは冷静な判断を下さなくなる。
「死して尚我々の邪魔をするのか」
 ロイエンタールは忌々しげに呟くとエルファシルの空を見上げた。
 薄暗く曇っているそれはロイエンタールをますます憂鬱にさせる。
 陰鬱な土地だが本土への報告も終えるとしばらくやる事も無い。
 ロイエンタールは自分も休暇を取るべくエルファシルの地へと降り立った。